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第七話
しおりを挟む――良く晴れた土曜日。
絶好の体育祭日和だ。
暑い日差しがサンサンと輝く中、グラウンドの熱気は最高潮だ。
「キャー!! 五十嵐せんぱいこっち向いて~」
「足はやーい、かっこいい~!」
まだ序盤だが、そこかしこから激しい声援が飛び交う。
「なんでみんなこんなに盛り上がってるのかと思えば五十嵐先輩か」
星華が納得したようにつぶやいた。
「五十嵐先輩って?」
萌が不思議そうに聞き返すと、星華がびっくりしたように目を見開く。
「萌、五十嵐先輩を知らないの? 二年でめっちゃかっこいいって有名だよ。多分学校一のイケメン」
「私先輩と接点なんてないから知らなかったなー」
対する萌はのほほーんとしている。
五十嵐先輩の出番が終わったのか、女子たちが続々とベンチに戻ってくる。
「ねえねえ、保護者席にめっちゃかっこいい人いたんだけど見た?」
「見た見た! イケメン二人組! 誰のお兄さんだろー」
そんな声が聞こえてくる。
その声にふと、マスターと雅也さんはどこにいるんだろうと思う萌。
「ごめん、星華ちゃん。私ちょっとトイレ行ってくる」
萌は星華に断って、マスターと雅也を探しに行く。
保護者席は人でいっぱいで、見つからないかもと思ってた萌だが、すぐに見つけることができた。
というより、見つけてもらえた。
「萌ちゃん!」
やけにご婦人たちが集まってるなーと思ってた方向から雅也さんが出てきた。
遅れてマスターも萌の所へやってくる。
「雅也さん、マスター。よく私がいるってわかりましたね」
「俺ら開会式の時から萌ちゃん見つけてたぜ」
マスターの得意げな顔に萌はクスクス笑う。
「見ててくれて嬉しいです。私の出番は午前中の最後なんで、マスターたちと話したくて探しに来ちゃいました」
素直なその言葉にほっこりする男二人。
体育祭だからだろうか。
それとも見に来てくれる人がいるからだろうか。
今日の萌はなんだかいつもよりテンションが高い。
口数も多く、ニコニコしながらしゃべる萌。
その姿に癒される大人が二人。
なかなかシュールだが、イケメンと美少女という点が救いだ。
そうこうするうちに、借り物競走出場者への準備のアナウンスが流れたため、萌は名残惜し気に二人と別れる。
「あっ、萌来た! もうどこ行ってたのー。遅いから心配しちゃった」
「星華ちゃん! ごめんごめん、今日は知り合いが見に来てくれてるから探しに行っちゃった」
「そっか! 私もお母さんが見に来てくれてるから後で紹介するね」
「ほんとっ!? 友達の家族に紹介してもらうなんて初めてで――嬉しいな。私も後で星華ちゃんのこと知り合いに紹介していい?」
萌が照れながら言う。
「もちろんだよ!」
星華が萌に抱き着きながら弾んだ声で答えた。
ピストルの音と共にいよいよ借り物競争がスタートする。
各クラス男女二人ずつ出場するこの競技は、リレーと並んで盛り上がる種目の一つだ。
最初は男子の競争なので、萌たち女子は緊張と共に自分のクラスを応援する。
萌と星華のクラスはサッカー部の山本君とバスケ部の池田君が出場している。
運動部なだけあって二人とも早いが、他のクラスの男子たちも軒並み早い。
スタートダッシュではなかなか差がついていないようだ。
それぞれがカードを引き、すぐに行動する人もいれば立ち止まってあたりを見渡している人もいる。
池田君はすぐに保護者席へ走っていくと、一人の女性から日傘を借りていた。
お題は日傘だったらしく、見事に三位でゴールした。
一方山本君はまだ借りられていないらしい。
そうこうするうちに他のクラスの子たちがどんどんゴールしていく。
中には「好きな人」というお題を引いて、可愛い女子と一緒にゴールする人もいて、大いに盛り上がった。
結局山本君は十二位だった。
星華が残念そうにため息をこぼすが、仕方がないと思う萌。
なんたってお題がマフラーだ。
こんな暑い日にマフラーを持っている人なんてめったにいない。
ビリじゃなかっただけすごいというべきだろう。
新しいカードが用意され、いよいよ女子の番になった。
「頑張ろうね、萌」
「うん」
星華と萌はお互い頷き合い、ピストルの音と共に駆け出した。
周りの子たちに後れを取ることなくカードを手にする萌。
急いで表を向けるとそこには、「困ったときに一番頼りになる人」の文字が。
萌が立ち止まったのは一瞬で、すぐに目的の人に向かって走り出す。
「一緒に来てください――雅也さん!」
カードを見てすぐに浮かんだ雅也の顔。
恥ずかしさはあるが、ためらいはない。
驚いた顔をした雅也だが、すぐに萌の所へ来てくれる。
「ゴールまで走ればいいんだな?」
「はい。お願いします」
雅也は萌の手を掴むと引っ張るように走り出す。
雅也が引っ張ってくれることでどんどん進む萌。
気づけば前方の人を抜かして一着でゴールした。
「一位は三組の工藤さん! お題は――“困ったときに一番頼りになる人”です!
いやーイケメンですねー」
司会者のアナウンスに一年三組の方から歓声が上がる。
それ以外にもあちこちから黄色い声が聞こえてくる。
きっと雅也がイケメンだからだ。
はぁはぁと荒い息をつく萌の傍らで雅也は息一つ乱さず立っている。
「雅也さん、走るの速すぎです」
荒い息のまま萌が言う。
「学生時代はバスケ部だったから瞬発力はあるよ」
笑いながら答える雅也。
「それより、萌の中では俺が困ったときに一番頼りになる人なんだ。――嬉しいな」
心底嬉しそうに言う雅也に萌はなぜかドギマギしてしまう。
「いきなり引っ張り出しちゃってすいません。真っ先に頭に浮かんだのが雅也さんだったから何にも考えずに行動しちゃって」
萌の照れ顔に内心悶えながら、雅也はよかったねと微笑んだ。
ついでに萌の頭をポンポンした。
「じゃあ、後でな。マスターと一緒にお昼食べよう」
退場の音楽と共に萌は一旦雅也と別れ、クラスのベンチへと戻った。
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