長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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闇の宴が始まる…… ①

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「わーった、わかったわかった! 俺が悪かった! 頼むからその筆を俺に向けるな!?」
「たった数時間でオルちゃんが女王様になって帰ってきた私の悲哀を知・り・な・さ・い!!」
「知らねぇよ!? 俺のせいじゃねぇよ!!」

 確かにキズナのせいと言うよりはオルトリンデがそもそも備えていたかもしれない性癖だったのだが、状況が言い訳を許さない時があるという良い例だったりする。

「はぁ……後で治るのかなアレ」

 本気でキズナのほっぺたにいたずら書きするつもりはなかったため、ため息をつきつつも弥生は筆を降ろす。

「いろいろ帰り道で出来る限りの事はしたぞ?」
「色々って何?」
露骨ろこつにダメな例を挙げて『ああなりたいのか?』と」
「最低な論法で牡丹さんを使わないで!?」
「例によってあの発酵女ぼたん、ハアハア言ってたんだが?」
「なんで興奮したの? 牡丹さん」

 それ以前に『露骨にダメな例』で即座に牡丹にたどり着いた弥生もいろいろ問題だったりするのだが……突っ込む人はいなかった。
 何はともあれギルド祭の開催を邪魔する原因はすべて取り除かれた。

 ――10日後

 その日は快晴、天高く雲一つない青空の下でウェイランドの住民が笑っている。
 年に数日間と言う短い間だけ、楽しむためだけのお祭りが開催されるのだ。

「いい天気になって良かったね。文香」
「まだだよお兄ちゃん、三日間終わるまで油断はできないんだよ」

 ぺかーっと太陽が昇る空を見上げて真司と文香が家の前でラジオ体操をしている。
 話題は綺麗に晴れたギルド祭当日なのだが……文香がものすごく疑わしい眼差しで睨んでいた。

「あのね、いくら何でもここから土砂降りなんていくら姉ちゃんでも無理無理」
「何を言ってるのおにいちゃん……遠足。おねえちゃんが見送りに来た時……絶対に局地的豪雨とか土砂災害警戒情報が出たの……文香憶えてる」
「た、たまたま……とは言えないかもしれないけど。今回は大丈夫だよ……夜音に頼んだから」
のがれられない……って夜音ちゃんが崩れ落ちていたのは?」

 数日前、弥生達の家の屋根で座敷童が本気で運を操作してまで今の天気を呼んだのだ。
 
「それは大丈夫……文香は何の心配もしなくていいんだよ」

 真司の運を犠牲にして、今日から三日間のお天気を勝ち取った彼の笑顔はまぶしかった。
 最初はちょろいちょろいと言っていた座敷童の夜音さん、実際やってみるとなぜか上手く行かない。最終的に真司と糸子、夜音の三名がそれぞれ三分の一づつ不運の対価を受ける事で何とかつじつまを合わせたという……。

「バケットサンド……食べたかったなぁ」
「へ、変な事しちゃだめだよ? おにーちゃん」

 幸いにも真司に降りかかる不幸はそんなに大したことではない、せいぜい食べたかった物を買おうと出店に並んだら前のお客さんが最後の1個を買ってしまったとか……例えばバケットサンドとか。そんなものだ。

「無理を通すって難しいんだよ……文香。特に姉ちゃんの不運関連事項、雨女とか雨女とか雨女とか……」
「帰ってきておにーちゃん!? 文香すっごく美味しいお菓子売ってる場所教えてもらってるんだよ」
「うん、大丈夫……ありがとう文香」

 弟と妹が実は知らない所で奮闘していることを知る由もない長女が噂をすれば影と言うやつで、のそのそとパジャマ姿のまま真司と文香の所に近寄ってきた。

「とっても良く晴れたね……おはよ2人とも。朝ごはんできたよ~」
「ここで体操していったら姉ちゃん……目がまだ寝てるよ」
「6時間しか寝てないから……食べたらもうちょっとだけ寝る。うふふ……私太りませんので」

 信じられない事に、弥生さん体質なのか体重があんまり変わらない。
 あんまり極端に食べなかったり食べればそれなりに体重は増減する。しかし、その範囲がかなり狭かった。それに気づく前に母親である夜ノ華はお腹周りが大変な事になってしまったのを彼は覚えている。だってご飯が……食卓があんまりにも寂しかったんだもん。

夜音よねより怖い姉……今から役になりきらなくていいよ?」
「……なぜか演技しなくてもいいとみんなが言う不思議」
「……素が妖怪じみているとみんなが気づき始めたんだね」

 実際には疲れてうとうとしてる時の弥生の言動が物憂げでちょっと不気味だというだけなのだが、ここは弟として認識を固めておく必要がある。
 そんな3人が初めて経験するウェイランドのお祭りはこうして幕を上げるのだった。

 会話の中に潜む怪異にも気づかずに……。



 
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