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王子様、どうやったら恋人になれるの?

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彼がこの王国の王子であることは幼少期から知っていた。
王様は心の広い人だから、彼を普通に私たち市民と暮らさせ、教育を受けさせた。友達も多く作るように言ったらしく、王子様は私たちの町では顔が広く、(めっちゃイケメンなので)アイドル気質な存在になった。
「ねぇ、君は今好きな人いるの?」
それは十七歳のある日のこと。いつものように彼と下校している最中のことだった。
「えっ……!?」
突然の質問に私は言葉を失った。彼は悪戯っぽく微笑む。
「ほら、いるなら教えてよー!」
「いや……いないけど……」
嘘だ。本当はいた。ずっと前から好きな男の子が。目の前に。だけど、恥ずかしくて言えなかったのだ。
「ふぅん?」
「あなた、そういうの興味あったっけ?」
「お父様がさぁ、最近恋愛ドラマとか外国のやつ?観てるんだけど、結構不思議なんだよね。男女の距離の近づき方がさ。」
「それは、ドラマだからでしょ。」
ドラマみたいに、いやそれ以上に彼を、現実的にも、比喩的にも王子様に見えてしまっている私には、彼の言うことはよくわからなかった。
「でも、僕思うんだよ。キスってどんな味するのかなって。」
「……!!」
「君もそう思わない?」
「ま、まあ……ね……。」
私の心臓はバクバクだった。
「大体キスの味ってなんだろうね。」
「え?えぇ…そ、そうね💦」
熱くないのに汗ばむ。きっと今の私は真っ赤になっているだろう。そんなことを思いながら、しばらく黙っていた。すると彼はまた口を開いた。「じゃあさ、してみようか。」
「……え?」
「キスだよ。」
「ちょっ!何言ってるの!?」
「だって気になるじゃん。」
「きゅ、急すぎるわよ!!心の準備ってものがあって……」
「冗談w」
「な、なんだ……焦ったじゃない……。」
ホッとしたような、残念のような複雑な気持ち。それから私たちは他愛もない話をしていた。
そしてその日の夜、私はベッドの中で考えた。
今後彼とそう言う関係になれるんだろうか。キスをしたいと思う日が来るのかな。……って、もう寝れないじゃない!明日早いっていうのに! しかし、結局眠れたのは朝方になってからだった。今日もまたいつも通り登校した。
教室に入ると、彼の周りに女の子が集まっていて、皆楽しそうだ。やっぱりモテるんだなぁなんて思いつつ自分の席に着いた。すると隣の席から声をかけられた。
「おはよう!」
「あっ、おはよう……。」
「元気ないの?」
「お、王子様には関係ありませんから!どーせ私は庶民ですから!」
「僕は王子としてみんなを守る責任があるんだ。誰一人悲しませられないんだから、頼ってもらっていいんだよ。」
澄んだ瞳で見つめてくる彼。ずるいなぁと思いながらも、私は彼に甘えることにした。
「じ、実は昨日の晩なかなか眠れなくて……。」
「うん。」
「それで、ちょっと寝不足で……授業中眠ってしまいそうなの。」
「なるほどね。わかったよ。」
「えっ?う、うん……。」
「よし、今度の休みはどこか行こう!」
「え?」
「デート?…しよう!」
「デッ、デーーートぉ!?」
「嫌かい?」
「い、いやっ、」
「嫌だったの?」
「ち、違うし!むしろ行きたいくらいだし!」
「なら良かった。」
笑顔で微笑む彼を見て、思わず顔が赤く染まった。
次の瞬間、周りから殺意の目が向けられたのは内緒だ。
今日は彼とデート…お出かけの日。正直とても緊張している。服装もメイクも髪型もバッチリだ。待ち合わせ場所に十分前に着くと、既に彼が待っていた。
「ごめん、待った?」
「全然大丈夫だよ。それより可愛い格好だね。」
「あ、ありがとう……。」
サラッとそういうこと言うんだから!キュン死させる気かこの野郎!!
「さて、どこに行けば良いかなぁ……。」
「とりあえず歩こう。」
「そうだね。」
私たちは並んで歩いた。こうして見るとやっぱり彼は王子様だ。風格っていうかなんか凄い。歩いているだけなのに絵になる。
「あのさ、」
「ん?どうしたの?」
「いや、まだ早い。もうちょっと後で。」
「う、うん…」
何なの?ドキドキするぅ…!!心臓壊れちゃいそう……。
しばらく歩くと小さな公園があったので、そこで休憩することにした。ベンチに座っていると彼が話しかけてきた。
「君に渡したいものがあるんだ。」
「え?私に?」
「そう。これ。」
「……これは?」
「お守り。」
「……どうして私にくれるの?」
「君にはいつも助けられてる。だからその感謝を込めて。」
「そっか……。ありがと。大事にするね。」
「あとさ、好き。」
「ありがと。…え?」
「好きだよ。」
「……へっ?」
突然の言葉に頭が混乱する。
「いや、友達としてじゃなくて、一人の恋愛対象として。」
「え、ちょっ……」
いきなり手を取ってきた。
「僕の彼女になってください。」
「で、でもあなたは王子様…私なんかがお付き合いしていい相手じゃないはず…」
「関係ないよ。お父様にも、恋人は自分で決めろって言われたんだ。」
「わ、私も!あなたのことが好きなの!」
「じゃあ付き合えるね。」
「で、でも私達高校生だよ?結婚とか出来ないし……」
「君はまだそんなこと気にしてるの?」
「だってぇ~!!」
「まあいいか。僕は君のことが好き。君も僕のことが好き。それで充分だよ。」
彼は私を抱き寄せた。そして耳元で囁いた。
「これからよろしくね。」
その言葉を聞いて私は思った。もう離さないで欲しい。私の全ては彼で出来ているんだから。
今日は彼に告白された記念日。今までで一番幸せな日だった。
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