男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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144 デリスの訓練成果

 目覚めると簡易ベッドの横に転がる石ころの魔力を抜かせる。
 結界の魔力を抜いて避難所やドームを消滅させているので、バレットも簡単に土に戻る。

 ストーンバレットも安定して作れているので、離れた場所の立木にストーンバレットを射たせてみる。
 ファイヤーボールと要領は同じなので、難なく射ち出して立木に当てている。

 「ユーゴ様、此れなら静かで良いです」

 そりゃーそうだろうな、ファイヤーボールの射撃練習はパンパン音がして煩い。
 王都の近くじゃ、うかうか練習できないので不便だったしなぁ。
 拳大の石は51個作れたとの報告だったので、魔力を1.5程使っている事になる。

 初心者としては上出来の部類なので、早速ストーンアローの見本を手渡し同じ物を作れと命じる。
 その際、ストーンアローと思えば、常に同じ物が作れる様になるまで練習しろと言っておく。

 但し昼間は40本まで、寝る前には魔力切れまで作らせる。
 シエナラに向かっているのだが、到着するのは何時になるのだろう。
 練習熱心なデリスは、五日目にはストーンアローの作り始めと40本目が殆ど同じ大きさで作れる様になった。

 標的射撃を許可すると、30メートルの位置に的を作り熱心に練習しているが、現在40本射って36本は的に当たる。
 9割の命中率なら上出来だが、目標を俺に置いている様で100発100中を目指して練習に余念が無い。

 目標から視線を外さずに魔力を流せと言っているのだが、何故か時々ぶれて外れる。
 外れても20~30センチ程度なので、冒険者としては上出来部類なのでこれ以上は教えない。
 後は自分で考えて修正しろだ。

 王都から馬車で3日の街アランドに、11日掛かって到着した。
 先ずアランドの冒険者ギルドへ行き、練習がてら狩ったホーンラビットやエルク等を売りに出す。

 買い取り係に獲物を売りたいと告げ、解体場へ入る手順から教える。
 血煙の剣の奴等は荷物持ちとして扱き使っていたが、それ以外は薬草の見分け方くらいしか教えていなかったので大変だ。

 獲物を並べ終わるとデリスのギルドカードを渡し、食堂に居ると告げて久し振りのエールを堪能しに急ぐ。
 エレバリン公爵様秘蔵の酒も乏しくなり、何処かで仕入れたいが良い酒蔵が見つからない。
 地下の酒蔵を覗かせてくれる様な、横柄な貴族がそうそう居る訳もないので在庫が減る一方だ。

 解体係の男がやって来て査定用紙を差し出す。
 ホーンラビット、24頭 3.000×24=72.000ダーラ
 ヘッジホッグ、9頭 7.000×9=63.000ダーラ
 ハウルドッグ、3頭 12.000×3=36.000ダーラ
 合計171.000ダーラ

 了解して礼を言い、査定用紙をデリスに差し出す。
 受け取ったデリスが真剣に眺めていると、横から何時もの面倒な視線を感じる。
 若い二人だけだと舐められて、何かと絡んで来る奴が時々いるので練習相手になって貰うかな。

 そんな事を考える俺も、冒険者として相当スレて来た様だ。

 「兄さん達、見掛けない顔だが新人かい」
 「俺達は手不足でな、一人二人仲間を募集しているんだ」
 「見れば其れなりの腕は有る様だし、俺達はシルバーとブロンズでアランドを拠点にしているんだ」
 「一日銀貨一枚は保証するぜ。どうだい、お試しで2、3週間一緒に遣ってみないか」

 「一日銀貨一枚とは、安くみられたなぁ。他を当たってくれよ」

 「ふう~ん、みれば大した獲物を狩れるとは思えないんだが」

 そう言った男が、デリスの持つ査定用紙をスッと抜き取り眺めている。

 「お前、他人の査定用紙に手を出す事がどう言う意味か知っているよな」

 「ほう、洒落た事を言うじゃねぇか」
 「アイアンの二級かな。少しは冒険者稼業に慣れた頃か」
 「査定用紙が何だって、此奴が俺達に見せてくれたんだぞ」

 「仲間募集なんて言っていたが喧嘩を売りにきたのか? それなら買ってやるからギルマスを呼べよ」

 「おいおい。俺達は五人でシルバーとブロンズなんだぞ」
 「随分向こっ気の強いにゃんこだな」
 「お仲間は顔色が悪いが大丈夫かよ」

 「ハウルドッグじゃあるまいし、吠えてないでギルマスを呼べよ。恐けりゃ査定用紙を置き、頭を下げて消えろ!」

 〈おっ模擬戦だぞ〉
 〈野獣の咆哮の連中と・・・見た事無い顔だな〉
 〈五対二だぞ。模擬戦になるのか?〉
 〈二人ともアイアンの様だし、頭を下げて終わりだろ〉
 〈ばーか、模擬戦を要求したのが二人組の方だ〉

 「どうした? 皆は模擬戦を楽しみにしているぞ。騒ぎが大きくなってきたし逃げ遅れたな」

 「ユーゴさん、思いっきり煽ってませんか?」

 「心配するな。この程度の奴等ならお前一人で勝てるさ」

 「それって私一人でやるって事ですよね。流石に五対一では無理ですよ」

 〈プッ、勝つ気でいるぞ〉
 〈ゴブリンに勝てるからって、俺達にも勝てる気でいる馬鹿だ〉

 「大丈夫、模擬戦は一対一が基本だ。双方が納得すれば全員とでもやれるけどな」

 〈おっ、ギルマスが来たぞ〉

 「お前達が、此奴等と模擬戦をするのか?」

 ギルマスの顔に不信感が浮かんでいる。

 「人の査定用紙を抜き取って彼此抜かす屑には後ろを見せられないからね」

 「査定用紙を?」

 「ギルマス、俺達はそんな事はしてないぜ」
 「その小僧が見せてくれたのを、難癖つけやがってよう」
 「端から喧嘩を売る気だったぜ」

 「だから、恐けりゃ頭を下げて消えろって言ったよな。ギルマスも来ているんだし、ちゃっちゃと模擬戦で方をつけようぜ」

 〈お前達が新人に絡んだんだろう。逃げたら恥だぞ!〉
 〈俺は野獣の咆哮に賭けたんだ。負けるんじゃねえぞ!〉

 「お前達、模擬戦の経験は?」

 「俺はあるよ。連れが初めてなので教えてやってよ」

 呆れ顔のギルマスがデリスを呼び、簡単な決まり事を教えている。

 「本当にやるんですか?」

 「当然だ! ホリエントと殴り合いをしていたんだ、あの程度の奴に負けるはずがないよ。言っておくが、必ず骨の一本はへし折っておけよ」

 訓練場で向かい合うまで心細げだったが、木剣を手にして素振りをすると顔が引き締まった。
 俺が得物も選ばずのんびりしているので、ギルマスが「お前は相当馴れている様だな」と聞いて来た。

 「まぁね。こんな見掛けなので、ちょいちょい絡まれるんだ」

 「お前のランクは?」

 おっ、流石はギルマスお目が高い。
 ギルマスにだけ見える様に、チラリとカードを出して見せ素知らぬ顔をしておく。
 苦笑いのギルマスが、デリスと最初の対戦者を向かい合わせて〈始め!〉の声を掛ける。

 〈新人! お前に賭けたんだから負けるなよ!〉
 〈あ~あ、ドブに捨てたね〉
 〈俺は本命ガチガチの野獣の咆哮に賭けたぞ〉
 〈配当はエール一杯程度なのに、よくやるよ〉
 〈こんな時は大穴を狙うのが常道だぜ〉
 〈だからお前は何時も負けるんだよ〉

 〈始め〉の合図と共に踏み込んだデリスが簡単に籠手を叩いて終わり。
 きっちり骨は折った様で、その調子でやれと声援を送っておく。

 〈おいおい、負けてるよ〉
 〈而も、一合も打ち合わずにあっけない〉
 〈よーしっ、大穴確実〉
 〈抜かせ! 未だ一人目だぞ〉

 次は〈始め〉の声とともに跳び込でくる相手を、軽く躱してケツバットを叩き込む。
 三人目も、打ち合う事もなく叩き潰されると、四人目が出て来ない。

 〈腰抜け! 逃げるな〉
 〈血反吐を吐くところを見るのが楽しみなんだから、やれ!〉

 デリスがギルマスに呼ばれると、残りの二人がデリスに頭を下げている。

 外野の〈死ねッ!〉〈腰抜け!〉の罵声を浴びても、闘いたく無い様だ。
 デリスが困った様な顔を俺に向けるので頷いておく。

 飲み直しの為に食堂に戻り、模擬戦の感想を聞いてみた。

 「家にいる時の対人戦訓練と野獣討伐での実戦経験で、それなりの腕は有ると思っていました。それにホリエントさんとの訓練で、格段に腕が上がったと思います」

 苦笑いしながら答えるが、随分殴られていたからな。
 ズタボロにされて俺の前に立つデリスが、可哀想になる位だったが実戦に等しい訓練は十分役に立った様だ。

 「冒険者を続ける以上、若い俺達に絡んで来る奴は多いからな。勝てそうだと思ったら模擬戦を受けて、お前に喧嘩を売ったら怪我をすると教えておけ。勝てそうもない相手なら、頭を下げて他所の街に移動すれば良いだけだ。それに街の外へ出れば、危険なのは野獣ばかりじゃないからな。それを忘れるな」

 * * * * * * * *

 アランドからハブァスの街まで馬車で五日の距離だが、土魔法の練習を続けながらなので13日掛かったが、ストーンランスもそれなりに使える様になった。
 お陰で獲物も増えて、ハブァスの冒険者ギルドに立ち寄る事になった。

 デリスも俺も高ランク冒険者が着る様な少し上等な冒険者服で、一月近く草原や森を歩いて程よく汚れている。
 そうなると一端の冒険者に見えるのかチンピラ冒険者は寄ってこない。
 それにギルドに到着早々解体場に行き、キラードッグやハウルドッグにエルク,ホーンボア,オークと多数を出しているので、若くてもアイアンには見えない様だ。

 ただ、デリスのギルドカードを受け取った解体主任が「お前が狩ったのか」と確認していた。
 俺は一頭も狩っていないので知らぬ顔、報酬も全てデリスに渡しているが、そうなると厄介な奴が出て来る。

 「デリスってのはお前か?」

 そら出た。

 デリスが頷くと、俺に向かってギルドカードの提出を要求してくる。
 拒否できないので渋々渡すと、マジマジとギルドカードを睨み俺の顔と見比べる。

 知らない街は此れだから嫌だ。
 ギルマスが口を開く前に、先制口撃で黙らせる事にした。

 「ギルマス、それは本物で余計な事を聞くなよ」そう言って、一瞬だけドラゴンメンチの威圧を浴びせる。
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