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しおりを挟む「食べろ」
地面に落とした握り飯を男はゆっくりと踏みにじる。
先日まで降り続いた土砂降りの雨のせいか男の高級そうなスーツのスラックスにはおにぎりを落とした時に跳ねた染みが付いてしまっている。
「かしこまりました。旦那様」
感情の伺えない声で返し、白いワンピースに泥がつくことを躊躇わず彼は膝をついた。
額に濡れた感触がする。土下座をして感謝を示した。
「今日も私のような身分の生き物に畏れ多くも人間様の食事を恵んでくださりありがとうございます。」
お決まりの台詞を口にし、いつものように足の裏に付いた米粒から舌で拭いとる。
やらされていた初めはゴム底の味に吐きそうになっていたがいまは不思議と何を食べても味がしない。
「人間様の御御足で踏みにじっていただいたお食事を食べさせていただきます」
「早くしろ、私も忙しい」
悪趣味なセリフを吐きながら泥水に塗れたそれを口にした。
口の中でジャリジャリと砂を噛む感触を感じてしまうと嗚咽をしてしまうのでなるべく噛まないようにして飲み込むように意識をする。
「早くしろと言っているだろう。この愚鈍な牝犬が」
「申し訳、ございません」
目の奥に火花が散った。鼻を強かに打ち付け、後頭部への硬い感触で頭を踏まれたことを理解する。
足を退けられるとそのまま後頭部に熱い汁物をぶちまけられる。
「きちんと残さず食べろよ」
「かしこまりました」
時折遅いと頭を踏み躙られつつも完食をするといつものように鼻で笑われる。
「お前には誇りというものがないのか。反抗しようという気骨はないのか?」
「私の様なモノに食事を与え、住まいを与えてくださる方々に反抗などとする訳がございません」
「そうだ、それでいい穀潰しが。…優しい私が食後の運動に付き合ってやろう」
衝撃とともに身体が浮いた。頭を思い切り蹴り挙げられた。
その蹴りを皮切りに蹴られ、踏まれ、殴られる。白く美しかったワンピースが泥水で染まったところでようやく食後の運動は終わりを告げた。
「私のような生き物にお情けをくださりありがとうございました。」
お決まりの台詞を呟き、男の気配が消えてから彼は痛む身体を庇いながら立ち上がる。
立ち上がった時に頭にへばりついていたワカメが地面に落ちた。
「…綺麗にしなきゃ」
暮らしている屋敷のお風呂はとうに壊れていて水しか出ない。
それでも綺麗にしないと定期的に見回りに来る侍従たちに仕置きをされてしまう。
屋敷とは言うが彼が暮らしている建物はただの資料庫だ。古今東西あらゆるジャンルの本が置いてある。
そこに申し訳程度に毛布とシャワールームが置いてあるだけだ。
「今日は東の5の棚を見ようかな」
彼は自分の名前を知らない。自分の年齢もしらない。ただ知っているのは自分は男だが本家の人間の安心のために女装をしないといけないこと。この屋敷の外に出すことは許されないこと。
そして自分は死ぬまでこの状態だということ。
随分前に書庫の本はすべて読み終え、いまは気ままにあちこちの本を読み漁っている。
「明日も早く終わりますように」
祈りを捧げるように呟きながら彼は願う。
彼は知っている。
自分の現状が異常なことを
彼は知っている。
このままでは自分は栄養不良や内臓に蓄積されたダメージで遠からず死ぬことを
彼は知っている
自分は自分が死ぬことに恐怖を感じていないことを
「明日も早く終わりますように。早く終わりますように。」
助けを求めることも、泣くことも、痛がることも彼は諦めた。
寝ることと本を読むことだけが彼の救い。
今日も彼は救いを求めるように目を閉じる。
目が覚めた時に彼の未来が変わっていることすら気づかずに
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