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「名前〈ナーメ〉」
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しおりを挟む舞い上がる土埃。
パラパラという塵の落ちる音。
ヒビの入った壁、外れたドア。
「………予測通り、でしょうか」
ポツリと零したのは、エルターン。
激しい損傷が見える部屋とは裏腹に、部屋にいた人物は誰も怪我をしていない。
「ふぅ、間に合って良かったよ」
肩の埃を払いながら立ち上がったのはアールツト。
「ズィンの気配察知のお陰だね。あれが無かったら、保護の発動が間に合わなかったかも。」
「いやアール、君は爆発するのに気づいてたでしょ」
「何のことでしょーか」
「ヴァナディーズの名を出した時にあの子が反応を示してたのに、同じタイミングでフライヤの名まで出したのは確信犯だよね?」
「ちぇっ、バレてた」
「あの子がフライヤの器かもしれなくて、女神の名を出せば能力が発芽すると思われる、でも力が強すぎるとやばいから英語名だけにしよう、までしか聞いてないんですけど」
「いえ、それも作戦のうちだったのですよ、ズィン」
「エルターン………君はまた故意に僕らには言わなかったってことだよね?またアールだけ?何で?〈黒〉だから?〈白〉と〈黒〉はそんなに偉いの?」
「こら、ここみたいなどこで誰が聞いてるかわからないところで言わないでよ」
「だって僕らも〈色〉なのに、何で言ってくれなかったの?作戦がわかんなかったせいでフュージョンが怪我してたらどうしてくれるつもりなの?」
「いい、辞めとけズィン」
「フュージョン………」
「それよりも、だ。……やはり、彼奴がフライヤの器なのか?」
「えぇ。……確定でしょうね。この子は、」
エルターンが新しい家族となる少年を抱き上げる。
「生まれた時からここに来ることが決まっていました。予言の能力者がフライヤの器がこの地に生まれると予言した時から、ずっと進めてきた準備がようやく実を結びます。」
「ホントだよ。僕なんてこの子の家のかかりつけ医になってまで信頼関係を築いて、やっと不自然じゃなくここまで連れてきたんだから。」
「ねぇ、この子の名前どうする?フライヤなんて名乗らせられないでしょ?」
「そうですね………この子の本当の名前から取って、」
僕は目覚めると、白い天井の部屋にいた。
少し首を曲げると、部屋全部が白いことがわかる。
こんな部屋に来たような覚えはない。
だが、僕がいた場所も思い出せない。
僕は、誰だっけ。
頭がぼやっとする。
僕は、……僕は…………。
そうだ─────────リヒト。
僕の名前は、リヒト。
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