長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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本祭! 格闘大会!! ⑧ 何となくいい人?

「ここじゃなんだから……静かに話ができる所に案内してくれないかな? 先に言っとくけど、暴れるつもりは……あー、大会で真っ当には暴れるかぁ」

 飄々とした様子で桜花は弥生達に提案する。
 
「首に針を刺しといて良く言うぜ……真司、俺ごと魔法で吹っ飛ばせ」
「あのねぇ、もう痛いことしない? それなら抜くけど」

 いまだに桜花の右肩はズキズキと鈍痛を訴える、キズナに相当しっかりとねじりあげられたのだ。
 反対にキズナは折ってしまえば良かったと微妙に後悔していたりする。

「テロには屈するな、俺の家の家訓」
「ねえ、ちょっとそこの地味な子。この説得して頂戴よ……まるで狂戦士じゃない」
「姉ちゃん、出番」
「キズナおねーちゃん! かっこいい!!」」

 大変下品に中指を立てて抵抗しようとするキズナに困り果てながら、桜花は弥生に助けを求める。
 これではどっちが人質だかわかったものではない。

「あ、あはは……困ったなぁ。キズナ、ちょっと話が聞きたいからおとなしくしてもらえないかな? 多分ちょんぱの仲間じゃないよこの人」
「弥生の勘、当たるからなぁ……おい、爆乳眼鏡。ボスが言うから殺さねぇ、だけど妙な真似したらわかってるだろうな?」

 背中に当たる柔らかい弾力にキズナが一方的に悔しさをにじませながら、桜花に釘を刺す。

「しないしない、だってこの注射器の中身も単なるブドウ糖……点滴よ」
「なんか胡散臭いんだよ……姉貴と同じ匂いがするぜ」
「キズナ、それはエキドナさんがかわいそうだよ……」

 確かに不審者扱いされてはエキドナも落ち込むだろう、だが。キズナにはどうにも桜花が姉であるエキドナと同じ性質を持ってるような気がしてならない。
 
「エキドナおねーちゃん消毒液の匂いなんてしないよ?」
「文香、その匂いじゃねぇよ……ほら、離せよ」
「はいはい、よっと……動いていいわ。それと、文香ちゃんだっけ? 消毒液の匂いする? 気を付けてるんだけどなぁ」

 キズナが首筋の違和感を拭うように、掌でさすりながら桜花から離れる。
 
「文香は鼻が良いから……気にしなくても良いよ。キズナ姉、治すからこっち来て」

 真司が桜花にフォローを入れつつ、左手の中指に指輪を嵌めて杖を軽くこする。ジャッ!! と短い金切り音が響く、そうすると淡い光が真司の手を覆い、真司はそれをキズナの首に手を当てて魔法で癒した。じんわりとした温かさに心地よさを感じながらキズナの首から違和感が消える。

「ありがとな真司、手際良いなお前……」

 真司の頭を乱暴に撫でてキズナが笑う。

「牡丹姉とか文香が良く僕をばんそうこう扱いするもんで……」
「わかる気がする」
「納得しないでよ!?」

 そんな二人を見て、桜花が眉を顰める。
 
「聞きたい事が加速度的に増えたわね……さ、どこか静かな場所に案内して頂戴」

 逃げる気は無いから、と両手をひらひらさせて弥生達を促した。桜花にしてみても争う理由は無い、それにさっき弥生が言ったエキドナの名前からして彼女の関係者だという事もわかる。
 義妹のカタリナが不安だが……脱いだり、奴隷メイドとか言いだしたり、変態奴隷メイドとか言いださないかとか。まあ大丈夫だろう、と無理やり納得する……事にした。

 そうして弥生達は移動する。
 闘技場から出てすぐ近くの自警団の事務所をお借りするために……







「うんうん、石造りで頑丈そのもので良い作りだわ……って。なんで私を牢屋に入れるのよっ!?」

 鉄格子を両手で握りしめながら桜花が叫ぶ。
 
「ええと、一応不審者なので?」
「疑問符浮かべないでくれる!? どこからどう見ても真っ当な人間じゃない!! あんた達その目は節穴なの!?」
「おにいちゃん、これがノリ突っ込みなの?」
「そうそう、文香は真似しなくていいからね」

 反対にまったりと鉄格子の前に組み立て式の机と椅子を持ち込んで、今はキズナが飲み物を取りに行っているところであった。

「まさか本当に普通に牢屋に入ってもらえると思わなかったです……」

 はい、こちらが静かに話ができる所です。と案内したら桜花、素直に入る。
 これには弥生ですらも控えめに言ってドン引きした。

「ドン引きしないでくれる!? 地味って言ったのそんなに気にしてるの!?」
「どちらかと言うとその胸に大変嫉妬しています。あざとい、と」
「真顔で何言ってるのかしら!? おとなしい顔してやる事かぁぁ!?」

 ご丁寧にがっちゃん、とかんぬきまでかけて閉じ込めました。
 えっへん、となぜか得意気な弥生さんである。

「桜花おねえちゃん、悪い人なの?」
「今この状況下でその質問? 悪い人と言うか魔王、とは呼ばれているけど……こんな扱い始めて、でもない。気がする」
「姉ちゃん、キズナ姉に縛り上げるためのロープ借りてくるね」
「かわいい顔して大概だな!?」
「ジェノサイド君いないし、お願い真司」
「文香カメさん縛りできるよ!!」
「牡丹さん罪状追加、と。文香、それは忘れて良い事だからね」
「む・し・す・る・なぁぁぁ!?」

 もはや半泣きで桜花が絶叫する。
 
「え、だって……静かな所でゆっくり話ができて私たち安全な所ですよ?」
「だからって牢屋に案内する奴いるかぁ!?」
「素直に入った人も入った人だと僕は思う」
「ここならおにーちゃんが魔法で燃やせるもんね!」
「理不尽だぁぁ!!」

 何やってんだこの人たち、と当直の衛視さんがあきれ顔で見つめている。
 何せ統括ギルドのお偉いさんが牢屋お借りしますね~、と女性を閉じ込めてコントを始めているのだから。

「うるせぇなぁ……盗聴対策も兼ねてんだからおとなしく……弥生、鍵までかけたのか?」

 木のトレーに人数分の果実水を乗せてキズナが戻ってきた。
 一瞥して牢屋の閂がされていることに気が付いて、弥生に視線を送る。

「ええと、万が一、億分の一で悪い人だったら困るなぁって」
「良い判断だぜ、これで当てやすくなったな」

 当然、銃の的としてである。

「無実なのにぃぃぃ!!」
「真司、魔法で音が漏れないようにできるか?」
「……ちょっと難しい、音は振動だから空気を遮断すればいいのかな?」

 真司がポケットから別の指輪を出して、さっきと同じように杖にこすらせようとした。
 その時、叫び疲れた桜花がポツリとつぶやく。

「ここでの会話が外に漏れなきゃいいんでしょ? 私がやるわよ……」

 いじけたように鉄格子の前で体育座りをして提案する。

「できんのか?」

 こくん、と桜花が頷くと自分の膝を叩いてしゃべる。

EIMSエイムス、電波と音を漏らさないように障壁展開。範囲指定、半径5メートル……くらいで良いか。そこの兵隊さん、離れてて」

 ぶわっと桜花のスカートの中から金属の帯があふれ出てきた。
 何事かと弥生達が驚くが、その薄い帯は弥生達の周りをレースのカーテンのように揺らめきながら漂う。

「これで良いわ、この膜が外に出る私たちの声をノイズキャンセルの要領で外に出さないようにできるから、普通に話していいわよ。盗聴器も電波が通れないから気にしなくていい」
「どうなってんだこれ……こんなにすかすかで大丈夫か?」

 キズナが指でカーテンをつつくとふにゃふにゃと曲がる。

「じゃあそのカーテンから出てみて」

 桜花の指示でカーテンの外に出たキズナが首を傾げる。どう見てもこれで音を阻めるとは思えないのだが。

「文香ちゃん、大きい声であの金髪に何か言ってみて」
「うん、きずなおねーちゃん!! 熊さんパンツ今日干しっぱなしだからね!!」

 大声でキズナに声をかける文香だが、キズナがキョトンとしている。
 本当に聞こえてないようだ。

「キズナ!! ごめん! キズナのチャーハンにこっそりピーマンのみじん切り入れたの私!!」
「キズナ姉!! 全裸でお風呂から出てこないで!!」

 ついでとばかりに弥生と真司も叫んでみるが、やはり彼女には届かない。

「ほらね?」

 得意気に笑ってからキズナを手招きで迎い入れると、キズナが感心した様に声をかける。

「すげぇな……本当に聞こえねぇ」
「じゃあ、これでやっとまともな話ができるわね……熊さんパンツのキズナちゃん」
「…………弥生、真司、文香。後で聞きたい事がある」

 形上とはいえ牢屋に入れられた桜花のささやかな仕返しに、後ほど大変なことになりそうな弥生達であった。

「「「む、無実だよ!!」」」
「有罪だ阿呆」

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