長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
15 / 255

妹はリア充候補です

しおりを挟む
「日下部文香です! よろしくおねがいします」

 元気溌剌げんきはつらつでたいへんよろしい文香の自己紹介は、クラスで湧き上がる拍手喝采はくしゅかっさいで受け入れられた。
 隣に立つオルトリンデもにこにこと笑みを浮かべている。

 このクラスは職員の中でも共働きや片親の子供たちが多く、朝から夕方まで居るのが常だ。
 弥生も定時で帰れる時はそのまま迎えに行く手間も省ける上、安全面でもばっちり。
 安心して仕事に打ち込んでもらえるだろうとオルトリンデは考えていた。

「文香、あなたは一番前の席……左から二番目の所が開いているのでそこに座ってください」

 こくん、と頷きニコニコ顔で文香はおとなしく席に向かう。
 隣の席に座るのはラミア族の女の子でたれ目の人懐っこそうな笑顔が特徴的だ。
 蛇の足もピコピコと左右に振れて嬉しそうである。

「よろしくね!」
「ミリア!、よろしくね文香!」

 きゃいきゃいとあっという間に打ち解ける文香にオルトリンデはさらに目を細める。
 人族であるがゆえに偏見を持つ、持たれる場合が少なくないのだが……文香は何となく大丈夫そうだ。
 普段であれば一言静かに、と注意するのだが今日ぐらいはいいだろう。

「では、ホームルームを始めます。今週はクラス替え直後という事もありますので授業はありません。放課後にお知らせを渡しますのでちゃんと保護者の方に見せること。いいですね?」

 はーい! と元気な声が返ってくるのを満足気に受け止めてオルトリンデは副担任にクラスを任せた。去り際に文香へみんなと仲良くね、と声をかけるのも忘れない。

 今日は文香だけではなく、弥生の案内もしなければいけない。
 まずは文香を、と。クラスを優先して弥生をほかの書記官、面倒見が良い事で定評のあるベテランに任せたとはいえ……この国に来て間もない弥生が不便を感じないようにとの配慮だ。

 なお、この時のオルトリンデは知る由もないが……弥生がその頼れる先輩書記官の机を占拠したのはこの頃である。

「とはいえ見学ルートも任せてしまいましたから……視察も兼ねてしまいましょう。どこかで会うでしょう」

 その考えが甘かったと知るのはもうしばらく先だったりする。
 もしかしたらここでオルトリンデが館内放送を駆使して弥生との合流を最優先したなら未来は変わっていたかもしれない。

 結局、三級から二級書記官がお仕事を遂行する事務棟を……下の階から順番に見て回ったが出会うことはなかった。
 それどころか……

「地味な少女……来てないですよ?」
「そういえば、今日でしたよね前代未聞の満点採用の子」
「あいつが案内していて迷うわけ無いんだがな」

 と、誰も見ていない。
 ひょっとして文香が心配になってクラスの方を見学しているとか? オルトリンデは首をかしげながらも文香のいるクラス、つまり自分の担当クラスに戻ってきた。

「いないですね……というか文香は一体何をやってるんでしょうか」

 ついでに文香の様子を見ると不思議な光景が目に映る。
 文香の背後、隣に群がるクラスメイト、その視線の先は全員彼女の手元に集中していた。
 窓越しではオルトリンデから何をしているのか見えなかったが……皆が興味津々にみているのは気になる……気になるのだが。

「後で聞けばいいか、それより弥生です……本当にどこに行ったのやら」

 優先順位を再確認してオルトリンデは再び事務棟に向かう。
 そこで弥生の事を頼んだはずの書記官に泣きつかれることになるとは……この時は想像もしていなかったのだった。

 
 一方、文香は良い意味でおとなしかった。
 ちょうど小学校一年生を終えて二年生に上がる時にこの世界に来てしまった彼女。
 はっちゃける時もあるが、しっかり者の弥生と冷静沈着な真司の妹だけの事はあり。素直にクラスの状況へなじんでいた。

 そもそもあの過酷な生前の学校生活に比べたら天国だった。
 みんな様々な種族だけあって、見た目もほとんど同じ人はいないが仲がいい。特に文香にとってミリアはとてもコミュニケーションがとりやすい。
 
「ミリーちゃんの足いいなぁ……」
「そうなのー? ふみちゃんのような足も良いよ? 靴可愛いもん」
「背伸びすると棚の上のお菓子取れそう」
「……気にしたことなかった!!」

 がびーん! と文香の言葉にコミカルに反応する彼女は非常に愛くるしかった。

「ふみちゃんはきょうだいいる?」
「いるよ! おにいちゃんがまほ……まほうしギルドで。おねえちゃんはここでお仕事してるの」
「いいなー、私おねえちゃんほしい」
「……! そうだ、おねえちゃんあげる!!」

 文香の爆弾発言に固まるミリア、どうやら弥生はミリアの姉になるのかもしれない。

「こ、困るんじゃない?」
「だいじょうぶ、ミリーちゃんが上半身で文香が下半身ね」
「……そんなおねえちゃんいやだよぉ」

 エキドナのことだった。それにしても扱いがひどい。 
 そんなこんなで文香がクラスに溶け込むのはかなり早かった。

 ほかのクラスメイトも文香のあけっぴろげで偏見のない気質に好意的だったし、文香の愛嬌もあってか数か月後にはちょっとしたファンクラブが結成される事になる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...