白雪姫はめんどくさい

ちは

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プロローグ

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「白雪さんすごい!1位だって」

「白雪姫って可愛いだけじゃなくて頭もいいとかすごいよなぁ。確か入試もトップだったんでしょ?」

「わかる。まじで御伽話から出て来たみたいだよな白雪姫」

「あ、白雪さんだ!1位おめでとう!」

「ありがとうございます」

 白雪さんと呼ばれた少女は周りの賞賛や歓声に似た甲高い声に応えるように笑顔で感謝を述べる。その笑顔にある者は見惚れ、ある者は黄色い声をあげる。この学校に通い始めて2ヶ月が経とうとしていたがもはや見慣れた光景である。

 私立六花高校。周辺にある高校の中では一番偏差値が高く、文武両道を掲げ勉強にも部活動にも力を入れている伝統のある学校。毎年のように超難関大学合格者を出していると言う実績があり、部活動でも大会で良い成績を収めたりと地元ではかなり有名な高校である。

 そんな高校で今、学校全体の注目を浴びていると言っても過言ではない少女がいた。彼女の名前は白雪凛花しらゆきりんか。夜を彷彿とさせるボブカットの黒髪、雪の様に透き通った白い肌、そして林檎の様な鮮やかな赤い瞳。頭脳明晰で容姿端麗でさ品行方正。それだけでも十二分なのにもかかわらず運動能力まで抜群という完璧な女の子。まるで御伽話から出て来たみたいだと言われる彼女はいつしか学校中で“白雪姫”と言う愛称で呼ばれる様になった。




「白雪姫まじ可愛いよなぁ……。付き合えたりしないかなぁ」

「無理に決まってんだろ。そろそろ現実を見た方がいいぞ涼太りょうた

「いやでもさぁ、もしかしたら何かしらでお近づきになれたりするかもしれないじゃんかよ」

「そんなのが起こるのは2次元の世界だけだよ。最近ラブコメかなんか見た?」

「何故バレた」

「まぁああいうのはフィクションであって現実で起こる可能性はすんごい低いからあんまり夢を見すぎない方がいいとは僕も思うよ」

「陽ようまでひどくない?」

 学生の話し声や笑い声で満ちた食堂の中、俺──佐藤拓人さとうたくとは2人の友人と雑談を交えながらご飯を食べていた。

「てかそういう拓人も彼女いないだろ。お前の相方は彼女とイチャイチャしているというのに......お前はそれを見せつけられてなんとも思わないのか!」

「いや特になんとも。ただ仲よさそうだなぁとしか思わないかな」

「え、なに。お前もしかして枯れてる?」

「枯れてないわ。後一応食事中だぞ」

 疑いの表情を浮かべたのは石崎涼太いしざきりょうた。俺と同じくらいの身長ながら割とガタイのいい赤髪の少年。俺と同じくオタク趣味を持つ友達だ。ガタイがいい理由は筋肉のある体はモテるからという単純な理由である。それでも継続できているのはすごいことだが。

「涼太、そんな現実ばかり見ていては辛くなるだけ。今度おすすめのラノベ貸してやるからそれで元気出せよ」

 慰めるような口調で涼太に語り掛ける。隣に涼太が座っていたらおそらく肩に手を置いていたであろう。

「……ちなみにジャンルは?」

「ラブコメ」

「追い打ちかけにくんじゃねぇよ!余計彼女いないという現実が辛くなるじゃねぇか!」

「はいはい二人とも落ち着いてー」

 雑に俺らのことを静止しながらご飯を口に運んでいるのは加藤陽かとうよう。身長は若干低めの茶髪の少年。顔立ちが整っており、女の子からの人気が高い。ちなみに彼女持ちである。

「彼女いるからって随分と余裕そうな態度だなぁ。つかもう一人の彼女持ちはどうした?」

「正樹まさきは今日生徒会だって」

「あれ、そうなんだ。僕てっきり彼女さんと一緒かと思った」

「あぁよかった。俺のこの拳が火を噴かずに済んだぜ」

「お前のそのガタイで言うと結構ガチに聞こえるからやめたほうがいいぞ」

 今ここにいないが話題に上がっている人物の名前は木村正樹きむらまさき。中学校から仲が良く親友と呼べる存在だ。勉強が出来て、生徒会に入っていて彼女もいる。ゲームやアニメなどの趣味嗜好は似ているのが、それ以外の要素においてほとんどのスペックが高い。俺の完全上位互換である。

「陽とまっさんのことは好きだけどまじで彼女いることが許せねぇわ。拓人もそう思うだろ?」

「だから俺は別に何とも思ってないって。許すも何も祝福すべきことだろ」

「だってさ涼太。拓人には今度コーヒー牛乳買ってあげる」

「まじか陽。やっぱお前かっこいいな、こりゃ彼女出来るわ」

「コーヒー牛乳で買収されるとか安すぎだろ......」

 彼女いる友達の肩持ったら大好物が返ってきた。やっぱ持つべきものは彼女持ちのイケメンの友達だな。

「というか拓人も地味に女の子の知り合いいるよなぁ……」

「知り合いが多いだけだけどな」

「こっちは女子と話すのもむずいんだよ!お前らにこの気持ち分かるか!?」

「それ女の子と話す以前の問題なのでは?」

「コミュ障乙w」

「うっせぇ!!言っとくけどコミュ障ではないからな!女の子と話すのが得意じゃないだけだ!」

 キレる涼太を見ながらコーヒー牛乳を飲む。うむ、上手い。いつもよりも何故だか美味しく感じる。

「涼太も女の子の前でおどおどしなかったら彼女出来そうなのにねぇ」

「し、仕方ないだろ。緊張すんだよ」

「彼女以前の問題だなマジで」

 陽のフォローを叩き折るように涼太を煽るとこちらを睨みながら唸り始める。事実なので言い返すことができずこうして威嚇しているらしい。お前は犬か。

「そういえば話戻るけど拓人ってあの白雪姫と知り合いだよね」

 コーヒー牛乳をゆっくりと飲んでいた俺に、いきなりこちらに銃口を向けられ、肩が大きく揺れる。

「そうだよずりぃよ!マジで!!こっちはそういう出会いもねぇんだよ!」

「そんなこと言われてもどうしようもできないんですけど」

「はぁ……こんなことなるなら俺図書委員になれば良かったわ」

 高校生活が始まったすぐの頃、クラスで委員会や各授業の連絡事項や課題提出をする係決めを行った。図書委員会に対して楽そうだし、受付の席で本を読んでいるイメージを持っていた俺は、「暇な時間ラノベ読めるの最高じゃね?」と言う単純な理由で図書委員会に手を挙げた。

 後日分かったことだがなんとあの白雪姫が図書委員会に入っていたのだ。しかも2人1組で受付を行うのだがくじ引きで白雪姫とペアになってしまったのだ。最初の頃は人畜無害な人間アピールをするのがとても大変だった。廊下で男子の大半から睨まれたのはいい思い出である。

「で?実際どうなんよ?仲良くなったのか?もしかしていい感じなったりするのか?ん?誰にも言わないから言ってみろよ」

「き、きめぇ」

「んだと」

「涼太流石にそれはうざいわ」

「陽までひどくね?」

 今すぐにでも引っぱたきなるくらいうざい口調で話しかけてくる涼太に自然と口が動いてしまった。いけないいけない。

「まぁ涼太が思ってるようなことになってないよ。つかなるはずないだろ」

「だよなぁ、でも今お前が一番リードしてるぞ?狙うなら今しかないって。つか狙わないなら俺に紹介してくれよ」

「白雪姫ガード固いもんね」

 白雪姫こと白雪凛花の周りには常に人が溢れている。御伽話の白雪姫の周りに小人がいるように、こっちの白雪姫も周りにクラスメートがいる。それこそ1対1で会話できるのは告白の時くらいだろう。まぁ今までに告白した人達は全員漏れなく撃沈しているらしいが。

「狙わんし紹介もしないわ。というか俺そこまで白雪姫のこと好きじゃないし」

「え、マジで言ってる?あの白雪姫よ?あんなかわいいのに好きじゃないとかお前どうなってんの?」

「逆に聞くけど付き合って何がしたいわけ?」

「そりゃもうイチャイチャしてあんなことやこんなこと、つまりセッ──ぐっ!」

「おい、公共の場で何言おうとしてんだお前は。そして陽ナイス腹パン」

「いやぁ間に合ってよかったよ。涼太、何か言うことは?」

「す、すんませんした......か、唐揚げが!唐揚げが生まれそう」

「生まれる言うな気持ち悪い」

 お腹を押さえて蹲る涼太に、目を細める。隣の陽が苦しんでいる涼太を見てとてもニコニコしている。普段は優しいのにこういう時は怖いんだよなぁこいつ。

「でも拓人って恋愛というかに興味ないよね。いや、どっちかっていうとあんまり人に興味ない感じか」

「いや俺そこまで人に興味がないわけじゃないぞ?恋愛に興味がないのはまぁそうだけど」

「俺はお前のその考えが理解できん。本当に高校生かお前」

「高校生以外の何者でもないだろ」

「この子可愛いなとか、仲良くなりたいなぁとかは思わないの?」

「可愛いなぁとかは思ったりするけどそれで終わりかな。それ以上の感情はあんまり湧かないなぁ」

「お前......ついてる?」

「ついてるわ」

「もしかして男の方が好きだったりする?」

「いやそんなことはないけど」

「はぁ......拓人、お前もっと恋愛に目を向けた方がいいぞ?」

「彼女いないお前には言われたくないけどな」

 やれやれといった感じで話し始めた涼太にほぼノータイムで切り返す。せめて彼女作ってから言えよそのセリフは。

「俺は今恋愛に向き合ってる最中だから!お前と違って恋愛にひたむきだから!!」

「必死の間違いじゃない?それ。まぁ拓人の自由だけど少しはそういう恋愛にも興味を持ってみたら?彼女が出来るといいこともたくさんあるよ?」

「ぐはっ!!」

「二次被害で涼太にダメージがいってる......うーんでも当分は恋愛とかはしないかなぁ。好きな人とかいないし」

「拓人は修行僧みたいだねぇ」

「無宗教だけどな。それと隣で倒れてるそいつ起こしてくれ。一応陽の発言で倒れたからな」

「えぇ......僕悪くないと思うんだけどなぁ」

「おい!嫌がられると余計傷つくだろうが!!」

 座っていたテーブルの片づけをして俺たちは食堂を後にした。
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