長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ウェイランド統括ギルド秘書部

「これは統括ギルドの中庭か?」

 木製のトロッコに満載されたディーヴァの残骸、それをのぞき込んで建築ギルドのドワーフは隣に立つエルフの女性に問いかける。

「ですね……お願いします」

 こげ茶のワンピースとベストと言う不人気な制服を着た元受付嬢のニーナは手元のノートに『精密部品、中庭行』と書き込んでドワーフに搬送をお願いした。
 
「わかった、珍しいな? 統括ギルドの制服なんて……」
「今回は助かりましたよ。汚れても全然気にならないんで」

 あまりにも不人気なその制服は半ば死蔵されているケースが多く、オルトリンデも私服で業務にあたるのを黙認するほど。
 こんな時でもなければ日の目を見る事が無いので周辺には結構同じ服装のギルド員が多い。

「ま、そうだな……じゃあまた来る」

 そう言ってドワーフはがたんごとんとトロッコを押しながら統括ギルドへ向かう。
 何とか掃除された北道路では同じようにトロッコを押す職人やギルド員が列を作っており、瓦礫を運ぶもの、ドワーフの様にディーヴァの残骸を運ぶもの、壊れた盾や装備品を運ぶものでごったがえしていた。

「はーい。あ、多分中庭にレンさんがいると思うので北門の辺りに来てもらえると助かると伝えてください」
「おう、分かった」

 ニーナが笑顔で頼むとドワーフも親指を立てて元気に請け負う。
 そんなニーナの周りの職員も、荷運びに精を出す職人も……みんな笑顔だった。

「もう三日かぁ……いつ終わるのかしらこの撤去作業……」

 とは言え単調な作業で飽きが来ているのは事実。
 そろそろ壊れた建物などを直したい。
 そんな愚痴をこぼすニーナの背後から、上司の声がかかる。

「一週間以内に終わらせますよ。ノルトの民も平原の掃除が半分終わったそうです」

 薄紅色の髪、藍色の瞳で高級そうなスーツ。
 統括ギルドのトップであるオルトリンデだった。

 ニーナと同じように搬送品のリストを小脇に抱えて微笑んでいる。

「後4日でですかぁ……気が遠くなりますね」

 正直統括ギルドの中庭には小山ほどの高さに積みあがっていて……飛竜の宿舎に入れないほどになっていた。
 仕方なくノルトの民の皆さんの家に泊めてもらっているという状況……。

「もうそこで回収を打ち切りますよ……多分午後には桜花からこの部品だけ集めて、と通達が来るんじゃないかと思います」
「よかったですぅ……もういい加減リスト作るのが大変で……」
「それは確かに。桜花も良くやりますね……」

 ぶっちゃけ捨てて燃やすつもりだったのだが、桜花がもったいない!! と主張をするので皆にお手伝いをしてもらっていたりする。
 
「秘書部はどうしてます?」
「文香とレンで今初等部の引率をしてもらってます」

 ちなみに国民は丸一日かけて国に戻ってきており、昨日あたりから被害が無い南区画と東区画が通常運転に戻れた。
 そのためギルドの学校に通っている生徒は授業があるのだが、見ての通りオルトリンデ達は国内の整備に手を取られて教鞭が取れない。
 
「文香ちゃんとレンさんなら安心ですね」
「秘書部で対応できるのがあの二人だけですからねぇ……真司も魔法士ギルドの施設チェック中ですし。他のメンツでは……余計な事をしそうなので北門の外を片付けといてもらってます」
「あー」

 確かに、戦闘となれば一騎当千のメンバーだが何かと振り切れてる人たちなので力仕事に回ることが多いのは仕方なかった。

「むしろ蜘蛛の方が働き者ですね」
「なんかピカピカしてますけどね……数日見なかったうちに」

 周りを見渡すと住宅や建物の屋根から屋根へ蜘蛛たちが独自の通過ルートを作っていて、わっしゃわっしゃとゴミやがれきを中心に糸でくくって搬送している。
 ほとんどの蜘蛛が磨き上げられた表皮に代わっていて、何人かの職人が興味本位で触らせてもらうと恐ろしく硬い金属だと判明していた。

「落ち着いたら蜘蛛騎士団が設立されるかもしれませんね……近衛騎士団解体して」
「うちの国、どこに向かってるんですか?」
「い、今までと変わらない唯一の鍛冶国家……ですよ?」

 微妙に周辺各国のパワーバランスを崩しつつあるウェイランド。
 すべてが落ち着いた後の事を思うとオルトリンデのこめかみに鈍痛がはしる。

「まあ、それをしのぐ最大戦力の秘書部が一番平和的なんですけどね……」
「確かにあの子たちが嬉々として戦争起こしそうには見えませんからねぇ」
「そういえば、洞爺さんと奥様のギルド申請来てますよ。工芸ギルドに所属するみたいです」
「キズナ一家は商工会ギルドに申請出してカフェを開くそうです……」

 早くも家族会議で今後の方針を決めた神楽家とキズナ家はさっさと申請を出してきた。
 ぶっちゃけそれどころではないので申請は止まってるが、それ自体は何の問題も無い。

「カフェ???」
「まあ、軽食屋みたいなものと聞いてます」

 ウェイランドで手軽で一般的なのは屋台だが、お店にして飲食をするとなると本格的な物が多い。
 一体どういうものか気にはなっていた。

「弥生ちゃんならわかるんじゃないですか?」

 何気なくニーナはオルトリンデに尋ねる。

「ですね……戻ってきたら聞いてみますか」

 ノートを額にかざして、オルトリンデは空を見上げた。
 まだまだ終わらない後片付けに参加していない責任者がどこにいるかを想像して。

「早く戻ってこないと祝賀会、主催者抜きで始めちゃいますよ?」

 澄み切った空は何処までも蒼かった。



 ◆◇―――◆◇―――◆◇―――◆◇



「お前……腑抜けるにもほどがあるだろうが……」

 憮然とした顔でキズナが口元をひくつかせる……その目の前には真っ黒こげになった鍋が一つ。
 鼻を突く匂いとは裏腹に気持ちのいいほどの晴天もキズナの怒りを収められない。
 腕組をして土下座中の悪友を見下ろす。

「ご、ごめんなさぃぃ!!」

 金色の髪を逆立たせるほどに目じりを吊り上げる理由、それは……

 ――ぐぅ

 可愛らしいおなかの音。

「保存食が味気ないって言うから捕まえたのに……これじゃ食えねぇよ」
「ついうっかりしてて……」

 ここ二日、保存食とパンをかじる食生活に不満を持った監理官補佐が護衛官におねだりして猪を狩ってもらった。
 そこまでは順調だったのだが……

「日差しがあったかくて居眠りとか……お前も一緒に寝てんじゃねぇよ」

 弥生の隣で同じように地面に伏せる一匹の蜘蛛も、びっくん! と跳ね上がる。

「まったく……仕方ねぇな。ファング、カーゴの2番開けろ……」

 少し離れた所に駐車している青い装甲を持つ軍用バイクがぺかぺかとライトを点滅させた。
 すっかりキズナの足として周囲の認知を得たファングはゆっくりとキズナの方へ自走してくる。 
 そのまま後部の格納部をぱかんと開く。

「糸子と雪菜に感謝しろよ?」

 そこにはほんのりと霜が降りた小鍋が一つ収められていた。

「ふおっ! それ何!?」

 きらっきらの瞳でその鍋をのぞき込む弥生。
 正座からあっという間に駆け寄ってきた。

「楓の姉貴が作ったコーンクリームシチュー」
「なんで隠してたの!? 早く食べようよ!!」
「ベルトリアのパンと合わせて食いたかったんだよ俺は!!」
「キズナばっかり酷い!! 私も頼めばよかった!!」
「お前昨日こっそりクッキーをジェノサイドと食ってただろうが!! 俺の分残せよ!!」

 ぎゃあぎゃあと取っ組み合いになりながら醜い喧嘩を始める。
 その光景をおなかをすかせたジェノサイドが早く終わんないかな……と眺めていた。

「まったく、こんなのんびりしてたら祝賀会に遅刻すんぞ?」
「帰りは急ごうか……」

 二人でハアハア、と肩で息をしながら真っ黒こげになった鍋を放り捨てて新しい鍋をかまどにかける。
 そんなに時間をかける事も無く、ほんのりと甘い香りが周囲に漂い始めた。
 今度は焦がさない様に二人ともじーっとお鍋を見つめながら並んで座る。

「ベルトリアでは一泊するのか?」
「今回ハブにされたクワイエットが泣いてるらしいから一泊だけして説明しておこうかな、と」
「……ハブって、そのくだり必要か?」

 さすがにジェノサイドもクワイエットが可哀そうになった。
 
「とりあえず臨時三カ国会議の案内が終わればクワイエットは後でもいいかな」
「あいつ、本当に不憫な……」

 もう完全にネタにされてしまっているクワイエット。
 まあ、今回当事者じゃないしとキズナも半分諦めていたりする。

「ミルテアリアはついたかな?」
「アルマジロで向かったんならもう着いてるだろ……もしかしたら帰り道になってるかもな」
「えええ!? そんなに早いのあっち」
「そりゃ130キロ以上出るからな……」
「ジェノサイド!! 巨大化して!!」

 弥生のお願いにジェノサイドは申し訳なさそうに首を振った。
 もうあの時のような力は残されてなく、いつも通りの蜘蛛に戻っている。

「しかたねぇな……食ったらお前小さくなって弥生の髪の毛の中に潜ってろ。ファングでかっ飛ばす」

 ことことと湯気が立ちはじめた鍋に、お玉をつっこんでかき混ぜながらキズナが溜息をついた。

「やった!」
「全く……世話が焼けるぜうちのボスは……」
「キズナ」
「あん?」
「ありがとう!」
「……さっさと食うぞ。こうなったら親父より早く戻ってやる」

 ほんの少しほほを赤らめたキズナが誤魔化すように空を見上げる。
 雲一つない空は……たった一つの黒い点を除いて綺麗な青空だった。
 
「あん?」

 その黒い点はどんどん大きくなり、なんだか……がきょんがきょんと機械音が鳴り響いてくる。

「なにあれ」

 弥生もぽかんと空を見上げてその黒い点に目を凝らした。
 なんだかジェノサイドみたいに……と言うか蜘蛛みたいな足が6本、とりわけ大きいハサミのついたような手が2本……生えている。

「……ジェノサイド、今すぐ弥生の髪に潜ってろ。弥生、昼飯は残念だが……放棄だ!! やべぇ!! あれ、姉貴が今度こそぶっ壊したんじゃねぇのかよ!?」

 ひゅるるると落下してくるそれは……エキドナが倒した『はず』の自己進化型多脚戦車。
 しぶとく再生して追って来ていたらしい。

 小鍋の中身は惜しいが、命はもっと惜しい。
 キズナがファングにまたがり一気にスロットをふかす。

「乗れ!! ずらかるぞ!!」
「うん!」 

 ひらりとバイクの後部座席に飛び乗りキズナのお腹を両手で抱える弥生。
 密着してないと曲がる時の体重移動がやりにくいとキズナから散々言われてきていた。

「全く、落ち着く暇がねぇよ!!」

 クラッチを繋ぎ、ファングの後輪が土を蹴りだして一気に加速する。
 そのほんの少し後、入れ替わる様に着地した5メートルほどの機械の蜘蛛が地響きを立ててキズナたちを追い始めた。

「キズナ! 銃は!?」
「ファング! 二番!」

 ――カシャコン!

 弥生の右足を乗せている装甲が少しずれ、ショットガンのストックがせり出す。

「ジェノサイド! 私とキズナを糸で!!」

 一気に流れゆく風景に比例して押し付ける風の圧に耐えて、ジェノサイドが手際よく糸で二人を縛った。
 それを確認して弥生は銃の安全装置を解除して、流れるようにポンプアクションを実行。
 薬室に弾丸を装填した。

「良く狙え! スラッグ弾だ」
「うい!」

 ストックに右頬を乗せて、肩に当てるように支え……

「……どこ狙ったらいい?」

 なんかもうでたらめに部品を組み合わせたら出来ましたというようないびつな蜘蛛に、弥生が狙い先を迷う。

「どこでもいい! とにかく当て続けろ!!」

 なるべく荒れてない道を選んで操縦するキズナが叫ぶ、左右に車体を振り続けているが本格的に照準を合わせられたら何を撃ってくるかわからない。
 とにかくこちらから攻撃するのが肝心なのだ。

「分かった!!」

 とりあえずど真ん中に、と弥生が狙い。
 引き金を引くが……

 ――カキン

 ……
 …………
 ………………

 弾は出なかった。

「……おい、早く撃て!」
「撃ったけど、弾が出ない」
「…………お前弾詰まりとか今かよ!?」

 よりによって弾詰まりを起こした銃を涙目の弥生がポイ、と捨てる。
 
「さあ、レースの始まり!!」
「誤魔化すんじゃねぇよ!? あ、捨てやがったな俺のショットガン!! あれ貴重なんだぞ!?」
 
 ぎゃあぎゃあと、いつまでも、二人はそれでも。
 楽しそうだった。

「秘書部の予算で新しいの作るから!!」
「お前自分の所属部署名で武器の領収書通ると思ってんのかよ!?」
「通るよ。だって……」
「だって?」
「ウェイランドの統括ギルド秘書部だもん!」

 呆れた声でキズナは呻くが……確かに今更だ。
 仕方なくスロットルレバーを回し、一気に速度を上げる。

「逃げ切ってから考えろ! 飛ばすぜ!!」
「よろしくっ!」

 ぱぁん! とマフラーからバックファイヤを飛ばして加速するファング。
 その甲斐あってか……無事にウェイランドの祝賀会に間に合ったのかは……別の話である。
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