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あるんだけど、ないカード④
しおりを挟む急行列車は止まらないが、各駅停車の電車は一時間に数本止まる。田舎町ではあるものの田舎すぎるともいえない微妙な地。その小さな駅に隣接する形で建っているのが、どう見ても元はコンビニエンスストアだったとしか思えない駐車場付きの横長の建物。店のすぐそばに立てられているのは、電柱のように細長い鉄の棒だ。その先端に取り付けられた看板には、丸っぽい手書き風フォントで『カードショップばうばう』とある。
この町に唯一存在するカードゲーム取り扱い店である。
店の売り口付近にあるガラス窓には、内側から手書きのポスターが貼られており、扱っているカードゲーのタイトルがずらりと並んでいる。
俺の愛する「デュエルレガシー」はもちろん、「スキカ」を含むメジャーなタイトルは一通り販売中。中にはデジタルカードゲーム――ゲームセンターや家電量販店などに置かれている筐体にスキャンして遊ぶためのカード――のタイトルも見える。田舎町のショップにしては手堅いラインナップだ。いや、町に唯一存在している店だからこそ手堅く取り揃えているのかもしれない。
興味深いのは、”その他マイナーボドゲあり”、の文字。どうやらこの店はカードゲーム以外にも販売や買取を行っているらしい。
買い物した時はそこまで注視していなかった。
「っと、そんなことより買取だな」
俺はコンビニエンスストアを思わせる両開き式の自動ドアを通過し、日当たりのいい店内へ入室する。シングルカードが並ぶショーケースとガラスの窓の間を横切り、店内奥に位置するデュエルスペース――客同士が座ってカードを遊べるテーブル席群――を見る。もともとはイートインスペースだったのだろう。元コンビニにしては随分と広い。
(やっぱり、あいつは……今日もいないのか?)
オンライン版「デュエルレガシー」を共に遊んでいた顔を知らない親友は、今日も不在なご様子。テーブル席にいるのは男子小学生の団体だけである。昨日の夕方に覗いた時にも見たような顔をしている三人組だ。
まさか、俺の親友は声変わり前の男子小学生だった?
いや、どう聞いても俺と同い年か少し年上の女の声だった。声が幼く聞こえる大人の女性という可能性もなくはないが、俺より年下の少年ということはないだろう。
(いつもここに来ているって言ってたのにな)
タイミングを逃し続けているのだろうか。
今日は休日だが、昨日は平日だ。学生だとしたら夕方くらいに顔を出すものだと思うが。
(やはり社会人なのか? 今度は夜に見てみるか)
俺が学生であることは知られているのだから、それなら夜に来てくれと言いそうなものだが、まあそこまで考えが及ばなかったのだろう。
俺は本来の目的を成し遂げるべく、カードをしまっているリュックを体の正面へと移しつつ、レジ横に備え付けられているであろう買取コーナーへと歩を進めた。
レジは無人であった。呼び鈴の類は見当たらず、当然セルフレジがあるというわけでもない。
他の客のショーケース対応をしているのかと思い、店内を見渡してみる。
「いないな。どこかのショーケースか?」
店員の姿を求め、ふらっと進んだ先で先月に発売した一つ前の弾のパックを発見する。
「完売していない……だと?」
東京のショップでは発売日に売り切れるほどの人気BOXだ。
流石は田舎町。再入荷したという可能性もゼロではないが。
「まだ欲しいカードが全部そろっていないんだよな」
欲しいカードはパックから自引きするに限る。
もう数パック、いや、もう一箱くらい買っても、と伸ばしかけた手を途中でひっこめる。
「いや、いかんいかん。今月は使いすぎた。残りのパーツはシングルで十分だ」
シングル。パックを剥いて目当てのカードを引き当てるのではなく、ばら売りのカードを指定して購入する方法。
カードショップに売られているカードには大きくわけて三つのパターンがある。
その一つは当然、未開封のパック及び複数のパックが収まった箱、いわゆるBOXだ。
二つ目がストレージ。きわめて安い中古カードがカードゲームのタイトル別にわけられていて、ワゴンのことく棚に並んでいる。店によっては乱雑に詰め込まれているのだが、この店はカードのテーマ別にきちんと仕訳けている。かなり良質な店だ。
そして三つ目がショーケース。ガラス製、またはアクリル製のショーケースに見やすく並んでいる価値の高いカードたち。価格は数百円から数万円、はたまた数十万円まで多岐にわたる。あまりに高額なカードは二枚のアクリル板で挟んだような特性カードケースに収納され、厳重に保護されている。中の販売カードがなんであれ、ショーケースには鍵がかかっており、中身を購入するには店員に声をかける必要がある。
つまり、カードショップのレジはセルフでは対応できない。それを除いても予約やら買取やら、様々な業務があるわけだが。
俺は目当てのカードを自引きしたい欲求に駆られつつも、断腸の思いで顔を出した欲求を引っ込めた。
学生の資金は無限ではないのだ。だからこそ、いらないカードを売って金にかえたい。
一通り店内を歩き回ってみるも、例の小学生集団以外に人の姿は見られない。
となると、レジの奥に見える従業員用通路の奥か。
「店員さーん!」
声をかけてみるが、反応がない。
「入っちゃっていいと思うよ」
声に驚き振り返ると、さっきの小学生が立っていた。
「紗月のやつ、どうせまた在庫整理中に遊んでるんだよ」
「あいつ、集中力ないからなぁ。仕事中なのにすぐ自分のデッキいじりだすし」
「ほかに客がいないと、俺らの輪に入ってデュエルしはじめるしな」
と、小学生軍団は口々に言う。
「紗月っていうのは、ここの店員か?」
俺は訊ねた。小学生たちは答える。
「そ、バイトしてる人」
「今は店長代理じゃなかった?」
「そうだった。店長のおばあちゃん、腰痛めちゃったんだ。だから、バイトだったんだけど、代わりに店長やってんの」
「バイトが店長の代理を?」
と、俺。
「なんか、住み込みで働いてるらしいよ? 奥に空き部屋があって、そこに住んでるんだって」
小学生の一人が従業員用の通路を指差す。
旅館に住み込みで働く従業員という話は聞いたことがあるが、カードショップに住みこんで働く人の話は初めてだ。しかもそれが社員ではなくただのバイトとは。
よほどの変わり者なのか、それとも店長の婆さんとやらの知り合いなのか。
「俺らはもう帰るからさ。紗月に会ったら伝えておいて。あそこのカード自販機、釣銭不足で1000円札しか使えなくなってるってさ」
そう言うと、小学生軍団は去っていった。
「よくわからんが……勝手に入っていいんだな?」
念のため通路をのぞき込み、「すみませーん!」と声をかけてみる。反応はない。
仕方がない。声はかけたのだ。もし怒られたらその時はその時だ。
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