黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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087 里帰り

 結局二週間ハランドで身体を慣らし、その間に食料備蓄と薬草移植用の容器を沢山用意してから、西の森に入って行った。
 今回はバルバスが加わり総勢八名となった。

 バルバス達は、俺達が西の森を十日前後奥に入った辺りで、薬草採取をしているのは知っていた。
 今回はもっと奥に行く事を居間で話をしていたら、バルバスが西の森は5~6日程度しか奥に入った事が無いので、一度連れて行ってくれと頼み込まれてしまった。

 余りにも真剣に頼んで来るので、侯爵様と仲間の許しを貰えば連れて行ってやると折れた。
 但し俺とランカンの指示には無条件に従い、疑問や質問は無しと約束させたた。

 「やっぱり森の奥へ行くには、マジックポーチが無いとキツいよな」

 「ああ、俺達も森の奥に入るのにマジックバッグを渡されて仰天したが、荷物は武器だけ食糧もたっぷり有って暖かい。最初は本当にビックリしたぜ」

 「それに此のバリアってのか、結界魔法って凄いよな。俺はてっきり冒険者や弓兵が持つ、楯のような物だとばかり思っていたからな。こんなに色々な使い方が出来る何て、思いもしなかったよ」

 「まあね。土魔法だって、防壁や楯に野営用のドームとか作るだろう。使い勝手の良さから言えば、土魔法が一番だろうな」

 「土魔法なら、最悪建築工事でも使ってもらえるからな」

 「マジックポーチって、金貨30枚って噂だけど本当か?」

 「そうだよ、食事と家付きの仕事をしている今なら、仲間達と金を出し合えば買えるぞ。一人金貨五枚だ、数ヶ月も有れば無理なく手に入るな」

 ・・・・・・

 森に入って六日目、流石にバルバスもおかしいと思い始めたようだ。

 「なぁランカン、野営の時にはバリアの周囲には野獣が寄ってきたりするので、野獣が居ない訳じゃないのは判る。判らないのは昼間だ、何故一頭も出会わないのだ。俺も時にこの辺りまで討伐で来るが、此れほど野獣と出会わない何ておかしいぞ」

 「バルバス、それは私達が、野獣の居ない所を通っているからよ」

 「避けて通るって・・・ガルムとおめぇとボルヘンが、交代で斥候を遣っているが三人とも野獣を避けて通っているってのか? 参ったね・・・凄腕の魔法使いが二人に、抜群な腕の斥候役が三人も居るのか。それにアキュラの結界魔法だ、ドラゴン討伐だって出来るだろうな」

 「冗談じゃ無いわ、ゴールデンベアだって恐かったのに」
 「アキュラが守ってくれていたからこそ、出来たのだからね」

 「おい! ゴールデンベアを討伐したのか?」
 「ええ討伐したわよ。アキュラに守られてね」
 ・・・・・・

 「ガルム・・・お客さんよ」
 「ああ、バルバスが変な事を言うから、お客さんを招いちまったな」

 自分の名が出て、訝しげなバルバス。

 「どうする、自分達だけでやってみる?」

 ランカンとアリシアが目を見交わし、次いでガルムを見る。

 「ウルフ系だと思うよ。俺達の匂いを追ってきている感じだな」
 「数にして20頭近いと思うわ」

 ランカンは周囲を見回すと一本の木を指差し「急げっ! アキュラ、試してみるから頼む」と言って駆け出す。
 さて、本格的な魔法中心のパーティーのデビュー戦だ、お手並み拝見。
 バルバスと俺が大木を背にすると、ガルム,メリンダ,ランカン,アリシア,バンズ,ボルヘンと時計回りに陣形を組む。

 「おい、何が来ているんだ?」

 「ウルフ・・・多分フォレストウルフだな」

 「手伝わなくても良いのか?」

 「バルバスは見学の約束だろう。黙って見ていなよ」

 「来るぞ」

 ガルムの声とアリシアの短槍が示す方向の木々の間から、フォレストウルフの姿が見えてきた。

 「まったく、お前ぇ達の索敵能力ってどうなってんのやら」
 「それを言ったら、アキュラが初めてハランドの街に来た時、なんて言ったか覚えている」
 「んー、ポーションの事か?」
 「違うわよ、ヤラセンの里から森を抜けて来たって聞いたわよ。ヤラセンに一番近い街はヘイロン、一流のパーティーで十日の距離って聞いてるわ。それをヤラセンからハランドまで一人で来ているのよ、ハランドとヘイロンの距離を考えたら二十日以上森の中に居た事になる。結界魔法が使えても異常よ」

 「確かにな、俺も雇われるときに伯・・・侯爵様に言われたよ。アキュラが森に入ったら1~2ヶ月帰って来ないと、信じられなかったぞ」

 「お喋りしてないで、最大距離で魔法攻撃を始めなよ。討伐任務じゃないのだから、近づかせないのが第一だよ」

 言い終わらないうちにアイスランスが飛び、遠くでフォレストウルフが飛び跳ねる。
 同時に〈バリバリドーン〉と雷撃音が響く、〈バリバリドーン〉〈バリバリドーン〉と連続音が響き、遠くでフォレストウルフが倒れたり痙攣したししている。
 その左側では、アイスランスに射ち抜かれたフォレストウルフが、転がったり怪我をして逃げ出したりしている。

 背後で見ていると二人は、前方の木を起点に左右を分担して魔法攻撃をしているのが良く判る。
 それぞれが6~7頭倒した所で、フォレストウルフが引いていくのが判った。

 「ランカン、引き上げて行ってるぞ」

 ガルムの声に、ランカンが攻撃中止を命じる。

 「あっさりと片付けたな」

 「殲滅するのでなければ、追い散らせばそれで良いのさ。無理をすれば被害が出るしな」

 「パーティー単位で言えば、風の翼はトップクラスだな。剣と牙にも、腕の良い魔法使いが欲しいな」

 ・・・・・・

 「おい、本当に此れ大丈夫なんだろうな?」
 「あんたも好い加減往生際が悪いわね」
 「諦めろ、バルバス」
 「だから行っただろう。金タマが縮み上がるぞって」

 〈パーン〉とランカンがアリシアに後頭部を叩かれている。

 「涎を垂らしたゴールデンベアに見られながら、薬草採取する気分はどうだい」
 「バルバスって熊ちゃんみたいだから、仲間かと思っているかもね」
 「いやいや、絶対に美味そうな餌だと思っているよ」

 「お前ぇら~、街に帰ったら覚えていろ!」
 「あらん♪ そんな事言ってると知らないよ~、アキュラって結構性格悪いから、バリアに細工するかもよ」
 「おい、止めろよなアキュラ。大体西の森の奥十日くらいの所って聞いてたのに、もう三週間になるぞ。未だ奥に行くつもりかよぅ」

 「バルバスが泣くから、これ以上は行かないよ。この周辺で暫く薬草採取に励むよ」
 「見た事もない薬草がこんなに多くちゃ、遠くに行く意味がないよな」
 「俺達が見ても判らないけど、アキュラが薬草だってんのなら薬草だろうしな」
 「いやいや、薬草栽培をしていた俺から見ても、普通の薬草でも上質な物が沢山生えているぞ」

 「じゃっ、俺は魔力水を集めに行ってくるから後は宜しく♪」

 「待てまてアキュラ、せめて此奴だけは追い払ってくれよ」

 半泣きのバルバスを虐めるのも可哀想なので、メリンダに頼んで一発射ち込んで貰い、マジックバッグに入れてお別れする。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 「いやー、久し振りの人家だぜ」
 「此処が有名なヤラセンの里かぁ~、噂通りエルフ族が多いな」

 「ハランドとは大違いの里だけどな。長老の家に行って今夜の宿を借りるよ」

 見知った顔が俺を認めて、皆に知らせに走っていく。

 「アキュラ! 久し振りだね。もっと早く来るかと思っていたのに」

 「御免よフルーナ、グズネスや長老ボルムのお陰で、予定がすっかり狂っちゃってね。メルサやヨエルは元気?」

 「変わりはないけど、彼女達はオルセン達と狩りに出ているので、暫く帰って来ないわよ」

 ・・・・・・

 「ほう、これはまた!」

 「オルザン、その話は又後でね。2~3日泊めてもらえるかな」

 「集会場を使えば良いぞ。婆さんには会ったか」

 「此れから行ってくるので彼等を頼むよ」

 フルーナに七人を預けてエブリネ婆さんの家に行く。

 「婆ちゃん居る?」

 「んー、アキュラかい、どうした?」

 「どうしたって、会いに来たんだよ。婆ちゃんが外では有名人だとは思わなかったよ」

 「とーっくの昔の事さね、外は煩わしいだけだよ」

 「確かにね。グズネスやボルムのせいで結構迷惑したよ」

 お土産に魔力水の壺を30本と、ケースに入れたエリクサーを10本提供する。

 「ほっほー、作れる様になったか。見せただけで調合は教えなかったけど」

 そう言って一本を手に取り陽の光に翳す。

 「こりゃー魂消たねぇ、此れはあんた一人で作った物じゃないね・・・あんたに付いていた精霊はどうしたね」

 「それね、離れてもらっているんだ。紹介するけど、長老以外には話さないでね」

 《皆来て》

 《ほーい》
 《なにぃー、もう良いのぉ》
 《此処にも樹があるね》
 《子供達が騒いでいるよ》

 「何て大きな精霊なの、以前は精霊樹の精霊より少し大きいくらいだったのに」

 「それなんだけど、王都ファンネルにも精霊樹が有ったんだ。で、俺に付いている精霊の事を色々教えて貰ったら、大きくなっちゃって《皆、姿を見せて貰えるかな》」

 《良いの?》

 《今だけね、此処には見える人が沢山いるからね》

 俺の周囲に次々と姿を現す精霊を見て、婆ちゃんが硬直している。

 「婆ちゃんが言っていた守護精霊、本当の姿が此れなんだってさ」

 「あんたを初めて見たときに守護精霊の数に驚いたけれど、迷い人が授かる守護精霊の、本当の姿が此れなんだね」

 「そのポーションの左五本が俺一人で作ったエリクサーで、右の五本が俺のエリクサーに“こがね”の魔力を追加した物だよ」

 婆ちゃんの手からポーションケースを受け取り、俺一人で作ったエリクサーを一本抜き取る。
 テーブルの上に置き、《“こがね”此れにも魔力を込めてくれるかな》。

 《良いよー》

 俺の肩からふわりと浮き、エリクサーを治癒魔法の光で包み込む。
 またもやフリーズした婆ちゃんの手に、ポーションを乗せて現世に引き戻す。

 「此れと同じエリクサーは、エメンタイル王国に四本のみ存在するよ。俺の作ったエリクサーは一本だけだね。それ以外は誰にも渡してないよ」
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