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第13話 翡翠竜は怪しい無許可魔力膜を見つけて……

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テオドールの居城への移動中、城の最寄りの砦に到着する前に俺はそれに気がついた。なにやら薄い魔力の膜の様なものが砦の門を覆っている。居城にはこの砦の門を通過しないといけないらしい。

「どうされたのですか?」

テオドールの部下の女魔術師ミシェラが馬車を停止させた俺を不審に思ったのか、訊いてきた。

「魔力障壁にしては薄過ぎて、防護には役に立たないものがあそこに展開されているのだが、何か知っているか? ……スキル【解析】で調べたところ、特定人物の出入りを魔力判別で行うものみたいだな。しかも、テオドールとマリア、騎馬で来たメンバーがここを通過したら、施術者に通過が知られる様になっているみたいだ」

領主であるテオドールが自分達の通過を知らせるために設置しているものなら、問題ないのだが、ご丁寧に高レベルの【解析】スキル持ちでなければ察知されない様に細工されていた。

「? どこにあるのですか?」

案の定、普通のヒトでは特殊な眼を持っているか、専用の魔導具を使わないと見分けることができないレベルのものだから、当然、ミシェラ達には視認できない様にされている。

竜族の中でもあまりいない魔力の波動を見分けることができる【竜眼】持ちの俺は魔力の可視化ができる。そして、この手のやり口に俺は覚えがある。里に引き篭もる前に、ウンザリする程、俺に嫌がらせをしてくる奴等の手口だ。

「これをかけて、あそこを見てみてくれ」

口で説明しても伝わらないのが明白なモノなので、俺は判別対象となっているテオドール達に某7番の光の巨人の変身アイテムに似たグラス状の【解析】を付与した魔導具『アナライズアイ』を【アイテムボックス】からこの場にいる人数分を取り出して貸した。

「あんなものがあるとは知らされていないのですが……」

「私は許可した覚えがないな」

マリア、テオドールが驚いた様子で声をあげた。他の対象になっている面々も渋い顔をして魔力膜(仮)を凝視している。全員があのグラスを模した魔導具を装備しているその様子はとてもシュールに見えるのだが、そのことに気付き、素の状態で膜が見えている俺はお口をチャックしている。

「では、俺が施術者に意趣返ししてもいいかな?」

「何をするのですか?」

全員が魔力膜(仮)を確認したのを見計らって告げた俺の言葉に、頭に疑問符が浮かんでいる様な一同を代表してミシェラが尋ねてきた。

診たところ、魔力膜(仮)は安全策がとられていないセキュリティが穴だらけの感知術式で構築されている。これは「押すな、押すなよ」と言いつつ、押されるのを期待しているのと同じ様にしか俺には思えないあまりにも酷い冗談レベルの術式だ。

「あの膜に俺の魔力を許容量以上流して、機能不全を起こさせる。その間に全員でここを通過する。過剰に流れた魔力は術式を通じて術者に流れる様になっているから、犯人は通過を感知することはできないうえに、余剰魔力操作に失敗すると魔力酔いを起こして気絶する……作りが雑だから、この膜は完全に使い物にならなくなるかもしれないな」

俺がそう言うと、

「私が許可したものではないので、別に壊れても構わないのでやってください。全員が通過することに加えて、オーランドを先行させ、これを設置した不届き者を私達が到着するまで拘束させます」

話し合いを終えたテオドールが開口一番にそう言って、その言葉に頷くオーランドが愛馬に騎乗して準備万端の状態で待機した。

術者との内通者もいないのは既に確認済みなので、テオドール達に貸した『アナライズアイ』を漏れなく回収した俺はテオドールの許可の下、ヒトの社会に溶け込むために封印し、抑えている魔力の数千分の1を解放した。

「うっ!?」

「これは……」

俺の解放した魔導具なしでも視覚できるレベルの濃密な緑色の魔力を感知したテオドール達の口からうめき声らしきものが漏れ聞こえた。予め、意識をしっかりもつよう言い含めていたので、俺の言葉を信じてくれた面々は気をしっかりもっていた。

その一方で、俺に対して、敵対的かつ反抗的だった若手騎士達は軒並み気絶して醜態を晒した。それには構わず、俺は目の前の魔力膜(仮)に触れて、思いっきり解放して有り余っている魔力を流しこんだ。

パアーンッ!

という小気味いい音と共に門に張られていた魔力膜が破裂した。少なくとも、あと数秒位は保つと思っていたが、予想以上に脆かったな、魔力膜(仮)。

「では、先行する!」

スタンバっていたオーランドは短くそう告げると颯爽と門をくぐり抜けた。その背中はどんどん小さくなっていく。テオドールのメンバーの中で、オーランドが先行するのは相応の立場がないと魔力感知膜(仮)を張った犯人を捕まえることはできないからだ。

オーランドには犯人が分かる様に魔力膜に使われていた術者の魔力も登録した『アナライズアイ』を貸しているのに加えて、テオドールが正式な命令書を手早く認めて渡しているから、犯人の豚箱入りは確定だ。

また、既に犯人の目星がついていたのか、テオドールの雰囲気がこれまでと変わって、険しいものになった。ピリピリした空気がテオドールから漂う様になった。

安全運転で、なるべく居城に早く着く様に俺は馬車を出発させた。
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