星の海で遊ばせて

nomaz

文字の大きさ
29 / 43
1章 星の海で遊ばせて

寄り添う二羽(9)

しおりを挟む
 散歩から戻り詩乃の家。

 二人は上着を脱いで、詩乃はちゃぶ台の前に座った。

「ケーキ、食べる?」

「あぁ、うん、折角だからね」

 詩乃は立ち上がって、二人分の平皿とフォークを出した。

「あ、でも水上君のババロアもあるんだっけ?」

「あるけど――」

「食べてもいい?」

「いいよ。じゃあ、自分はケーキをもらうよ」

「わかった。水上君は座っててよ」

 詩乃は言われたとおりに、またちゃぶ台の前に座りなおした。柚子は詩乃の作ったババロアを切り分け、ケーキを詩乃の皿に置いた。ちゃぶ台に運んで、柚子も座る。

「じゃあ、歌おっか?」

「え、歌?」

「ハッピーバースデーの歌」

「え、なんで――」

 言いかけて、詩乃は、自分の誕生日が昨日だったことを思い出した。

「水上君、もしかして、忘れてた?」

「……うん」

「えー、嘘でしょ。自分の誕生日なんだから」

「いや、何があるわけでもないからさ……」

「じゃあ、ババロアは……?」

「新見さんに、食べてもらおうと思って。そんなのでも、お礼になれば」

 柚子は、詩乃の心遣いに感動してしまった。

「わざわざ作ってくれたんだ。ありがとう」

 詩乃は柚子から視線を逸らして俯いた。

 柚子は部屋を暗くして、カーテンを閉めた。それから、詩乃のショートケーキに真っ赤な蠟燭を立て、火を点ける。恥ずかしがる詩乃の反応を楽しむように、柚子は元気いっぱいに誕生日の歌を歌った。

「ほら、水上君、消して!」

 柚子に急かされて、詩乃はふっと蝋燭の火を消した。

 柚子は部屋の電気をつけ、そして、バックから詩乃へのプレゼントを取り出した。ラッピングされた小さな長方形。それを、詩乃に差し出す。

「これ、プレゼント」

「え? 自分に?」

「うん。どうかな……」

 詩乃は、ラッピングを破って開けた。その豪快さに、柚子は思わず笑ってしまう。

 紺色の箱――詩乃はそれを開けた。

 中身は、万年筆だった。

「作家と言えばこれかなぁと思って」

 柚子は、はにかみ笑いを浮かべながら言った。

 美しい深碧のキャップと胴軸。クリップとキャップリングの煌めく金色。詩乃はその万年筆を取って持ち上げ、キャップをひねった。金色のペン体が、滑らかに、光を映している。

「プレゼント?」

「うん。どう?」

「一生大事に使うよ」

 そんな長くは持たないよと思う柚子だったが、どうやら水上君は本気らしいと、その真剣な眼差しを見てわかった。

「新見さん、誕生日はいつ?」

「え?」

「いつ?」

「十二月三日だよ」

 詩乃は、その日付を繰り返しながらスマホを探し、カレンダーに柚子の誕生日を登録した。誕生日はこの先何度訪れるかわからない。でも今日の日は、きっと一生忘れないだろうと詩乃は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

25cmのシンデレラ

野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。 後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。 御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...