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50 マルコムの両親2
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もし洗脳されていると言うならば、オーバンの不可解な言動にも、行動にも納得がいくというものだった。
「それとこちらを。」
「これは?」
「オーバン様が置いて行かれたものです。お返ししようにもオーバン様に送ると言うのは躊躇われまして……」
テーブルに置かれた小さな丸い缶に春輝は首を傾げる。トビアスに目配せをすれば、心得たとばかりに頷き、置かれた缶を手に取るとその中身を確かめた。
眉を潜めたトビアスに、春輝が気になり身を乗り出せば、缶の中に見えたのはオーバンがマルコムの話を出しおかしくなった時によく吸っていた白い粉だった。
「これは……」
「それをよく吸っていらしたのでお薬だとは思うのですが、オーバン様のような方でも治癒は容易くないのでしょうか? 体調を崩されてはいないかと、妻とも心配しておりまして……」
ナサニエルとリーリアはこの粉が普通の病にを抑える薬だと思っているようだが、そんな物ではないことを春輝とトビアスは知っている。
だがこれ自体がどのような効果をもたらしているのかはわからない。トビアスは万が一粉が出ないようにしっかりと蓋を閉め、更にハンカチで包むとジャケットの内ポケットへと仕舞い込んだ。
ナサニエルは全てを話し終わったことに安堵したようだった。あまり長居しても何があるかわからないと、リーリアを促し退出しようとするが、リーリアは春輝を強く見据える。
「あの子の仇を取ってください。それが貴方があの子にできる償いよ」
ナサニエルはリーリアの発言を止めはしなかった。その表情は申し訳なさそうにしていても、リーリアと同じ意見なのだとわかるような暗さを滲ませている。
彼らは貴族だ。権力の頂にいる王家に恨みを持とうとも何もできはしない。自分達は家を家族を守らなければならないからだ。だが息子を殺した奴は許せない、そう言った感情が渦巻いているのがよくわかる。
勇者の妹の護衛に着いたせいで殺されたのだから、マルコムに託した春輝にその責任を取って欲しい、というのだろう。
太刀打ちできない権力にも、魔王を倒したほどの力を持つ勇者だったらなら、太刀打ちできるだろうと。
「あの子を返して!」
「それが人にものを頼む態度か!」
「妻が、失礼を……」
「利己的な奴らだな」
「あの子は、息を引き取る間際まで貴方の妹を案じていたわ。あんなに優しい子が、どうして……!!」
リーリアはとうとうその場に蹲り、ずっと堪えていたのだろう涙を流す。よく見ればナサニエルの目にも涙が光る。
暫くすれば、先に落ち着きを取り戻したナサニエルが、リーリアを支えて去っていった。やっと部屋に静けさが戻り、春輝はどさりと音を立ててソファに深く背を預けた。
なにが償いか。そんなに息子を殺され憎いなら、春輝を殺しマルコムを殺した奴も殺せばいいのだ。俺ならそうする、と話した春輝にトビアスは彼らの立場に縛られて行き場のない気持ちも理解はできると言う。
そこはこの世界の階級制度が染みついているからだろう。そんなものが廃れて長い時が立っていた春輝の国とは違い過ぎる故に理解ができない部分だ。
けれども、リーリアの死ぬ間際までいちかのことをマルコムが案じてくれていたのなら。マルコムが最後までいちかの味方であったと言うのなら。
そうであるならば、あの夫婦のためではなくマルコムのために殺した犯人を捜してやろうと春輝は思った。いちかはマルコムが好きだったから、いちかのためでもある。
「大丈夫だいちか、お前の仇は俺が必ず取るからな」
膝に乗せたうさぎのぬいぐるみの頭をゆっくりと撫でながら、春輝は決意を更に固めるのだった。
「それとこちらを。」
「これは?」
「オーバン様が置いて行かれたものです。お返ししようにもオーバン様に送ると言うのは躊躇われまして……」
テーブルに置かれた小さな丸い缶に春輝は首を傾げる。トビアスに目配せをすれば、心得たとばかりに頷き、置かれた缶を手に取るとその中身を確かめた。
眉を潜めたトビアスに、春輝が気になり身を乗り出せば、缶の中に見えたのはオーバンがマルコムの話を出しおかしくなった時によく吸っていた白い粉だった。
「これは……」
「それをよく吸っていらしたのでお薬だとは思うのですが、オーバン様のような方でも治癒は容易くないのでしょうか? 体調を崩されてはいないかと、妻とも心配しておりまして……」
ナサニエルとリーリアはこの粉が普通の病にを抑える薬だと思っているようだが、そんな物ではないことを春輝とトビアスは知っている。
だがこれ自体がどのような効果をもたらしているのかはわからない。トビアスは万が一粉が出ないようにしっかりと蓋を閉め、更にハンカチで包むとジャケットの内ポケットへと仕舞い込んだ。
ナサニエルは全てを話し終わったことに安堵したようだった。あまり長居しても何があるかわからないと、リーリアを促し退出しようとするが、リーリアは春輝を強く見据える。
「あの子の仇を取ってください。それが貴方があの子にできる償いよ」
ナサニエルはリーリアの発言を止めはしなかった。その表情は申し訳なさそうにしていても、リーリアと同じ意見なのだとわかるような暗さを滲ませている。
彼らは貴族だ。権力の頂にいる王家に恨みを持とうとも何もできはしない。自分達は家を家族を守らなければならないからだ。だが息子を殺した奴は許せない、そう言った感情が渦巻いているのがよくわかる。
勇者の妹の護衛に着いたせいで殺されたのだから、マルコムに託した春輝にその責任を取って欲しい、というのだろう。
太刀打ちできない権力にも、魔王を倒したほどの力を持つ勇者だったらなら、太刀打ちできるだろうと。
「あの子を返して!」
「それが人にものを頼む態度か!」
「妻が、失礼を……」
「利己的な奴らだな」
「あの子は、息を引き取る間際まで貴方の妹を案じていたわ。あんなに優しい子が、どうして……!!」
リーリアはとうとうその場に蹲り、ずっと堪えていたのだろう涙を流す。よく見ればナサニエルの目にも涙が光る。
暫くすれば、先に落ち着きを取り戻したナサニエルが、リーリアを支えて去っていった。やっと部屋に静けさが戻り、春輝はどさりと音を立ててソファに深く背を預けた。
なにが償いか。そんなに息子を殺され憎いなら、春輝を殺しマルコムを殺した奴も殺せばいいのだ。俺ならそうする、と話した春輝にトビアスは彼らの立場に縛られて行き場のない気持ちも理解はできると言う。
そこはこの世界の階級制度が染みついているからだろう。そんなものが廃れて長い時が立っていた春輝の国とは違い過ぎる故に理解ができない部分だ。
けれども、リーリアの死ぬ間際までいちかのことをマルコムが案じてくれていたのなら。マルコムが最後までいちかの味方であったと言うのなら。
そうであるならば、あの夫婦のためではなくマルコムのために殺した犯人を捜してやろうと春輝は思った。いちかはマルコムが好きだったから、いちかのためでもある。
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