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お願いだから僕の妻だけは取らないでくれと言った数年後…

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僕は、目の前の光景に絶望していた。
あんなに愛し合っていた妻は今、頬を火照らせて息を荒げながら、胸元のボタンを開けていた。
「……うふぅんっ♡」
それを満足そうに見つめる、僕の昔の知人、丸田。
彼は僕の妻から手を離すと、今度は彼女のお尻に手を当てて揉み始めた。
そしてそのままゆっくりと指先を下ろしていき…………。
「やめろぉ!」
そこで耐えきれなくなった僕は、思わず叫んでいた。
「ひ、人の妻に何しやがる!」
「まんまと奪われておいて今更何を言っているんだよ、浩紀。」
丸田は呆れたように言った。
「やっていいことと、悪いことがあるだろ!」
おかまいなしに、丸田は僕の妻のモノを揉みだした。
「ひゃぁんっ♡いやぁん♡やめてぇ♡お願いっ!」
「ほら、君も喜んでるじゃないか。味わったことのない快楽だよ?」
妻の顔を見ると、瞳にはハートマークを浮かべているようで、口元からはよだれまで垂れている。
こんな姿を見たことなかった。
いつも清楚で、真面目な女性だったのに。
「おい!止めてくれ!」
「うるさいなあ、もう。」
もう見たくない。自分の妻を奪われただけでなく、あんな淫らな姿を見せつけられるなんて…!
「僕の方がいい相手だと思うんだけどな。」
「きゃあっ!ひぃっ♡」
丸田は強引に妻の唇を奪った。
舌を絡めた濃厚なものを見せつけられる。
「ぷはぁ……。どうだい?気持ちよかったかい?」
丸田が唇を離して問いかけると、妻は蕩けた表情のまま首を縦に振っていた。
「じゃあ、そろそろ本番を始めようか。」
「えっ!?ちょっと待ってください!」
丸田の言葉を聞いて、我に帰ったのか、妻は慌て始めた。
「まだ心の準備が……」
「大丈夫さ、すぐに慣れてくる。」
「おい!もうやめてくれ!」
口では言っても、僕は動き出せなかった。
本当に求められているのは僕ではなく、丸田なのではないだろうか。妻にとって僕なんていらないのか。
そういえば、丸田は昔から、誰の恋人だろうと簡単に手を出す男だった。初めは幼馴染の女子だったが、その次はもう同級生の彼女を奪ったのだった。まさか、それが自分に降りかかるとは思わなかった。
「じゃあ、いくよ。」
「……♡」
「やめろぉ!!」
僕は泣き叫んだ。しかし、間に合うはずもなかった。
数年前、結婚したとき、あいつに「お願いだから僕の妻だけは取らないでくれ。」と半分本気で言ったものだったが、現実になるとは。
「ぐすっ……うぅ……。」
「あれ?泣かないでよ、浩紀。昔みたいに一緒に楽しもうぜ。」
「お前はふざけているのか…自分がどれだけのことをしたと思っているんだ…」
「でも、君の奥さんは俺を選んだわけだし、君はそれを邪魔しようとしただけだろ?」
「!…」
そうだ…妻が結局僕を選ばなかったことになる…
「しっかし、こんなに可愛いなんて知らなかったよ!君の奥さんがね。」
「あんっ♡」
丸田は再び妻を刺激し出した。
「くっ……!」
「おっと、時間がないや。次の予定があるんだ。」
丸田は肩をすくめた後、再び妻の方を向いて話しかけた。
「じゃあすぐに●かせるからね。気を失っちゃうかもよ?」
「ひっ…ひゃぁんっ♡」
………………
「ふう。これでよしっと。」
丸田は一仕事終えたという感じで汗を拭いた。
そこには、服を整えて、先ほどまでと打って変わって綺麗になった妻がいた。
「ああ、じゃあね。」
啞然とする僕を置いて、丸田は出て行った。
そして、部屋に二人残された僕と妻。
「なん…で、丸田…なんかに…」
「だって、あなたより格好良いんだもん。…ごめんなさい…」
「そんな理由で!?」
「本当にごめんなさい…あなたのことは好きだけど、彼の方が魅力的だったの。」
「………………。」
「それに、私、彼に愛されちゃった。あんなに優しくされたら、我慢できないよ。」
「………………。」
「彼、とっても上手でね。今までで一番良かった。」
「」
僕は言葉が出なかった。怒りよりも、喪失感の方が大きかったからだ。
僕にはもう、何も残っていないのだと思った。
「あいつ、やばい奴だよ?人の恋人でも、おかまいなしに手を出す変態だよ?」
「うん、知ってる。それでも、彼と一緒になりたいの……。お願い、別れて。」
「」
「お願い。私のこと嫌いならいいけど、そうでないのであれば、お願いします!」
「」
僕は涙が止まらなかった。愛する妻に、こんなにも残酷なことを言われる日が来るなんて。
「さよなら、あなた。幸せになってね。」
「」
僕はそのまま玄関に向かって歩き出す。
もう、この家にいる意味などない。
そしてそのままドアノブに手をかけた時、後ろから声をかけられた。
「ねえ、浩紀。」
僕は振り返らずに返事をした。
「なんだよ。」
「……ごめん。」
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