幻獣を従える者

暇野無学

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070 ファルの魔法披露

 アルカン達を連れてカサンドラ通りの商業ギルドに向かったが、冒険者の団体とアッシュ以下多数の野獣を引き連れているので警備兵がすっ飛んで来た。
 俺とフェリスの身分証を見せると即座に態度を改めて、商業ギルドへ案内してくれた。

 「ねね、此って凄い権威があるのね」

 「まぁね。皆の持っているやつでも、余計な事をしなければ何も言われないよ」

 「ちょっと気持ち悪いくらいだぞ」
 「ああ、ホールデンス公爵様の領地は割と評判が良いけれど、此程愛想の良いのは初めてだな」

 商業ギルドの入り口横にアッシュ以下をズラリと並べて入り口に向かい、誰何される前にアルカンに公爵様の身分証を示しさせて中へ入った。
 案内係が警戒しながら近寄って来たので、アルカン達の口座を作りたいと告げると、身分証をチラリと見て頷き出納係の窓口へ案内してくれた。

 係の者に商業ギルドの口座開設と、冒険者ギルドの彼等の口座から入金したいと告げる。
 薄汚れた冒険者多数なので胡散臭げな目だが、アルカンの身分証を見て態度が改まる。
 エルベルト通りの七人名義のギルドカードを作ってもらい、冒険者ギルドの彼等のパーティー名義の預金を全て移して残高確認を頼む。

 「何だか居心地が悪いわね」
 「ああ、尻がこそばゆいぞ」
 「俺達には縁のない場所だからな」
 「公爵様の身分証一つで、こんなにも態度が変わるんだな」

 「それを持つって事は、ホールデンス公爵様縁の者だとの印だからね。使用人用とは違うらしいよ」

 「使用人用でも持っていれば、態度がデカい奴が多いと聞くぞ」
 「まあ、俺達冒険者とは立場が違うから仕方がないけどな」
 「そそ、俺達は所詮流民だからな」

 アルカンが呼ばれたので一緒に確認するが、パーティー名義で預けていたものを含めて16,000,000ダーラ少々。
 金貨160枚少々なら、時間遅延を20程増やしておけば当分大丈夫だろう。
 皆と相談してランク6-30の物を買うことに決定して、商業ギルドで紹介状を書いてもらい、フルグレン通りのフンベルト商会に向かった。

 「魔道具商か、周りは凄い家ばかりだな」
 「魔道具商の所に来る事になるとは思わなかったな」
 「ああ、ランディス様々だぜ」

 「あっ、拝むのは止めてね」

 「それは心配ない! ランディスを拝むと死ぬ羽目になりそうだから」
 「違いない。訓練でオークキングとやりあおうって奴を拝めるかよ」
 「でも、ファルのシールドが有れば楽に闘えるのは助かるよ」

 入り口で立ち塞がる警備の男に紹介状を渡して中へ入らせてもらう。
 俺達より背後のアッシュ達に怯えていたので、紹介状がなくても中へ入れたかも。
 その時は警備兵がすっ飛んで来るだろうけど。

 ガチガチに緊張しているアルカンに代わり、ランク6-30のマジックバッグが欲しいと伝える。
 従業員からランク6-10が10,500,000ダーラで時間遅延を20付けると、手数料込みで12,700,000ダーラとの説明を受けて了解する。
 支払いは商業ギルドの口座からの引き落としを頼み、渡された用紙の金額を確認させてアルカンに署名させる。
 後は全員の使用者登録と登録者制限を付けてもらって終わり。

 従業員が戻ってくるのを待つ間に、俺のマジックバッグに60時間の遅延をお願いして6,200,000ダーラ金貨62枚を支払う。
 ランク12の物が欲しいが高すぎて当分無理だろうから、時間遅延を120にしておけばグレイから預かっても当分大丈夫だろう。
 金貨で支払う俺をフェリス達が呆れ顔で見てくるが、下手に相手をすると突っ込まれそうなので知らぬ風を装っておく。

 後は公爵邸に出向き、アルカン達エルベルト通りの七人に対する身分証の礼を言ったらおさらばだが、遅くなってしまったので付き合ってもらう事にした。
 翌朝アッシュ達を残して、グレイとフラッグ、フェリスのファルを連れて2台の辻馬車で公爵邸に向かった。
 通用門でアルカンの身分証を示して、執事殿にお会いしたいと伝えさせる。
 すんなりと邸内に迎え入れられて、出入り業者の待合室で待たされたがさほど待たされる事もなく執事のサディアスさんがやって来た。

 「おや、ランディス殿もご一緒ですか」

 「はい、彼等〔エルベルト通りの七人〕のリーダーアルカンが、身分証のお礼にとゴールデンゴートとシャムの雛鳥をお持ちしました」

 アルカンとテイマーで妹のフェリスに仲間の五人を紹介しておく。

 「それはそれは、旦那様もお喜びになられるでしょう」

 マジックバッグ持ちを呼ぶ様にお願いすると、サディアスさんが「暫しお待ちをと言って出て行った」

 「本当に執事様と会えるのね」
 「いやー、緊張で変な汗が出るぜ」
 「それで朝にあれを俺達のマジックバッグに詰め込んだのか」

 「親鳥だと大きすぎてランク6には収まらないからね。贈り物に首と足を斬り飛ばした物じゃ格好が悪いだろう」

 戻ってきたサディアスさんが扉を支えて横に立ち「ホールデンス公爵様です」と言って頭を下げる。
 護衛騎士を従えた公爵様が、にこやかに出入り業者の待合室に入って来るという腰の軽さにちょっと驚き。
 もっと驚いたのはアルカン達で、慌てて跪いている。

 「あぁ良いよい。ランディス殿、彼等からの贈り物とな」

 「はい、身分証を預かった時は森の奥へ行くために急いでいてお礼に伺えませんでしたので、彼等が公爵様にお礼をしたいと申しますので参上いたしました」

 「では、彼等が幻獣を従えている冒険者達と」

 改めてアルカン達を紹介したが、執事にも緊張していたのに公爵本人相手ではガチガチに緊張していて、返事もままならない。

 公爵様の要望で、グレイ達の待つ裏口でゴールデンゴートとシャムの雛鳥を引き渡した。

 「ゴールデンゴートもだが、シャムの雛鳥はそれ以上の逸品なので陛下もお喜びになられるだろう」

 「へぇー、そうなんですか。初めて聞きましたよ」

 「うむ。ゴールデンゴート以上に滅多に獲れないし、獲れたら献上品になるのでオークションにも出されないのだ」

 良いことを聞いた、後二羽雛鳥が有るのでじっくりと味わってみよう。

 「ところで、彼等の従える幻獣の魔法を見せてもらえないだろうか?」

 このおっさん、それが目当てでのこのこと出てきたのかよ。
 隠す事でもないし、身分証に見合った実力は有ると証明しておくのも悪くはないか。

 俺の後ろに隠れるアルカン達に振り向くと、フェリスが困った顔で俺を見つめている。
 フェリスとアルカンに頷いて、公爵様の希望に添う様にと促す。

 「魔法の訓練場をお借りしても?」

 「うむ、すぐに用意させよう」

 それだけ言って戻って行ったが、直ぐにサディアスさんの補佐が現れて俺達を案内してくれた。

 サディアスさんから報告を受けて、直ぐに手配したのだろう。
 まったく抜け目のないおっさんだ。

 * * * * * * *

 案内された場所には公爵様と背後に多数の者が控えていて、多くは魔法使いの様である。
 彼等は的から20mも離れていない場所に陣取っているので、公爵様にお願いして倍以上後ろに下がってもらう。

 公爵様はしれっと俺の後ろに来て立ったのは、グレイが結界で守ってくれると承知しての事だろう。
 フェリスにはこんな事も有ろうかと、来る途中で指示を出しておいた。
 アルカン達は公爵様が俺の後ろに立ったので、慌てて公爵様の背後に回り小さくなっている。

 俺達が結界に包まれるとフェリスが的から30m以上離れた場所に立ち、的を指差してファルに命じる〈バン〉〈バン〉〈バン〉と連続三回の爆発音が響く。
 次の的を指差すと〈ドン〉〈ドン〉〈ドン〉と威力の上がった音が腹に響く。
 一呼吸おいて隣りの的を指差し何事か命じると、フェリスの前にシールドが立ち上がりシールドを盾にして三度目のファイヤーボールが射ち出された。
 〈ドオーン〉 〈ドオーン〉 〈ドオーン〉と三度轟音が響き渡り、爆風に巻き上げられた砂塵がフェリス達を襲う。
 その砂塵は離れて見ていた者達も襲い、周囲が薄暗くなる。

 「中々の威力だが、これ以上威力を上げられるのかな」

 「それをやると、彼女と使役獣も巻き込まれて怪我をしますので無理です」

 「結界も使えるのなら雷撃はどうだ?」

 「砂塵が収まったら始める様に指示していますので、暫くお待ち下さい」

 シールドは見せるがシェルターやドームは見せない、何れ気付かれるだろうが全てを曝け出す必要はない。
 知られて何故と問われたら、冒険者ですので『手の内は晒すな』と俺に厳しく言われていると答える様に言ってある。

 シェルターやドームが作れるのなら、グレイの代わりにされかねないからな。
 その為に魔力を小中大の三種類しか教えなかったのだが、大は結構な威力で不味かったかなと反省。

 砂埃が収まったのでフェリスに頷くと、無事だった標的が閃光に包まれて〈バシーン〉〈バシーン〉〈バシーン〉と鞭打つ様な音が響いた。
 一息おいて〈バリバリドーン〉〈バリバリドーン〉〈バリバリドーン〉と轟音が轟き、連続して落ちた雷により標的が弾け飛んだ。
 全ての的が壊れたので、結界を解除させて攻撃魔法の披露を中止する。

 「見事な魔法だが、二頭いた幻獣の一頭を彼女に譲って惜しくはないのか」

 「もう十分にいますので、これ以上増えると大変ですからね」

 俺達の結界が解除されたので、フェリスがファルを連れて俺の背後に立ち公爵様に頭を下げた。

 「のうランディス、彼女を此の儘にする訳にはいかなくなった。そこで相談がある」

 「配下に加えるとでも」

 「彼女が望めばな」

 フェリスを見れば、困惑しながらも首を振っているのでお断りする。

 「彼等に警備兵が着ている様な、紋章付きの上着を与えようと思う」

 あれか、頭から被り前後だけのエプロンみたいなやつ。
 確かに紋章入りのあれを着ていれば迂闊に声を掛けられないし、ギルドで絡まれても模擬戦を挑めば公爵家を相手にする事になる。
 着るのは街の中だけだろうし、被るだけなので着脱は簡単だ。
 アルカン達と相談して、あくまでも冒険者としてならと受け入れることにした。

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