長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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あふたーあふたー

閑話:洞爺の刀 前編 ~ 本物ってやつぁ…… ~

 家族水入らずで過ごせばいいのにベルトリア共和国へ弾丸遠征に向かった次の日の事である。
 間宮家は火薬庫と化した。

「どうするよこれ……間違って信管起動したら国が吹っ飛ぶわよこんな量……」
「これだけあれば大分魔物大発生の時、楽でしたね」

 缶ケースに入ったショットガンの弾、散弾型設置地雷、増薬弾にダイナマイトは家の外のコンテナにぎっしり……はっきり言って戦争をするつもりだったとしても多すぎる。
 足の踏み場も無い位に敷き詰められた弾薬の上でいつも通りの白衣と眼鏡姿の桜花はため息をついた。

「今となってはちゃんとした保管庫が無いんだから迷惑でしかないわよ……弥生ちゃんにはちゃんと保管庫作ってくださいって怒られるし」
「確かに……一時置きはともかく除湿やリロード作業ができる場所も作らないといけませんね」

 ただ作っただけではいずれ錆びたり内臓電池が駄目になるケースも多い、ちゃんとした整備場も兼ねた保管場所は急務だった。

「とりあえず、オルトリンデに確認したら北区の地下は何も無いってわかってるから……地道に掘るかぁ」
「レヴィヤタンもいますし、採掘道具さえあれば何とかなるかと」
「お母様もいるし……掘るのは良いけど吸湿材とか作る方が大変よ……ガルーダだって6機もあるでしょ?」
「7です、私の分も持ってきてくれたみたいで……」
「大分広く作らないといけないし、発着カタパルトも必要かぁ……いっそ研究室作るか? 面倒くさくなってきた」

 ただでさえ王城の迎賓館を両親とカタリナの同僚であるレヴィヤタンが占領しているのだ、いっその事住居もそちらに変えるかと本気で検討している時だった。

「すまぬ、玄関が開けっぱなしなのだが……誰かおらぬか?」

 玄関の方から洞爺の声が届く。
 
「開いてるからどうぞー、地雷踏まない様にね」
「申し訳ありません、洞爺様……さすがにここではお茶の一つも出せなくて」

 気安い仲間の来訪ではあるが、こんな家ではおもてなしどころではない。
 カタリナも火薬のそばで火は使いたくなかった。

「構わぬ、では邪魔するぞ……ずいぶんと物騒な模様替えじゃな……」

 おそるおそる足を進める洞爺に桜花とカタリナは苦笑する。
 
「全部安全装置をつけているから踏んだくらいじゃ爆発しないわよ。今日はどうしたの?」
「左様か……実はな、お主に折り入って頼みがあってな……刀の修繕は可能か?」
「刀? ああ、研ぐぐらいだったらできるけど……折れたんだっけ?」
「うむ、さすがに無理をさせ過ぎてな……実戦には着き合わせられなくとも姿見だけは整えてやりたいのじゃ」

 アーク戦で妻と自分の刀と引き換えに戦況を維持した洞爺は戦友とも呼べる刀を何とかしたかった。
 そんな洞爺の気持ちは桜花よりカタリナの方が共感できて、期待を込めた眼差しを義姉に送る。

「うーん……確かにそれくらいなら可能だけど。鍛冶師の連中には聞いたの?」
「聞いては見たが……難しいと匙を投げられた」
「特殊な製法ですからね……私の刀も結局は御姉様に単一素材で作っていただいてますし……打ち直しですか……」

 桜花も何とかしてやりたいのは山々ではある、見た目だけ繕っても……そう考えて桜花は提案したが、すでに断られた後らしかった。
 洞爺もダメ元で聞きに来ているので肩を落としてはいるが、出来ないものはしょうがない。
 そう割り切っているようだ。

「……そういえば、弥生様のご両親と一緒にいた眼鏡の男性も洞爺様と同じ刀をお持ちでしたね」

 ふと、カタリナが由利崎灰斗の事を思い出す。
 確か腰に刀を差していた。

「む、そういえば……不死族のドワーフと一緒に北区の職人街に向かっていたな」

 復旧と後片付けでバタバタしていて声も掛けられなかったが、確かに日本人の男性が居たなと洞爺も記憶を掘り起こす。
 
「何かいい話が聞けるかもしれぬな。一度そちらを当たる事にしよう……邪魔をしてすまなかった」
「良いのよ、どうせこの弾薬の山をどうするかで頭抱えてただけだしね。洞爺は銃を使える?」
「銃か……イノシシ狩りに猟友会に居たからの、散弾銃くらいは撃てる。あるのか?」

 害獣狩りに使えるのであれば刀よりよほど楽だし、楽しい思い出ではないが戦争時に銃の扱いは学んでいた。
 
「あるある……今度まとめておくから見に来て。私とカタリナ、キズナ達だけじゃ使いきれないほど入荷したから……」

 あくまでも個人持ちにしておかないと各国のパワーバランスが、とオルトリンデが騒ぐのは明白なので使える人に分けるしかない。

「分かった、後日伺う事にする。ではな」

 くるりと踵を返し、洞爺は桜花とカタリナの家を出ていく。
 
「そういえば……」
「なに?」

 洞爺の背を見送ったカタリナが思いついたかのようにつぶやいた。

「いえ、余計かと思いましたが……その方の刀。なんかこう……禍々しいというか、そんな雰囲気が」
「禍々しいって……妖刀でも持ち歩いてんのそいつ。気のせいじゃないの?」
「そう、ですね……気のせいでしょう」


 ◇◆―――◇◆―――◇◆―――◇◆



「刀を直してほしい?」


 ――北門お片付け会場


 由利崎灰斗はおにぎりを頬張りながら洞爺に確認する。
 北区の壊れた城門の片づけの手伝いをしているところに洞爺は彼を訪ねたのだ。

「うむ、あの時は色々立て込んでおってな。もしよければ刀の修繕に詳しい物を知らぬか?」
「なるほど……確かに知ってはいますが、アレを修繕と言っていいのかは……」
「何か問題でもあるのか?」
「ええ、まあ。見ていただいた方が早いので……明日は僕、お休みいただいてますからその時でもいいですか?」
「助かるのじゃ……では、そうじゃなぁ……あの建物が見えるかの?」

 風通しの良い北道路をまっすぐ振り返り、王城の隣に立つ塔……統括ギルドを洞爺は指で指す。
 
「統括ギルドですよね。大丈夫ですよ」
「ありがたい、受付に話を通しておくので何時でも良い。一日警護中なのでな」
「分かりました、よろしくお願いしますね洞爺さん」
「いや、頼んでおるのはこちらの方じゃ。昼飯時に押しかけてしまい申し訳なかった」
「気にしないでください。結構日当が良いので」

 そう言って灰斗は微笑む。
 なんだかんだと肉体労働だけあって日雇いでも結構な金額が手に入る。

「そうか、同郷のよしみだ。落ち着いたら今後の相談にも乗ろう」
「それ、地味に助かります……レティシアさんも幸太郎も夜ノ華もボルドックさんもみーんな知り合いか家族がいるのに、僕だけ一人身なので」
「左様か……まあどうせ片づけが終わればまた家を建てたりする時期が来る。安く立てられると思うがの」
「その時は僕からお願いさせてもらいますよ。では、また明日」

 残りのおにぎりを口の中に放り込んで灰斗は腰を上げた。
 周りの職人や小遣い稼ぎ中の騎士も思い思いに昼食を片付けて、作業に戻ろうとしている。

「うむ、では明日な」

 のどかな作業風景を後にして、洞爺はのんびりと妻と息子の待つわが家へと帰る。
 アーク戦よりも困難な絶望的な戦いが主人公である弥生を抜きにして繰り広げられるとは、この時誰も想像だにしていなかった。
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