神よ愛を求める罪をお許しください

千代杜 長門

文字の大きさ
1 / 3

1

しおりを挟む


深夜。とある貴族の屋敷にある半地下の一室。


そこは貴族の部屋としてはあまりにも異質な作りになっていた。
外から、鍵がかけられているその部屋には窓は無く、夥しい数のクッションと柔らかな素材の絨毯、そして身体を清めるための水が入った桶と手巾、それ以外は存在しない。


寝台も、トイレもついていない異常な部屋。
その中央に一人の少年が横たわっていた。

全身をしっとりと汗で濡らし、びくりびくりと跳ねる身体には一切の衣服を纏ってはいない 。

時折ちろりと覗かせる赤い舌がなんとも言えない色気を放っている。

「んぐぅ…んんっ…んーーっ」

両手首を重く冷たい鉄の手枷で拘束され、後孔には石でできた張形を差し込まれ、放置されている。

少年は自身の境遇と身体の熱に涙を流した。

部屋を支配する暗闇より、暗い色を宿した瞳から溢れ出た涙はショコラの肌を滑り、床に落ちて銀糸の髪を濡らす。


(どうして…どうして…)


魔術によって部屋は裸でも寒さを感じないように管理されているが、心はどこまでも凍てついた風が吹く。
たいして慣らされず、潤いすら与えられずに突き刺された張形は、貴族らしく貴石で出来ているのか見た目は美しいが、酷く冷たく、その大きさのせいで後孔は切れ、血が滲んでいた。


彼に望まれてむりやり輿入れをさせられたのだ。
彼に愛されると思っていた。
愛されているのだと信じたかった。

冷たいが住み慣れた村から無理やりに連れ去られ、四ヶ月もかけて見た目を整えさせられたのだ。

これで愛されず冷遇されるなどなんという悪夢だろうか。

このような扱いを受けるなんて考えもしていなかった。


(痛い…熱い…怖い…なんで……どうして…)



身体は初めての発情期故かどこまでも熱くなるばかりで快感など拾えない。

少年…浅黒い肌を持つエルフのリーシェは己の境遇にひたすら涙を流した。

(助けてくれると…思ってたのに)


ーーーーーーーーー

ふと、半年前のことを思いだしていた。
愛されると期待し、絶望したあの日のことを。


目の前にいる『自分の夫の花嫁』の美しい晴れ姿にあの時期待していた自分の未来を重ねてしまったのだろうか。


「ぐっ!?」
「おい!!!折角の俺とガーランドの結婚式なのにぼーっとしてんなよな!辛気臭いだろ!謝れよ!折角愛されてない可哀想なリーシェにガーランドより先に俺の幸せそうな姿を見せておすそ分けしてやろうとしたのに!失礼だな!」

脇腹に走る強い衝撃と共に耳が痛くなるほどの大声が吹き込まれる。
口から空気が漏れ、殴られた脇腹を抑える。

頬を膨らませこちらを睨みつける神子、カギューラサカ・セイシュア。
あいも変わらず子供のような方だ。 


純白の衣装は美しく、うっすらと紅を乗せた唇を不愉快そうに歪めている表情ですら、愛らしさを感じる。

今日はリーシェの夫であるガーランドの2度目の結婚式、そして花嫁は目の前の美しい少年。


[申し訳ございません。つまらぬ過去を思い出していました。] 


手のひらほどの大きさの鉱物魔石で作った板に魔力で文字を書く。
木の葉の形をしたこの板は銀曜の詩編と呼ばれ、黒い板に白墨で書くより手軽で何より汚れないところをリーシェ気に入っていてすぐに使えるように鎖を通して首にかけている。


あの日、旦那様にすべてを否定された日からリーシェは声を出すことを禁じられていた。



「なんだよ!ここの字は読めないって知ってんだろ!きちんと喋れよな!」


この世界に呼ばれてそろそろ四ヶ月が経つのにセイシュアは未だに文字が読めない。
ほかの神子様方の中にはすでに読み書きを苦労なく出来る方もいるというのに。


[申し訳ございません、旦那様に声を発することを禁止されているのです]


ダメ元で再び銀曜を見せるが癇癪を起こしたようにセイシュア様は地団駄を踏み、喚く。


「読めないって言ってんだろ!意地悪だ!ガーランド!ガーランド!リーシェが虐める!ガーランドのことを騙して番ったくせにガーランドに愛されてる俺のことをいじめるな!」
「……っ!」


突然、視界がぶれ、首が燃えるように痛んだ。銀葉の詩篇をセイシュア様が引っ張り鎖が千切れたと気付いたのは一拍ほど間が空いてからだった。
そのままセイシュア様は鎖を鞭のように振り回してはリーシェを打ち据える。

「何をしている。」
「ガーランド!遅いぞ!こいつが俺に失礼なことしたからダメだって教えてたんだ!」

弁解はしない。出来ない。無理やりこの部屋に連れてこられたとしてもセイシュアは認めないし、セイシュアが認めないのならばガーランドも認めない。
リーシェは謝意を表すために深く頭を下げた。

「お前は私に許可なく部屋を出歩いていいと思っているのか?」
[申し訳ございません]

セイシュアが飽きたのか放り投げた銀曜を風で手元に呼び寄せ謝罪をする。
心のどこかがまた凍りついた気がする。
凍るほど血が通っていたことも驚きだった。

「なあ!ガーランド!リーシェに俺のドレスの裾持ってもらうのはどうだ!」
「セイシュア、それはこんなやつに勿体ない役回りだ。それにそれは未婚の親類の女性にやらせるのがしきたりだぞ?」
「そんなこと知らない!俺がやるって言ったらやるんだ!リーシェはガーランドと結婚式あげてないんだろ?可愛そうだから雰囲気だけでも味わらせてやらないとな!」
「なるほど、さすが神子様だ。優しく、聡明で愛に満ちているのだな」

いつものように始まる茶番にリーシェは悟られぬようにため息をついた。

部屋の鏡に映る自分はひどく憂鬱な顔をしている。
泥のような色をした肌、光の指す角度で色が変わる不気味な瞳、売り物にならないほど等級の低い水晶のような濁った白の髪、額には彼らとは決定的に違う小さな白い角。そしてこの日のために用意した白の民族衣装は首裏が赤く濡れていく。

首筋に手を当てるとぬるりとした感触。

(…あとで。消毒しないとな)

リーシェは手のひらの中に握り込んだ銀曜の詩編を、撫でた。

(割れなくてよかった。)

これはガーランドが唯一、リーシェに贈った贈り物だから。


リーシェはそっと銀の葉に唇を落とした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

因習村の生贄の双子を拾って10年、何故か双子に執着されています

ユッキー
BL
因習村の神への生贄だった双子を偶然拾ったルポライターの御影透は、成り行きで双子を引き取る事に。10年後、双子が居た村が土砂崩れで廃村した事から物語が始まる。双子からの信仰と執着の行方は? 主人公×双子兄 双子弟×主人公

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...