長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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合流するよ!!

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「何やってんだお前」
「たす……けてぇ」

 弥生は地面で足を攣って倒れていた……。
 事の経緯はと言うと、どこまでの行動ならディーヴァに邪魔されないのかな? と弥生さんが実験していたのだが……つま先だけでも牢獄の中ならば邪魔されないのではと身体をぴーんと伸ばした。
 たったそれだけで彼女の身体の限界が訪れる。

「……攣ったのか」
「痛いぃぃ……けど動けないぃぃ」

 ぴくぴくと痙攣する右足をさすりながら涙目で救助を求める弥生。
 幸いにも足の先は捕えられていた部屋の中にあるので門番のディーヴァは無機質な目でじーーーっ、とみているだけだ。

「無事でなによりだが状況は分かってるな?」
「まって……腰も」
「……魔女の一撃ぎっくり腰とかじゃねえよな? まさか」
「そのまさか……一度言ってみたかった」
「……大ボス、ボスが馬鹿だった場合はどうすればいい?」

 通路で真司と二人で警戒に当たっていたオルトリンデにキズナが困ったように声をかける。
 ほんの十メートルも離れていない距離なのでオルトリンデにもそのやり取りは聞こえており、真司が誰に言われるわけでもなく回復魔法の指輪を付け替えていた。

「真司が居て良かったと今この瞬間一番強く感じています」
「オル姉、電気ショックとか試していい?」
「良いんじゃないですか」

 警戒はそのままに、オルトリンデが適当な返事を返す。
 すでに数体のディーヴァに遭遇はしたが、何の問題も無くキズナがショットガンで身も蓋も無いヘッドショットで黙らせた。
 接敵の音もやたらと大きいので今のところそんなに差し迫っては無い状態だ。

「じゃあ姉ちゃん、行くよ?」

 ぱたぱたと珍妙な格好で硬直する姉に駆け寄り、魔法を用意する弟。
 
「行くよ? じゃあなくて!? あいたたあた!! 回復!! 回復魔法!!」
「え、嫌」

 安全な今だからこそ、真司は屈託のない笑顔で姉に嗤いかける。 

「うそでしょ!?」

 ほんの少しの動きや大声を上げただけで痛む腰と足の状態でも叫ばざるを得ない弥生に、真司は続けた。実はほんのちょっと怒ってたりもする。

「あ、分かった。絶対嫌」
「さらに強い表現に!! あんた姉が大変な目にあってるのよ!?」
「心配かけた件とあの置手紙の僕と文香の怒りの件で」

 そう、あんな思わせぶりな紙まで残していたので……

「あれならあんたたち以外には単なる遺書だと思わせられるでしょ!? 気遣い無罪!!」
「……単純にオル姉とかに頼んでおけばいいのに」
「……そこに気が付くとは天才か?」
「ぎるてぃ」

 最低まで威力を絞った電撃と最大限増幅した回復魔法を同時に発動させる真司。
 こんな器用な真似ができるのは現在真司だけである。

「あだだだだ!! ぎにゃあああああ!?」

 とても人様には聞かせられない事件性しかない悲鳴が轟くが、生憎耳を塞いだキズナとオルトリンデ、それから門番役のディーヴァぐらいしかいないので問題はなかった。(ないのか?)

「とりあえず反省してね? ジェノサイド酷い怪我してたよ……」
「うん、知ってる……で、クワイエットは?」

 多分ここにはもう居ないだろうなぁ、と思っての言葉だったがキズナが弥生に答える。

「ああ、あいつなら今気絶中だ。ショットガンで頭ぶち抜くつもりだったんだが……もしかしたらあのちょんぱ野郎居たろ? あいつが変装してたかもしれねぇんだ」

 ちなみに一緒にいた妹らしき女性は事態が良く呑み込めてないらしく、真司が創った土壁の個室に隠れてもらっていた。本人は魔法で顎を治した後、オルトリンデの魔法で寝ている。

「え? 私攫ったのクワイエット本人だったよ?」

 移送中の会話でも違和感など微塵もなく、しぐさなどはいつも見ているクワイエットだったはずだが。と弥生がチリチリ頭で思案する。

「俺もそう思ってるんだが……実際ちょんぱの変装、文香じゃねぇと見破れねぇんだわ」

 最初洞窟から出てきたときのアークはしぐさも声もそのまんまクワイエットそのものだった。
 初見で見破って問答無用砲でばちゅん! とした文香が居なければ一人は後ろからずぶっと刺されてたかもしれない。

「……そっか、じゃあスパイの可能性は低かったのかも。数か月も夜音ちゃんと糸子さんにお願いして罠張ってたのに」
「そんな事してたのかお前」
「え? 普通じゃない?」

 それはどちらかと言うとキズナやエキドナの領分だろう。
 当の本人であるキズナが頭に手を当てて弥生の思考力に舌を巻く、とは言え無警戒ではなかったことについてはキズナもありがたかった。結果は攫われてしまう事にはなったが。

「発想が秘密組織の粛清係そのものだろうが……まあ、お花畑の脳みそで動かれるよりは全然マシだ」
「私だったら誰か身近な人を脅して攫わせたり、暗殺しようと思うから」
「……で、単独で備えてたって訳か。夜音と糸子の人選の理由は?」

 これで妖怪だからとかいう理由だったら本気で困るキズナではあった。しかし、弥生は真剣な顔でキズナに理由を説明する。

「夜音ちゃんと糸子さんはそもそも脅されるバックボーンが無いのと……ジェノサイドで随時繋がってたから、どうにかしようと思えばいつでもできたのにやらなかった」
「なるほどな、確かにそれ以外じゃ全員均等にスパイの可能性有か。でも親玉が直接来た場合は失念してたろ?」
「うん……そういえばジェノサイドもクワイエットにやられるほど弱くないもんね。そっか、入れ替わりの可能性だったか……次はどうしようか」
「その前に脱出だ。いい加減動けるだろ?」

 寝ぐせ以上に変な髪形になった弥生の髪を手で梳きながら、キズナは弥生を立たせる。
 ちゃんと真司の魔法で腰も足も治った弥生はうなずきながら完全に監禁部屋から出てしまった。
 
「あ……」
「問題ねぇよ」

 左手一本で器用に銃身を回し、キズナが動こうとした門番ディーヴァの頭を照準し引き金を引く。
 右手でちゃんと弥生の左耳を塞いでやり、轟音から守った上でだ。

 ――ドパン!!

 反動で跳ね上がる銃身を巧みに操り、腕に伝わる衝撃を逃がすキズナ。
 その表情は相変わらず半眼ではあるが口角が上がって八重歯をのぞかせていた。

「ひゃあっ!!」
「真司、大ボスと俺の間で弥生を守りながら進むぞ。こっから先は……走れねぇんだったなうちのボスは」
「キズナ姉、背負ったら? 荷物として。僕が殿するよ」
「……そっちの方が早そうだな。おい、行くぞ荷物」
「雑ぅぅ!! 納得できるけど扱いが雑過ぎるよ!? でもキズナの髪の匂い好きだから従うっ!!」

 ……ぶれない、とはこういう事なのだろうとキズナがちょっとだけ気持ち悪いと思いつつも背負う為にしゃがむ。
 真司は慣れているのでスルーだ。この程度でいちいち気持ち悪がってたら弥生の弟は務まりません。
 オルトリンデは聞いた上で聞かなかった事にした。

「うふふ、えへへぇ……」
「お前背負うのはこれで最初の最後だ。真司、お前凄いな……」
「これが無ければいい姉、と年に一回くらいは言ってあげたいと年中思ってるよ」

 ここでキズナと弥生は一つのミスを犯した。
 部屋の中を確認しなかったのだ。そして、条件の二つ目を弥生は破ることになる。
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