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噂の的
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リシルに救出されたレインはガチガチになりながら隣の席へと腰を下ろした。正直スピーチなんかよりもよっぽど緊張している。
「あ、あの……リシル、さま?が公爵令嬢とは知らず……」
そういうとリシルはほっぺをつねってきた。
「いひゃいです……」
「レイン君はもう私の友達なんだからタメ口でいいんだよ?っていうか、タメ口じゃないとダメ。ね?」
「うん……わかった」
思えば、リシルはどことなく高貴さが滲み出ていた。口調こそそこら変にいる貴族よりもラフなものではあるが、明らかに格の違いというものを感じさせる。
「助けてくれてありがとう」
「いいのよこれくらい。友達として当然よ!」
「友達……えへ、友達できたの初めてだ」
「え、そうなの?」
レインには同年代の知り合いなどいなかったものだから、友達という概念すら肌で感じたことはなかった。
「そう……だから、リシルが僕の初めての人だよ」
「っ……きゅぅ……」
リシルは机に突っ伏してしまった。たまに起こすリシルのこのよくわからない行動は一体なんなのだろうか?
「それはそうとなんだけど……レイン君は聞いた?あの話」
「え、どの話?」
立ち直ってきたリシルがそう話を変えた。
「この一年Sクラスの担当教師が……」
「席について!」
その時に、徐に教室の扉が勢いよく開かれて、一人の教師が入ってきた。
「え?」
「一年Sクラスのみなさん。初めまして、私が担当教員になったロゼルです」
そこには学校長が立っていた。全員が呆然とし、
「「「ええええ!?」」」
その反応に満足げな顔をした学校長が話を続ける。
「さて、今年は異例中の異例として学校長の私自ら担当クラスを持つことを認められた……というか、押し付けられたのだけれど……ま、あなたたちを一年間受け持つことになりました。厳しきやっていきますので、そのつもりで」
厳しく……水責めよりも危険なものなのだろうか?
「私がみなさんに求める水準はとても高いと思います。それでも食らいついてついてこれたものは何人いるかしらね?」
意味ありげにレインの方を見る学校長。思わずレインは視線を逸らしてしまった。
「さて、まずあなたたちには世間の広さというものを知ってもらう必要があると思うので、もうすでに聞き及んだことがあるかもしれない話をさせてもらいます」
と学校長が雰囲気を変えた。
「みなさんは一人を除いて十二歳になったような子供かと思いますが、私のように特級魔術師に足を踏み入れた魔術師が最近現れました。それもみなさんよりも若い九歳ですよ」
その一声でざわざわとし出す教室。話は聞いたことがあるのか、「やっぱあれって本当だったのか……」という会話があちこちから聞こえてきた。
レインの心は違う意味でざわざわとしていたが……。
「私は彼を今日見たのですが……やはり、すごかった。魔術の澱みが一切感じられなかったのは久しぶりの経験でした。いいですか?上には上がいる……決して傲慢にならないことですね」
学校長はもはやレインの方を凝視していた。無論学校長はレインがその魔術師ということは知っているのだ。学校長からの了承が得られないとレインが入学できるはずがないのだから。
「校長先生」
「ロゼル先生と呼びなさい」
一人の生徒が挙手をする。
「ロゼル先生。その新しい特級魔術師様は一体どんな風に呼ばれているのですか?」
「ふむ……〈二つ名〉のことですか」
レインの耳がピクリと反応する。レインは特級魔術師になったということは分かってはいたが、どんな二つ名で呼ばれることになるのかまでは聞かされていなかった。自分自身のことなのになんて無関心だったんだ、と後悔しなくもない。これで、とてつもなくダサかったら嫌だ。
「彼は魔術師としては異例の魔術界直属部隊『アノマリー隊』α小隊部隊長です。最近起きている恐ろしい怪奇現象……異常現象を調査して解決するような仕事をしています」
異常現象の恐ろしさは話に聞いて知っているのか、全員が緊張した面持ちで話を聞いていた。
「彼が最初に受けた任務はとある店の中にすむ人型物体の調査だったそうです。その中で二名の上級魔術師が殺害されましたが、彼は生きて帰ったそうです」
「……………」
「そのほかにも燃え盛る焼却炉の話が魔術界では有名ですね。れい……彼は、身体に炎を受けても無傷で生還し、そして腕を剣に変幻させて敵を討ち取ったそうです」
今!?レインって言いかけたよね!?絶対言いかけたよね!?まあ……名前は一応公開されてはいるけど……貴族の坊やたちが知っている様子は今のところないのだから、変な真似はやめてほしい。
「身体の自由自在に変幻させる魔術師、〈変幻の魔術師〉について詳しい話を知りたいという人はローズ先生の元へ行くといいでしょう。あの人はオタクなので、特に詳しく語ってくれるかと思いますよ」
もうやめてくれ……これ以上ヒヤヒヤさせないでくれ……。というかなんだ、〈変幻の魔術師〉って!水の魔術師要素が少ないじゃないか!無属性魔術師としての認識が強く広まっているのだろうか……確かに新しい属性の開拓は歴史的快挙って呼ばれることもあるけれど、それでも僕は水の魔術師だ。
とはいえ……かっこいいからいいや。『師匠』も気に入ってくれるかな?
「ああ、そうそう。彼は水の魔術師として知られているのですが、彼は誰もが不可能だとしていた『無属性魔術』の実用化に成功したそうです。そのうち論文が上がるかと思いますので、見たいと思った人は是非とも閲覧用の写しと購入することをお勧めします」
……ちなみに、レインに無属性魔術の論文を書く気は一切なかった。少なくとも今のところは。学校長からの遠回しに早く書けと言われているようだ……。
しょうがない、寝る間を削って書くしかないか。学校長は元特級魔術師ではあるが、今の職業は教師。生徒の魔術への学習意欲を増やさせるためなら、レインのことすら利用するつもりらしい。
そして、レインについての話を語ったことで周りの顔ぶれは少し引き締まった感じになっていた。憧れを感じているのか、尊敬してくれているのか……どちらにせよ、それは君たちが馬鹿にしていた後ろにいる少年なのだと気づいた時、どんな反応をするのだろうか?
「もういいですか?では、ホームルームを始めましょう」
「あ、あの……リシル、さま?が公爵令嬢とは知らず……」
そういうとリシルはほっぺをつねってきた。
「いひゃいです……」
「レイン君はもう私の友達なんだからタメ口でいいんだよ?っていうか、タメ口じゃないとダメ。ね?」
「うん……わかった」
思えば、リシルはどことなく高貴さが滲み出ていた。口調こそそこら変にいる貴族よりもラフなものではあるが、明らかに格の違いというものを感じさせる。
「助けてくれてありがとう」
「いいのよこれくらい。友達として当然よ!」
「友達……えへ、友達できたの初めてだ」
「え、そうなの?」
レインには同年代の知り合いなどいなかったものだから、友達という概念すら肌で感じたことはなかった。
「そう……だから、リシルが僕の初めての人だよ」
「っ……きゅぅ……」
リシルは机に突っ伏してしまった。たまに起こすリシルのこのよくわからない行動は一体なんなのだろうか?
「それはそうとなんだけど……レイン君は聞いた?あの話」
「え、どの話?」
立ち直ってきたリシルがそう話を変えた。
「この一年Sクラスの担当教師が……」
「席について!」
その時に、徐に教室の扉が勢いよく開かれて、一人の教師が入ってきた。
「え?」
「一年Sクラスのみなさん。初めまして、私が担当教員になったロゼルです」
そこには学校長が立っていた。全員が呆然とし、
「「「ええええ!?」」」
その反応に満足げな顔をした学校長が話を続ける。
「さて、今年は異例中の異例として学校長の私自ら担当クラスを持つことを認められた……というか、押し付けられたのだけれど……ま、あなたたちを一年間受け持つことになりました。厳しきやっていきますので、そのつもりで」
厳しく……水責めよりも危険なものなのだろうか?
「私がみなさんに求める水準はとても高いと思います。それでも食らいついてついてこれたものは何人いるかしらね?」
意味ありげにレインの方を見る学校長。思わずレインは視線を逸らしてしまった。
「さて、まずあなたたちには世間の広さというものを知ってもらう必要があると思うので、もうすでに聞き及んだことがあるかもしれない話をさせてもらいます」
と学校長が雰囲気を変えた。
「みなさんは一人を除いて十二歳になったような子供かと思いますが、私のように特級魔術師に足を踏み入れた魔術師が最近現れました。それもみなさんよりも若い九歳ですよ」
その一声でざわざわとし出す教室。話は聞いたことがあるのか、「やっぱあれって本当だったのか……」という会話があちこちから聞こえてきた。
レインの心は違う意味でざわざわとしていたが……。
「私は彼を今日見たのですが……やはり、すごかった。魔術の澱みが一切感じられなかったのは久しぶりの経験でした。いいですか?上には上がいる……決して傲慢にならないことですね」
学校長はもはやレインの方を凝視していた。無論学校長はレインがその魔術師ということは知っているのだ。学校長からの了承が得られないとレインが入学できるはずがないのだから。
「校長先生」
「ロゼル先生と呼びなさい」
一人の生徒が挙手をする。
「ロゼル先生。その新しい特級魔術師様は一体どんな風に呼ばれているのですか?」
「ふむ……〈二つ名〉のことですか」
レインの耳がピクリと反応する。レインは特級魔術師になったということは分かってはいたが、どんな二つ名で呼ばれることになるのかまでは聞かされていなかった。自分自身のことなのになんて無関心だったんだ、と後悔しなくもない。これで、とてつもなくダサかったら嫌だ。
「彼は魔術師としては異例の魔術界直属部隊『アノマリー隊』α小隊部隊長です。最近起きている恐ろしい怪奇現象……異常現象を調査して解決するような仕事をしています」
異常現象の恐ろしさは話に聞いて知っているのか、全員が緊張した面持ちで話を聞いていた。
「彼が最初に受けた任務はとある店の中にすむ人型物体の調査だったそうです。その中で二名の上級魔術師が殺害されましたが、彼は生きて帰ったそうです」
「……………」
「そのほかにも燃え盛る焼却炉の話が魔術界では有名ですね。れい……彼は、身体に炎を受けても無傷で生還し、そして腕を剣に変幻させて敵を討ち取ったそうです」
今!?レインって言いかけたよね!?絶対言いかけたよね!?まあ……名前は一応公開されてはいるけど……貴族の坊やたちが知っている様子は今のところないのだから、変な真似はやめてほしい。
「身体の自由自在に変幻させる魔術師、〈変幻の魔術師〉について詳しい話を知りたいという人はローズ先生の元へ行くといいでしょう。あの人はオタクなので、特に詳しく語ってくれるかと思いますよ」
もうやめてくれ……これ以上ヒヤヒヤさせないでくれ……。というかなんだ、〈変幻の魔術師〉って!水の魔術師要素が少ないじゃないか!無属性魔術師としての認識が強く広まっているのだろうか……確かに新しい属性の開拓は歴史的快挙って呼ばれることもあるけれど、それでも僕は水の魔術師だ。
とはいえ……かっこいいからいいや。『師匠』も気に入ってくれるかな?
「ああ、そうそう。彼は水の魔術師として知られているのですが、彼は誰もが不可能だとしていた『無属性魔術』の実用化に成功したそうです。そのうち論文が上がるかと思いますので、見たいと思った人は是非とも閲覧用の写しと購入することをお勧めします」
……ちなみに、レインに無属性魔術の論文を書く気は一切なかった。少なくとも今のところは。学校長からの遠回しに早く書けと言われているようだ……。
しょうがない、寝る間を削って書くしかないか。学校長は元特級魔術師ではあるが、今の職業は教師。生徒の魔術への学習意欲を増やさせるためなら、レインのことすら利用するつもりらしい。
そして、レインについての話を語ったことで周りの顔ぶれは少し引き締まった感じになっていた。憧れを感じているのか、尊敬してくれているのか……どちらにせよ、それは君たちが馬鹿にしていた後ろにいる少年なのだと気づいた時、どんな反応をするのだろうか?
「もういいですか?では、ホームルームを始めましょう」
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