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第10話 翡翠竜は旧知の新米女神と通話する

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諸事情で奴隷になっている? なんかとてつもなく嫌な予感がプンプンするぞ。
その前に、

「ユグドラはこのまま龍脈との接続を維持して会話を続けても大丈夫なのか?」

「ええ、今回に限れば大丈夫ですよ。今回限りのとっても優秀な補佐役の協力を
得られましたので……やはり、私が奴隷になった理由が気になりますか?」

「ああ、かつて愛した相手が転生して奴隷になったと知ったら、その理由に好奇心が刺激されるのは当然だと思うが?」

死別する前の人間だったころにはもったいぶることなく、すぐに理由を教えてくれていたルシア、ユグドラが理由を全く教えてくれそうにない。いや、これはもしかして、ユグドラからは「話せない」のかもしれない。ユグドラの表情から察するに、なんらかの制約をかけられているみたいだ。これは俺が下手に突かない方が良さそうだな。

それにしても、いくらなんでもユグドラが連絡をしてくるタイミングが良すぎる気がする。俺が里で墓守りしているときも連絡できなかった訳ではないはずなので、このタイミングで接触してきたのには何やら裏がありそうだ。それに、

「俺を頼ってくれるのは嬉しいが、今は俺以外に頼れる相手はいないのか?」

ルシアがヒトとしての生を終えて天界に戻って、どれくらいの時間が流れているか細かくは認識していないが、大雑把に5~600年は経っている筈だ。ほぼアウェイ環境の里に引き篭もっていた俺とは違い、ユグドラ、元ルシアは同族や上司である神族がいる天界に戻ったのだから、少なくとも、奴隷という状況を助けてくれる仲間がいないとは考え難い。

「ええ、今の私にはあなた以外に頼れる相手はいません。奴隷の身になったのも、この身を守るためなのです」

ユグドラはそう悲しそうに笑った。

こういう場合には大抵、この世界でも、だいたい候補として挙がるはずの勇者パーティーの“ゆ”の字もでないってことは、当代の勇者パーティーにユグドラが頼れない事情がある可能性がかなり高い。まぁ、俺が冒険者していたときに出会った勇者パーティーも勇者とは名ばかりの大迷惑な集団だったからなぁ……。

冒険者を始めた当初、権力者達にいい様にこき使われていたときの記憶が蘇って、ユグドラに対しても強い警戒心が芽生えている自覚がある。人間だったユグドラの前身のルシアは、確かに俺の妻で護る仲間であったが、その人生は既に終わっているから。

ユグドラはルシアという存在を内包している別の存在。違う存在だという余計な思考がどうしても働いてしまう。

『俺をほしいままに利用しようというのならば、かつて愛した者だろうとも、その思い上がりごと喰い殺してやればいい』

ん? なんか今、ヤバ気な自分の声が聞こえた様な?? それと、ユグドラの立体魔力映像と通信が今、一瞬揺らいだぞ。

……まぁ、今は特に目的のない気ままな旅だから、ルシア≒ユグドラを助けに行ってもいいか。

「わかった。まずは、ユグドラと合流して、奴隷から解放すればいいんだな?」

「はい、ありがとうございます。私を奴隷から解放してもらうには身請けしていただく必要があります。そのためには単純な金銭だけではなく、帝国|《この国》で身元を保証する後ろ盾が必要です」

ユグドラは俺の返答を聴いて微笑んだが、人間社会復帰早々に後ろ盾を作れという割とハードルが高い難題を提示してきた。

現カーン辺境伯テオドールに頼むにしても、多分、マリアを助けた実績だけでは後ろ盾になってくれるかは怪しい。はてさて、どうしたものか……

「参考までに、あなたのいる辺境伯領内で現時点の魔物大氾濫の予測はこんな感じです。」

俺が頭を悩ませていると、ユグドラがそう言って、カーン辺境伯領の立体地図を表示して、冒険者時代に何度も目にしていた現時点の魔物大氾濫の発生予測ポイントと思しい場所を分かりやすく表示してくれたのだが、一見するだけで、魔物大氾濫が発生する可能性がほとんどないことがわかった。

言い換えるならば、テオドール達がきちんと魔物が過剰に溜まらない様に仕事をしているということである。残念だが、対魔物関係で、俺がテオドール達の力になる必要は今の所なさそうだ。

「後ろ盾については明日、現カーン辺境伯に相談してみるが、俺が身請けする前に他の客にユグドラが買い取られる方が早いと思うのだが、そのことは大丈夫なのか?」

「その点に関しては、問題ありません。私が提示している条件を満たさなければ、買うことができない様になっています。ただ、なるべく早く来てくれると嬉しいです」

懸念を伝えるも、ユグドラは問題ないと返してくれた。俺の懸念は全くの杞憂であったことがその表情からわかった。

「ユグドラの座標を捕捉した。パーティー申請を送っておいたから、受諾することで、パーティースキルコマンド【空間収納】の【共通収納】を使える様にした。細かい操作方法は冒険者のころと同じだ。使用テストとして、非常用のエリクサー10個などを入れておいたから、後で確認しておいてくれ。こっちは今日の所は以上だな。まだなにか緊急の要件はあるか?」

並列思考マルチタスク】で会話しながら、龍脈から通信の流れを遡ってユグドラのいる場所を捕捉した。帝都にある大店の奴隷商の店舗の一室にいた。

できればもっとルシアもといユグドラと話したいことはたくさんある。だが、ユグドラとのこの通信のサポートをしている存在に掛かっている負担を考えれば、それは今度、実際に再会したときにするべきだろう。そう考えた俺は本来知りたかった情報が分かったので確認した。

ちなみに、パーティースキルコマンドの【共通収納】は地味に性能はチートスキルの類だ。どんなに距離があっても、俺が許可したえパーティーメンバーであればアイテムを自由に出し入れできる。連絡事項を書いた手紙のやりとりはもちろん、お互いが必要な物品のやりとりもできる。

「パーティー申請、確認しました。ありがとうございます。こちらも喫緊で、お伝えしなければいけないことはもうありません。直接また、会えることを楽しみにしています、ジェイド……おやすみなさい」

ユグドラはそう言うと、流れる様な自然な動きで俺の頭を胸に抱きしめてきた。魔力で構成されている立体映像のはずだが、体温や心音が伝わってくる。不意のことだったため、完全に俺は固まってしまっていた。

しばらくして、ユグドラの立体映像は空間に溶け込む様に消えた。

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