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かわいそうな私はこんな夜が欲しかった

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私は、かわいそうな人間だ。ずっと不幸な思いばかりしてきた。親切なんてされたこともなかったし、したこともなかった。
恋愛だってそうだ。いつも振られてばかりだった。誰からも愛されなかった。誰かを好きになると、誰かに先に取られていた。
でも今は違うんだ。
「あぁっ!あっ!待って!激しぃっ!やんっ!んっ!」
「かわいいよ」
「はぁんっ!だめぇっ!やらぁっ!●っちゃうぅっ!!」
「何度でも●ッていいんだよ?」
「あんっ!あぁっ!!またッ!!ああぁーっ!!!」
私は太ももを痙攣させて達した。
「気持ちよかった?」
「うん……とっても」
「それは良かった」
彼は、正確には私の彼氏じゃない。私に彼氏なんていない。彼は私のことを友達だと思っている女の恋人だ。
だが、もう私のものだ。彼女はきっと今頃泣いているだろうな。
そう思うと、少し胸がスカッとした気がする。
「ねぇ……」
「どうしたの?」
「キスしてくれないかな……?」
私がそう言うと、彼は微笑んで唇を重ねてくれた。
今まで、私に満足できる日なんてなかった。だから、こんな夜がずっと欲しかったのだ。
だからもう、私はこれからずっと幸せに生きていくのだ。
ちなみに彼の元カノの名前は、美月と言った。私は彼女が嫌いだった。馴れ馴れしいのも無理だし、私よりも可愛いのも気に食わない。そして、こんな優しい素敵な彼氏を私よりも先に見つけたことが許せない。だから、彼女に復讐するために私はこの計画を立てた。まずは、彼に近づき、信頼を得てから彼女を裏切らせるように仕向ける。
彼は優しいけど、どこか抜けている人だ。簡単に騙せた。
それから彼を堕とし、彼女から奪うことで、ようやく私は満たすことができた。
これでやっと、私は幸せな日々を手に入れることができるのだ。
美月は可愛いけど、色がない。無彩色の世界で生きているような奴なのだ。そんな世界にいるのなら、いっそ壊してしまいたいと思うほどだ。
私は、色がある。彼を誘惑することなんて簡単だった。私はもう、満たされてる。

「おはよう。」
朝になった。彼が私を起こしに来たようだ。
「おはよぉ~」
寝ぼけながら挨拶をする。まだ眠い。
「起きないと遅刻するぞ?」
彼は優しく頭を撫でてくれる。心地よい感触が頭に広がる。
「あと五分だけぇ~……」
「仕方ないなぁ……」
そう言いつつも、彼は微笑んでいる。こういうところも好きだ。
「じゃあ、早く準備しないとね。」
「うん……」
私は布団から出て、洗面所に向かった。顔を洗い、歯磨きをして、髪を整える。
鏡を見ると、そこにはいつも通りの自分が映っていた。昨日の夜のような淫乱さはない。ただの女子の顔だ。これが今の私の姿だ。
「今日もいい天気だな。」
朝食を食べ終えて、二人で家を出る。彼と付き合ってからは毎日が楽しい。
「そうだね。でも午後雨降るって」
「マジか……」
「傘持ってくればよかったかも……」
他愛もない会話をしながら歩くデートコースも悪くない。
「じゃあ俺こっちだから。また放課後に。」
「うん!ばいばーい!」
私たちは違う大学に行っている。
まぁいいだろう。一緒に住み始めたのだから。いずれは結婚するつもりでもある。
諸々のことは終わり、家に帰り、夕食の準備を始める。
今日のメニューは何にしようかな? やっぱり肉料理かな。彼も喜ぶし。
それに、今夜もできるし。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」
「もちろん君だよ。」
こんなセリフが自分から出てくると思わなかった。でも、今はすごく充実している。
短いスカートから出る私の生足が、彼の視線を釘付けにしている。
「んっ……」
キスをした。最初は軽く触れる程度に。次第に互いの味を確かめる。
「んっ……ちゅぱっ……ぷはっ……」
唇を離すと、キリリとした彼の顔がある。とても凛々しい。
「あっち行こう……?」
私が誘うと、彼は黙ったままコクリと首肯した。
「あんっ……んっ……そこ……だめぇ……」
胸部は敏感だ。その快感に身を震わせてしまう。だが、もっと欲しい。
「ここかい?」
「ひゃうっ!?やっ……あっ……っちゃ……!!」
ビクビクと痙攣させ、絶頂する。
「気持ちよかった?」
「うん……とっても……」
「それは良かった」
彼は微笑み、私の背中に手を回した…
ところで彼の電話が鳴った。
「ねぇもしもし?常君?どうしたの?」
その声は…美月だった。もうあなたの番は終わったのに。
しかし、思わぬことが起きた。
彼は、顔を火照らせてはぁはぁ言っている私から離れ、電話を取った。
噓だ。美月とは別れたはずだ。
何も言われていないのに、私は感じてしまった。
「うん……わかった。今行くよ。」
そう言って、彼は通話を切った。
嫌な予感がする。
「ごめん、美月が呼んでるから行かなきゃ……」
「待って!」
私は彼を引き留める。
「お願い、待ってぇ…」
「だ、大事な話なんだって!」
多分、この人、美月とまだ切れてない。そんな気がしてならなかった。
「い、行ってらっしゃい……」
私は、涙目になりながらも笑顔で送り出した。
その後、すぐに美月に電話をかけた。
『はい?』
美月の声は、不機嫌そのものといった様子だった。
「あのさ、どういうつもりなの?」
私は怒りを露わにして言う。
『何のこと?』
「しらばっくれないで!」
私は、スマホを握る手に力を込める。
「常君と、切れてないんでしょ?」
『はぁ?人の彼氏奪っておいて何言ってんの?』
「だって…だって…」
美月の言うとおりだ。冷静になれば、私は裏切られた証拠なんて一つも持っていなかった。私は馬鹿だ。大馬鹿だ。こんな女に負けて、悔しい。
「なんで私から奪うような真似するの?」
『はぁ?まあ、嘘じゃないか。そんなの決まってるじゃん。あなたより私の方が魅力的だからよ。』
「ふざけないでよ!ちょっとかわいいからって!」
『じゃあ、ここに常君がいるっていったら、どうする?』
当たってほしくない最悪の感が当たった。
「いぃやぁ…」
頭が真っ白になる。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は、発狂した。
「はぁ……」
結局、彼は来てくれなかった。
私は、泣きながら彼に助けを求めた。だけど、彼は来てはくれなかった。
「どうして……」
美月からの電話に、彼の声が加わった。
『君は僕を信じすぎたし、今の状況では信じてくれなかったね。』
「待って、お願い…」
聞きたくない。
『やっぱり美月はいいなぁ…』
電話の向こうから喘ぎ声が聞こえる。
「やだ…やだぁ…」
耳を塞ぐ。それでも聞こえてくる。
「いやだあああ!!!」
叫びながら、走り出した。
走って、泣いて、また走った。
家に帰ってきても、泣くのをやめられなかった。
ずっと、彼のことを考えていた。
「やっぱり、私ってかわいそう……」
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