男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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090 捕獲

 「それはどうかな。今回の事が漏れていたのなら、王城で依頼を受けた時にいた奴等からだと思うな」

 「それって近衛騎士や、宰相閣下の補佐官や侍従達からだぞ。そんな馬鹿な」

 「俺が治癒魔法を使ったら。あっという間にロスラント子爵様に知られていたからな。何処で俺の治癒魔法の事を知ったのだと聞いたら、使用人から漏れているって言ったよ。そしてロスラント子爵様のお嬢様を治したら、使用人と見舞いに来る友達から王都中の貴族や豪商に知れ渡っていたぞ」

 「今までよく無事でいられたな」

 ちょっと貴族連中と揉めたけど、説明はせずに肩を竦めて誤魔化す。

 「王城の女官や侍従,近衛騎士から婢に至るまで、誰かの紹介で奉公に来ている。その紹介者は貴族や豪商達で紐付きなのさ。雇う方もそれは判っているので肝心な事は使用人を交えずに行う。一番怪しいのは薬草の見本を持って来た奴だろうが、薬師達も見本を見せたとなると何の事か判るよな。王家に紹介してくれた者に伝えれば、小遣いになるので色々と積極的に伝えているらしいよ」

 「そんな事より外の事が先だ。どうする、お前の転移魔法なら逃げるのは簡単だろう」

 「それね。逃げるのは簡単だけど後々追われる事になるので、誰の差し金かは知っておきたい」

 「やれやれ、又何処かの貴族か豪商が金貨の袋を差し出すのか」

 「俺達の命を狙ったんだ、そんな甘い事はしないよ」

 避難所を取り巻く包囲の輪が小さくなり、何やら〈ゴンゴン〉と聞こえだした。

 「どうするつもりだ、俺達から反撃が無いのを良い事に避難所を攻撃し始めたぞ」

 「好都合だよ、広がっていたら取り逃がす奴も多いけど、集まっていれば赤斑蜘蛛より簡単に捕まえられるよ」

 「あの大きな結界を使うの?」

 「そのつもりだけど、確認してくる」

 上空にジャンプして三つの避難所を取り囲む状態を観察する。
 探索には地下に潜む者は感知できず、避難所を包囲する集団とは別に小集団が居る。

 避難所を囲む奴等をもっと密集させる為に、ホウルの作った避難所に入り魔力を抜いてみた。
 他人の作った物でも魔力を抜く事が出来ると確認、スカスカにすると同時にオールズの避難所に跳ぶ。

 〈オッ、壊れ始めたぞ〉
 〈叩き壊せ!〉
 〈反撃に注意しろ!〉

 ホウルの作った避難所からオールズ,ハティーの避難所を繋ぐ土管状の通路を作っておく。
 ホウルの避難所が崩れたが、誰もいないので焦っている。

 〈どうしてだ?〉
 〈確かに4~5人はこの中に入ったぞ!〉
 〈間違いない、俺も見ていたぞ〉
 〈おい、横穴が有るぞ!〉

 煩い奴等だけど、状況説明を有り難う。
 オールズの避難所の魔力も抜き、上空にジャンプ。
 集団から離れた場所に着地し、彼等のお仕事振りを見学だ。

 〈此方も壊れ始めたぞ〉
 〈もっと力を入れろ!〉
 
 〈待てまて、崩す前に中をよく見ろ!〉
 〈誰も居ないぞ!〉
 〈此処も地面に穴が開いているぞ!〉
 〈糞ッ、モグラみたいな奴等だ〉

 〈カブス様に報告しろ!〉

 一人が離れた場所に居る小集団に向けて走り出した。
 其奴の後に着いていき、六人の集団に報告している周囲を結界で囲む。
 後はハティーの避難所だけだと猛攻撃を始めた一団だが、人数が多すぎてあぶれた奴等が周辺をウロウロして散らばりだした。

 ちょっと気晴らしに一暴れするか。
 訓練用木剣を手に隠形を解除すると、避難所を攻撃している集団に殴り込む。

 〈痛っ〉
 〈ウオォー〉
 〈誰だお前は?〉
 〈何をしやがる! このっ、糞猫野郎が!〉

 ハティーの避難所の上に跳び上がり周囲を見回す。

 〈えっ、消えたぞ!〉
 〈探せ! 転移魔法ならそう遠くへは行けないはずだ〉
 〈上だ! 土魔法で出来たやつの上に居るぞ!〉

 俺が殴り込んで注目が集まり、避難所の上に逃げたと思い取り囲んで口々に喚いている。
 散らばり始めていた奴等も、避難所の周囲に集まり騒いでいる。

 準備完了、半径10メートル程の結界で包み込み誰も逃げられない様にしてから、避難所を広げ登れない様に高くする。
 空気抜きの穴から中に向かって、トンネルから出ても大丈夫だと怒鳴る。

 「なんか避難所が広くなってるぞ」
 「ユーゴ、外の奴等は?」
 「未だ外が騒がしい様なんだが?」

 「避難所の周囲を結界で囲んだので、誰も逃げられないよ。別口で指揮官らしき奴等6人も捕まえたので、其奴等から尋問だな」

 「ユーゴ、其奴等を連れてきてくれ! まず始めに、母ちゃんを殺そうとしてくれた礼をするぞ!」

 あちゃー、コークスが激オコだわ。
 ちょっと外へ出て、騒いでいる奴等を揶揄っておこうと避難所の上に立つ。

 〈馬鹿! 魔法は近すぎだ!〉
 〈俺達まで巻き添えにする気か!〉

 さっきからポスポス音がするのは矢を射かけてきている様だが、耐衝撃,防刃,魔法防御,体温調節機能貼付の服だし、防御障壁まで付けている俺に効くかよ。

 弓を持っている奴等を、片っ端からストーンバレットで叩きのめしていく。
 杖を持っていないので、魔法使いが誰だか判らないので警告だけして遣る。

 「無駄な事は止せ! 俺の服は耐衝撃,防刃,魔法防御を付与されているので、ちんけな攻撃はお前達の命を縮めるだけだぞ。もう一つ周囲を結界で囲んでいるので、お前達は逃げられないからな」

 指揮官らしき6人と伝令の居る結界内にジャンプ。

 〈ウオォォォ、誰だ・・・貴様は!〉
 〈此奴がユーゴだぞ!〉
 〈転移魔法まで使えるのか!〉

 「へえ~ぇ、俺が誰だか知っていて襲って来たのか」

 〈転移魔法使いだろうが、我々の前に現れたのが運の尽きだな〉
 〈逃げようとすれば即座に斬り捨てるぞ〉

 「頭は大丈夫か? 逃げられないのはお前達の方だぞ」

 〈叩きのめせ! 話はそれからだ!〉

 「それには同意見だね♪」

 泥団子並みのバレットを6人の顔面に叩き込み、ノックアウト寸前の鼻血ブー状態にする。
 伝令として来ていた男に6人の素性を尋ねたが、チラリと顔を見て言い淀んでいる。
 こりゃー、コークスを連れてきて尋ねた方が早そうだ。

 全員の手足を拘束してからコークスの居る避難所の屋根に跳び、避難所を拡大してドームにする。
 トンネルの出入り口を塞ぐと、直径2メートル程の柵付きのサークルを造りその中に降りる。

 サークルの中には、誰も絶対に入るなと言ってからコークスの腕を掴んでジャンプ。

 いきなり消えた俺が、2人になって戻ってきたので驚いている。

 〈まさか、無詠唱の転移魔法か?〉

 「鼻血を出していない奴が伝令に来た奴で、それ以外の6人が指揮官と部下らしいんだ。殺さない程度でお好きにどうぞ。誰の指示で待ち伏せしたのかを聞いといてよ」

 「任せとけ。母ちゃんに矢を二本も射ち込んでくれたんだ、後悔させてやるさ」

 〈ドスン〉と言う音と共に〈グェッ〉と言う声が聞こえるがコークスに任せて皆の所へ戻る。

 ちょっと残魔力を鑑定すると、〔魔力・33〕
 半分ちょい使っているので魔力を温存する為に、外の奴等は暫く放置する事にした。
 外では俺に言われて避難所から離れたが、結界にぶち当たって外に出られないと騒いでいる。

 さて、大勢をちまちまと捉えるのは面倒だし、皆に手伝って貰うと又怪我人が出るかもしれない。
 いっそ皆殺しにしても良いのだが、俺達を襲わせた奴の正体を知る者は、一人でも多い方が後々役に立つだろう。

 魔力温存の為に再び隠形で姿を隠し、避難所の外で騒ぐ奴等の向こう脛を木剣で殴りつけていく。

 〈ウッ・・・〉
 〈ギャーァァァ〉
 〈ななな、な何が?〉

 見えない者から攻撃を受けて、避難所を取り囲んでいた奴等がパニックを起こしている。
 中には剣を抜き振り舞わず馬鹿もいるが、お仕置きとして腕を叩き折ると襟首を掴んで結界に叩き付ける。

 「大人しくするのなら攻撃はしない。但し全ての武器は倒れている男に向かって投げろ!」

 〈そこか!〉

 声を頼りに斬り込んで来たが、振りが甘いよ。
 剣の鍔元を思いっきり叩き、腕を骨折させると同時に剣を曲げてやる。
 序でにフルスイングの顔面殴打、歯と鼻血を撒き散らして吹き飛んでいく。

 身動きしない奴には、向こう脛を折れない程度に叩きその場に座らせる。
 〈ガチャリ〉と一人が武器を投げた音が響くと、次々に武器を投げて戦闘を放棄する者が出始めた。
 ドームを琥珀色の物と交換して見える様にする。

 「武器を捨てたものは、見えている結界に凭れて足を投げ出して座れ。ナイフ一本でも持っていたら殺すぞ!」

 倒れている男に武器を投げると、結界を背に座る者が半数以上いる。
 躊躇っている奴には、木剣で顔面強打し倒れた所を蹴り付けて血反吐を吐かせる。

 攻撃位置を推測して斬りかかってきた奴はストーンアローを心臓に一発お見舞い。
 二人目が死んだ時に俺の本気を悟ったのか、残りの者達も一斉に武器を捨てて結界に走り寄った。
 ドームに出入り口を作り皆を呼び出すが、その際全員に防御障壁を張っておく。

 「まぁ~、なんて事でしょう」
 「どいつが指揮官だ?」
 「火炙りにしてくれた礼をしなくっちゃね」
 「殴るのはハリスン達に任せるよ」
 「ルッカスとホウルが一番権利が有るんだぞ」
 「怪我は治ったけど、ちょっと力が入らないんだよ」
 「よしっ、俺が代わりにルッカス達の分も殴ってやる」

 「火魔法を射った奴は誰だ! 知っている奴は教えろ。教えないのなら全員ボコボコになるまで殴るぞ」

 俺の言葉に、左右から見つめられて俯いたり顔色を変える男が6人居る。
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