【完結】かつて勇者だった者

関鷹親

文字の大きさ
4 / 123

04 騎士達

しおりを挟む
 翌日着たこともない舞台衣装のような煌びやかで豪華な服に着替えさせられた春輝は、詰まる襟首に息苦しさを覚えながらも、嫌々宰相であるマクシムの元を訪れていた。
 今だ目が覚めないいちかの元を離れたがらなかった春輝だったが、衛兵と言う割には人が良さそうな柔和な表情をしたマルコムと、神官長のオーバンが見ていることを条件にして、部屋をやっと出たのであった。

 宰相の執務室の横にある談話室に入ると既に人が集まっており、春輝の入室が声高に告げられると一斉に視線を向けてくる。
 思わず眉を一層潜めた春輝は、促されるままに一人用の椅子に座った。

「ハルキ殿のお目覚めが早くて助かりました。歴代の勇者は聖剣からの記憶の処理に時間が掛かり、大体十日ほどは目覚めないのです。それほどまでにハルキ殿のお力が強いと言うこと。大変喜ばしいかぎりです」

 本当にそう思っているのかわからない表情で話す宰相に、春輝が怪訝な表情を消すことはなく、警戒したまま話を聞く。

「こちらにいる彼らはハルキ様と討伐を共にする者達の各隊長を務める者達となります。お前達、挨拶を」

 宰相の後ろに控えていた五人の屈強な男達は、口々に所属や階級を言って行くが春輝はそれを興味がなさそうに眺めた。
 その雰囲気を敏感に感じ取った五人は、春輝を傲慢な勇者として認識してしまう。彼らは優秀な騎士であり、日々魔獣や魔物と倒していてその腕には皆自信がある。
 勇者は誰もが憧れる存在だが、実際に日々を戦場で戦う彼らにとっては喜ばしいものではない。なぜなら勇者は彼らの功績を軽々と奪い去り、人々の記憶から彼らを消し、勇者と言う存在だけを強烈に残すからだ。
 勇者と言う存在を心から歓迎している訳ではない。むしろ突如現れるその存在に遜らなければならず、従うしかないのだから面白くないと言ったところだ。
 しかも今回の勇者はどう見ても戦いに向いているとは思えない。ただの年下の青年にしか見えない相手を庇いながら戦わねばならないのかと思えば、騎士達が不満を覚えるのは無理もなかった。

 そんな感情を隠したまま、騎士達の中で一番位が高く、魔王討伐遠征部隊の隊長を務めることとなっている第三騎士団団長のトビアス・ホッパーは、春輝の前まで進み出るとにこやかに笑いながら手を差し出した。

「どうぞ勇者殿、よろしくお願いします。今夜は勇者召喚と親交を深めるための祝宴行いますので、我々と共に存分に楽しみましょう」
「春輝でいい。それと、俺は仲良しこよしをしたいわけじゃない。俺にとっては魔王なんてどうでもいいことだ。いちかが治ればそれでいいし、そのためだけに討伐に行くんだからな」

 差し出されたトビアスの手を一瞥しただけで視線をそのまま宰相に向けた春輝は、宰相に討伐に行くのはいつになるのか聞き始めてしまう。
 あまりの素気無い態度に、トビアスの手は差し出したままになっていた。
 宰相はそんな春輝の態度を特に咎めることはなく話を進めていく。勇者として夢を抱き、あれやこれやと注文を付けられたり、傲慢な態度を取られても扱いに困るのだ。
 淡々と取り乱すことも無く冷静に話を進めて行く春輝は、駒としては上々といったところだった。

「ハルキ殿の力が発現し準備が整い次第、討伐へ行って頂きたい」
「いちかが目覚めていちかの安全が確保できないなら、力があろうが俺は討伐には行かないからな」
「……わかりました、ではそれでかまいません」
「あとさっきも言ったけど俺は馴れ合うつもりはないんだ。祝宴ってのも参加するつもりはないから。俺抜きで勝手にやってくれ」
「いや、しかしそれでは……」
「話は終わりだろ? 俺は部屋に戻る」

 席を立った春輝は、唖然とする宰相達を置いてすぐに談話室から出て行ってしまう。残された面々は口々に不満を漏らすが、宰相はそれを咎めはしなかった。魔王が討伐されれば勇者の人格などはどうでいいのだ。



「あ、ハルキ様! ちょうど今から呼びに行こうと思っていたんですよ、良かったですね、妹様お目覚めになりましたよ!」

 部屋に着いた途端に笑顔のマルコムにそう言われた春輝は、豪華すぎるベッドの元まで走り寄りいちかを確認する。

「お兄ちゃん!」
「いちかっどこか痛いところはないか? お腹はすいてない?」

 聞かれた瞬間に思い出したのか、ぐうぅと鳴り出したお腹の音に春輝は可笑しそうに笑い、いちかは恥ずかしそうに顔を赤くしながらぽかぽかと春輝を叩いた。
 マルコムはすぐに食事の用意をするように侍従に言おうとしたが、そこでふと病み上がりの小さな子供がなにを食べるのかがわからず、春輝におずおずと聞く。
 まさか言わないうちから、いちかに配慮して貰えるとは思わなかった春輝は、一瞬驚いた表情を見せると少し考える素振りを見せてから、フルーツとスープを持ってくるようにマルコムに頼んだ。

「勇者さ……ああぁいえ、ハルキ様ほかに妹様に必要な物があれば、侍従に言っておきますよ」
「必要……服を何着か持ってきてくれるか? あとはそうだな退屈だろうから本とかかな」
「わかりました、いちか様好きなお色はありますか?」
「私は薄い紫が好き!」
「では飛び切り綺麗なドレスを用意させますね」
「お兄ちゃん、ドレスだって!」

 キラキラと嬉しそうに目を輝かせたいちかは、どうやら目が覚めてからマルコムと話し既に仲良くなっていたらしく、警戒するような様子は見せてはいなかった。
 そのことに安心した春輝は、自身がいない間の子守りをマルコムに任せたいと言い出しマルコムを驚かせるのだった。

 祝宴は春輝がいなくとも予定通り行われた。春輝を一目見て気に入っていたサーシャリアは着飾ったこおtが無駄に終わり、苛立ちを隠せず早々に席を立った。
 トビアス達は春輝がいないことを良いことに、周りに聞こえないよう悪口に花を咲かせる。
 不穏なまま宴は進んでいたが、当の春輝は与えられた自身の部屋でいちかにべったりと付き添い、幸せそうな笑みを浮かべていたのであった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

転生×召喚

135
BL
大加賀秋都は生徒会メンバーに断罪されている最中に生徒会メンバーたちと異世界召喚されてしまった。 周りは生徒会メンバーの愛し子を聖女だとはやし立てている。 これはオマケの子イベント?! 既に転生して自分の立ち位置をぼんやり把握していた秋都はその場から逃げて、悠々自適な農村ライフを送ることにした―…。 主人公総受けです、ご注意ください。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。 バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...