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あんた誰だ???
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「ようこそケイン様、ベクタ様。今回は国内の案内と警護の責任者を務めさせていただきます。統括ギルド秘書部筆頭、日下部弥生と申します。長旅お疲れ様でした。本日はアルベルト陛下がご休憩の後、ご面会を申し出ておりますが……よろしかったでしょうか?」
優雅なカーテシーの後、流暢に自己紹介を済ませる淑女がそこにいた。
セミロングの髪の毛は丁寧に漉き、ハーフアップにしていて耳にはシンプルな砂地仕上げの銀のカフス。統括ギルドの制服である白のブラウスの上に重ねるような薄手の淡い桃色のカーディガン、柔らかく暖色系で揃えたのであろう、グラデーションの様に裾に向かって濃くなるピンクのフレアスカート。
全体的に目立たなくも化粧を施し、仄かな高木の匂いを纏う……まさに秘書官と呼べる格好の弥生(?)だ。
立ち振る舞いもいつものようにぽてぽてとおぼつかない足取りではなく、頭のてっぺんから一本棒を通したかのようにきびきびとした動作。視線は微かに下を向いて口角を僅かに上げて完璧な余所行きの笑顔である。
誰これ?
ケインとベクタのエルフの国一行が南門から入国した。
もちろん事前にバステト騎士団長は部下に先行させてVIP対応の準備もぬかりなく、南門の城壁内にある貴賓室で二人に休憩を取ってもらう。
ここまでは既定の流れで、護衛の騎士たちも数日間の緊張から解放されてケインとベクタへ別れの挨拶をしていた所だった。
「これは……ご丁寧に。南の大陸、エルフの国より来訪いたしました第三王子のケインです。5日間と言う短い間ですが有意義な時間を過ごせるものと期待させていただきます。わざわざ私のために時間を取っていただきアルベルト陛下には感謝を……そしてこの道中、護衛を務めてくださいましたバステト騎士団長並びに騎士の皆様のおかげで疲労もなく、アルベルト陛下のご都合で面会をさせていただければ幸いとお伝え願えますか? 弥生秘書官殿」
普段の弥生さんをこれっぽっちも知らないケイン王子は完璧な返しである。
ソファから立ち上がり、胸に手を当てて満面の笑顔で弥生と言葉を交わしていた。
ベクタもケインの半歩後ろに控え、弥生へ頭を下げ続けるという中で……問題は発生する。
「おい、誰だあれ」
「立てば貧血、座ればコケる、得意気な時は問題起こすがキャッチフレーズの秘書官どこ行った?」
「まさかまた誘拐されてんのか? 影武者にしては大根役者もいい所だ」
「まあ、普段通りに出てきたら貧相すぎて様にならないってクロウ宰相あたりが手配したんだろうな」
貴賓室の隅っこに集まってぼそぼそと話すウェイランドの有能な騎士さん達だ。
ケインとベクタに聞こえない様にひそひそと弥生さん(疑惑)のありえなさを共有している。
――ピキッ
と言っても護衛の責任者も兼ねている弥生には、あらかじめこの部屋に仕込んだマイクの音を片耳につけた銀のカフス……に見せかけた骨伝導イヤホンで筒抜けになっていて。
ほんの僅か、親しい人間が見てかろうじてわかる程度にこめかみから血管が浮き出ていた。
「どうなさいましたか? 弥生秘書官殿」
そんな弥生を見て、ケインが首をかしげる。
ベクタもなぜウェイランドの騎士たちが部屋の隅っこで密談を始めたのか分からなくて困惑している気配がビンビンしていた。
豪奢なカーペット、手入れの行き届いた革のソファ、精密な細工が施された装飾窓よりも……目立っていた。悪い意味で。
「何のことですか?」
一切動ぜず、弥生は笑顔でケインに低い地声で返答した。してしまった。
「へ?」
「あ! いえ! の、のどに! 緊張で喉が渇いてしまいまして!! すぐ紅茶のお代わりをお持ちいたしますね。バステト騎士団長、陛下に任務のご報告を」
一瞬だけ、目をかっと見開いた弥生さんと目が合って瞳をぱちくりさせるケイン君。
瞬きの後には清楚な弥生さんに戻ってしまっていたので、見間違いかと目をこする。
「ひゃ! はい! 弥生秘書官殿!! すぐに向かう所存でありまする!?」
扉のすぐそばで直立不動のバステトの様子も何かおかしい、ベクタの知る限り柔和で誠実な人柄のバステトのあんな様子はただ事ではないと首をかしげた。
「では、こんちく……護衛の皆様も任務ご苦労様でした。どうぞ、軽食とお飲み物をご用意いたしますのでごゆっくり、ご堪能下さいませ」
そして、なぜか弥生が一音一音区切るような言葉使いで部屋の隅っこに固まっていた騎士たちに話しかけるのもなんか異様な雰囲気で……聞いてはいけない!! とケインとベクタの背中を蹴りつけてくる。
…………今、こんちくしょうとか言いかけなかっただろうか? この秘書官。
騎士たちも一瞬、びっくん! と引き付けの様に身体を震わせながらケインたちの隣を通り過ぎ貴賓室から出ていく。空も比較にならないほど真っ青な顔色で。
「あの、今一体何と?」
流石に不審に思ったケインが弥生に聞き直しちゃうのだが、弥生からの返答は笑顔だけだった。
にこにこにこにこと、ただただ笑みを向けられて口元が引きつるような愛想笑いを返すケイン。
「あ、そうですわ。お口に合いますかわかりませんが……美味しい焼き菓子を作らせていただきました。妹も、今回ケイン様とお見合いさせていただきます文香もお気に入りなんですよ」
「え? それは是非いただきたいです!」
上手い事、文香の話題を持ち出されてケインの意識が逸れたのを見計らい。弥生は言葉通り貼り付けたような笑顔で貴賓室から出ていく。
それを見送って、ベクタとケインは曖昧な心持で顔を見合わせた後。ソファに再び身を沈める。
「な、なんか不思議なものを見た気がするね?」
「え、ええ……何でしょうか。気のせいのような気づいちゃいけないような……」
違和感は膨れ上がる。
そんな二人の耳に、甲高い声の少女が高笑いと連続的な破裂音で奏でる戦慄する旋律が届いて来たり……
――誰の胸が貧相ですってぇ!?
――いえ!? 胸がなんて自分一言も言ってないんですがっ!?
――ジェノサイド! 君に決めた!
――!? ぎゃあああああああああ! 齧るな!! 糸で巻くな!? たすっ! 助けてくれぇ!!
「……ちょっと、扉を開けてみたくなら……ない? ベクタ」
「自分は、わざわざこの国にお墓を建てたくはありません」
前途多難なお見合い観光がこうして幕を上げるのだった。
優雅なカーテシーの後、流暢に自己紹介を済ませる淑女がそこにいた。
セミロングの髪の毛は丁寧に漉き、ハーフアップにしていて耳にはシンプルな砂地仕上げの銀のカフス。統括ギルドの制服である白のブラウスの上に重ねるような薄手の淡い桃色のカーディガン、柔らかく暖色系で揃えたのであろう、グラデーションの様に裾に向かって濃くなるピンクのフレアスカート。
全体的に目立たなくも化粧を施し、仄かな高木の匂いを纏う……まさに秘書官と呼べる格好の弥生(?)だ。
立ち振る舞いもいつものようにぽてぽてとおぼつかない足取りではなく、頭のてっぺんから一本棒を通したかのようにきびきびとした動作。視線は微かに下を向いて口角を僅かに上げて完璧な余所行きの笑顔である。
誰これ?
ケインとベクタのエルフの国一行が南門から入国した。
もちろん事前にバステト騎士団長は部下に先行させてVIP対応の準備もぬかりなく、南門の城壁内にある貴賓室で二人に休憩を取ってもらう。
ここまでは既定の流れで、護衛の騎士たちも数日間の緊張から解放されてケインとベクタへ別れの挨拶をしていた所だった。
「これは……ご丁寧に。南の大陸、エルフの国より来訪いたしました第三王子のケインです。5日間と言う短い間ですが有意義な時間を過ごせるものと期待させていただきます。わざわざ私のために時間を取っていただきアルベルト陛下には感謝を……そしてこの道中、護衛を務めてくださいましたバステト騎士団長並びに騎士の皆様のおかげで疲労もなく、アルベルト陛下のご都合で面会をさせていただければ幸いとお伝え願えますか? 弥生秘書官殿」
普段の弥生さんをこれっぽっちも知らないケイン王子は完璧な返しである。
ソファから立ち上がり、胸に手を当てて満面の笑顔で弥生と言葉を交わしていた。
ベクタもケインの半歩後ろに控え、弥生へ頭を下げ続けるという中で……問題は発生する。
「おい、誰だあれ」
「立てば貧血、座ればコケる、得意気な時は問題起こすがキャッチフレーズの秘書官どこ行った?」
「まさかまた誘拐されてんのか? 影武者にしては大根役者もいい所だ」
「まあ、普段通りに出てきたら貧相すぎて様にならないってクロウ宰相あたりが手配したんだろうな」
貴賓室の隅っこに集まってぼそぼそと話すウェイランドの有能な騎士さん達だ。
ケインとベクタに聞こえない様にひそひそと弥生さん(疑惑)のありえなさを共有している。
――ピキッ
と言っても護衛の責任者も兼ねている弥生には、あらかじめこの部屋に仕込んだマイクの音を片耳につけた銀のカフス……に見せかけた骨伝導イヤホンで筒抜けになっていて。
ほんの僅か、親しい人間が見てかろうじてわかる程度にこめかみから血管が浮き出ていた。
「どうなさいましたか? 弥生秘書官殿」
そんな弥生を見て、ケインが首をかしげる。
ベクタもなぜウェイランドの騎士たちが部屋の隅っこで密談を始めたのか分からなくて困惑している気配がビンビンしていた。
豪奢なカーペット、手入れの行き届いた革のソファ、精密な細工が施された装飾窓よりも……目立っていた。悪い意味で。
「何のことですか?」
一切動ぜず、弥生は笑顔でケインに低い地声で返答した。してしまった。
「へ?」
「あ! いえ! の、のどに! 緊張で喉が渇いてしまいまして!! すぐ紅茶のお代わりをお持ちいたしますね。バステト騎士団長、陛下に任務のご報告を」
一瞬だけ、目をかっと見開いた弥生さんと目が合って瞳をぱちくりさせるケイン君。
瞬きの後には清楚な弥生さんに戻ってしまっていたので、見間違いかと目をこする。
「ひゃ! はい! 弥生秘書官殿!! すぐに向かう所存でありまする!?」
扉のすぐそばで直立不動のバステトの様子も何かおかしい、ベクタの知る限り柔和で誠実な人柄のバステトのあんな様子はただ事ではないと首をかしげた。
「では、こんちく……護衛の皆様も任務ご苦労様でした。どうぞ、軽食とお飲み物をご用意いたしますのでごゆっくり、ご堪能下さいませ」
そして、なぜか弥生が一音一音区切るような言葉使いで部屋の隅っこに固まっていた騎士たちに話しかけるのもなんか異様な雰囲気で……聞いてはいけない!! とケインとベクタの背中を蹴りつけてくる。
…………今、こんちくしょうとか言いかけなかっただろうか? この秘書官。
騎士たちも一瞬、びっくん! と引き付けの様に身体を震わせながらケインたちの隣を通り過ぎ貴賓室から出ていく。空も比較にならないほど真っ青な顔色で。
「あの、今一体何と?」
流石に不審に思ったケインが弥生に聞き直しちゃうのだが、弥生からの返答は笑顔だけだった。
にこにこにこにこと、ただただ笑みを向けられて口元が引きつるような愛想笑いを返すケイン。
「あ、そうですわ。お口に合いますかわかりませんが……美味しい焼き菓子を作らせていただきました。妹も、今回ケイン様とお見合いさせていただきます文香もお気に入りなんですよ」
「え? それは是非いただきたいです!」
上手い事、文香の話題を持ち出されてケインの意識が逸れたのを見計らい。弥生は言葉通り貼り付けたような笑顔で貴賓室から出ていく。
それを見送って、ベクタとケインは曖昧な心持で顔を見合わせた後。ソファに再び身を沈める。
「な、なんか不思議なものを見た気がするね?」
「え、ええ……何でしょうか。気のせいのような気づいちゃいけないような……」
違和感は膨れ上がる。
そんな二人の耳に、甲高い声の少女が高笑いと連続的な破裂音で奏でる戦慄する旋律が届いて来たり……
――誰の胸が貧相ですってぇ!?
――いえ!? 胸がなんて自分一言も言ってないんですがっ!?
――ジェノサイド! 君に決めた!
――!? ぎゃあああああああああ! 齧るな!! 糸で巻くな!? たすっ! 助けてくれぇ!!
「……ちょっと、扉を開けてみたくなら……ない? ベクタ」
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