ロータリー使いなボーカリストでも、割と普通に高校生活を送れるらしい。

Hakurou3030

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1話~高校生ドライバー、二年生に~

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……これは、身内を全て失った少年が送る高校物語である。




━━━━━━━━━━━━━━━


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━━━━━




「………え……お父、さん……お母さん……」

少年の目に映っているのは、リビングに広がる血の海に倒れた両親の姿。そして……散弾銃を持つ、まるで無気力な若い男の姿。

「ああ………その声、聖也君か」

その男は酷く哀しい声でそう言い、少年に銃を向ける。だが、

「……いや、出来ない。なんの罪も無い人達を、どうしてこれ以上殺せる…?」
「っ、あなたは……なんで、こんな事を……」

その男は少年も見た事のある人だったので、恐怖も忘れてそう問いかけた。しかし、男はそれに答えない。

「俺は何故、この人達を殺したんだ……?ただ、曽祖父母が月の一族に邪魔されたってだけで、この人達は何も悪くないのに…」
「………っ!何をする気ですか…!」

男が急に銃口を自分の頭に当てたのを見て、少年は思わず固まってしまう。

「聖也君、本当にすまない……こんな身勝手な俺を、許してくれとは言わない……本当に、本当にすまない……」
「……だ、ダメだ……止め……!」

そう少年が言ったのも虚しく。


一発の銃声が部屋中に鳴り響いた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「うぅ……ああ、夢か」

頭を抑えながら俺は目覚める。何かおぞましい夢を見ていた気がするのだが……上手く思い出せない。時計を見ると、その針は五時を指していた。

「まあ、いいか……今日からまた学校だし。つーか、もう高二か……」

そう。春休みが昨日で終わり、今日は入学式兼始業式の日なのだ。ようやく、晴れて俺も高校二年生となる。入学生達も沢山バスに……って、

「あー……そういえば、スクールバスの時間変わってんだっけ。満員になり次第出発だから……運が悪いと座れないな」

そう考えた俺が自分の車で登校しようと決めるまで、長い時間はかからなかった。満員バスの中で立ってるくらいなら、FDに乗って行っちゃった方が楽だし速い。

「確か、今日は八時半に教室だったな。……七時には出るか」

ここから俺の通っている学校……『私立叢雲学園高校』までは、車でも一時間弱かかる。今日は入学式だし、早めに行くに越した事はない。

「っし、じゃあ支度すっか……」

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

七時きっかり、俺は深紅色ワインレッドのFDに乗り込みエンジンをスタートさせた。

(この時間なら余裕だな……初日から車で行って、柊先生に怒られなきゃいいけど)

自分の担任の顔を思い浮かべながら、俺は学校に向けて車を走らせていく。

……紹介が遅れた。俺は月影聖夜つきかげせいや、高校生だ。何故車に乗っているのかは、まあ……諸々の事情があるとだけ言っておこう。

さて、今日我らが『私立叢雲学園』は、第……何回目かは忘れたが入学式がある。四百人近い新入生が、今日から高校生活をスタートさせるのだ。中学時代の後輩も何人か入ってくるし、割と楽しみだったりする。

(確か、弘也さんの娘さんも入学するんだっけ……読み上げの時、『奏城』っていう苗字を聞き逃さないようにしないと)

ちなみに弘也さんというのは、俺のFDを見てくれているメカニックの事だ。

ついでに、今乗っている車に関しても少し。車名を『マツダ RX-7 FD3S Type-R』という。

知っている人は知っているだろうが、この車はスポーツカーだ。280psを誇るロータリーエンジンにシーケンシャルツインターボを組み合わせ、フロントミッドシップという理想的な前後バランスを持ち、さらにFR後輪駆動ということもあって、曲がりやすく速いという優秀なクルマである。欠点は燃費が超悪い事だが……まあ、そんなの気にしてたら走り屋はやってない。

今ので出たが、俺は走り屋もやっている。もちろん峠や高速を攻めるわけではなく、サーキットに出向いて走っているという感じだが。

実はうちの若い女性担任、柊美奈子ひいらぎみなこ先生も走り屋をやっていたりする。彼女の乗っている車は……まあ、別の機会に。

まあ、ともかく。色々と事情があって、俺は免許を持つのを政府に許可してもらっているのだ。俺は昔、ある事件に遭って身内を全て失い、孤独の身となったところを政府に保護してもらっている……この立場を有効活用してみた結果だ。濫用とも言うが。

(そういえば……今日は午後から筑波借りてるんだった。学校終わったら直で行くか)

久し振りの全開走行なので、今から楽しみで仕方がない。どっかでガソリン入れてって、タイヤのグリップ使い切るまですっ飛ばしてくるとしよう。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

FDを校舎近くの駐車場に置き、俺は教室へと向かう。駐車場は位置的にバスの発着場所に近い為、乗り入れた時(主に一年生から)すごい注目を集めていたが……うん。どうやら、クルマ好きが結構多いようで。

「お?聖夜、今日はFDか?」
「おうよ。今年度もよろしく頼むぜ、しゅん

昇降口辺りでこう挨拶してきたのは、去年に引き続き同じクラスになった古谷瞬ふるやしゅん。かなりのクルマ好きであり、俺がサーキットに行くとたまにしれっと居たりする奴である。顔がとんでもなく整っているのだが、車が好きな人としか付き合わないと言っている残念なイケメンだ。

「聖夜、おはよ!」
「おはよう。また同じクラスだしよろしくね、聖夜」
「およ、凛音りおん汐織しおりも居たのか。おはよう」

その後ろからやって来た、セミロングとポニーテールの美少女二人にもそう挨拶を返した。セミロングの方を涼見汐織すずみしおり、ポニテの方を姫川凛音ひめかわりおんという。二人とも、瞬と同じで俺のクラスメートだ。ちなみに、凛音は同じ剣道部の仲間でもある。

「皆、今日は早いのね」
「ああ、さっさと暖かい教室に入りたかったからなあ」
「バスには座れないの覚悟してたし、早く教室で休みたかったのもあるわ」
「ふふん、クルマで来た俺に死角は無かった」
「へえー……喧嘩売ってる?」
「痛っ、ちょっと汐織さん、蹴らないでくださいな」
「いいぞーもっとやれー」
「おい瞬……煽ってないで助けてくれよ」

その間にも汐織がいい笑顔で蹴りをかましてくる。そのたびにプリーツスカートがひらめくのだが、うちのスカートはそんなに長くないので……

「……白か」
「………」
「はい本当にごめんなさい」

彼女が本格的に不機嫌になってきたので慌てて取り繕う。……ちょっとやり過ぎたか。顔も赤くなってて膨れっ面だし。

「不機嫌ねえ、汐織」
「…疲れてる私に喧嘩売るのが悪い」
「はは、すまないな。……でもさ、言ってくれたら良かったのに。そうしたら家まで迎えに行ったよ?」

そう言うと、不機嫌だった彼女は途端にわたわたとし始め、

「あー、いやそれは……なんか恥ずかしいし、変な噂も流れちゃうかもしれないし」
「まあそうだよな。んじゃ、さっさと教室に行きますか」

久し振りだよなー、と言いながら俺は靴を履き替え、彼女達と駄弁りながら教室に向かう。

その暖かい教室に入ると、近くで話していた一人の男子生徒がこちらに声をかけてきた。

「お、聖夜じゃん。おはよーさん」
「おうよ。たける、元気してたか?」

こいつは松嶋健まつしまたける。瞬と同じように、車が好きな男子だ。

こいつらを筆頭に、意外とうちの学校にはクルマ好きが多い。まあ、こいつは俺が車乗ってる事は知らないが。

「ああ。春休み中、父さんに筑波サーキット連れてってもらったしな」
「おお、良かったじゃん。何が走ってた?」
「確か……黒いエボⅥと、オールペンの赤いFDが走ってたな。いやあ、両方とも凄かったなあ」
(……ん?黒いエボⅥとFD?)

思わず心の中で復唱してしまった。確認の為、もう少し詳しく聞いてみる。

「……それっていつの事だ?」
「えーっと……ちょうど一週間前だな。それがどうかしたか?」
「……ああ、いや何でもない」

口ではそう言ったものの、内心結構驚いている。一週間前の筑波サーキット、そこでのエボⅥとFD……どう考えても俺と、知り合いの四十過ぎのおっさん……失礼、父親をやってる人とで走った時の事だ。どうやら事情を察したらしい瞬が、俺に耳打ち。

「お前凄いってよ、聖夜」
「見られてたんだな……バレなくて良かった」

別にバレたところでどうって事は無いのだが、面倒な事は極力避けたいのも本音なのでそう言っておく。

「瞬、バラすなよ?」
「ははっ、そんな事しねえって」

まあ、こいつなら大丈夫だろう。友情は大事にする奴だし。

「その代わりに、今度ナビシートで全開走行拝ませてもらうぜ」
「……何周まで意識保つかな?」
「二周耐えりゃ俺としては頑張った方だ」
「せめて三周は持って欲しいけどな」
「いやいや、お前の走りが特別クレイジーなんだよ。全開フルスロットルからのレイトブレーキ、そっから豪快にケツ振りやがって……あんな激しく荷重移動されちゃ、そりゃ失神もするわ」
「もはやアトラクションだよな」
「……お前のことだよ」

呆れたように瞬が言うが、こればかりは仕方ない事だ。身体に走り方が染み付いちゃってるし、今更変える気もないし。……もっとも、誰かを乗せて走る時はパフォーマンスも兼ねてはいるが。タイムアタックの時はそんなに滑らせない。

「何こそこそと話してんだ?」
「なんでもない。それよか、そろそろ柊先生来るんじゃね?」

そう言った直後、スーツを着た若い女性が教室に入ってきた。

「はいはい、皆席に着いてー」
「噂をすれば、だな。早く座ろうか」

俺らを含め、クラス全員が慌ただしく着席する。ちなみに、俺の隣は汐織だ。

「はい、ありがとう。じゃあ自己紹介をするわね……と言っても、春休み前にしたばかりだけど。私は柊美奈子、趣味で走り屋をやっているわ。よろしくね」
「「走り屋!?」」

初めて告げられた先生の趣味に、瞬と健が反応した。他の生徒も、二人ほどではないものの結構驚いている。

「ええそうよ。NDロードスターって聞いた事ある?それに乗ってるの」
「へえ……NDですか」
「……聖夜と同じでマツダ車なんだな」
「聖夜と?」
「あ、いや……聖夜はFDが好きだって言ってたからさ」
「あー、なんだ」

……危ねえ。何故サラッと地雷踏みにいったし。

「さーて、あなた達はもう二年生、今日からは後輩が入ってきます。先輩としての自覚を持って、しっかり学校生活を送っていきましょうね」

そこまで言った先生は急に言葉を切り、

「ま、そんな堅い事ばっか言っててもつまらないからね。まだ時間もあるし、皆も自己紹介しよっか」
「「えー」」
「聖夜君と汐織さん、仲良いのは分かるけどそういう事言わない」
「今ぴったり合ってたな」
「ふふっ、確かにね」

絶妙にハモった俺達は、二人で顔を見合わせながら笑う。そんな俺達に先生も軽く微笑したあと、

「じゃあ出席番号順にやるけど……前か後ろか、どっちにする?」
「……結局やるんですね」
「あ、文句言うなら聖夜君からね~」
「もうヤダこの人……」

教師に振り回される生徒とはいかがなものか。……とか思いつつもしっかりとやってしまうあたり、俺も変わり者だな。

「えーっと……月影聖夜です。一応剣道部の副部長をやってます。……あと何か言う事ありますか?」
「趣味とか特技とか……好きな人とかもオッケーよ?」
「ツッコミませんからね?……趣味は楽器とか車のレースの観戦とか……あとスキーとボウリング。特技は……歌うこと、かな?まあ、一年間よろしくお願いします」

パチパチと拍手がおこる。中には俺の苗字についてひそひそと話している人もいたが………察しの良い子は嫌いだよ。すみません冗談です。

「じゃあ次、汐織さんね」
「あー、やっぱり私ですか?……私は涼見汐織、吹奏楽部に入ってます。趣味は音楽、特技は……そうね、スキーが得意です」
「あれ?汐織、好きな人はー?」

唐突に凛音の茶々が入った。それを聞いた汐織もすぐに反応し、

「あ、えっと、私の好きな人は……って言えるわけ無いでしょ」
「えー、つまんないの。そこまできたら言っちゃいなさいよ」
「じゃあ凛音は言えるの?」
「ええ。汐織と同じ人、とだけね」
「ちょっ……やめなさい、面倒なことになるから」
「ふーん……誰の事なんだ?」
「「っ!?」」
「……えっ?俺なんか悪い事した?」

何気なくそう言ってみたのだが、当の二人はそれを聞くなりビクッと縮み上がってしまう。凛音がこちらをチラリと見て、ボソッと一言。

「空気読んでよ……」
「いや何で俺が責められてんの?」

理不尽ここに極まれり。俺に発言の自由は無いのだろうか。

「はいはい、聖夜君は文句言わなーい」
「いや、本当に何なんですかこれ」
「じゃ、右からいこうかしら?」
「無視ですかい……」

……このクラス、幸先が不安である。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

~入学式終了後~

「このまま解散か……さっさと荷物取ってきて帰るか」
「うあー、ケツ痛え……」
「椅子に座れただけありがたいだろ」
「いやまあそうだけどさ……なんで俺達が入学式に出なくちゃなんないんだ?」

文句たらたらな瞬。それを受けて、健が言う。

「いいじゃんか。可愛い子も結構居たしさ」
「なに、お前年下狙ってんの?」
「別にそういうわけじゃ無いけどさ……やっぱ居たほうが良いじゃん?」
「まあ一理あるけどな……」
「ま、安心しろよ。お前の可愛い後輩には手を出さないから」
「あー…去年の文化祭の時、聖夜に会いに来たあの子か」

二人が言う後輩とは、雪宮瀬那ゆきみやせなという女の子である。俺が中一の頃から接点があり、今やお互いが兄妹だと思っているくらいの仲だ。

「やっぱりあの子は剣道部か?」
「どうだろうな……全国優勝者だし、俺としては来て欲しいけどな」
「聖夜が頼めば百パー来るんじゃねえの?憧れの先輩っぽいみたいだし」
「まあ、それとなく勧誘してみるつもりだけど……別に無理強いはしないよ」

来てくれれば確かに嬉しいが、まずは本人の気持ちを聞いてからだ。早めに勧誘しとかないとな……とか俺が思っているうちに、一年生の教室前に差し掛かっていた。

うちの学校は一階が一年、二階が二年…という風に教室が分かれている。ちなみに俺らはE組だ。二年生はJ組まであるので、ちょうど真ん中あたりである。

楽しそうに話している彼らを見て、一年生は純粋だな……と、そう思いながら真ん中の階段に向かっていた俺らだったが、

「あ、聖夜先輩!」

急に聞こえてきた女の子の声に足が止まる。声の聞こえてきた方向を見るに、どうやらすぐ近くのF組からのようだ。

「こっちです、こっち!」
「あっ、いたいた。久し振りだね、瀬那ちゃん」

亜麻色の髪をショートボブにした美少女が笑顔で手を降っているのを見つけ、思わず笑みがこぼれた。彼女はそのままこちらに走り寄って来る。

「まさか初日に会えるとは思いませんでした!」
「こっちもだよ。元気そうで何よりだ」
「雪宮さん、知り合いの人?」

彼女と話していると、周りに居た女の子達が瀬那ちゃんに問いかける。ほう、もうクラスメートと仲良くなっていたのか?……まあ、この子だったら普通にやりそうだけども。

「うん、中学の頃からお世話になっている先輩」
「へえー……なんか、やけに格好良くない?」
「こらこら、あまり先輩をからかうんじゃないよ」

瀬那ちゃんに質問していた一人、黒髪をサイドダウンにした可愛い女の子を軽くたしなめる。すると、その子は急にしおらしくなって、

「あっ、いやその……別にそういうわけじゃなくて……す、すみません!」
「先輩は優しいから大丈夫だよ。ねえ先輩?」
「優しいかどうかは分からんが、まあ……怒ったり気分悪くしてるわけじゃないから、別に怖がらなくていいよ」
「は、はい…」

とりあえず弁解するものの、依然彼女はやらかしたと思っているらしい。でも、後輩に怖い印象を与えたままなのはマズイので、どうにか払拭出来ないものかと改めて彼女の方を見る。すると、名札に『奏城』とあるのに気付いた。

「あれ?……もしかして、奏城深央かなしろみおちゃん?」
「えっ?そうですけど……どうして?」
「ああやっぱり。弘也さんにはいつもお世話になってます」
「……あっ!もしかして、よく来てくれてるFDの聖夜さん……!」
「そうそう、覚えてもらってるなんて嬉しいよ」

思い出してくれたらしく、驚きに満ちた声音と表情をする彼女。

ただ、ここからの話を健に聞かれるのはよろしくない。瞬もそれを察してくれたらしく、先に帰るぜと健を連れて行ってくれた。

「えっ?奏城さん、先輩と知り合いだったの?」
「うん。私のお父さんが聖夜さんのメカニックなんだ」

傍から聞いていればわけの分からない会話だろうが、瀬那ちゃんは俺が車に乗っている事を知っているため問題無い。実際に、他の一年生は揃いも揃って?マークを浮かべていた。まあ当たり前である。

「あ、なるほどね。……あれ?でもなんでそのメカニックさんの娘と先輩が仲良いの?ちょっとおかしいような……」
「……ちょ、なんで目つき鋭くなるの?」
「まさか、先輩と……」
「こら、変な勘繰りしない」

随分な勘違いをしかけている瀬那ちゃんの頭を、わしわしと少し乱暴に撫でる。その行動に瀬那ちゃんはわざとらしく首を縮め、

「きゃっ……もう、髪が乱れちゃいますよ」
「おっとごめん。でも、今のはお前が悪いだろ?」
「だって心配になるじゃないですかー」
「妹に心配されるとか兄として失格じゃないですかーやだー」

嗚呼、いつの間にこんなしっかりしてたのか愛しき妹よ……と、言葉とは裏腹に感動していると、深央ちゃんがひどくびっくりした様子で俺らに問いかけてきた。

「えっ、二人って兄妹なの!?」
「うん。でも、色々と事情があって……」
「はい、嘘つかない」

自分から言い始めたことではあるが、こんな事ばっかりしてたら話が進まないからね。

「まあ、そこらへんは後で話すとして……深央ちゃん、ちょっとFDを見てもらってもいいかな?駐車場に置いてあるんだけど」
「はい、大丈夫ですよ。……そうだ、じゃあついでに家まで送っていってもらっても良いですか?帰ればもっと詳しく見れますし」
「あー、ごめん……この後、直で筑波に行かなきゃならなくてさ、それで見てもらいたいっていうのもあるんだけど」
「あ、ごめんなさい!そうとは知らなくて……」
「いや、こっちこそごめんな。よく考えたら時間も無いし」

彼女はバス通学なのだから、その時間に遅れたりしては大変だ。まあ多少は自分でも見れるので、今回は……。

と思っていたのだが、何やら深央ちゃんが名案を思いついたように発言。

「……そうだ!それなら、私も筑波まで着いていっても良いですか?現地に行った方がアドバイスもしやすいですし」
「いや、その気持ちは大変ありがたいんだけど……弘也さん達、心配するんじゃない?」
「電話すればノー問題です!」

そう言うなり携帯を取り出して電話をかけようとしたので、俺は慌てて彼女を止める。

「……校舎内の通話は禁止だよ」
「あ、すみません……」
「まあ、外でなら大丈夫だから。俺は荷物取ってくるから、とりあえず昇降口で待っててくれるかな?」
「えっ、連れて行ってくれるんですか!?」
「弘也さん次第だけどね」

やったー!と舞い上がっている深央ちゃんを微笑ましく見つめてから、俺は瀬那ちゃんの方を向いた。

「どうしました?」
「……部活ってもう決めた?」
「はい、もちろん剣道部です!」

何の心配もいらなかったようだ。勧誘するまでもなく、彼女の心は決まっていた。

「……そっか。それを聞いて安心したよ」
「なんですかー、私が剣道以外をやると思ってたんですか?」
「まさか。ただの確認だよ」

可愛らしく、そしてわざとらしく頬を膨らませた彼女をひと撫で。猫のように目を細めて気持ちよさそうにする瀬那ちゃんを見て、早く兄離れさせないとな……と思う。まあ、俺もなんだが。

「じゃ、そろそろ戻るかな。またな」
「はい、また今度~」
「では、また後で」

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「……うん。それでね、聖夜先輩と筑波サーキットまで行きたいんだけど……」

FDの前で、深央ちゃんは弘也さんに電話している。それを横目に、俺はFDのエンジンをスタートさせた。ヴォォンと響いたエンジン音が、一瞬周りの注目を集める。

「……先輩、お父さんが代わって欲しいみたいです」
「了解」

心なしか嬉しそうに差し出された携帯を受け取り、電話を代わる。

「もしもし、聖夜です」
『弘也です。聖夜君、久し振りだね』
「こちらこそお久し振りです。どうされました?」
『いや、深央をよろしくとだけ言いたくてね。少しやかましいかもしれないけど、連れて行ってくれると嬉しい』

「いえいえ、元はといえばこちらから頼んだ事ですから」
『……そうだ、一つ頼みがあるんだけど』
「何ですか?」
『……深央をナビシートに乗せて、聖夜君の全開走行を体験させて欲しい』
「はい、別に構いませんが……」
『ありがとう。では、よろしく頼んだよ』
「分かりました。それではまた」

通話が終わった俺は、ハンカチで画面を拭いてから彼女に携帯を返す。それを受け取った彼女は、早速FDを見渡していた。

「ボンネットも開けるかい?」
「あ、良いんですか?ずっと見てみたかったんです」

俺は黒いカーボン製のボンネットを開け、彼女と共にエンジンルームを覗き込む。その中を見た彼女は、どうやらかなり驚いているようだ。

「……凄いですね、これ。何馬力出ているんですか?」
「うーん……全体で500くらいかな」
「なるほど……。エンジンだけで300強は出てるだろうし、それを大口径のツインターボで強化しているのね……」

そこまで言った深央ちゃんは、今度はFDのフロントタイヤの近くに屈み込んで、

「足も固まってるだろうし……軽量化はしてますか?」
「ボンネットとかは軽いカーボン製のに変えてるけど、オーディオとかはそのままだよ」
「ふむふむ……まあ、FDは元々軽いですもんね」

その後も依然興味深げにあちこちを見て回る深央ちゃんだったが、ふと隣に停めてあった車に気付いたらしい。

「このクルマ、エアロも足回りもしっかりしてる……先輩、これって誰のクルマなんですか?」
「ああ、それは……おっ、ちょうどいいところに」

タイミングよく、隣のロードスターの持ち主がやって来た。その持ち主とはもちろん、我らが担任である。

「あれっ?聖夜君、もう下級生を誑かしたの?」
「いやいや、なんですか誑かすって……この子、『奏城モータース』のとこの娘さんですよ」
「ああ、納得したわ」
「先輩、この方は?」
「うちのクラスの担任だよ」
「柊美奈子といいます。よろしくね」

教師だと思わせないほど朗らかに、柊先生は挨拶をする。これには深央ちゃんも毒気を抜かれたようだ。

「あ、よろしくお願いします……」
「いい子ねえ。……聖夜君、今日は筑波よね?」
「はい。柊先生も来るでしょう?」
「ええ、ちょっと遅れるけど。今日は何時まで?」
「一応、八時まで借りてます」
「分かったわ。じゃあ、また向こうで」

車の中に置き忘れていたらしい荷物を取って、彼女は慌ただしく職員室に戻っていった。

「……聖夜先輩。あの先生、何者ですか?」
「ん?ああ、あの人は……教師兼走り屋。めちゃくちゃ速いぜ」
「……なんか凄いですね、この学校」
「……まあ、それは否定出来ないな」

今まで会ってきた人達を省みると、全く否定出来ないのが悲しい。走り屋やってる教師、身内のいない天才剣道少女、学校のアイドルとも言われている美少女も二人うちのクラスに居るし。……もちろん、凛音と汐織のことである。

ネットでそれなりに知られている、これまた美少女な歌い手もうちのクラスに居たりする。正体は知られないようにしているらしいが。

かくいう俺だって走り屋をやりながらも、そこそこ有名な『Luna』というバンドのボーカルもやっているのだ。無論正体がバレないように努力しているから、この事を知っているのは凛音と汐織、そして例の歌い手……篠塚舞しのづかまいという少女、その三人のクラスメートだけだ。

というか、それなら深央ちゃんも大概だと思うが。ここまでクルマの知識がある女子高生なぞ、今はほとんど居ないだろう。

「まあ、それは置いといて……深央ちゃん、夕飯はどうする?」
「あ、そうですね……確か八時まで借りてるんでしたっけ」
「ああ。だから、どうせなら何処かで食べてから帰らない?」
「いいんですか!?……あ」

喜びから一転、急に悲しそうな顔になった彼女。

「どうしたんだ?」
「でも私、あまりお金持ってないので……先輩とのお食事、とても行ってみたいんですけど……」
「ああ、なんだ。それなら気にしなくていいよ」

そんな事だったのか、と俺は微笑みながら言って、

「こういう時は男に払わせりゃいいのさ」
「で、でも……」
「大丈夫だって。じゃあ早く行こっか」
「……分かりました。その……よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」

それこそ本物のレーサーとメカニックのように握手を交わし、俺はFDを筑波に向けて走らせていった。


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