黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

文字の大きさ
37 / 100

037 調薬

しおりを挟む
 簡潔に返事をして、レムリバード宰相にに背を向ける。
 王国が俺の支配下に在る訳ではない、敵対者を引き渡せと言ってホイホイ渡す訳にもいくまい。

 不満げなランカン達に、不審者ではないと庇ってくれた者達を教えて貰い、彼等の拘束を解く。
 残った衛兵達の拘束を一人一人締め上げていく。
 ランカン達には、ギリギリに締め上げているので2,3日もすれば全員死ぬからと教えておく。

 〈なっ、くっ苦しい・・・〉
 〈止めろ! 止めてくれ〉
 〈悪かった、命令には逆ら・・・〉
 〈糞ッ、何だ此れは?〉

 締め上げられ、恐怖に顔を歪めて言い訳をするが知った事か。
 球体に閉じ込めた男も身動き出来ない様に締め上げて放置し、レムリバード宰相に帰って良いかと尋ねる。

 「彼等は?」

 「引き渡して貰えないのなら要りません。拘束もそのうち解けますから、後は貴方方で勝手にして下さい」

 黙って引き渡せば殺さずに帰してやるのだが、嫌なら拘束が解けるまでそのままだ。
 身動き出来ない様ギチギチに締め上げているので、何日生きていられるかな。

 ・・・・・・

 遅れて駆けつけた警備責任者に、何故こんな不良分子を配置しているのかと詰問した。
 王都の出入りを監視する任務に就いていたが、素行不良の為貴族街なら余計な事が出来ないからと、司令部より回されてきたとの答えに呆れてしまった。

 アキュラ達が引き上げた後、衛兵達にどうしましょうと言われ宰相も困った。
拘束されている13人を王城の魔法師団のところに運ぶ様に指示する。
 アキュラの結界魔法を目の当たりにしたが、無詠唱で瞬時に使っている。
 結界魔法だと知っているから結界だと判るが、知らなければ何をされているのかも判るまい。

 知らせてくれたネイセン伯爵共々王城に帰り、魔法部隊への手配を済ませて国王陛下の元へ報告に向かう。

 「またか、あの娘は疫病神か」

 「陛下、アキュラに問題は有りません。彼女は攻撃を受けて反撃しているだけです。今回も明らかな衛兵達の増長が招いた結果です」
 「陛下、衛兵が冒険者の言い分を確認するだけで事は収まった筈です。私が到着してアキュラに会ったとき、冒険者四人は縛り上げられて衣服は破れ血塗れでした」
 「アキュラの見立てでは三人は重傷、一人は重態で少し治療をしたと言っていました。その後彼等に怪我の回復ポーションを与えた様で、衣服の破れと血で汚れてはいるものの何の支障も見られませんでした」

 「そのポーションだが、上級,最上級の物を手に入れたか?」

 「いえ、今回も薬用ポーションや怪我の回復ポーションの提供を受けましたが怪我の回復ポーションも中級までです。陛下に献上した中級品ではなく、市販されている物に会わせた効果の物です」

 「高品質の物は作れないのか? あれは師匠のエブリネが作った物なのか?」

 「いえ、彼女の作った物に間違いないでしょう」

 「根拠は有るのか」

 「今回薬用も含め650本のポーションを提供して貰いましたが、その前にランガス商会会長の娘の治療依頼を取り次ぎました。治癒師や薬師の手に負えず、長くは持たないだろうと言われている娘でしたが簡単に回復させています。立ち会ったランガス会長の言葉では、病人のベッドの横に立ち、病状も確認もせずに薬の調合を始めたそうです。その後患部に数滴落とし残りを飲ませた後、患部に手を当てて不思議な詠唱を始めたそうです」

 「それで治ったのか」

 「完治致しております」

 「それは治癒魔法の力ではないのですか」

 「そうだとしても、ポーション作りの才を見過ごす訳にはいきません。現在提供を受けているポーションは、効力を落としていても他のポーションと比べて優れています」

 「では上級,最上級ポーションを作らせてみよ」

 「恐れながら、私にその権限は有りません。提供される物に注文を付ける権利すら無いのです」

 「その方、何の為にあの娘を・・・」

 「上級,最上級のポーションが必要なら、彼女に頼んでみてはどうですか。ランガス会長の様に依頼をして、納得すればポーションを提供してくれるでしょう」

 「ではネイセン、予が依頼を出す。予の目の前で、怪我の回復と病気回復の最上級ポーションを2本ずつ作ってくれとな。見事作れたのなら貴族として取り立ててやろう」

 「それでは受けて貰えません。アキュラがそれを望むのなら、大々的にポーションを売り出していたでしょう」

 「その方は何故、あの娘を留めておけるのだ?」

 「私は彼女に対し自由と安全を約束しました、気に入らなければ立ち去るのも自由だと。また『招きに応じてもらえるのなら、使用人には君に対して無礼は許さないし、私に対しても身分の上下による礼を取る必要は無い』と告げ家族にもそう命じました。そして領地に彼女の住まう家を用意して警備も付けています」

 「何と・・・そこまでしているのか」

 「彼女は他から干渉される事を嫌います。以前の騒動の時を思い出して下さい。薬師エブリネの弟子にして精霊の加護を持ち、治癒魔法まで使える者が唯の薬師だと思いますか」

 「では条件を変えよう。最上級ポーション2種類を2本ずつ目の前で作れたら、客人として扱い配下の貴族達に如何なる礼も取る必要が無い事を約束しよう。ポーション四本に金貨2,000枚を与え、望むなら王都に家も与えよう」

 「伝えてはみますが、受けて貰える保証は出来ません。宜しいでしょうか」

 ・・・・・・

 魔法部隊に持ち込まれた奇妙な物体、一人は小さく丸く固まり残りは棒の様に真っ直ぐな状態で息も絶え絶えに呻いている。
 話は出来るが、彼等を拘束している物が結界魔法だと聞かされたが信じられない。

 レムリバード宰相からの連絡を受けて、結界魔法で拘束されていると聞いたから結界だと思うだけだ。
 取り調べの為に解放せよと命じられているが、魔法部隊の結界魔法が使える者も、こんな物をどうしろと言うんだと匙を投げた。

 騎士団の猛者を呼び出して斬り付けて貰ったが、刃こぼれした剣を見て首を振られた。
 大剣使いの全力攻撃もハルバートの一撃も受け付けない。

 治癒魔法師を呼び出して待機させ、魔法訓練場でストーンランス,アイスランス,ファイヤーボール等で攻撃させたが、吹き飛びはするが中の人間に影響なし。
 数人掛かりの全力攻撃も影響なし、魔法部隊の隊長も此処に至って我々の能力では無理と、レムリバード宰相に報告して匙を投げた。

 ・・・・・・

 アリシアとメリンダは四人の姿に驚いていたが、話を聞いて憤慨している。
 全員に明日ホテルに移動して貰う事を告げ、どこか家を一軒借りてそちらを王都の拠点にすると話す。
 森の仕事が必要な時は俺が迎えに行くからと告げ、ランカンに金貨の袋を一つ渡しておく。

 話が決まって準備を済ませたところへ、ネイセン伯爵様が訪ねて来た。
 伯爵様から国王の申し出を伝えられたが、何の魅力も無い。

 「伯爵様、王家の申し出は俺が以前伯爵様に渡したポーションを、俺が作った物かどうかを疑っているのでしょうね。でも、この申し出は俺に何のメリットもありません。以前貰った身分証を示せば、貴族の口を封じる事が出来ます。まっ、今回の様な時には役に立たないでしょうけど。最上級ポーション四本で金貨2,000枚、少しは此の国の常識を身に付けましたから王家には渡しません。金が欲しければ、冒険者ギルドに渡してオークションに出します」

 マジックバッグから薬草採取の際に使う作業机を取り出し、各種薬草の濃縮液や濃縮魔力水のビンを並べる。
 調薬用のビンに魔力水を入れ、止血,細胞活性,回復等の薬草の濃縮液を数滴から数十滴滴して攪拌、最後に治癒魔法の魔力を込めて終わり。
 ポーションのビンにガラス管を使って適量まで入れていく。

 同じ様に調薬用のビンを取り出し、病気回復用のポーションを作り治癒魔法の魔力を込める。
 此方も同じ様にポーションのビンに詰め、最初の物の隣に並べる
 左右に十数本のポーション、伯爵もランカン達も黙って見ているがもう一つ作る。

 次は1,2本で良いのだが、それだと調整が難しくなる。
 コップ一杯の水に一滴の毒では、毒の成分が薄められ一口程度では大した効き目は無いが、盃一杯に一滴の毒は死に繋がる濃度になる。
 やむなく前回同様の量で調薬を始めるが、怪我の回復と病気回復を合わせれば投入する濃縮液の種類も多くなる、何度か調整の魔力水を増やし最期の治癒魔法を込めたときには予定より随分量が増えてしまった。
 3種類とも鑑定結果は上々。

 〈おい、見ろよ〉
 〈綺麗ねぇ〉
 〈此れって何のポーションなの〉
 〈こんな色のポーションは初めて見るな〉

 〈まさか・・・まさか・・・〉

 伯爵様が驚愕しているので、何を作ったのか気付いた様だ。
 理屈の上では作れると思っていたが、手間は掛かったが出来ちゃった。
 怪我の回復ポーション13本
 病気回復ポーション12本
 最期の一本は16本になってしまった。

 「ねぇアキュラ、この少し金色に見えるのもポーションなの?」

 「んー、何とも言えないねぇ~。此処で見た事は口外禁止ね」

 それぞれのポーションをポーションケースにしまい、各一本を携帯用ケースに入れて伯爵様の前に差し出す。

 「鑑定してみて下さい、王家には見せずに鑑定が終われば返して下さいね」

 「約束する」

 そう呟くと、ポーションケースを抱えてふらふらと帰って行った。
 俺の言葉と伯爵様の態度から、誰もポーションに関する質問をして来なかった。
 精霊樹を見付けていなかったら街を出るか他国に移動しても良いのだが、精霊樹と精霊の事をもう少し知りたい思いに負ける。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...