長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
97 / 255

迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ⑨

しおりを挟む
「という訳で三人寄らば文殊の知恵、皆様お知恵を……」

 とりあえず食料と水はあるというので洞窟の入り口を岩で塞いだレティシアは幸太郎と一緒にドワーフの集落へ戻る。そして着替えもそこそこに貸してもらった集落の片隅に建てたテントで即会議だ。

「斬っちゃっていいんじゃないですか?」

 即答する灰斗の意見は間違ってはいない。状況を見る限り突然変異のゴブリンが村から追い出された。その特殊個体が妊娠して生まれる子供がどうなるのかなど予測がつかない。見逃したが故、別な場所で悲劇が生まれる事もある。

「でも、可哀そうじゃない……何とか逃がすとか」

 人情的には誰にも迷惑をかけない様に言い含めて人里離れたところで暮らしてもらう。それ位なら付き合うという前提で夜ノ華は提案した。

「夜ノ華さん、野生の熊が可哀そうだからと見過ごして。私たちが立ち去った後、この集落のだれか……子供が襲われたらどうします?」
「う……それは確かに」
「言葉が通じるのであれば意思疎通が可能でしょう。しかし、彼らは魔物です。僕やレティシアさんみたいな人がすべてならそれでもいいでしょうが……」
「じゃあレティはなんでここに聞きに来たの?」
「私が聞きたかったのはゴブリンの寿命と、特殊個体についての取り扱いですわ。もし彼女を殺したがゆえに別な問題が発生しては意味がありませんもの」
「そっか……」

 しゅん、と分かりやすく落ち込む夜ノ華。その気持ちはレティシアにもよくわかる。しかし、それだけでは世の中通用しない事もわかっているのだ。

「幸太郎様はどう思われます?」

 会議が始まって以来、黙して語らない幸太郎にレティシアが声をかける。先ほどからずーーーっと、それこそレティシアが合流した時から何か上の空であった。

「あー、その。前提があるんだけど……レティシアさんから見てそのゴブリン。言葉を覚えられそうかな?」
「できると思いますわよ。根気はいるでしょうけど……」
「いや、灰斗……君なら一人を常時見張って……万が一の時苦しませずに何とかできるよな?」
「ん、ああ……まあ、できるけど。何を考えてるんだい?」
「幸太郎? 何か思いついたの?」

 一息、幸太郎は思い切って心の内を話しだした。

「ウェイランド。鍛冶国家ウェイランドに連れて行くのはどうだろうか?」
「「「ウェイランド?」」」

 三人にとっては寝耳に水なのか、視線が幸太郎に集中した。その意味は『はよ続き』だ。

「ほら、あそこ学術都市でもあって……統括ギルドって覚えているか夜ノ華」
「え、ああ……そういえばお城に隣接する塔がそうだったわよね」
「そうそう、そこでさ受付のエルフさんが言ってたの憶えてるか? 学ぼうとするなら魔物でも受け入れるって……」

 そう、二人が旅を初めてミルテアリアから出た時に最初に立ち寄った国がウェイランドだった。なんでもその近辺は三つの国がそれぞれ特色があり、学び舎として有名なのがその国でノルトノ民と呼ばれる巨人や幽霊と呼ばれると笑いながら訂正する不死族、ケモミミの騎士や魔族と呼ばれる人種も仲良く暮らしていた。
 少なくとも、会話がしっかりできる魔物がいきなり殺されたりすることはなさそうなのだ。

「そっか!! あそこなら……でも、どうやって戻るの?」
「それは……まだ考えてない」
「当てがありますの? 夜ノ華、幸太郎様」
「僕はやめた方が良いと思うけどなぁ。後腐れ無く今殺しておこうよ……実害出てるしさ」
「でも……なんか。その、うまく言えないんだけど」

 そう、幸太郎が持つ違和感はそれだけではない。しかし、夜ノ華や灰斗、レティシアを納得させられそうな説明ができるわけでもなかった。

「幸太郎、そのゴブリンは助けるべきだと思う?」
「思う」

 夜ノ華が真剣な声音で幸太郎に確認する。それに応える夫の目に迷いはなかった。
 ふ、と夜ノ華は肩の力を抜いて微笑みながら宣言する。

「じゃ、助けましょ。灰斗さん、レティ。お願い!!」
「本気かい?」
「うん、それができる灰斗さんだから……今は……助けよう!」
「あまりお勧めしませんわよ? 厄介ごとを背負うのですから」
「何事にも例外はあるもん。それはそれで割り切る!!」

 ゴブリン側から見ればなんとも自分勝手な物言いだが、ドワーフ達もこのままでは飢えてしまう。あちらを立てればこちらが立たない、ならば後はその場にいる当人たちが選択するしかない。
 その決断を幸太郎がしたのだ。妻である夜ノ華が信じなくて誰が信じるのか。

「夜ノ華……良いの、かい?」

 まさか即決で夜ノ華が肯定するとは思ってなかった幸太郎はあっけにとられるばかりだ。
 そんな幸太郎に夜ノ華は眉根を寄せて文句を返す。

「何よぅ不満なの?」
「違うよ。ありがとう……」
「私が幸太郎を信じてあげなくちゃ誰が信じるのよ」

 妻として夫を信じる。夜ノ華のシンプルな物言いにレティシアが思わず吹き出す。

「くっふ……確かに、そうです、わね」
「ちょっと! レティ!? 何笑ってるのよ!!」
「ごめんなさい……なんだか可笑しくて、あはは!」
「もう! そんなに涙流して笑う所じゃないでしょうが!!」

 なんだか気恥ずかしくなって夜ノ華の顔が真っ赤に染まる。そんな二人を見て灰斗も呆れたように笑いだす。

「仕方ありませんねぇ、幸太郎のわがままですから。狩りの師としてフォローぐらいしますか」
「灰斗……ありがとう」
「ただし、他の人間に害があるようだったら即時処理を。これだけは譲れません、良いですか?」
「もちろんだ」

 ぐっと握られた拳を灰斗は幸太郎の胸にトン、と添える。
 夜ノ華さんに感謝してくださいね? と言葉と共に。

「じゃあ、まずは話を聞きに行こうか!!」

 夜ノ華がレティシアの首根っこを腕で締めながら宣言する。

「はいよ」
「わかりましたわ」
「行こう!」

 そうしてこっそりと、ドワーフが眠った後に集落を後にした4人だった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

処理中です...