公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月

文字の大きさ
2 / 25

2

しおりを挟む
「………は?」

世のご令嬢の理想を詰め込んだような王太子にしては随分と間の抜けた顔と声を披露してしまうオルフェウス。

「だっ…だから…こっ…婚約の解消をと…」

こちらもこちらで、売り言葉に買い言葉のように発した言葉に即後悔しつつ、だけど引けずにモゴモゴと尻すぼみになりながら婚約解消を突きつける姿は皆の憧れる公爵令嬢とは程遠い。

実はオルフェウスは拗らせ過ぎて気付いていないが、アリシアもまたオルフェウスのことが好き過ぎて時々になる。

そして現在のこの状況こそがまさしくそので、要するにアリシアのヤキモチがピークに達しているのである。

それなのにこの王太子、あまりのダメージにアリシアの様子には一切気付かず、

「今…今…こっ…婚約解消…くっ…こん…婚約…かっ…解消…と言ったのか?
おっ…お前ごときが…いっ…一国の王太子に…
今っ!今なら間違いで無かったことにしてやるぞっ!
ま…まさか…ほ…ほ…本気では…ななないよなっ?
あああやまれば…その…許してやるぞ」

と顔色を悪くしながら情けなく、しかもかみかみで、だがあくまで上から言う。

これでは威厳も何もあったものではない。

だがそれも仕方ない。

実際オルフェウスの内心は半泣き状態なのだから。

そして感情的に思いもしないことを口走って引けなくなったアリシアもまた内心半泣き状態で、オルフェウスの様子に気付くことはなかった。

それどころか、半ばやけくそになって

「いいい嫌ですわ!
わ…私…知っているのですよ!
ででで殿下が…っ…サリバン伯爵令嬢と…その…あの…ここっ…恋仲だってことをっっ!」

とこちらも情けなく噛み噛みで数ヶ月前から皆が口々に話すオルフェウスの噂を突きつけた。

そしていろいろがピークに達したのか

「そして…か…彼女と私を比べて…
もう嫌っ!
どうせっ…私なんてっ…っ…うぅっ…うっ…ひっ…」

と卑屈に叫び、泣き崩れてしまったのである。

これにはさすがのオルフェウスも驚き、焦り、慌てふためいた。

オルフェウスにとってはだったはずがこの結果。

これが慌てずにいられるわけがない。

が、オルフェウスはそんなアリシアに言葉をかけることができず、ただただ拳をきつく握り締めたまま立ち尽くした。

この時のオルフェウスはを否定することはできても、その理由を説明することができなかったからである。

そして目の前で泣き崩れた愛しい愛しい婚約者の姿に、オルフェウスもまた泣きたくなっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

愛に死に、愛に生きる

玉響なつめ
恋愛
とある王国で、国王の側室が一人、下賜された。 その側室は嫁ぐ前から国王に恋い焦がれ、苛烈なまでの一途な愛を捧げていた。 下賜された男は、そんな彼女を国王の傍らで見てきた。 そんな夫婦の物語。 ※夫視点・妻視点となりますが温度差が激しいです。 ※小説家になろうとカクヨムにも掲載しています。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

【完結】さようなら、私の初恋

蛇姫
恋愛
天真爛漫で純粋無垢な彼女を愛していると云った貴方 どうか安らかに 【読んでくださって誠に有難うございます】

処理中です...