雨と制服とジャージ

室生沙良

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雨と制服とジャージ

2.雨の日のハプニング

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教職員用駐車場から白いセダンが回ってきた。
教官室の裏手で速やかに助手席に乗り込む。
車内はいい香りがした。眼鏡を掛けた先生は初めて見るが、よく似合う。
日が暮れて、暗く濡れた道路にライトが反射しているのがきれいだ。

先生は眼鏡を掛けていて、「家はどこだ」と低い声で尋ねてくる。

「◯◯町です」
「結構遠いなあ」
「すみません……」
「いいよ。俺が送ってやるって言ったんだから」

先生がこんなに近くにいる……。
信じられない。

「……くしゅっ」

本当に冷えてきた。
ジャケット借りてるから、先生も寒いかもしれない。

「くそ……渋滞か」

運の悪いことに、一車線が工事中らしい。
エアコンをつけると車内は曇るし、この渋滞。

「くしゅっ」

もう一度くしゃみをした後、先生は左にウインカーを出し、車線変更して交差点を曲がった。



えっ。えっ……。
どこか近道を通るんだろうか。
私の家とは反対の方角へ向かっている気がするんだけど。


私は、日常から離れた状況に少しわくわくしながら、窓の外を見ていた。
少しすると、学校からほど近い高層マンションが見えた。

「先生……ここは?」
「俺の家だよ。体も随分冷えてるだろう。道もあの調子じゃいつ家に着くかもわからないから。……無理して風邪ひくより、家で温まってから帰せばいくらかマシだ」


ということは……先生の家で温まるってこと⁉︎

パニックに陥る私など気にも留めない様子で、先生はマンションの駐車場に車を止め、私の荷物を持った。

「全く。厄介事に巻き込まれたな」
「すみません……っくしゃん!」
「…………」

止まらないくしゃみ。心なしか悪寒がするような。

やば……。
ほんとに風邪ひいたかもしれない。



先生の家に行く……。

これこそ、誰かに見られたら、とんでもないことになるんじゃないかな。
先生の背中を見上げて、部屋までの廊下を縦に並んで歩いた。



先生の手で開けられたドア。

「入れ」
「は、はい」

おじゃま、します。
スニーカーがいくつも並ぶ玄関で、濡れた製靴を脱いだ。




リビングまで行くとタオルを渡された。スカートが濡れているせいでソファにも座れない。

「あいたっ」

片足でソックスを脱ごうとしていたら床に尻餅をつく。
先生は洗面所にいたおかげで何も聞かれてはいないようだ。
ほっとしながら、雨で濡れたハイソックスも指で下ろして、踵から外す。

スカートも……もう……びしょびしょだ。
先生のジャージは大きいし長いから、スカートを脱いでも大丈夫かもしれない。
白いショーツもぐっしょり濡れていて、先生が戻って来ないうちに脱いで、丸めておいた。

濡れた鞄から教科書を出す。水溜りに浸かった鞄の中身が気になっていたのだ。
ひどいものだった。

「あーあ、全滅……っくしゅ!」

くしゃみをした私の背後から、先生の声がした。

「おい。風呂で暖まれ」

先生はネクタイを緩めながら、バスルームを指差している。

「え、でも」
「ここまで来たら同じだろ。今から風邪ひく方が困らないか?推薦入試も近いんだろう」
「……知ってるんですか?私が推薦受けること……」
「まあ、……で、どうするんだ。風呂、入るのか入らないのか。風邪ひきたいのか、ひきたくないのか」

先生の眉間からは苛立ちも見え隠れしていて、慌てて立ち上がる。

「風邪ひきたくないですっ……あっ」

並べた教科書に躓いてどたりと倒れ込んだ。


「おい、大丈……」

先生の足元に、さっき丸めた白のショーツが情けなく転がる。

先生も私も……絶句。

「すみませんっ」
「……他にないのか、乾かすものは」
「すみませんっ、靴下と、スカートと……」
「いいから全部出せ」


……最低。


先生は、淡々と受け取って行ったけど……。
自分が情けなさ過ぎて嫌になる~っ!


とりあえず、言われたとおりにお風呂に入った方が良さそうだ。お湯も張ってくれているし、本当に推薦入試に風邪ひいちゃったら一大事だ。

「先生……お風呂。お借りします……」

観念して、温まらせてもらうことにした。
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