2 / 26
第1話
しおりを挟む7年前のあの夏の日を、萌は1日たりとも忘れたことはなかった。
真っ赤な血溜まり。
倒れ伏す父と母。
鉄の匂い。
あの日以来、萌は夏が大嫌いだ。
入学から一か月がたった5月の今、クラスのグループも出来上がり、すっかり授業にも慣れ、皆が高校生活を謳歌している。
萌が通う青藍高校は都心に位置する私立の進学校で、裕福な家庭の子が多く、ほとんどの子は放課後街に繰り出し遊んでいる。
萌もそんな高校生活にあこがれるが、時間的余裕も金銭的余裕もない。
放課後はカフェでバイトし、朝は二時間かけて通学する。もちろんお弁当を自分で作る分、早起きは当たり前。
成績優秀者5人は学費が全額免除になり、萌もそのうちの一人のため、勉強も気が抜けない。
施設育ちの萌には高校生活を謳歌する余裕などかけらもないのだ。
友達を作りたくてわざわざ遠く離れた高校に進学したが、未だにクラスになじめない。
昼休み終了のチャイムが鳴るとみんな一斉に静かになった。普段よりきっちりした生徒たちに担任の先生が苦笑いする。
「よーし、席替えするぞ、1番からくじひけー」
担任の声にクラスの熱気が高まった。
「潤君の隣がいいー」「春希君と同じ班になりたぁーい」という女子の声があちこちあら上がる。
学年一のイケメンである川崎潤とその親友で潤と同じくらいかっこいい長瀬春希はクラスの女子に大人気だ。
中には「工藤さんと隣になりたいよな」「工藤さんを後ろから見つめたい」という男子のささやき声も聞こえるが、幸いなことに萌には聞こえない。
萌も学年で一二を争う美少女として注目されているが本人は全く気付いておらず、鈍感と言われる所以だ。
「よし、全員くじひいたな、じゃあ席移動しろー」
「よろしくね、工藤さん。」
クールな声で隣に座る川崎君が萌に声をかける。
「よろしく、長瀬君。」
対する萌は苦笑い。
嫉妬交じりの女子の視線が痛い。
「班の中で自己紹介して、班長と副班長決めろよー。来週の勉強合宿はこの班でいくからなー。」という先生の声でより一層女子の視線が厳しくなった。
「はい、俺から自己紹介するね。長瀬春希です。青南第二中学出身で、好きな食べ物はカレー、嫌いな食べ物はピーマンです! 彼女募集中です!」
「じゃあ、時計回りで次は俺だな。川崎潤、青南第二中学出身です。よろしく」
「次は私ね。小川星華です。星田北第四中学校出身です。甘いものが大好きです。よろしく」
最後は萌だ。
「えっと、工藤萌です。角谷東第一中学校出身です。好きな食べ物はプリンです。よろしくお願いします」
緊張しながらもなんとか言った。
「じゃあ、班長と副班長決めようか。誰かなりたい人いる?」
さっそく皆をまとめてくれる長瀬君。
ちょっとチャラいところもあるが、率先して皆を引っ張っていってくれるのはありがたい。結局班長は長瀬君が、副班長は小川さんがやってくれることになった。
「ねえ、俺二人の連絡先知らないからさ、ライン教えてよ。」
「いいよ。私もみんなのライン教えて」
長瀬君と小川さんと川崎君がちゃちゃっと連絡先を交換する。
「工藤さんも」
三人に見つめられ、萌はあたふたする。
「ごめん、私やり方分からなくて」
「貸して、私やってあげるよ」
小川さんがそう言ってくれて安心する。
友達と連絡先を交換するなんて初めてで、萌は知らず知らずのうちに微笑んでいた。
放課後、萌が帰ろうとすると、
「萌ちゃん、もう勉強合宿の準備した?買うものとかまだあったら一緒に買い物行かない?」と小川さんが誘ってくれる。
行きたいのはやまやまだがこの後バイトがある萌は申し訳なさそうに断る。
「工藤さんバイトしてるの?何のバイト?」
「バイトってしてよかったっけ?」
萌たちの会話が聞こえたのか、川崎君と長瀬君が会話に混ざってきた。
萌の高校は基本的にバイトは禁止だが、やむを得ない事情があり学校側の許可をとれば例外的に認められる。
そのことを説明し、カフェで働いていることを話すと、
「せっかくだし、私もお客さんとして行っていい?」
「俺も行きたい」
「嫌じゃなければ俺も行きたいな」と三人が言う。
「いいけど――ここから遠いよ。電車で一時間半位かかるけど――それでもいい?」
萌が心配そうに聞くが、三人とも乗り気なため四人で教室を後にする。
途中、「潤君と春希君、今日うちらと一緒に遊ばない?」と結構な人数の女子に声を掛けられていて、二人ともモテるなーと感心した。
「そうそう、ずっと気になってたんだけど、俺のことは春希って名前で呼んでくれ。苗字はどうも慣れなくて」
「じゃあ俺のことも名前で呼んで。小川さんと工藤さんとは仲良くできそうだから」
「オッケー。春希に潤ね。私のことも小川さんじゃなくて星華って呼んで。さん付けされると変な気分になる」
「工藤さんは?何て呼べばいい?名前で呼んでもいいかな?」
川崎君改め潤君が優しく尋ねてくれる。
「えっと、名前で呼んでくれたら嬉しいかな。私には呼び捨て、ハードルが高いから、潤君、春希君、星華ちゃんって呼ぶね。」
ちょっと照れながら、でも嬉しそうに言う萌に、可愛すぎだろと思う三人。
特に顔を真っ赤にし、けれど優しい目で萌を見つめている潤を見た春希は驚いた。
今まで女子に対してこんな反応をした潤を見たことがなかったのだ。
萌が働くカフェは電車を三本乗り継いだ先にあった。
都心からだいぶ離れたそこは、息苦しさを感じないのどかな地域だ。
「先に入ってて。私は裏口から入るから」
萌は三人を入り口に案内し、急いで裏口に回る。
制服に着替えて出ていくと、お客さんは潤君たち以外おらず、マスターと談笑している。
「萌ちゃん、友達出来て良かったね。みんな、萌ちゃんのことよろしくね。」
マスターの言葉が心にしみる。
中学生の頃からの付き合いで、当時はバイトをしていなかったけど、すごくお世話になっているマスターは、萌の第二の保護者と言っても過言ではない。
そんなマスターに友達を紹介できたことも嬉しいし、初めての友達にマスターを紹介できたことも嬉しい。
一時間ほど楽しい時間を過ごし、潤君たち三人は帰っていった。
「萌ちゃんにちゃんと友達ができて安心した。頑張ることも大事だけど、根詰めすぎちゃだめだよ。遊ぶことも大事だからね。」
萌の事情を知り、何かと気にかけてくれるマスター。
マスターに出会わなかったら、萌はきっとこんなに明るくなれなかった。
こんなに回復できなかった。
大きな体躯に日に焼けた肌、人懐っこく太陽のような笑顔が萌は大好きだ。
0
あなたにおすすめの小説
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。
そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。
最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。
そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。
上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。
貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。
実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、
上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。
そこで知ったルーカスの秘密。
彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。
元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。
戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。
シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。
所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。
そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。
心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。
けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。
シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか――
※他サイトでも公開しています
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる