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世界のルールを舐めちゃいけない ①

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「幸太郎!? 何本矢を外してるのよ!!」
「無茶言わないでもらえるか!? 骨だけの連中だぞ!!」

 夜ノ華が蹴って、灰斗が即席の木刀で殴り、幸太郎が……なぜか弓にこだわってるせいで邪魔でしょうがない。骸骨と三人の戦いは膠着状態に陥っていた……。

「頼むからその弓でぶん殴れ! あんなスカスカの身体にこの暗闇で矢が当たる訳ないだろう!?」
「嫌だ! ストライカーに傷がついたら泣くに泣けない!!」
「幸太郎……面倒くさいな君……」

 幸いなことに骸骨の動きは機敏だけれども元の骨の強さしかないみたいで、夜ノ華なら蹴れば折れるし灰斗の木刀でも難なく砕ける。しかし、幸太郎だけは先ほどからずーーーっと狙撃を続けていて……金属を多用した弓は確実に鈍器としても優秀なのに。

「無理よ灰斗さん! 幸太郎バイオ〇ザードクリアできたことないの!! このチキン!!」
「そういう夜ノ華だってホラー映画見てトイレに行けなくて――「その先言ったら地獄を見せるわよ!! お父さん!!」」

 そう、実は二人ともこの手の敵が苦手で極力近寄りたくない、見たくないの悪循環でしかなかった。灰斗が平気なのは単純に『触れられるなら壊せる、問題ありませんが何か?』とちょっとズレた感性の持ち主だったりする。
 そして……こういう時こそ最高のパフォーマンスを見せるはずの令嬢様は……

「レティ、イイコイイコ、コワクナイコワクナイ」
「あれは夢あれは幻覚あれは……」

 四つん這いで耳を塞ぎ、現実逃避をしながらぶつぶつとつぶやき続けていた……むしろゴブリンのバニに宥められるという始末だ。

「このパーティの最大の弱点がホラーですか……みんな骸骨くらい簡単に壊せるでしょうに」

 ふかーーーくため息をついて灰斗が文句を言う。最初こそ土の中から出てきて元気に追い回されて驚いたものの、それ以上にレティシアの大混乱を見て冷静になってしまったのだ。
 それ以降は最前列でカタカタと元気に突進してくるガイコツを地道に蹴散らしている。

「怖いもんは怖い!!」
「奥さん最前列にけしかけて何情けないこと言ってるんですか君は」
「そうだそうだー!!」
「夜ノ華さん!? 便乗ついでにこっそり私の後ろに隠れるの止めてもらえませんかねぇ!?」

 割と一生懸命にガイコツを砕いているが一向に減っている気配が無い。そもそも多数の相手は灰斗は苦手で、洞窟という閉鎖空間ゆえに一度に迫りくる数も制限されているからこそ耐えていられる。
 このままでは灰斗の体力が尽きた時点でお終いだ。

「タバコ吸う暇もありゃしないっての……」

 とうとう後ろで夜ノ華と幸太郎が言い争いというか、一応どうしたら現状を打開できるか考え始めた。レティシアが前線に立てばあっという間なのだが……ちらりと灰斗がレティシアの様子をうかがうとお尻を突き出してそっぽを向いたまま。現状は悪化の一途をたどる。

「なあ、ゴブリンのお嬢さん。どっかに逃げ道はあるかな? 見ての通りおじさん結構ピンチだったりする」

 木刀で先頭のガイコツの頭を殴りつけ、ほかのガイコツへクリーンヒットさせたりと工夫しながら戦いつつバニにダメもとで話しかける。

「ガイコツ、ヨワイ」
「そうだな、弱いな……でもとにかく数が多いんだ。僕らの数十倍の数がいる」
「ワカッタ、ヘラス」
「そりゃ助かる……はい? なんだって?」

 バニからの予想外の答えが返ってきて思わず灰斗は聞き返す。

「バニ、マホウ、ガイコツヘラス」
「……確認だけど、魔法でガイコツ減らせるのかい?」

 ローブを目深にかぶったままバニが頷く。どうやらできるらしい。

「どれくらい時間を稼げばいいかな?」
「スグデキル」
「……魔法を使ったら君が倒れるとかないよね?」
「イッパイツカウ、ツカレル。ガイコツケス、ソンナニツカレナイ」
「じゃあ、僕がこのまま維持……ガイコツをとめるからお願いしていいかな?」
「ワカッタ、ウィスプ……ガイコツネムラセテ」

 バニが人差し指を骸骨の群れに向けるとその指先に淡い光が……数十個発生した。唐突な発生に灰斗はもちろん、夜ノ華と幸太郎ですら目が眩んで悲鳴を上げる!

「目が! 目がぁぁ!!」
「夜ノ華! 夜ノ華ぁぁ!!」
「二人とも!! ネタに走る余裕あるのならレティシアさんを抱えてください!! とにかくここから出ますよ!? でも、まぶしぃ!?」

 閃光弾の様に視界が光で閉ざされるくらいの光量をバニは平然と見据えて骸骨に飛ばす。
 目を押さえてその場にとどまる夜ノ華たちをゆっくりと撫でて、穏やかな声で歌い始めた。

「~~♪~~♪♪」

 その歌に呼応する光の玉は骸骨に飛び込み縦横無尽に踊る。その玉に触れたガイコツはそのまま崩れ落ち、物言わぬ躯へと還っていった。

「バ、バニ! 何にも見えないけど大丈夫なの!?」

 夜ノ華にはバニが歌っているのだけは分かるが、ほかにはカラン、と軽い音が鳴り響きだんだんと彼女の緩やかな声がはっきりとしていく。
 やがてバニがふう、と軽く背伸びをする頃には静かな夜が戻り。ずーっと目と耳を塞いでいたレティシアが恐る恐る振り向くとあれだけ騒がしかった骨の合唱は跡形もなく消え失せて、白い山が幾つかできあがっていただけであった。

「何があったんですの?」
「レティ、コワガリ」
「ひあっ!?」

 落ちていた頭蓋骨をひょい、とかぶってレティシアに笑いかけたバニを見て彼女が卒倒しても問題ない位に。
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