最後の贈り物

レモン🍋

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 あの日もらったあなたからの贈り物。

 今の私がいるのはあなたのおかげだから。

 だから。
 どんなに辛くても精一杯生きるよ――あなたの分まで。






「桜」

 ひらひらと舞い落ちる桜の花びらを背景に、私の名前を呼ぶあなたの声が大好きでした。


 陽だまりのような笑顔。
 落ち着いた眼差し。
 包み込むような声音。


 大好きなあなたがいなくなって初めて、私は絶望を知った。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 私たちの出会いは大学1年生の春だった。


 語学の授業で同じクラスになったことがきっかけでよく話すようになった私たち。


 女子高育ちで異性との接触に免疫がなかった私だったけど、あなたに対してはなぜだか最初から素の自分でいられた。


 友人になるのは早かったけど、付き合うようになったのは遅かったよね。


 お互いが初恋で、お互いにどうアプローチしていいか分からなくて付き合うまでに1年もかかったのはいい思い出。



 「俺のどこが好き?」

 いつかあなたは聞いたね。

 その時は恥ずかしくてごまかしちゃったけど、ちゃんと答えればよかったって今になって後悔してる。



 落ち着いた雰囲気も、
 お日様のようなあたたかな笑顔も、
 「桜」って優しく呼んでくれるその声音も、
 全てを包み込む優しさも、

 全部全部大好きだよ。
 昔も、今も、この先も。

 ずっとずっと大好きだよ。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 ねえ、覚えてる? 初めて会った日のことを。


 あなたは授業開始ギリギリに来て、唯一空いていた一番前の席――私の隣に座ったね。

 寝癖がぴょんぴょんはねているのが可愛かったことを覚えているよ。


 真ん前のその席が、いつしか私たちの指定席になっていたね。



 気づけばあなたを見かけるたびに目で追っていて、気づけば一緒にお昼ご飯を食べる仲になっていた。

 誘ってくれた時はほんとうに嬉しかったんだよ。
 その日は一日中ニヤニヤが止まらなくて困っちゃった。




 同じ学部でも専攻は違ったから、一緒の授業は少なかったけど。

 学食での何気ない会話や、放課後図書館で一緒に勉強したり本を読んだりして過ごす時間がたまらなく好きだったな。


 読書に熱中してハッと横を向くとあなたが優しく微笑んでくれていて、それだけでじんわりと心が温かくなったんだよ。

 もっともっと、好きって伝えればよかった。
 もっともっと、感謝を伝えればよかった。


 あなたがいないだけで、私の心はまるで吹雪の中に取り残されたかのように寒くて、寂しくて、そしてイタイ。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 付き合うことになった日のことは、今でも鮮明に覚えてる。


 大学2年生の春。
 駅へ行く帰り道、告白してくれたあなたの真剣な表情はとってもかっこよかった。


「桜、好きです。桜のすべてを独り占めしたい。付き合ってください」

 そう言ってもらったことがどれほど嬉しかったか、きっとあなたは知らない。

 普段独占欲なんて欠片も見せないあなたが、私に対してはたくさんの独占欲を抱いてくれたことが嬉しかったんだ。

 一途に想ってくれるあなたに、私は毎日恋をした。



 付き合うようになって、ちょっとした場面でのスキンシップが増えた。
 恥ずかしさもあったけど、それ以上に幸せだった。


 手を繋いで歩く帰り道。
 テストを頑張ったら頭をなでてくれたよね。

 今思えば同い年なのにあなたに甘えすぎていたね、ちょっと反省。



 初めてのキスの味は――残念ながら思い出せない。
 実は、緊張しすぎて頭が真っ白だったの。


 でも、回数を重ねるうちに、とろけるような気持ちっていうのが私にもわかったよ。

 キスするたびに、
 柔らかな感触に包まれるたびに、

 これ以上ない位あなたを好きなのに、もっともっとあなたへの愛情があふれてきて、胸がいっぱいになった。





 ねえ。
 こんなにも想い合っている私たちを引き裂くなんて、神様はイジワルだよね。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 初めてのお泊りはあなたの家。

 ピカピカに片付いた部屋と、扉を開けた瞬間出迎えてくれたフローラルな香りに、あなたがどれほど念入りに準備してくれたか分かっちゃった。


 夕食はあなたが作ってくれたね。
 大好きなハンバーグを作ってくれて、しかもすごく美味しくて、あっという間に胃袋を掴まれちゃった。


 そして。
 二人で大人の階段を一歩、上った。


 お互い初めてで、やっぱり痛かったけど、でも、これ以上ないほど幸福だった。

 満たされて、一つになって。
 あぁ、やっぱり好きだなって、そう思ったんだ。


 朝起きたら気恥ずかしくてちょっとつんけんしちゃったけど、でもあなたが本当に嬉しそうに笑うから。

 私も嬉しくて、ぎゅって抱き着いちゃった。

 危なげなく私を抱き上げてくれたあなたにときめいたのは秘密。





 いろんなところにデートに行って、いっぱいいっぱい写真を撮ったね。

 見返すたびに懐かしさと、切なさが私を襲う。
 あの頃にはもうどうやったって戻れないのだと私に現実を突きつける。



 でも。
 写真を撮らなければよかったなんて思わない。

 写真の中のあなたは笑顔で、楽しそうで、幸せそうで。
 私も、そんなあなたに負けないくらい輝いている。



 いつか、全てを受け入れて、笑って思い出にできる日が来るのだろうか。







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