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1.ルクとベイク

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わたしはルク。
緑が美しいとある山で、おじいちゃんとヤギたちと楽しく過ごしています。
今日も搾りたてのおいしいミルクを飲んで、焚火で焼いて熱々のとろけたチーズをライ麦パンの上に乗せていただきます。

「おじいちゃん! 今日もすごくおいしかった、ごちそうさまでした!」

白い綿のネグリジェから制服に着替え、馬の毛で拵えたブラシで黒髪を軽く整え、昔、幼馴染にもらったヘアピンをつけます。このヘアピンには飴色の鼈甲飾りがついていて、日に透かすととてもきらきらして綺麗です。
革のリュックを背負って準備完了。
これから2時間かけて学校へ行きます。

「いってきまーす」
「気をつけてな。狼が出る頃までには帰ってきなさい」
「はあーい!」

お勉強はそんなに好きではありませんが、山のふもとの学校へと毎日通っています。
そんなに生徒数は多くはないものの、みんな仲良くて楽しいです。



2時間きっかり歩いて学校に着くと、この日はいつもと様子が違っていました。
わたしの席辺りに人だかりができています。

「おはよう、なんだかすごい騒ぎね。一体どうしたの?」

遠巻きにその人だかりを見ていたソフィとエリカに話しかけます。

「あっルク! おはよう! 侯爵家のご令息がいるのよ!」
「今日からこのクラスで学ぶんだって!」
「そうなのね」

リュックを置きたいけどどうやら無理のようなので、わたしは始業までソフィとエリカと待つことにしました。
すると、後ろから肩を叩かれます。

「何、この騒ぎ?」

クラスメイトであり、幼馴染のベイクが背後から話しかけてきました。ベイクはいつも遅刻ぎりぎりなのに今日は早いようです。
ベイクは琥珀色の瞳を瞬かせ、人だかりを見つめています。

「侯爵家のご令息がいるんだって」
「なんでこんな辺鄙な村に?」

眉を顰めるベイクにソフィが話しました。

「ご静養らしいわよ! 空気のいいところがよかったらしいわ」
「へー。ま、ここは何もないけど空気だけはいいからな」

ベイクはそう言うとスタスタと自分の席に行ってしまいました。

ぶっきらぼうだけど優しいところのあるベイク。
この私のヘアピンは、ベイクにもらったものです。
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