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第四章 旅路の始まり
滅びの残滓
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覚醒して初めて、僕は今まで眠っていたことに気がついた。
薄く途切れそうな意識のまま、視界だけを泳がせる。
そう広くない石造りの一室。
暗闇に満たされたそこは、床に立てられた小さな蝋燭だけが、光源として陰影を生み出していた。
ゆらゆらと揺れる明かりの輪郭に紛れ、荒れる部屋の様子を思い出す。
もともと大したものは置いていなかったが、木製の机や椅子は扉の前に積み上げた。
目の前には、床にバリケードのようにして立てられたベッドが、僕の視界を変わらず遮っている。
記憶にある光景と寸分違わぬ様子に、僕は一人安堵のため息をもらした。
「・・・・・・ん」
となりの身じろぎに、はっとする。
そこには、毛布に包まったまま、僕に寄りかかるようにして眠っていたターナがいた。
緩慢な動きで目を擦ると、彼女は欠伸をかみ殺しながら、ぼんやりとした表情で目を覚ます。
僕と同じく、寝起き直後はまだ、意識がまどろみの中にいるのだろう。
しばらく虚空を見上げていたターナが、次に僕を見る。
数秒の沈黙が続くが、先に目を覚まして幾分意識が鮮明になっていた僕としては、そう悪くないものだった。
ターナの寝起きなんて、普段ならそうそうお目にかかれるものじゃないし。いつも起こされる側の僕としては、純粋に新鮮な経験だ。
「・・・・・・おはよう、ターナ」
声を潜め、小さく目覚めの挨拶をする。
そこで、ようやくターナは表情を変え、慌てて僕から身を離した。
「お、おはようございます、ユウスケ様っ。申し訳ございません、つい・・・・・・」
「ううん、大丈夫。それにほら、まだ寒いから――」
言いながら、僕は離れた分の距離を縮める。
別にべったりとくっつくわけじゃない。
ただ、部屋は耐え難いほどに冷え切っているわけではないが、暖具の効果が疑われる程度には、身体が寒さを訴えていた。
意識すると恥ずかしいけど、今はそれよりも体温や体力を維持する方がずっと大事だ。
「平気?」
聞くと、ターナはこくりと頷いた。
緊張続きから寝入ってしまった僕らだけど、そのおかげで幾分か回復はしたのかもしれない。
身体の疲れはあまりとれている感じはないけど、精神的な疲労感はだいぶ薄れていた。
(一体、どれくらい経ったんだろう)
体内時計を信じるならば、僕の体は早朝を告げていた。
しかし、いつもとは違う環境ということもあり、これがどこまで正確かは、保証しかねる、といったところ。
使用人控え室の更に奥に位置するこの一室からは、残念ながら外の様子を見ることはできない。
となると、身を隠しているこの部屋を出るしか選択肢はないのだが、どうしたものか。
「・・・・・・・・・・・・」
くぅぅ、と小さく腹の虫が鳴く。
悲しいことに、こんな緊急事態でさえお腹は空くらしい。
今のは僕だったけど、それにつられたのか、隣からも似たような音が聞こえてきた。
僕とターナは互いに顔を見合わせ、困ったように苦笑する。
ただ、これである意味、気持ちの方向性は定まったような気がした。
食べなくては死んでしまう。
これはごく自然のことで、まだ空腹をこじらせていない今ならば、歩き回る体力も残されているだろう。
「僕が先に出て様子を見てくるから、それまではじっとしててね」
「し、しかし・・・・・・」
「大丈夫。僕って臆病だから、危ないことには人一倍敏感だからさ」
まぁ、言うほど鋭敏な感覚を持ち合わせているかどうかは甚だ疑問ではあるが、ここはターナと自分を納得させる雄弁ということにしておく。
そうと決まれば立ち上がり、固くなった身体を伸びでほぐすと、慎重な足取りで扉まで向かう。
積み上げられた机と椅子をどかし、腫れ物に触るような手つきでドアノブを握る。
ゆっくり。ゆっくりと、音を立てないように扉を開けた。
(・・・・・・っ)
まるで、きん、と音でもしそうなほど凍てついた空気が頬を撫でた。
部屋を出た先、扉一枚を隔てて伸びる狭い廊下は所々に霜をつくり、城内とは思えない様相を呈している。
僕らが隠れていた部屋もそうだが、暖具が置いてある場所とその付近だけが、辛うじて冷気の魔の手から逃れていたようだ。
(物音はないかな・・・・・・人の気配も、ないような気がする)
まずは廊下に神経を集中する。
目視での人影はない。物音もせず、聞こえるものといえば、せいぜい風の流れくらいだ。
扉の隙間から、滑らせるように廊下へ出ると、左右に伸びる廊下の真ん中を目指す。
僕らがいた部屋は一番左端。
廊下の真ん中はT字路のようになっており、そこから出入り口のある広めの居間みたいな場所に行けるのだ。
一定間隔で連なる扉を不気味に感じながら、僕は盗賊よろしく忍び足でT字路へと辿り着く。
(・・・・・・うん、誰もいない。来た時と同じままだ、たぶん)
廊下を抜けた先に視線を送るが、やはり動くものはない。
あんまり離れるとターナの不安も大きくなるので、僕は一度引き返してから、彼女を連れて同じ場所へとやってくる。
出入り口付近まで来ると、兵士達の亡骸が変わらずそこにあった。
寒さのおかげか、腐敗を感じさせる異臭などはほとんどせず、むしろカチコチに凍っているのでは、という気さえする。
その後も、同じように扉を開ける緊張に息を呑みながら、僕らはその先の連絡路で二人と再会した。
「・・・・・・・・・・・・」
それだけで、視界が滲んでくるような気持ちに襲われる。
思えば、名前さえ知らなかった二人の兵士。
僕とターナを守る為、百獣の騎士と名乗る人狼と戦ったその二人も、やはり変わらず亡骸としてそこにあった。
死体なんて、僕にとっては腰を抜かしてもおかしくないほど衝撃的なもののはずなのに、彼らに歩み寄る心は恐れを抱いてはいない。
「ありがとうございます」
前衛を務めていた兵士の一人、その冷え切った頬に触れ、僕は震える声で遅すぎる感謝を絞り出す。
僕には何の力もないのに。
ただ異人だというだけなのに。
自分の無力が喉元までこみ上げてくるのを、ぐっと飲み込みながら、僕は立ち上がった。
弔いをしたい気持ちは強すぎるほどあるが、それ以上に、生き延びなければ、という考えに身体が動き出す。
ここで僕らが死んでしまえば、それこそこの二人だけでなく、他の兵士の人達だって無駄死にしたことになってしまう。
それだけは、なんとしても避けたかった。
まだ安全かどうかさえ確認出来ていない以上、気を抜くわけにはいかない。
戦いの気配は感じられず、ただ身を切るような寒さと異様な静寂が漂っている城内。
僕は先導を続け、まずは現状の把握を優先した。
(・・・・・・本当に誰もいない。戦いの跡はあるけど・・・・・・)
生きている人間も、人狼もいない。
戦いが終わっているならば、それ自体は胸をなで下ろすべきことだ。
けれど、僕が見る限り、その結果までは決して喜べるものではない予感でいっぱいだった。
「ターナ、何か食べ物がある場所ってどこだろう?」
安全もそうだが、空腹問題も無視できない。
あと、凍てつく寒さを凌ぐ手段も必要だった。
緊張のおかげか、空腹も寒さも感覚の上では和らいでいるが、既に手足の末端は痺れてきている。
このままあてもなく歩き回っていては最悪、凍傷などにでもなったら目も当てられない。
聞かれたターナも同じ考えなのだろう。
返答は数秒にも満たない間に返ってきた。
「はい。幸い、近くに厨房がございます。そこならば、食料も防寒具も揃っているかと」
「よし、じゃあそこに行こう」
目的地が決まれば、あとは警戒しながら歩くだけだ。
というか、戦闘手段を持たない僕らが出来ることは、それしかない。
ターナの案内を受けながら、僕が先導しつつ厨房を目指す。
荒れた城内はしかし、どこも変わらず亡骸が残されたばかりで、僕らの進行を止めるような出来事は何もなかった。
「ユウスケ様、ここが厨房でございます」
ターナに言われ、立ち止まる。
そこは、一階北東の奥に位置していた。
他と特に見栄えは変わらない木製の扉を開けた先は、板場やかまどが目に止まる、まさしく厨房であった。
荒れ放題かと思っていたものの、室内は食材や器具が多少散乱している程度で、戦闘の痕跡は見受けられない。
道中、随所で事切れていた兵士やローブ姿の人達もおらず、もぬけの殻、という表現がぴったりだ。
「ユウスケ様、まずはこちらを」
「あ、うん。ありがとう」
そう離れていない石壁にかけられていたのだろう。
厚手の防寒具を拝借していたターナからそれを受け取り、迷わず着込む。
幾分寒さは防げる感触にほっとするが、それでもまだ物足りない。
「厨房からは、地下食料庫に通ずる道もございます。外出用の防寒装備がありますので、見つけ次第、そちらに着替えましょう」
「そうだね。上着だけだと、まだ寒いや」
お互い、無意識的に身体をさすりながら、厨房を物色していく。
こんな事態の中でさえ、なんだか盗みをしているみたいで気が引けるけど、言ってしまえばこんな事態中だからでもある。
食べられそうなものは、と探すものの、僕が判断できるのは生の食材くらいなもので。
正直、保存食の類いはさっぱり分からない。
結局、目視による安全確保が僕の仕事となり、物資確保はターナの役割となる。
「ユウスケ様、こちらへ」
呼ばれて行くと、そこは厨房の一室。
積み上げられた木箱の一つを開け、ターナが「よかった」と安堵の声をもらした。
・・・・・・えーっと、干からびた肉?
「鹿や熊の干し肉です。探せば、燻製もでてくるかと」
「あ、干し肉かぁ。一瞬、何なのか分からなかったよ」
よく見れば、確かにジャーキーによく似ている。
僕からすると、保存食ってレトルト品とかカップラーメンってイメージが強かったからなぁ。
けど、逆に僕が元いた世界の保存食が文明的過ぎただけで、考えてもみれば干し肉や燻製の方がよっぽど自然的だ。
ターナは目についた麻袋を手に取り、汚れがないか確認すると、その中に保存食を入れていく。
食料の確保を終えると、そのままターナの案内で、難なく外出用だという厚い防寒具一式を二人分頂戴した。
首回りや袖、裾部分に毛皮があしらわれたものの上下セットと、そこに更に厚手のマントを加えたものだが、これがまた重いのなんの。
「こ、こんなに重いの着てるの、みんな?」
「はい。北境沿いでは、これくらいが標準です。特に悪天候時の気温低下が大変厳しいので、多くはそれを基準に考えられています」
でも、言われてみれば暖具として使われる燃石だって、部屋を暖める意味ではかなりの高性能だ。今みたいに凍てつく中でも、その実用性が衰えることはない。
そのおかげで、こんな状況で眠っても凍死せずに済んでいたわけだし。
基本、オーバースペック気味に感じるくらいが丁度良いんだろうね。
その後は、お互いが警戒しながら交互に着替えを済ませ、ひとまずの干し肉を囓るに至った。
せめてちゃんとした部屋で着替えたかったけど、今は体裁を整える時ではないというターナの言葉もあり、文字通りぱぱっと済ませてしまった。
「さて・・・・・・これから、どうしようか」
厨房で物陰を盾に腰を下ろし、今後の方針を検討し合う。
冷えと飢えの問題は解消されたものの、安全の問題は未解決のままだ。
戦の気配は消えたが、同時に僕ら以外に生きている者の気配もまた、ない。
およそ戦闘状況の発生に対応できない僕とターナは、万が一の場合を考えると、まだまだ予断を許さない状況なのは変わらない。
とはいえ、だからといって、いつまでもこうしているか、というのもあまり気が進まなかった。
こうしていれば安全かもしれないが、それが続くという保証はないのだ。
結局、自分が置かれている状況を確認しないことには、全て机上の空論で語るしかなくなるのである。
そこまで考えてしまえば、結論を口に出すことはそう難しいことではなかった。
「生きている人がいないか、探そう」
「はい。私も、それがよろしいかと思います」
危険だが、やるしかない。
もし、まだネグロフを襲った勢力が城内をうろついているなら、厨房に留まったところで安全の保証はない。
そして、その逆であるならば、逆に現状を把握できていない状態で歩き回っても、遭遇することはない。
詰る所、厨房に籠城する必要性はあまり感じない、ということだった。
そりゃそうだ。
鍵をかけたところで、扉は木製。蹴破ることは容易い。
おまけに、宝物庫とかならいざ知らず、厨房とあっては施錠してあれば怪しむのも当然。
ここにいれば絶対安全だ、ということは、おそらくない。
なら、合流の可能性を秘めた選択の方が良いのではないか、ということだ。
そうと決まれば長居は無用。
来たとき同様、僕とターナは忍びつつ厨房から出ると、生存者を求めて荒れ果てた城内を、再び歩き始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
当然、気分転換の散歩というわけでもないため、僕とターナは無言のままだ。
余計な物音を立てないよう、足下に注意を払いながら、ゆっくりと探索を続けていく。
僕らと同じく、身を隠して生き抜いた人がいるかもしれない――そんな期待を持ちながら、一部屋一部屋を確認して回る。
最初は緊張で吐きそうになっていた僕も、六回目の扉を開ける頃には少しずつ慣れてきたのか、まずは耳をあてがって中の音を確認してからドアノブをゆっくりと捻るようにしていた。
音という情報を探るだけでも、精神的な負担はぐっと減るのだ。
「誰も、いませんね」
「うん。・・・・・・みんなはともかく、メイドさんさえいないね」
僕は無断で身勝手な行動を起こしたから当然なのだが、僕以外のクラスメイト――異人は、既にこの危機を脱したのだろう。
とはいえ、使用人の死体さえ見かけないことから、意図して戦闘要員だけが殺されている、と推測できる。
事実、そう考え出すと、僕らが二人の兵士に連れられて控え室を目指していた時も、「兵士は根こそぎか」というようなことを言っていた記憶があった。
「うーん、そうなると・・・・・・メイドさん達も、うまく逃げ出せたのかな」
「そうかもしれません。使用人の総数は軽く百を超えますので、犠牲者が見当たらないということは、生きている可能性は高いかと」
「それならそれで安心だね。けど、そうなると城内で生きている人って、すごく限られる・・・・・・?」
「分かりません。ですが、見る限りでは兵士の方々は、あまり期待できないかもしれません」
探し回っているだけでも、かなりの数が亡くなっているのが分かる。
それほどまでに、道中で息絶えていた兵士達の亡骸が多いのだ。
成果を上げられぬまま、僕とターナは実に二十二枚目の扉を開けようとしていた。
ついでに、力ずくで破られた部屋もカウントすると、実に三十三部屋目。
城内の広さから考えればまだまだな数だが、僕が神経をすり減らして扉を開けるのにも限界があった。
たまたま。たまたまだ。
扉越しに音らしい音はない。
その時点で、僕は「また誰もいないんだろうなぁ」と考えながら、すっと扉を開けてしまう。
特に阻むものもなく、廊下と部屋を隔てていた木製の扉は開け放たれ、それと同時に部屋中をざっと視線が見回した。
「ユ、ユウスケ様っ」
僕の後ろで、ターナの緊迫が声になって僕の肩を叩く。
けど、僕は振り返るどころか言葉を返すことさえ叶わず、その場に文字通り凍りついてしまった。
「・・・・・・驚い、たな」
低い声が、耳に届く。
その部屋の奥、壁に背を預けたまま床に腰を下ろした男が一人。
灰色の甲冑で身を包むその男性は、ぐったりとした様子で右脇腹を押さえている。
どうやら負傷しているようだが、僕とターナが停止状態になるのは、そこではない。
敵だ。そう、この男性は敵なのだ。
確か、百獣の騎士団とやらの騎士のはずで、この惨状を作り上げた一人でもあるはずだ。
けど、そんな僕らを前に小さくため息を吐くと、その男性は項垂れながら言葉を続けた。
「もはや、忠義は果たされた。・・・・・・貴殿らに刃を向ける意味もない」
――なれば、去るがよい、と。
明確に、かつ力ない声で、その男性は敵意がないことを伝えてきたのだ。
とはいえ、それを受け止め切れていない僕らを見て、彼は思うところがあったのだろうか。
「トドメを刺したいならば、止めはしない。得物は・・・・・・そこら中に落ちているだろう」
どうやら、僕らの沈黙を憎しみ故、と解釈したようだ。
そう言われると、確かにふつふつと沸き上がるものはあった。
僕もターナも、命からがらここに立っているわけであり、目の前で犠牲となった命もある。
復讐という意味合いであれば、動機は十分であった。
「・・・・・・どうした? 何を迷う必要がある」
けど、身体は動かない。
少なくとも、僕の身体はぴくりともしなかった。
本来、畏怖するべき存在というのもあるだろうが、僕自身、この騎士の言い分を消化しきれていないからだ。
「・・・・・・そんなこと」
「・・・・・・ん?」
「そんなことしたって・・・・・・誰も、還ってきません」
そうだ。殺したところで、一体何が救われるというのだろう。
数秒の沈黙が流れ、再び会話のバトンが男性側に渡っている中、彼は一層大きなため息を吐いた。
「その通りだ。・・・・・・だからこそ、君には私を手に掛ける権利がある」
「そんな権利、いりません」
「・・・・・・ならば、去れ。私は既に、看取られるほどの資格はない」
頷けなかったのは、その二つ。
殺せ、ということと、見殺せ、ということ。
つまり、怪我をしている様子のこの男性を前にして、助けない、という選択肢に対し、僕の心は強烈な反発を示していた。
「ターナ、手当てする道具ってあるかな」
「へ? て、手当て・・・・・・ですか?」
「うん」
振り返り問うと、少しの間きょとんとする彼女は、慌てて何かを探しに走った。
「・・・・・・正気か?」
それを、百獣の騎士たる男性が、絶望にも近い声音で呟いた。
「だって、見捨てられません」
「私は・・・・・・百獣の騎士だぞ。このネグロフに反旗を翻した、裏切り者だ。百歩譲り殺さぬとしても、命を助ける道理がない」
「道理なら・・・・・・あります、たぶん」
心のつっかえは、思ったよりも早く見つかった。
そう、確かに男性を含め、この灰色の甲冑と人狼は祖国を襲っただろう。
その影響で僕もターナも、危うく命を奪われるかも、という危険にさらされた。
しかし同時に、ある騎士が僕らを見逃してくれたおかげで、今を生き存えているという事実もある。
これを無視して、裏切りだ復讐だ、と憤慨するほどの怒りが、僕の中にはなかったのである。
ただあるのは悲しみ。犠牲になった人達の死を悼む、心の痛みだった。
「ユウスケ様、近くの部屋から治療箱を持って参りました」
「ありがとう、ターナ」
白い箱を受け取り、深呼吸を一つして、歩を進める。
それを、予想よりも早く向けられた刃の切っ先が牽制した。
「去れ。この身は慈悲を受けるべきではない」
「・・・・・・」
ごくり、と喉が鳴る。張り詰める音だ。
「自分が何をしようとしているか、分からぬほど底抜けの痴れ者でもあるまい」
「でも、僕らはきっと・・・・・・あなたの仲間に見逃してもらったおかげで、助かったんです。だから、このまま見て見ぬ振りなんて、できません」
「私の罪とは釣り合わぬ赦しだ。何故、そうまで助けようとする?」
「それは――」
――おそらく、そういう性格だから、だろう。
元いた世界での僕は、そういう風に育ってしまった。
無論、これは家庭環境や両親の影響、日本という国での教育環境から今に至る経緯が詰っての結果だ。
誰かを恨むよりも、悲しみに暮れる方を選ぶ。
誰の死でもそうできるわけじゃないけれど、少なくとも今は・・・・・・こみ上げるものといえば、涙だけだった。
「僕は、そういう人間なので。・・・・・・許すとは違うけど、だからといって見殺しにもできません」
言いながら、剣の切っ先を避けて、僕はずんずんと再び歩き出した。
自分から踏み出してみれば、向けられた刃はその程度のものだった。
あくまで制止の手段であり、本気の殺意など微塵も込められていない。
僕がその男性のもとに辿り着く頃には、再び剣を握る腕は力を失っていた。
「手をどけてください。あと、しみると思うので我慢してください」
「・・・・・・・・・・・・」
返答はないが、渋々、という感じで脇腹を庇っていた手が撤去される。
僕の背後で、ターナが小さく「私もお手伝いします」と言ってくれた。
応急手当の仕方は、運動や剣の教本で穴が空くくらい読み込んでいる。
スポーツに怪我はつきものであるように、訓練にも怪我はつきものだ。
実践は今日が初めてだけど、ターナの助けも借りられるならば、できないことはない・・・・・・はず。
治療箱を開けてみると、そこにはまさしく応急処置用の道具が幾つか入っていた。
包帯、針と糸に清潔な布、度数の高い酒瓶だ。
もっとも、傷口を縫うなんて真似はできないので、僕がやることは二つ。
傷口とその付近の消毒、洗浄。
そして、あとは悪化しないように止血の役目で包帯を巻くこと。
傷口をあらためると、強力な一撃によって、鎧の一部は砕けていた。
横一文字に刻まれた裂傷からは、少し粘り気のある血がゆっくりと流れ出ている。
「鎧、脱げますか?」
そのままで手当てできないこともないが、やはり鎧が邪魔だった。
男性は気怠そうに剣を握っていた方の腕を持ち上げると、鎧の胴部分を繋ぎ合わせる金具を器用に外していった。
僕は、ターナと二人で鎧の上半身部分を取り去る。
表情にも口にも出さないけど、鉄の鎧ってとんでもなく重たい。
こんなものを全身に装着しながら、よく戦えるものだと本気で不思議に思う。
お酒――というか、要はアルコールで自分の手を消毒し、同じものを布に含ませ、傷口付近と傷口そのものを消毒していく。
「・・・・・・っ」
息を止め、奥歯を噛む気配が伝わってきた。
それを見てか、ターナが男性の緊張を和らげるように、「すぐ終わりますから」と優しく声をかける。
これは、特にどの教本でも詳しく書かれていたのだけど、とにかく手早くやることが重要なんだとか。
淡々と進めていくことで、結果として処置を行う側も受ける側も、精神を摩耗する時間が少なくて済む。
だから、僕はただ黙々と応急処置――傷への対処に集中した。
正確には、意図的にというよりも、そうするしかないくらい精神的な余裕がなかっただけなのだけど。
「・・・・・・ふぅ」
ターナと二人で包帯を巻き終わると、額を濡らしていた汗を手の甲で拭いながら、肺から熱を逃がすように息を吐いた。
ひとまずは、これで大丈夫なはずだ。
(き、緊張したぁ・・・・・・)
終わると、途端に僕の手足を小さな震えが襲ってくる。
今までは、せいぜい絆創膏程度だった僕が、戦いで受けた切り傷の処置を行うなんて、人生初の経験だった。
「異人は、とうに逃げ出したものと思っていた」
「・・・・・・え?」
「我らが王城の中枢に攻め入る時には、既にその姿はなかった」
男性は兜がうっとうしくなったのか、乱暴に脱ぎ捨てると、その鋭い視線を僕に向ける。
けど、その鋭さには、僕の記憶にある獣の気配はない。
「君は異人だろう?」
「・・・・・・はい。僕は、ターナを探して・・・・・・みんなとはぐれてしまったので・・・・・・」
「なるほど。・・・・・・その少女を守る為、戦場に身を投じたわけか」
「そんなっ、身勝手な振る舞いです。守るよりも、守られてばかりでしたし・・・・・・」
後悔に視線を落とす。
そんな僕の情けない姿を見て、男性は噛み締めるような声で言葉をもらした。
「同志が殺せぬのも、無理はない」
少年、とその男性は僕を呼ぶ。
「弱さを知っていながら立ち向かったのであれば、それを我らが斬って捨てることなど、できはしない。君が生きたことは、君が勝ち取った勝利だ。この戦場において、君は武力とは別のもので生き抜いた。・・・・・・自分を責めることは、君のために散った者達への手向けにはならない」
顔を伏せるべきではないと、その男性は言う。
確かに、そうかもしれない。
僕自身が勝ち取ったという感覚を持っていないにしても、自責に溺れる姿を望んでいる人は・・・・・・きっと、いないだろう。
自分の悪い癖に頭を振り、無理矢理にでも顔を上げる。
男性はそれを見て、「それでいい」と頷いた。
「あの・・・・・・」
「なんだ?」
「お名前を、聞いてもいいですか? 僕は、朝倉祐介といいます。えっと、ユウスケって呼んでください」
男性は発音しづらそうに、「ユウスケ」と何度か練習するように繰り返すと、外していた視線を僕に戻してから名乗った。
「クロッキアだ」
「クロッキアさん、ですね。・・・・・・あの、これから・・・・・・」
どうするべきか、と尋ねる空気を察したクロッキアさんは、きちんと状況から話を始めてくれた。
「ネグロフは、もはや国家としての機能を失っているだろう。この極寒、当然ながら自然のものではない。夜は明けても、凍えたこの地はそのままだ。多くの者は、この寒さにやられ命を落としているだろう」
「そ、そんな・・・・・・誰も生き残っていないんですか?」
「君達や私が生きているように、生存者が他にもいる可能性は高い。だが、ネグロフの総人口を考えれば、その数はほんの一握りでも不思議はない」
総人口って、ネグロフは大きな国のはずだ。
そんな数の人達が、たった一夜で死んでしまうなんて・・・・・・。
「王城と城下では、寒さに対する対応力がありすぎる。我らが団長のもたらした雪嵐は、魔性のものだ。厳冬期のような自然の厳しさではなく、冷気という在り方を借りた殺意と考えればいい。ユウスケ、君は王城を出なくて正解だったな」
素直には喜べない。
僕とターナはたまたま生き延びたけど、それじゃあ城下の人やクラスのみんなは・・・・・・。
「これは私の予測だが、異人は無事だろう」
「え・・・・・・でも、」
「おそらく、サイオン導師が先導していたはずだ。彼はネグロフにおける、魔法学の権威でもある。国軍兵と陛下が我らを抑え、その隙にネグロフを脱したのだろう。見え透いた作戦だが、陛下を同伴しなかった判断は完璧だ。勘付いたとしても、彼らを追撃する者は誰一人いなかっただろうな」
「じゃあ、クラスのみんなは・・・・・・」
「まず、生きている。これだけの奇襲でありながら、導師を始め、左大臣や右大臣の姿さえ見なかったからな。鼻から異人と一部の者達が生き延びる算段だった、というわけだ」
騎士の男性――クロッキアさんの言葉に、僕はほんの少しだけ安堵した。
けど、それでも多くの人々が命を落としていることに、変わりはない。
むしろ、話を聞く分では、異人を助けるために、という意味を多分に含んでいるように感じた。
「やはり、身内を敵に回すというのは難儀なものだな」
突如、背後からの声に、僕は心臓が飛び出るような衝撃のまま振り向いた。
それは、ターナやクロッキアさんも同じだったと思う。
視線の先。
部屋の出入り口に、黒塗りの甲冑をまとった人物が一人、僕ら三人を見据えていた。
薄く途切れそうな意識のまま、視界だけを泳がせる。
そう広くない石造りの一室。
暗闇に満たされたそこは、床に立てられた小さな蝋燭だけが、光源として陰影を生み出していた。
ゆらゆらと揺れる明かりの輪郭に紛れ、荒れる部屋の様子を思い出す。
もともと大したものは置いていなかったが、木製の机や椅子は扉の前に積み上げた。
目の前には、床にバリケードのようにして立てられたベッドが、僕の視界を変わらず遮っている。
記憶にある光景と寸分違わぬ様子に、僕は一人安堵のため息をもらした。
「・・・・・・ん」
となりの身じろぎに、はっとする。
そこには、毛布に包まったまま、僕に寄りかかるようにして眠っていたターナがいた。
緩慢な動きで目を擦ると、彼女は欠伸をかみ殺しながら、ぼんやりとした表情で目を覚ます。
僕と同じく、寝起き直後はまだ、意識がまどろみの中にいるのだろう。
しばらく虚空を見上げていたターナが、次に僕を見る。
数秒の沈黙が続くが、先に目を覚まして幾分意識が鮮明になっていた僕としては、そう悪くないものだった。
ターナの寝起きなんて、普段ならそうそうお目にかかれるものじゃないし。いつも起こされる側の僕としては、純粋に新鮮な経験だ。
「・・・・・・おはよう、ターナ」
声を潜め、小さく目覚めの挨拶をする。
そこで、ようやくターナは表情を変え、慌てて僕から身を離した。
「お、おはようございます、ユウスケ様っ。申し訳ございません、つい・・・・・・」
「ううん、大丈夫。それにほら、まだ寒いから――」
言いながら、僕は離れた分の距離を縮める。
別にべったりとくっつくわけじゃない。
ただ、部屋は耐え難いほどに冷え切っているわけではないが、暖具の効果が疑われる程度には、身体が寒さを訴えていた。
意識すると恥ずかしいけど、今はそれよりも体温や体力を維持する方がずっと大事だ。
「平気?」
聞くと、ターナはこくりと頷いた。
緊張続きから寝入ってしまった僕らだけど、そのおかげで幾分か回復はしたのかもしれない。
身体の疲れはあまりとれている感じはないけど、精神的な疲労感はだいぶ薄れていた。
(一体、どれくらい経ったんだろう)
体内時計を信じるならば、僕の体は早朝を告げていた。
しかし、いつもとは違う環境ということもあり、これがどこまで正確かは、保証しかねる、といったところ。
使用人控え室の更に奥に位置するこの一室からは、残念ながら外の様子を見ることはできない。
となると、身を隠しているこの部屋を出るしか選択肢はないのだが、どうしたものか。
「・・・・・・・・・・・・」
くぅぅ、と小さく腹の虫が鳴く。
悲しいことに、こんな緊急事態でさえお腹は空くらしい。
今のは僕だったけど、それにつられたのか、隣からも似たような音が聞こえてきた。
僕とターナは互いに顔を見合わせ、困ったように苦笑する。
ただ、これである意味、気持ちの方向性は定まったような気がした。
食べなくては死んでしまう。
これはごく自然のことで、まだ空腹をこじらせていない今ならば、歩き回る体力も残されているだろう。
「僕が先に出て様子を見てくるから、それまではじっとしててね」
「し、しかし・・・・・・」
「大丈夫。僕って臆病だから、危ないことには人一倍敏感だからさ」
まぁ、言うほど鋭敏な感覚を持ち合わせているかどうかは甚だ疑問ではあるが、ここはターナと自分を納得させる雄弁ということにしておく。
そうと決まれば立ち上がり、固くなった身体を伸びでほぐすと、慎重な足取りで扉まで向かう。
積み上げられた机と椅子をどかし、腫れ物に触るような手つきでドアノブを握る。
ゆっくり。ゆっくりと、音を立てないように扉を開けた。
(・・・・・・っ)
まるで、きん、と音でもしそうなほど凍てついた空気が頬を撫でた。
部屋を出た先、扉一枚を隔てて伸びる狭い廊下は所々に霜をつくり、城内とは思えない様相を呈している。
僕らが隠れていた部屋もそうだが、暖具が置いてある場所とその付近だけが、辛うじて冷気の魔の手から逃れていたようだ。
(物音はないかな・・・・・・人の気配も、ないような気がする)
まずは廊下に神経を集中する。
目視での人影はない。物音もせず、聞こえるものといえば、せいぜい風の流れくらいだ。
扉の隙間から、滑らせるように廊下へ出ると、左右に伸びる廊下の真ん中を目指す。
僕らがいた部屋は一番左端。
廊下の真ん中はT字路のようになっており、そこから出入り口のある広めの居間みたいな場所に行けるのだ。
一定間隔で連なる扉を不気味に感じながら、僕は盗賊よろしく忍び足でT字路へと辿り着く。
(・・・・・・うん、誰もいない。来た時と同じままだ、たぶん)
廊下を抜けた先に視線を送るが、やはり動くものはない。
あんまり離れるとターナの不安も大きくなるので、僕は一度引き返してから、彼女を連れて同じ場所へとやってくる。
出入り口付近まで来ると、兵士達の亡骸が変わらずそこにあった。
寒さのおかげか、腐敗を感じさせる異臭などはほとんどせず、むしろカチコチに凍っているのでは、という気さえする。
その後も、同じように扉を開ける緊張に息を呑みながら、僕らはその先の連絡路で二人と再会した。
「・・・・・・・・・・・・」
それだけで、視界が滲んでくるような気持ちに襲われる。
思えば、名前さえ知らなかった二人の兵士。
僕とターナを守る為、百獣の騎士と名乗る人狼と戦ったその二人も、やはり変わらず亡骸としてそこにあった。
死体なんて、僕にとっては腰を抜かしてもおかしくないほど衝撃的なもののはずなのに、彼らに歩み寄る心は恐れを抱いてはいない。
「ありがとうございます」
前衛を務めていた兵士の一人、その冷え切った頬に触れ、僕は震える声で遅すぎる感謝を絞り出す。
僕には何の力もないのに。
ただ異人だというだけなのに。
自分の無力が喉元までこみ上げてくるのを、ぐっと飲み込みながら、僕は立ち上がった。
弔いをしたい気持ちは強すぎるほどあるが、それ以上に、生き延びなければ、という考えに身体が動き出す。
ここで僕らが死んでしまえば、それこそこの二人だけでなく、他の兵士の人達だって無駄死にしたことになってしまう。
それだけは、なんとしても避けたかった。
まだ安全かどうかさえ確認出来ていない以上、気を抜くわけにはいかない。
戦いの気配は感じられず、ただ身を切るような寒さと異様な静寂が漂っている城内。
僕は先導を続け、まずは現状の把握を優先した。
(・・・・・・本当に誰もいない。戦いの跡はあるけど・・・・・・)
生きている人間も、人狼もいない。
戦いが終わっているならば、それ自体は胸をなで下ろすべきことだ。
けれど、僕が見る限り、その結果までは決して喜べるものではない予感でいっぱいだった。
「ターナ、何か食べ物がある場所ってどこだろう?」
安全もそうだが、空腹問題も無視できない。
あと、凍てつく寒さを凌ぐ手段も必要だった。
緊張のおかげか、空腹も寒さも感覚の上では和らいでいるが、既に手足の末端は痺れてきている。
このままあてもなく歩き回っていては最悪、凍傷などにでもなったら目も当てられない。
聞かれたターナも同じ考えなのだろう。
返答は数秒にも満たない間に返ってきた。
「はい。幸い、近くに厨房がございます。そこならば、食料も防寒具も揃っているかと」
「よし、じゃあそこに行こう」
目的地が決まれば、あとは警戒しながら歩くだけだ。
というか、戦闘手段を持たない僕らが出来ることは、それしかない。
ターナの案内を受けながら、僕が先導しつつ厨房を目指す。
荒れた城内はしかし、どこも変わらず亡骸が残されたばかりで、僕らの進行を止めるような出来事は何もなかった。
「ユウスケ様、ここが厨房でございます」
ターナに言われ、立ち止まる。
そこは、一階北東の奥に位置していた。
他と特に見栄えは変わらない木製の扉を開けた先は、板場やかまどが目に止まる、まさしく厨房であった。
荒れ放題かと思っていたものの、室内は食材や器具が多少散乱している程度で、戦闘の痕跡は見受けられない。
道中、随所で事切れていた兵士やローブ姿の人達もおらず、もぬけの殻、という表現がぴったりだ。
「ユウスケ様、まずはこちらを」
「あ、うん。ありがとう」
そう離れていない石壁にかけられていたのだろう。
厚手の防寒具を拝借していたターナからそれを受け取り、迷わず着込む。
幾分寒さは防げる感触にほっとするが、それでもまだ物足りない。
「厨房からは、地下食料庫に通ずる道もございます。外出用の防寒装備がありますので、見つけ次第、そちらに着替えましょう」
「そうだね。上着だけだと、まだ寒いや」
お互い、無意識的に身体をさすりながら、厨房を物色していく。
こんな事態の中でさえ、なんだか盗みをしているみたいで気が引けるけど、言ってしまえばこんな事態中だからでもある。
食べられそうなものは、と探すものの、僕が判断できるのは生の食材くらいなもので。
正直、保存食の類いはさっぱり分からない。
結局、目視による安全確保が僕の仕事となり、物資確保はターナの役割となる。
「ユウスケ様、こちらへ」
呼ばれて行くと、そこは厨房の一室。
積み上げられた木箱の一つを開け、ターナが「よかった」と安堵の声をもらした。
・・・・・・えーっと、干からびた肉?
「鹿や熊の干し肉です。探せば、燻製もでてくるかと」
「あ、干し肉かぁ。一瞬、何なのか分からなかったよ」
よく見れば、確かにジャーキーによく似ている。
僕からすると、保存食ってレトルト品とかカップラーメンってイメージが強かったからなぁ。
けど、逆に僕が元いた世界の保存食が文明的過ぎただけで、考えてもみれば干し肉や燻製の方がよっぽど自然的だ。
ターナは目についた麻袋を手に取り、汚れがないか確認すると、その中に保存食を入れていく。
食料の確保を終えると、そのままターナの案内で、難なく外出用だという厚い防寒具一式を二人分頂戴した。
首回りや袖、裾部分に毛皮があしらわれたものの上下セットと、そこに更に厚手のマントを加えたものだが、これがまた重いのなんの。
「こ、こんなに重いの着てるの、みんな?」
「はい。北境沿いでは、これくらいが標準です。特に悪天候時の気温低下が大変厳しいので、多くはそれを基準に考えられています」
でも、言われてみれば暖具として使われる燃石だって、部屋を暖める意味ではかなりの高性能だ。今みたいに凍てつく中でも、その実用性が衰えることはない。
そのおかげで、こんな状況で眠っても凍死せずに済んでいたわけだし。
基本、オーバースペック気味に感じるくらいが丁度良いんだろうね。
その後は、お互いが警戒しながら交互に着替えを済ませ、ひとまずの干し肉を囓るに至った。
せめてちゃんとした部屋で着替えたかったけど、今は体裁を整える時ではないというターナの言葉もあり、文字通りぱぱっと済ませてしまった。
「さて・・・・・・これから、どうしようか」
厨房で物陰を盾に腰を下ろし、今後の方針を検討し合う。
冷えと飢えの問題は解消されたものの、安全の問題は未解決のままだ。
戦の気配は消えたが、同時に僕ら以外に生きている者の気配もまた、ない。
およそ戦闘状況の発生に対応できない僕とターナは、万が一の場合を考えると、まだまだ予断を許さない状況なのは変わらない。
とはいえ、だからといって、いつまでもこうしているか、というのもあまり気が進まなかった。
こうしていれば安全かもしれないが、それが続くという保証はないのだ。
結局、自分が置かれている状況を確認しないことには、全て机上の空論で語るしかなくなるのである。
そこまで考えてしまえば、結論を口に出すことはそう難しいことではなかった。
「生きている人がいないか、探そう」
「はい。私も、それがよろしいかと思います」
危険だが、やるしかない。
もし、まだネグロフを襲った勢力が城内をうろついているなら、厨房に留まったところで安全の保証はない。
そして、その逆であるならば、逆に現状を把握できていない状態で歩き回っても、遭遇することはない。
詰る所、厨房に籠城する必要性はあまり感じない、ということだった。
そりゃそうだ。
鍵をかけたところで、扉は木製。蹴破ることは容易い。
おまけに、宝物庫とかならいざ知らず、厨房とあっては施錠してあれば怪しむのも当然。
ここにいれば絶対安全だ、ということは、おそらくない。
なら、合流の可能性を秘めた選択の方が良いのではないか、ということだ。
そうと決まれば長居は無用。
来たとき同様、僕とターナは忍びつつ厨房から出ると、生存者を求めて荒れ果てた城内を、再び歩き始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
当然、気分転換の散歩というわけでもないため、僕とターナは無言のままだ。
余計な物音を立てないよう、足下に注意を払いながら、ゆっくりと探索を続けていく。
僕らと同じく、身を隠して生き抜いた人がいるかもしれない――そんな期待を持ちながら、一部屋一部屋を確認して回る。
最初は緊張で吐きそうになっていた僕も、六回目の扉を開ける頃には少しずつ慣れてきたのか、まずは耳をあてがって中の音を確認してからドアノブをゆっくりと捻るようにしていた。
音という情報を探るだけでも、精神的な負担はぐっと減るのだ。
「誰も、いませんね」
「うん。・・・・・・みんなはともかく、メイドさんさえいないね」
僕は無断で身勝手な行動を起こしたから当然なのだが、僕以外のクラスメイト――異人は、既にこの危機を脱したのだろう。
とはいえ、使用人の死体さえ見かけないことから、意図して戦闘要員だけが殺されている、と推測できる。
事実、そう考え出すと、僕らが二人の兵士に連れられて控え室を目指していた時も、「兵士は根こそぎか」というようなことを言っていた記憶があった。
「うーん、そうなると・・・・・・メイドさん達も、うまく逃げ出せたのかな」
「そうかもしれません。使用人の総数は軽く百を超えますので、犠牲者が見当たらないということは、生きている可能性は高いかと」
「それならそれで安心だね。けど、そうなると城内で生きている人って、すごく限られる・・・・・・?」
「分かりません。ですが、見る限りでは兵士の方々は、あまり期待できないかもしれません」
探し回っているだけでも、かなりの数が亡くなっているのが分かる。
それほどまでに、道中で息絶えていた兵士達の亡骸が多いのだ。
成果を上げられぬまま、僕とターナは実に二十二枚目の扉を開けようとしていた。
ついでに、力ずくで破られた部屋もカウントすると、実に三十三部屋目。
城内の広さから考えればまだまだな数だが、僕が神経をすり減らして扉を開けるのにも限界があった。
たまたま。たまたまだ。
扉越しに音らしい音はない。
その時点で、僕は「また誰もいないんだろうなぁ」と考えながら、すっと扉を開けてしまう。
特に阻むものもなく、廊下と部屋を隔てていた木製の扉は開け放たれ、それと同時に部屋中をざっと視線が見回した。
「ユ、ユウスケ様っ」
僕の後ろで、ターナの緊迫が声になって僕の肩を叩く。
けど、僕は振り返るどころか言葉を返すことさえ叶わず、その場に文字通り凍りついてしまった。
「・・・・・・驚い、たな」
低い声が、耳に届く。
その部屋の奥、壁に背を預けたまま床に腰を下ろした男が一人。
灰色の甲冑で身を包むその男性は、ぐったりとした様子で右脇腹を押さえている。
どうやら負傷しているようだが、僕とターナが停止状態になるのは、そこではない。
敵だ。そう、この男性は敵なのだ。
確か、百獣の騎士団とやらの騎士のはずで、この惨状を作り上げた一人でもあるはずだ。
けど、そんな僕らを前に小さくため息を吐くと、その男性は項垂れながら言葉を続けた。
「もはや、忠義は果たされた。・・・・・・貴殿らに刃を向ける意味もない」
――なれば、去るがよい、と。
明確に、かつ力ない声で、その男性は敵意がないことを伝えてきたのだ。
とはいえ、それを受け止め切れていない僕らを見て、彼は思うところがあったのだろうか。
「トドメを刺したいならば、止めはしない。得物は・・・・・・そこら中に落ちているだろう」
どうやら、僕らの沈黙を憎しみ故、と解釈したようだ。
そう言われると、確かにふつふつと沸き上がるものはあった。
僕もターナも、命からがらここに立っているわけであり、目の前で犠牲となった命もある。
復讐という意味合いであれば、動機は十分であった。
「・・・・・・どうした? 何を迷う必要がある」
けど、身体は動かない。
少なくとも、僕の身体はぴくりともしなかった。
本来、畏怖するべき存在というのもあるだろうが、僕自身、この騎士の言い分を消化しきれていないからだ。
「・・・・・・そんなこと」
「・・・・・・ん?」
「そんなことしたって・・・・・・誰も、還ってきません」
そうだ。殺したところで、一体何が救われるというのだろう。
数秒の沈黙が流れ、再び会話のバトンが男性側に渡っている中、彼は一層大きなため息を吐いた。
「その通りだ。・・・・・・だからこそ、君には私を手に掛ける権利がある」
「そんな権利、いりません」
「・・・・・・ならば、去れ。私は既に、看取られるほどの資格はない」
頷けなかったのは、その二つ。
殺せ、ということと、見殺せ、ということ。
つまり、怪我をしている様子のこの男性を前にして、助けない、という選択肢に対し、僕の心は強烈な反発を示していた。
「ターナ、手当てする道具ってあるかな」
「へ? て、手当て・・・・・・ですか?」
「うん」
振り返り問うと、少しの間きょとんとする彼女は、慌てて何かを探しに走った。
「・・・・・・正気か?」
それを、百獣の騎士たる男性が、絶望にも近い声音で呟いた。
「だって、見捨てられません」
「私は・・・・・・百獣の騎士だぞ。このネグロフに反旗を翻した、裏切り者だ。百歩譲り殺さぬとしても、命を助ける道理がない」
「道理なら・・・・・・あります、たぶん」
心のつっかえは、思ったよりも早く見つかった。
そう、確かに男性を含め、この灰色の甲冑と人狼は祖国を襲っただろう。
その影響で僕もターナも、危うく命を奪われるかも、という危険にさらされた。
しかし同時に、ある騎士が僕らを見逃してくれたおかげで、今を生き存えているという事実もある。
これを無視して、裏切りだ復讐だ、と憤慨するほどの怒りが、僕の中にはなかったのである。
ただあるのは悲しみ。犠牲になった人達の死を悼む、心の痛みだった。
「ユウスケ様、近くの部屋から治療箱を持って参りました」
「ありがとう、ターナ」
白い箱を受け取り、深呼吸を一つして、歩を進める。
それを、予想よりも早く向けられた刃の切っ先が牽制した。
「去れ。この身は慈悲を受けるべきではない」
「・・・・・・」
ごくり、と喉が鳴る。張り詰める音だ。
「自分が何をしようとしているか、分からぬほど底抜けの痴れ者でもあるまい」
「でも、僕らはきっと・・・・・・あなたの仲間に見逃してもらったおかげで、助かったんです。だから、このまま見て見ぬ振りなんて、できません」
「私の罪とは釣り合わぬ赦しだ。何故、そうまで助けようとする?」
「それは――」
――おそらく、そういう性格だから、だろう。
元いた世界での僕は、そういう風に育ってしまった。
無論、これは家庭環境や両親の影響、日本という国での教育環境から今に至る経緯が詰っての結果だ。
誰かを恨むよりも、悲しみに暮れる方を選ぶ。
誰の死でもそうできるわけじゃないけれど、少なくとも今は・・・・・・こみ上げるものといえば、涙だけだった。
「僕は、そういう人間なので。・・・・・・許すとは違うけど、だからといって見殺しにもできません」
言いながら、剣の切っ先を避けて、僕はずんずんと再び歩き出した。
自分から踏み出してみれば、向けられた刃はその程度のものだった。
あくまで制止の手段であり、本気の殺意など微塵も込められていない。
僕がその男性のもとに辿り着く頃には、再び剣を握る腕は力を失っていた。
「手をどけてください。あと、しみると思うので我慢してください」
「・・・・・・・・・・・・」
返答はないが、渋々、という感じで脇腹を庇っていた手が撤去される。
僕の背後で、ターナが小さく「私もお手伝いします」と言ってくれた。
応急手当の仕方は、運動や剣の教本で穴が空くくらい読み込んでいる。
スポーツに怪我はつきものであるように、訓練にも怪我はつきものだ。
実践は今日が初めてだけど、ターナの助けも借りられるならば、できないことはない・・・・・・はず。
治療箱を開けてみると、そこにはまさしく応急処置用の道具が幾つか入っていた。
包帯、針と糸に清潔な布、度数の高い酒瓶だ。
もっとも、傷口を縫うなんて真似はできないので、僕がやることは二つ。
傷口とその付近の消毒、洗浄。
そして、あとは悪化しないように止血の役目で包帯を巻くこと。
傷口をあらためると、強力な一撃によって、鎧の一部は砕けていた。
横一文字に刻まれた裂傷からは、少し粘り気のある血がゆっくりと流れ出ている。
「鎧、脱げますか?」
そのままで手当てできないこともないが、やはり鎧が邪魔だった。
男性は気怠そうに剣を握っていた方の腕を持ち上げると、鎧の胴部分を繋ぎ合わせる金具を器用に外していった。
僕は、ターナと二人で鎧の上半身部分を取り去る。
表情にも口にも出さないけど、鉄の鎧ってとんでもなく重たい。
こんなものを全身に装着しながら、よく戦えるものだと本気で不思議に思う。
お酒――というか、要はアルコールで自分の手を消毒し、同じものを布に含ませ、傷口付近と傷口そのものを消毒していく。
「・・・・・・っ」
息を止め、奥歯を噛む気配が伝わってきた。
それを見てか、ターナが男性の緊張を和らげるように、「すぐ終わりますから」と優しく声をかける。
これは、特にどの教本でも詳しく書かれていたのだけど、とにかく手早くやることが重要なんだとか。
淡々と進めていくことで、結果として処置を行う側も受ける側も、精神を摩耗する時間が少なくて済む。
だから、僕はただ黙々と応急処置――傷への対処に集中した。
正確には、意図的にというよりも、そうするしかないくらい精神的な余裕がなかっただけなのだけど。
「・・・・・・ふぅ」
ターナと二人で包帯を巻き終わると、額を濡らしていた汗を手の甲で拭いながら、肺から熱を逃がすように息を吐いた。
ひとまずは、これで大丈夫なはずだ。
(き、緊張したぁ・・・・・・)
終わると、途端に僕の手足を小さな震えが襲ってくる。
今までは、せいぜい絆創膏程度だった僕が、戦いで受けた切り傷の処置を行うなんて、人生初の経験だった。
「異人は、とうに逃げ出したものと思っていた」
「・・・・・・え?」
「我らが王城の中枢に攻め入る時には、既にその姿はなかった」
男性は兜がうっとうしくなったのか、乱暴に脱ぎ捨てると、その鋭い視線を僕に向ける。
けど、その鋭さには、僕の記憶にある獣の気配はない。
「君は異人だろう?」
「・・・・・・はい。僕は、ターナを探して・・・・・・みんなとはぐれてしまったので・・・・・・」
「なるほど。・・・・・・その少女を守る為、戦場に身を投じたわけか」
「そんなっ、身勝手な振る舞いです。守るよりも、守られてばかりでしたし・・・・・・」
後悔に視線を落とす。
そんな僕の情けない姿を見て、男性は噛み締めるような声で言葉をもらした。
「同志が殺せぬのも、無理はない」
少年、とその男性は僕を呼ぶ。
「弱さを知っていながら立ち向かったのであれば、それを我らが斬って捨てることなど、できはしない。君が生きたことは、君が勝ち取った勝利だ。この戦場において、君は武力とは別のもので生き抜いた。・・・・・・自分を責めることは、君のために散った者達への手向けにはならない」
顔を伏せるべきではないと、その男性は言う。
確かに、そうかもしれない。
僕自身が勝ち取ったという感覚を持っていないにしても、自責に溺れる姿を望んでいる人は・・・・・・きっと、いないだろう。
自分の悪い癖に頭を振り、無理矢理にでも顔を上げる。
男性はそれを見て、「それでいい」と頷いた。
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そんな数の人達が、たった一夜で死んでしまうなんて・・・・・・。
「王城と城下では、寒さに対する対応力がありすぎる。我らが団長のもたらした雪嵐は、魔性のものだ。厳冬期のような自然の厳しさではなく、冷気という在り方を借りた殺意と考えればいい。ユウスケ、君は王城を出なくて正解だったな」
素直には喜べない。
僕とターナはたまたま生き延びたけど、それじゃあ城下の人やクラスのみんなは・・・・・・。
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「じゃあ、クラスのみんなは・・・・・・」
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【作者より、感謝を込めて】
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
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たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
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