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白雪姫の悩み
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「はぁ......」
ページをめくることで聞こえる、紙と紙が擦れる音が響き渡るこの図書室。相も変わらず今日も本を借りに来る生徒はほとんどいない。そんな静寂の中で隣から悩みを吐き出すように大きなため息が聞こえてくる。
「はぁ~......」
隣に座っている人の悩み事は相当深刻なのか再びため息をつく。しかも先ほどのものよりも少し大きい。こちらに何かを知らせようとしている気がするが、気がするだけであってただの勘違いだろう。俺は気にせず読んでいるラノベのページをめくる。
「はぁ~~~.......」
くそでかため息が隣から聞こえてくる。しかもそのため息は自然と出た、というよりも明らかに人為的に出されたものである。俺は下げていた視線を横へとスライドさせる。俺を見ている朱色の双眸。どこか不満げな表情を浮かべながら頬杖をついている黒髪の女の子。
めちゃくちゃかまってほしそうにしてるわぁ......しかも「なんで気づかないの!」ってちょっと怒ってる気がするし。
「はぁ......どしたの」
呼んでいた本を閉じて机の上に置く。そして凛花の方へと顔を向ける。ちなみに本を置いた理由は、本を読んだまま話をすると「ちゃんと話を聞いて!」と怒られてしまうからである。
「別に、どうもしてないけど」
めんどくせぇ......。絶対なんか話したいことあるだろ。しかも俺が話を聞く態勢作ってちょっと嬉しそうな表情してるし。
言葉とは裏腹に凛花の表情と声音はどこか嬉しそうにしている。そんなに話したいことがあるなら話せばいいのにとかこのまま「そっか」と言って本を手に戻したら一体どんな反応をするのだろうとかの考えが頭をよぎったが一度それらをタンスの中へと押し込んでおく。
「本読むのちょっと疲れたんだよなぁ。凛花、なんか話してくんない?」
同じ姿勢で座り続けたせいで固まった体を軽く伸ばしながら凛花へと話しかける。
「し、しょうがないなぁ。まぁでも実は丁度良く聞いてほしいことがあるんだよね」
うん、知ってた。話したいことがあるの知ってたよ俺。
「今日ね──」
「ねぇねぇ白雪さんってイラスタやらないの?」
「あー!私もそれ気になってた!」
「ねぇ友達になろうよ!」
「だから白雪さんやってないんだって」
「あ、そうだったー」
午前の授業をすべて終え、お昼休みの教室はとても賑やかだった。教室のあちこちから話し声や笑い声が響き渡り、授業中のあの静かな雰囲気からは想像もできないほどの明るい空気が漂っていた。
それは私の周りでも同じこと。私を取り囲むようにしてクラスの女の子がワイワイと盛り上がっていた。
「今のところ始めるつもりはないですね」
「えぇー、始めたら絶対人気出ると思うのになぁ」
「それな、フォロワーの数すごいことになりそう」
「てかこの前の私の写真見た?あれめっちゃ可愛くない?」
「見た見た!あれチョーかわいい!!あ、白雪さんに見せようよ!」
「おっけー、ちょい待ち~......はい。白雪さん!これめっちゃ可愛くない?」
そうして見せられたのはアイスやクリームなどの白をベースに苺の鮮やかな赤色でに装飾されたパフェの写真。パフェの側面はハートが散りばめられており、頂上の部分にはおそらくそのお店のマスコットと思われるかわいい熊のクッキーが差し込まれていた。
「わぁ......かわいいですね」
「でしょ~、この前行ってきたんだよね~。」
「あそこ結構有名なとこじゃなかった?」
「そう、だから大分並んだよ~」
そこからは写真のお店がどうだったかや、他にこのお店が気になっているなどの話が次々と展開されていった。
「──なんだよね~......ってそうじゃん!白雪さんイラスタやらないのかって話だったじゃん!つい盛り上がりすぎて忘れてた!」
急に矛先がこちらに戻ってきたため、肩がびくりと揺れる。周りの人もそういえばそうだったという様子で話題を最初の方へと戻し始める。
「ね~白雪さんもやろうよイラスタ!絶対楽しいから!」
「そうですね......でも私あんまりそういうおしゃれなお店に行ったことがないんですよね」
「大丈夫大丈夫!こういう写真だけじゃないから!白雪さん可愛いし私服の写真上げるだけでもうバズること間違いないよ!」
「そうそう、どのジャンルでも大丈夫なやつだからそんなに気にしないでいいから」
「どう?始めてみない?」
「えっと......考えておきます」
「という感じのことがあったの」
わぁ......なんかすごい女子高生っぽ~い(小並感)。ちょっと陰キャの自分はついていけないっすわ。俺のことは置いていけ、この戦いにはついていけそうにない。
自分とは対極の位置、太陽の当たる場所というか太陽の真下にいる凛花の話を聞いて、これは自分に相談するべきことではないなと瞬時に思う。ちなみにイラスタとは自分の撮った写真をネットにあげて事故承認欲求を満たすよくあるアプリである(個人的意見です)。
「やっぱり始めた方がいいのかなぁ」
「というか俺からすればもうやってるのかなとか思ってた。賞味やってないことに驚いてる」
白雪凛花は常に周りに人がいる。そのためイラスタなどその手のものは既にやっているのだと思っていた。
「私ってほら結構人気者じゃない?あ、嫌味とかじゃないからね?」
「あーうんわかったわかった。ほら続けて」
俺の気分を害さないための配慮なのだと思う。それを理解した旨を伝えて、話の続きを促す。
「もし私がイラスタ始めたらその......なんというか面倒なことになりそうだなって」
「あ~、まぁ言われてみればめんどくさそうではあるな。フォローされてるかどうかとか、反応されたかどうかとかでカーストが決まったりしそう」
「でしょ?それにわざわざこのイラスタのためだけに遠出するのもちょっと大変そうだし、かと言って自撮りとかだけだとそれはそれでなんか嫌味を言われそうだし」
「確かに『白雪さん自分が可愛いからって自撮りしか上げないのなんか嫌だよね』とか陰で言われそう」
「その声真似やめて。ちょっと気持ち悪い」
「ひどくね?」
せっかく頑張って高い声を出したのにその言いようはひど......くないわ。ちょっときもかったかも。うん、もう今後はやらないようにしよ。心の中でそう強く誓った俺でした。
「だからやりたくはないんだけどなー」
「やらないはやらないでまた面倒なことになるかもしれない、か」
「そうなんだよねぇ......ぬわあああ」
凛花は変な声を出しながら机に突っ伏して手足をじたばたとさせる。
「白雪姫は大変だな」
「そうやって呼ぶのやめて」
「すまんすまん」
動かしていた手足を止めてムスッとした顔を上げる凛花に謝罪を入れる。人気者には人気者なりの悩みがあって大変そうだなという感想を抱く。
「そうだなぁ......まぁ試しにやってみて問題が起こりそうだなってかんじたら適当に理由つけてやめるとかでいいんじゃないか?」
「んー......まぁそれが一番よねー。よし!じゃあ早速写真撮ってみよう!」
「いやここ図書室ですよ?しかも仕事中だよ?」
勢いよく体を起こした凛花。その唐突すぎる提案に驚きを隠せない。行動力があるのはいいことだけど、さすがに時と場所は考えた方がいいと思うの。
「いいじゃん、どうせ人なんて来ないんだし」
「まぁそれはそうだけど」
「じゃあいいでしょ?」
「......いいんじゃないすかね」
「よし!これで共犯ね!」
「おい」
先ほどまでとは打って変わってテンションが上がっている凛花を止めることを諦めた俺は、うきうきで写真アプリを開いている凛花をぼーっと眺めた。
ページをめくることで聞こえる、紙と紙が擦れる音が響き渡るこの図書室。相も変わらず今日も本を借りに来る生徒はほとんどいない。そんな静寂の中で隣から悩みを吐き出すように大きなため息が聞こえてくる。
「はぁ~......」
隣に座っている人の悩み事は相当深刻なのか再びため息をつく。しかも先ほどのものよりも少し大きい。こちらに何かを知らせようとしている気がするが、気がするだけであってただの勘違いだろう。俺は気にせず読んでいるラノベのページをめくる。
「はぁ~~~.......」
くそでかため息が隣から聞こえてくる。しかもそのため息は自然と出た、というよりも明らかに人為的に出されたものである。俺は下げていた視線を横へとスライドさせる。俺を見ている朱色の双眸。どこか不満げな表情を浮かべながら頬杖をついている黒髪の女の子。
めちゃくちゃかまってほしそうにしてるわぁ......しかも「なんで気づかないの!」ってちょっと怒ってる気がするし。
「はぁ......どしたの」
呼んでいた本を閉じて机の上に置く。そして凛花の方へと顔を向ける。ちなみに本を置いた理由は、本を読んだまま話をすると「ちゃんと話を聞いて!」と怒られてしまうからである。
「別に、どうもしてないけど」
めんどくせぇ......。絶対なんか話したいことあるだろ。しかも俺が話を聞く態勢作ってちょっと嬉しそうな表情してるし。
言葉とは裏腹に凛花の表情と声音はどこか嬉しそうにしている。そんなに話したいことがあるなら話せばいいのにとかこのまま「そっか」と言って本を手に戻したら一体どんな反応をするのだろうとかの考えが頭をよぎったが一度それらをタンスの中へと押し込んでおく。
「本読むのちょっと疲れたんだよなぁ。凛花、なんか話してくんない?」
同じ姿勢で座り続けたせいで固まった体を軽く伸ばしながら凛花へと話しかける。
「し、しょうがないなぁ。まぁでも実は丁度良く聞いてほしいことがあるんだよね」
うん、知ってた。話したいことがあるの知ってたよ俺。
「今日ね──」
「ねぇねぇ白雪さんってイラスタやらないの?」
「あー!私もそれ気になってた!」
「ねぇ友達になろうよ!」
「だから白雪さんやってないんだって」
「あ、そうだったー」
午前の授業をすべて終え、お昼休みの教室はとても賑やかだった。教室のあちこちから話し声や笑い声が響き渡り、授業中のあの静かな雰囲気からは想像もできないほどの明るい空気が漂っていた。
それは私の周りでも同じこと。私を取り囲むようにしてクラスの女の子がワイワイと盛り上がっていた。
「今のところ始めるつもりはないですね」
「えぇー、始めたら絶対人気出ると思うのになぁ」
「それな、フォロワーの数すごいことになりそう」
「てかこの前の私の写真見た?あれめっちゃ可愛くない?」
「見た見た!あれチョーかわいい!!あ、白雪さんに見せようよ!」
「おっけー、ちょい待ち~......はい。白雪さん!これめっちゃ可愛くない?」
そうして見せられたのはアイスやクリームなどの白をベースに苺の鮮やかな赤色でに装飾されたパフェの写真。パフェの側面はハートが散りばめられており、頂上の部分にはおそらくそのお店のマスコットと思われるかわいい熊のクッキーが差し込まれていた。
「わぁ......かわいいですね」
「でしょ~、この前行ってきたんだよね~。」
「あそこ結構有名なとこじゃなかった?」
「そう、だから大分並んだよ~」
そこからは写真のお店がどうだったかや、他にこのお店が気になっているなどの話が次々と展開されていった。
「──なんだよね~......ってそうじゃん!白雪さんイラスタやらないのかって話だったじゃん!つい盛り上がりすぎて忘れてた!」
急に矛先がこちらに戻ってきたため、肩がびくりと揺れる。周りの人もそういえばそうだったという様子で話題を最初の方へと戻し始める。
「ね~白雪さんもやろうよイラスタ!絶対楽しいから!」
「そうですね......でも私あんまりそういうおしゃれなお店に行ったことがないんですよね」
「大丈夫大丈夫!こういう写真だけじゃないから!白雪さん可愛いし私服の写真上げるだけでもうバズること間違いないよ!」
「そうそう、どのジャンルでも大丈夫なやつだからそんなに気にしないでいいから」
「どう?始めてみない?」
「えっと......考えておきます」
「という感じのことがあったの」
わぁ......なんかすごい女子高生っぽ~い(小並感)。ちょっと陰キャの自分はついていけないっすわ。俺のことは置いていけ、この戦いにはついていけそうにない。
自分とは対極の位置、太陽の当たる場所というか太陽の真下にいる凛花の話を聞いて、これは自分に相談するべきことではないなと瞬時に思う。ちなみにイラスタとは自分の撮った写真をネットにあげて事故承認欲求を満たすよくあるアプリである(個人的意見です)。
「やっぱり始めた方がいいのかなぁ」
「というか俺からすればもうやってるのかなとか思ってた。賞味やってないことに驚いてる」
白雪凛花は常に周りに人がいる。そのためイラスタなどその手のものは既にやっているのだと思っていた。
「私ってほら結構人気者じゃない?あ、嫌味とかじゃないからね?」
「あーうんわかったわかった。ほら続けて」
俺の気分を害さないための配慮なのだと思う。それを理解した旨を伝えて、話の続きを促す。
「もし私がイラスタ始めたらその......なんというか面倒なことになりそうだなって」
「あ~、まぁ言われてみればめんどくさそうではあるな。フォローされてるかどうかとか、反応されたかどうかとかでカーストが決まったりしそう」
「でしょ?それにわざわざこのイラスタのためだけに遠出するのもちょっと大変そうだし、かと言って自撮りとかだけだとそれはそれでなんか嫌味を言われそうだし」
「確かに『白雪さん自分が可愛いからって自撮りしか上げないのなんか嫌だよね』とか陰で言われそう」
「その声真似やめて。ちょっと気持ち悪い」
「ひどくね?」
せっかく頑張って高い声を出したのにその言いようはひど......くないわ。ちょっときもかったかも。うん、もう今後はやらないようにしよ。心の中でそう強く誓った俺でした。
「だからやりたくはないんだけどなー」
「やらないはやらないでまた面倒なことになるかもしれない、か」
「そうなんだよねぇ......ぬわあああ」
凛花は変な声を出しながら机に突っ伏して手足をじたばたとさせる。
「白雪姫は大変だな」
「そうやって呼ぶのやめて」
「すまんすまん」
動かしていた手足を止めてムスッとした顔を上げる凛花に謝罪を入れる。人気者には人気者なりの悩みがあって大変そうだなという感想を抱く。
「そうだなぁ......まぁ試しにやってみて問題が起こりそうだなってかんじたら適当に理由つけてやめるとかでいいんじゃないか?」
「んー......まぁそれが一番よねー。よし!じゃあ早速写真撮ってみよう!」
「いやここ図書室ですよ?しかも仕事中だよ?」
勢いよく体を起こした凛花。その唐突すぎる提案に驚きを隠せない。行動力があるのはいいことだけど、さすがに時と場所は考えた方がいいと思うの。
「いいじゃん、どうせ人なんて来ないんだし」
「まぁそれはそうだけど」
「じゃあいいでしょ?」
「......いいんじゃないすかね」
「よし!これで共犯ね!」
「おい」
先ほどまでとは打って変わってテンションが上がっている凛花を止めることを諦めた俺は、うきうきで写真アプリを開いている凛花をぼーっと眺めた。
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