2 / 9
雨と制服とジャージ
2.雨の日のハプニング
しおりを挟む
教職員用駐車場から白いセダンが回ってきた。
教官室の裏手で速やかに助手席に乗り込む。
車内はいい香りがした。眼鏡を掛けた先生は初めて見るが、よく似合う。
日が暮れて、暗く濡れた道路にライトが反射しているのがきれいだ。
先生は眼鏡を掛けていて、「家はどこだ」と低い声で尋ねてくる。
「◯◯町です」
「結構遠いなあ」
「すみません……」
「いいよ。俺が送ってやるって言ったんだから」
先生がこんなに近くにいる……。
信じられない。
「……くしゅっ」
本当に冷えてきた。
ジャケット借りてるから、先生も寒いかもしれない。
「くそ……渋滞か」
運の悪いことに、一車線が工事中らしい。
エアコンをつけると車内は曇るし、この渋滞。
「くしゅっ」
もう一度くしゃみをした後、先生は左にウインカーを出し、車線変更して交差点を曲がった。
えっ。えっ……。
どこか近道を通るんだろうか。
私の家とは反対の方角へ向かっている気がするんだけど。
私は、日常から離れた状況に少しわくわくしながら、窓の外を見ていた。
少しすると、学校からほど近い高層マンションが見えた。
「先生……ここは?」
「俺の家だよ。体も随分冷えてるだろう。道もあの調子じゃいつ家に着くかもわからないから。……無理して風邪ひくより、家で温まってから帰せばいくらかマシだ」
ということは……先生の家で温まるってこと⁉︎
パニックに陥る私など気にも留めない様子で、先生はマンションの駐車場に車を止め、私の荷物を持った。
「全く。厄介事に巻き込まれたな」
「すみません……っくしゃん!」
「…………」
止まらないくしゃみ。心なしか悪寒がするような。
やば……。
ほんとに風邪ひいたかもしれない。
先生の家に行く……。
これこそ、誰かに見られたら、とんでもないことになるんじゃないかな。
先生の背中を見上げて、部屋までの廊下を縦に並んで歩いた。
先生の手で開けられたドア。
「入れ」
「は、はい」
おじゃま、します。
スニーカーがいくつも並ぶ玄関で、濡れた製靴を脱いだ。
リビングまで行くとタオルを渡された。スカートが濡れているせいでソファにも座れない。
「あいたっ」
片足でソックスを脱ごうとしていたら床に尻餅をつく。
先生は洗面所にいたおかげで何も聞かれてはいないようだ。
ほっとしながら、雨で濡れたハイソックスも指で下ろして、踵から外す。
スカートも……もう……びしょびしょだ。
先生のジャージは大きいし長いから、スカートを脱いでも大丈夫かもしれない。
白いショーツもぐっしょり濡れていて、先生が戻って来ないうちに脱いで、丸めておいた。
濡れた鞄から教科書を出す。水溜りに浸かった鞄の中身が気になっていたのだ。
ひどいものだった。
「あーあ、全滅……っくしゅ!」
くしゃみをした私の背後から、先生の声がした。
「おい。風呂で暖まれ」
先生はネクタイを緩めながら、バスルームを指差している。
「え、でも」
「ここまで来たら同じだろ。今から風邪ひく方が困らないか?推薦入試も近いんだろう」
「……知ってるんですか?私が推薦受けること……」
「まあ、……で、どうするんだ。風呂、入るのか入らないのか。風邪ひきたいのか、ひきたくないのか」
先生の眉間からは苛立ちも見え隠れしていて、慌てて立ち上がる。
「風邪ひきたくないですっ……あっ」
並べた教科書に躓いてどたりと倒れ込んだ。
「おい、大丈……」
先生の足元に、さっき丸めた白のショーツが情けなく転がる。
先生も私も……絶句。
「すみませんっ」
「……他にないのか、乾かすものは」
「すみませんっ、靴下と、スカートと……」
「いいから全部出せ」
……最低。
先生は、淡々と受け取って行ったけど……。
自分が情けなさ過ぎて嫌になる~っ!
とりあえず、言われたとおりにお風呂に入った方が良さそうだ。お湯も張ってくれているし、本当に推薦入試に風邪ひいちゃったら一大事だ。
「先生……お風呂。お借りします……」
観念して、温まらせてもらうことにした。
教官室の裏手で速やかに助手席に乗り込む。
車内はいい香りがした。眼鏡を掛けた先生は初めて見るが、よく似合う。
日が暮れて、暗く濡れた道路にライトが反射しているのがきれいだ。
先生は眼鏡を掛けていて、「家はどこだ」と低い声で尋ねてくる。
「◯◯町です」
「結構遠いなあ」
「すみません……」
「いいよ。俺が送ってやるって言ったんだから」
先生がこんなに近くにいる……。
信じられない。
「……くしゅっ」
本当に冷えてきた。
ジャケット借りてるから、先生も寒いかもしれない。
「くそ……渋滞か」
運の悪いことに、一車線が工事中らしい。
エアコンをつけると車内は曇るし、この渋滞。
「くしゅっ」
もう一度くしゃみをした後、先生は左にウインカーを出し、車線変更して交差点を曲がった。
えっ。えっ……。
どこか近道を通るんだろうか。
私の家とは反対の方角へ向かっている気がするんだけど。
私は、日常から離れた状況に少しわくわくしながら、窓の外を見ていた。
少しすると、学校からほど近い高層マンションが見えた。
「先生……ここは?」
「俺の家だよ。体も随分冷えてるだろう。道もあの調子じゃいつ家に着くかもわからないから。……無理して風邪ひくより、家で温まってから帰せばいくらかマシだ」
ということは……先生の家で温まるってこと⁉︎
パニックに陥る私など気にも留めない様子で、先生はマンションの駐車場に車を止め、私の荷物を持った。
「全く。厄介事に巻き込まれたな」
「すみません……っくしゃん!」
「…………」
止まらないくしゃみ。心なしか悪寒がするような。
やば……。
ほんとに風邪ひいたかもしれない。
先生の家に行く……。
これこそ、誰かに見られたら、とんでもないことになるんじゃないかな。
先生の背中を見上げて、部屋までの廊下を縦に並んで歩いた。
先生の手で開けられたドア。
「入れ」
「は、はい」
おじゃま、します。
スニーカーがいくつも並ぶ玄関で、濡れた製靴を脱いだ。
リビングまで行くとタオルを渡された。スカートが濡れているせいでソファにも座れない。
「あいたっ」
片足でソックスを脱ごうとしていたら床に尻餅をつく。
先生は洗面所にいたおかげで何も聞かれてはいないようだ。
ほっとしながら、雨で濡れたハイソックスも指で下ろして、踵から外す。
スカートも……もう……びしょびしょだ。
先生のジャージは大きいし長いから、スカートを脱いでも大丈夫かもしれない。
白いショーツもぐっしょり濡れていて、先生が戻って来ないうちに脱いで、丸めておいた。
濡れた鞄から教科書を出す。水溜りに浸かった鞄の中身が気になっていたのだ。
ひどいものだった。
「あーあ、全滅……っくしゅ!」
くしゃみをした私の背後から、先生の声がした。
「おい。風呂で暖まれ」
先生はネクタイを緩めながら、バスルームを指差している。
「え、でも」
「ここまで来たら同じだろ。今から風邪ひく方が困らないか?推薦入試も近いんだろう」
「……知ってるんですか?私が推薦受けること……」
「まあ、……で、どうするんだ。風呂、入るのか入らないのか。風邪ひきたいのか、ひきたくないのか」
先生の眉間からは苛立ちも見え隠れしていて、慌てて立ち上がる。
「風邪ひきたくないですっ……あっ」
並べた教科書に躓いてどたりと倒れ込んだ。
「おい、大丈……」
先生の足元に、さっき丸めた白のショーツが情けなく転がる。
先生も私も……絶句。
「すみませんっ」
「……他にないのか、乾かすものは」
「すみませんっ、靴下と、スカートと……」
「いいから全部出せ」
……最低。
先生は、淡々と受け取って行ったけど……。
自分が情けなさ過ぎて嫌になる~っ!
とりあえず、言われたとおりにお風呂に入った方が良さそうだ。お湯も張ってくれているし、本当に推薦入試に風邪ひいちゃったら一大事だ。
「先生……お風呂。お借りします……」
観念して、温まらせてもらうことにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
先生の秘密はワインレッド
伊咲 汐恩
恋愛
大学4年生のみのりは高校の同窓会に参加した。目的は、想いを寄せていた担任の久保田先生に会う為。当時はフラれてしまったが、恋心は未だにあの時のまま。だが、ふとしたきっかけで先生の想いを知ってしまい…。
教師と生徒のドラマチックラブストーリー。
執筆開始 2025/5/28
完結 2025/5/30
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる