猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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異常現象調査部隊

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 あれから数日が経過した。

 人型の黒い奴を倒してからは特段変わったこともなく、普通に仕事をこなしていた。どんな仕事かというとグレンの補助である。

「おい、雑いぞ。もっと丁寧にかけ」

「……あの、清書とか自分でやってもらえませんか?」

「あ?いいだろ、お前仮弟子なんだから」

「僕の師匠は『師匠』だけです」

「〈虹の魔女〉からお前を預かってるんだ。仮弟子だ」

 グレンの研究成果とその報告用の資料を清書させられていた。学会で発表したりするためにもこの清書という作業は絶対に必要不可欠なのだが、圧倒的に面倒臭い。一度書いた内容を再度また丁寧に書き直すという作業がどれだけめんどくさいかは誰でもわかることかと思う。

 給料も出るわけではないし、別に家に住まわせてもらったりご飯を食べさせてもらったりしてるわけではないのだが、なぜレインがこんな仕事を受けるのか。

 それは、グレンの研究資料が合法的にのぞけるからである。おそらく、グレンはそういう意味合いでこの仕事をやらせているのだろう。口では偉そうなことばかり言ってまともに教えはしないのだが、暗に『見て盗め』と言っているのだ。

 ちなみに今回の研究資料では、「魔術の設置と時間差の発動」についての研究であった。魔術陣を設置するだけでは、魔術は発動しない。なぜなら、魔力が流れていないから……だからと言って魔術陣を作り、魔力を流してしまうと今度はすぐに発動してしまう。

 それを解決するにはどうするのがいいのかが書かれている。誰も不可能だと思って考えないような発想だ、さすがは特級魔術師である。

 ちなみに解決する方法も書かれているのだが……これはこれは。

「面白い……」

 新たにリアルタイムで魔術を発動するための魔力を流し込む回路的役割を果たす術式について書かれている。これは使える!

 是非とも新たな技として貰い受けよう。

「そういえば、レイン。お前なんかやらかしたのか?」

「え?」

「さっき魔術界に行ったら『レインという少年を急いで連れてくるように』って騒いでたぞ」

「え、僕何もやってませんけど?」

「その仕事が終わったらすぐに行ってこい。何かやらかしるんなら……俺が助けてやろう」

 そう言ってグレンは仕事に戻った。レインは、清書を若干適当な感じでささっと仕上げて魔術界に足を運ぶのだった。


 ♦️


 魔術界という建物は非常にでかい。高さ何百メートルにも上るような圧巻なものだった。上まで登ってみたいと思ったことは何度かあるのだが、こうして連れて来られることになるとは思わなかった。

 魔術界の中に入ると同時に受付に捕まり、上の階へと登らされていた。

「あの~、僕何かやらかしました?」

「?いえ、そういうわけではございません」

 その受付の言葉にホッと胸を撫で下ろす。なら、あとは堂々としているだけだ。何もやらかしていないのならレインに非はないのだから。

「こちらでお待ちください」

「あ、はい」

 部屋に入らされ、そこに待っていたのは以前一緒に仕事をした二人であった。

「あれ、レイン君じゃん」

「ヴァージさん?それにオリバーさんも」

「やあ」

 そこに待っていたのは上級魔術師のヴァージとオリバーであった。以前異常現象が起きたとして一緒に調査に乗り出したメンツである。もう二人いたものの、その二人はその調査において死亡してしまった。

 そしてヴァージには右目が見えなくなり眼帯、オリバーにはローブで見えないものの左腕が抉れて動かなくなったということでサポーターがつくような怪我を負ってしまった。

 唯一無傷なのはレインである。まあ、魔力体の方は一度殺されたけど。レインの魔力体はただの魔力の塊だ、よって人間の身体である魔力体を攻撃したところで、一切レインにダメージはない。強いていうなら、身体が削られる分、修復するのに魔力を用いることだけだ。

「レイン君は来るの初めてかな?ここは、上位の待合室だよ」

「なんですかそれ?」

「一階にある待合室よりも、より重要な案件なんかで呼び出す時に使うんだ。私が以前ここに入った時は上級魔術師になった時だったな」

 昔を懐かしむようにヴァージが天井を見やる。

「重要な案件ですか……」

 レインにはこの時、嫌な予感がしていた。このメンバーが集められたということは……。

 レインは別に異常現象に特段恐怖を覚えているわけではない。ただ、少なからず危険が伴う任務であるのは確実であり……レインには死ねない理由があった。

『師匠』に成長した自分を見せるまでは死ぬわけにはいかないのだ。

「待たせてしまったようだな」

「っ!」

 なんの気配もなく、突然に後ろから声が聞こえた。レインですら気づけないほど高度な隠蔽能力だ。

 後ろにいたのは、スーツに身を包んだ初老の男性であった。髭を生やし、灰色の髪は短く切り揃えられている。

「支部長、お久しぶりです」

 ヴァージとオリバーが同時に頭を下げる。

 帝都における魔術界支部の総責任者であるその男は、視界の下の方にいる小さなレインに視線をやる。

「君か」

「?」

「早速だが、話を始めさせてもらおう」

 そういうと、支部長は対面に置かれたソファの片方に腰掛けた。

「座りたまえ」

「僕?」

 言葉と視線が有無をいわせずにレインに座るように促してくる。ヴァージがこちらに手をこまねいて座るようにと訴えかけてきている。とりあえずソファに腰掛けると、ヴァージもオリバーも広いソファに腰をかけた。

「まず、突然に呼び出してしまってすまないね、二人は知っていると思うが……私は帝都魔術界支部の支部長、メイガスだ」

 メイガスは話を続ける。

「予想はついていると思うが、今回呼び出したのは帝都で起きた異常現象についてのことだ」

「そのことなら、僕が見解を提出しましたけど……」

「レイン君の報告書はすでに拝見した。曰く、身体に仮称『魔核』を保有している。非生物とのことだったね」

「はい、魔力の流れ的に人間である可能性はないですね。魔術とは違う、術式を使わない力……未確認の生物というよりも、誰かが作った非生命体でしょう」

 レインは別に的外れなことを書いたつもりはなかった。だから、ただ堂々と答える。

「はは、大人に囲まれても動じないその胆力やよし。いくつだね?」

「は、今年で……9歳です」

 指で歳を数えていると、横から驚愕の声が聞こえる。

「やあっぱ若すぎだよ、君。怖かったでしょう?まあそんなふうには見えなかったけど」

「まあはい。それより、ヴァージさん。目は平気ですか?」

「平気なわけないけど、隻眼の魔術師って聞いたらカッコよくない?」

 ヴァージは自身の欠損をポジティブに捉えているようだ。ならいいのだが……オリバーは左腕をさすっている。こちらは聞かなくても分かるので、聞かないように気をつける。

「さて、今回君たちを呼んだのは異常現象調査および撃退における褒賞と……今後の仕事についての話だ」

「褒賞?」

「実は……異常現象の原因を突き止め、それを排除した例は今回が初めてなのだ」

 他の地域で出現した異常現象はそれらを隔離することで防いでいるようだ。外れの村に発生したでかい異常現象地帯には、立ち入り禁止の令を発令することで、どうにか被害を防いでいるらしい。

 立ち入ったが最後、時間経過で消滅してしまうのだから解決は難しいだろう。

「よって、今回三人にはそれなりの額を渡す。それと、もう一つ。こちらはお願いのようなものなのだが……」

 支部長は一旦言葉を切ってから顔を上げた。

「君たち三人を発足人とし、新たに……『異常現象調査部隊』を設立したいと思っているのだ。
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