兵士とAIの異世界帰還録

六剣

文字の大きさ
6 / 7
序章 他界異邦人

第5話 銃を下ろすには

しおりを挟む
 ディザロアは拘束しているファウストの腕を外すと、後ろ蹴りにて彼との距離を離した。

『クッ―』

 まだ間に合う。ファウストは再度ディザロアを捕まえようと手を伸ばし――

「おっと」

 木の根が二人を割って伸び、行動を阻害する。ファウストの手はディザロアの金髪にさえ届かなかった。
 ディザロアと入れ違う様にオークのガンドがファウストの前に立つ。

「……」
『ッ』

 ファウストは止まる。ガンドはディザロアと違い打撃に特化していると判断したからだ。
 機能の九割を停止している『人型強化装甲アサルトフレーム』では打ち合いさえも出来ない。
 【可変銃スタックライフル】を構えて距離を取る。

 システム再起動まで9分32秒――

『何故攻撃を仕掛けない?』

 ファウストは【可変銃】を向けつつガンドに問う。

「話し合いをしたいのだろう?」
『……本心と受け取っても良いのか?』
「信頼が無い話し合いで武器を突きつけ合うのは当然だ」

 畏怖と戦意により戦闘は継続される。
 ファウストはその事を戦争で痛いほど理解していた。
 そして、ソレを終わらせるにはどちらかが銃を下ろさなければならないことも――

『……『装備解除パージ』』

 【可変銃】を後ろ腰に仕舞い『人型強化装甲』を解除した。彼の後ろに残された『人型強化装甲』は沈黙を守るかのように佇む。

「オレの命はあんたらからすれば軽いのか?」

 ディザロア達にとって忌むべき存在である『人族』。ファウストもその枠から外れる事はない。

「……」

 魔剣を持つディザロアが前に出ると彼の顔面を殴り付けた。

「ぐふッ」

 気を失うファウストはディザロアの向ける眼が少しだけ変わっている事に一縷の望みを賭ける。
 首に下がる二つのドックタグが気を失う彼の上に重なった。

「……」
「いいのか?」

 ガンドはディザロアがファウストを殺さずに生かすことを選択したと判断する。

「コイツは危険だ」
「見たら解る」

 二人が話している間に、ビリアはファウストと『人型強化装甲』を木の根で動けない様に縛り上げる。

「だが、情報を引き出さずに殺すのは最も危険だ」

 ディザロアはファウストの持つ力を警戒していた。
 単身でこれ程の力を持つ『人族』とは戦った事がない。しかも、今まで見たこともないモノばかりだった。

「この力を持つ『人族』が20人も居るだけで魔王の勢力圏は大きく変わるか……」

 ガンドは直接戦ったわけではないが、警戒するには十分であると感じている。
 『人族』が集中する南の大陸がこれ程の技術躍進を行っていることを考えると、ここでファウストを殺し、全く情報を得られないのは危険すぎる。

「どちらにせよ、後の事はハン組長に任せる」

 自分達には手に余る件でもある。判断と処理は自分達を庇護している魔王に任せる方が良いだろう。
 魔剣をペンダントの形に戻し首に下げる。

「あのあの、何か一つ忘れてませんかー?」

 するとどこからともなく声が聞こえた。そして回りの空気が凝縮するように集まると『雲族』の少女――ミスティークが人形として形を成す。

「わたしですよ! わたし! このクソ野郎の回りの酸素を薄くしてロア姉さまを助けたのは!」
「ああ、ちゃんと解ってる。ありがとう、ティー」

 ディザロアはミスティークの頭を撫でる。

「えへへ。もっと褒めても良いですよ」

 コロコロと嬉しそうに笑う。その時、上空から、誰か受け止めてー! と言う声を聞いてガンドは落下してくるイノセントを受け止めた。

「ありがとう、ガンドさん」
「無茶をするな」
「ロア姉さん」
「無事だ」

 少し消耗しているが大事な事にはなっていないディザロアを見てイノセントは安堵の息を吐く。

「ロア、コレはどうするの?」

 ビリアは拘束している『人型強化装甲』の処遇についての判断を求める。

「破壊しよう。情報は残骸と、この『人族』だけで十分だ」

 まだ何かを隠している可能性がある以上、『人型強化装甲』の存在はディザロア達にとって不安要素でしかない。

「え! ちょっと待って、ビリアさん!」

 そんな『人型強化装甲』を見てイノセントはガンドの腕から飛び降りると興味津々で詰め寄った。

「何これ……ナニコレ……なにこれー?!」

 段々語彙力が下がっていく程に『人型強化装甲』はイノセントに取っては魅力的な技術モノだった。

「全く、イノ姉さんはやれやれですわ」

 イノセントの感性を理解できないミスティークは嘆息を吐きながら呆れた。
 拘束は完璧なので危険はないと判断。その様子を他の三人は微笑ましく見守る。
 上に戻るための魔鳥が集まって来るまではイノセントの自由にさせても問題無いだろう。




 ソレに反応できた者は居なかった――





 皆が安堵しているその場へ現れた彼の出現は落雷と同様の効果を発生させ、その場にいる者たちを吹き飛ばす。

「こんな所に居たとはな。『呪のディザロア』」

 落雷の中心に立つのは『雲の魔王』の臣下の一人であるヴォルト。彼はディザロアを見てそう告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...