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20 凱旋
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なんとか魔王の森から脱出した春輝は、依然体の状態は酷いまま、まともに歩くこともできずトビアスに背負われ移動している。
移動手段として期待していた、森の入り口に置いて来ていた馬達は、魔獣か魔族にやられたのだろう、無残な姿で転がっていた。
疲弊し怪我を負った二人で、一体どれだけの時間を費やせば王都まで帰れるのだろうか。馬が一頭でも生きていれば、一番近くの村まですぐにでも行けたことだろう。
しかし徒歩でとなれば近くの村までだけでもどれほどかかるだろうか。魔王さえ倒せばすぐにでも王都へと帰れると思っていた春輝は苛立ちを隠せない。
自分の体が使い物になれば、トビアスが怪我をしていなければ、馬がいれば。ぐるぐると春輝の中で苦悩が渦巻くが、全てたらればの話だ。
整地されていない起伏のある道をトビアスに背負われひたすらに進む。怪我をしているため、トビアスの歩みはどうしたって遅かった。
けして軽いとは言えない春輝を背負い、食料が入った鞄も持ち、万が一のための重たい剣も下げている。
何度も小休憩を挟みながら歩くが、トビアスの怪我も酷くなる一方で、村を目指すスピードは目に見えて遅くなっていた。
岩場の影で休憩をしていれば、遠くの方から馬の嘶きが微かに聞こえてくる。幻聴だろうかとトビアスを見れば、どうやらトビアスにもしっかりと聞こえていたらしく、立ち上がり辺りを見回した。
「ここでお待ちを、様子を見てきます」
トビアスは薄っすらと目を開けた春輝にそう言うと、足を引きずりながら馬の声のする方へと向かって行った。
痛む体は発熱し、春輝は既に返事をすることもままならない。精神も肉体も既に限界を超えていたのだ。ここまで堪えていられたのは、ひとえに春輝の精神力のお陰でしかない。
馬の嘶きは幻聴でもなんでもなかった。魔獣が突如姿を現さなくなり、魔王が討伐されたのではないかと考えた近隣の領主が騎士団を派遣していたのだ。
春輝達は運よくその騎士団に拾われた。そのまま領主館に連れていかれ、教会から急遽派遣された治癒師に治癒されるが、やはり根本的な限界を迎えていた春輝とトビアスがすぐに全回復することはなかった。
治癒魔法は生命力を前借りするようなもので、小さな傷であれば簡単に治せ、治癒を施された者にもダメージはない。
けれども重傷者ともなれば、生命力を無視して一気に治癒を施せば、体は治るどころか悪化し死に至らしめるのだ。
焦りだけが日に日に募り、なんとか王都に戻ろうとする春輝を「体が万全に治りきるまでは」と誰もが必死になって押し止めた。魔王を討伐した勇者を傷ついたままの状態で王都に戻し、王族の前になど出せる訳がないからだ。
そんな春輝を見たトビアスは、自身の治癒よりも春輝の治癒を優先させた。誓いを立てたと言うこともあるが、春輝がどれだけ王都に戻りたいかを知っているからだ。
春輝とトビアスは周りに訴えを続け、外傷がなくなり自力で長時間歩けるようになったところで漸く王都に戻る許可が下りたのだった。
王都には既に春輝達の凱旋の日程は早馬で伝えられ、戻る最中にある村や街では歓迎の準備が進められていく。
それに対しても春輝は難色を示したが、当初の予定よりも早く、治癒も完璧に終えていないことから、その予定を覆すことはできなかった。
ガラガラとゆっくりと走る豪華な馬車に、英雄となったトビアスと共に乗せられた春輝は村や街を遅々として周る。
王都に漸くついたころには、出発してから既に三か月ほどが経っていた。
移動手段として期待していた、森の入り口に置いて来ていた馬達は、魔獣か魔族にやられたのだろう、無残な姿で転がっていた。
疲弊し怪我を負った二人で、一体どれだけの時間を費やせば王都まで帰れるのだろうか。馬が一頭でも生きていれば、一番近くの村まですぐにでも行けたことだろう。
しかし徒歩でとなれば近くの村までだけでもどれほどかかるだろうか。魔王さえ倒せばすぐにでも王都へと帰れると思っていた春輝は苛立ちを隠せない。
自分の体が使い物になれば、トビアスが怪我をしていなければ、馬がいれば。ぐるぐると春輝の中で苦悩が渦巻くが、全てたらればの話だ。
整地されていない起伏のある道をトビアスに背負われひたすらに進む。怪我をしているため、トビアスの歩みはどうしたって遅かった。
けして軽いとは言えない春輝を背負い、食料が入った鞄も持ち、万が一のための重たい剣も下げている。
何度も小休憩を挟みながら歩くが、トビアスの怪我も酷くなる一方で、村を目指すスピードは目に見えて遅くなっていた。
岩場の影で休憩をしていれば、遠くの方から馬の嘶きが微かに聞こえてくる。幻聴だろうかとトビアスを見れば、どうやらトビアスにもしっかりと聞こえていたらしく、立ち上がり辺りを見回した。
「ここでお待ちを、様子を見てきます」
トビアスは薄っすらと目を開けた春輝にそう言うと、足を引きずりながら馬の声のする方へと向かって行った。
痛む体は発熱し、春輝は既に返事をすることもままならない。精神も肉体も既に限界を超えていたのだ。ここまで堪えていられたのは、ひとえに春輝の精神力のお陰でしかない。
馬の嘶きは幻聴でもなんでもなかった。魔獣が突如姿を現さなくなり、魔王が討伐されたのではないかと考えた近隣の領主が騎士団を派遣していたのだ。
春輝達は運よくその騎士団に拾われた。そのまま領主館に連れていかれ、教会から急遽派遣された治癒師に治癒されるが、やはり根本的な限界を迎えていた春輝とトビアスがすぐに全回復することはなかった。
治癒魔法は生命力を前借りするようなもので、小さな傷であれば簡単に治せ、治癒を施された者にもダメージはない。
けれども重傷者ともなれば、生命力を無視して一気に治癒を施せば、体は治るどころか悪化し死に至らしめるのだ。
焦りだけが日に日に募り、なんとか王都に戻ろうとする春輝を「体が万全に治りきるまでは」と誰もが必死になって押し止めた。魔王を討伐した勇者を傷ついたままの状態で王都に戻し、王族の前になど出せる訳がないからだ。
そんな春輝を見たトビアスは、自身の治癒よりも春輝の治癒を優先させた。誓いを立てたと言うこともあるが、春輝がどれだけ王都に戻りたいかを知っているからだ。
春輝とトビアスは周りに訴えを続け、外傷がなくなり自力で長時間歩けるようになったところで漸く王都に戻る許可が下りたのだった。
王都には既に春輝達の凱旋の日程は早馬で伝えられ、戻る最中にある村や街では歓迎の準備が進められていく。
それに対しても春輝は難色を示したが、当初の予定よりも早く、治癒も完璧に終えていないことから、その予定を覆すことはできなかった。
ガラガラとゆっくりと走る豪華な馬車に、英雄となったトビアスと共に乗せられた春輝は村や街を遅々として周る。
王都に漸くついたころには、出発してから既に三か月ほどが経っていた。
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