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1. 仕事に疲れたオタク女は(恐らく)悪役令嬢に転生する
雨の日にうっかり足を滑らせて転ぶのは、誰にでもあり得ることだろう。
だけど、それがキッカケで前世の記憶を思い出すのは珍しいことに違いない。少なくともそんな人間、私は自分以外に知らない。
◇◇◇
「お嬢様、お目覚めになられたのですね!」
「んぅ……?まだ……眠い……」
「そのまま横になっていてください。すぐにお医者様を呼んできます……!」
うーん、まだまだ眠い。あと五十時間くらいは眠れそうな自信がある。だけど頭がうっすら痛い。吐き気もあって不快感が凄いので、一度起きた方がいいかもしれない。
気ままな一人暮らしなので家族と足並みを揃えて生活する必要はないけど、一人だからこそ自分の面倒は自分で見ないといけないので、健康管理には気をつかっている方だ。熱はなさそうだけど念のため測って、痛み止めも飲むべきか……
って、ちょっと待った私。
一人暮らしのはずなのに、どうしてさっき金髪碧眼の美少女メイドさんに話し掛けられたの?そしてあのメイドさんは私にお嬢様と呼び掛けてたけど、なんのこと?
ズキズキ痛む頭を押さえて起き上がると、自分が寝ていたのが豪華な天蓋付きベッドだとわかった。そっと立ち上がり鏡を覗き込むと、そこには深紅の髪にキラキラ輝くような紫の瞳で、10代後半くらいの少女の顔が写っていた。
「………………なんか悪役令嬢っぽい顔じゃない?」
こうして私の転生令嬢人生は幕を開けた。
◇◇◇
ヴィオレッタ・ミラン公爵令嬢、それが今の私の名前と立場らしい。
診察してくれた医師とさっきのメイドさんによると、雨の日に貴族学園から帰る途中でうっかり足を滑らせて転倒し、頭を強打して二日ほど目覚めなかったらしい。
無事に目覚めて良かったと涙ぐむメイドさんには悪いけど、それが己の身に起こった事だという実感がまるでない。雨の日に滑って転んだような気はするけど、それがこの世界での出来事か、前世でのことなのか、はたまた両方なのか。何一つハッキリしない。
状況から察するに、頭を打ったことが原因で前世のことを思い出したのだろう。かつては気ままな一人暮らしを謳歌するアラフォー独身女性で、会社員としてマジメに働きながら休日はマンガやアニメにゲームといったオタク趣味にのめり込む、どこにでもいる平凡な人間だった。
こうしてヴィオレッタになってたということは、転んだ際に打ちどころが悪くて死んでしまったのだろう。あれほど健康に気を遣っていたのに死因がそれって……という気持ちはあれど、あまり現実味がない。ヴィオレッタとして積み重ねた17年間のお陰か、かつての自分が死んでしまったことを嘆き悲しむよりも、目の前の現実をどうにかする方が大事だと思える。
感傷に浸るのは後回し!
「頭を強打したことによる一時的な健忘でしょう。無理に思い出さなくても、日常生活に差し障りがなければ、当面はそのままでよろしいかと」
「はぁ……そういうものですか」
「忘れたことを思い出そうとして心身に負担を掛けるよりも、今はまず静養なさってください。転んでしまったのも、日頃の疲れが溜まっていたからでは?」
「そうですかね……よくわからなくて」
ヴィオレッタは貴族学園で生徒会役員を務める優秀な令嬢で、雨の日に遅くまで生徒会室で書類を片付けた帰りに、迎えの馬車に乗り込む途中で足を滑らせたらしい。
従者が医師を呼び即座に適切な処置を施したので大事には至らなかったようだ。とはいえ記憶がなくなっているので無傷ではないけど。
「とりあえず、今のままで問題ないならよかったです」
「ちっともよくないわ!あぁ、ヴィオ!母様をこれ以上悲しませないでちょうだい……!」
「そうだよ、ヴィオレッタ。我が家の天使から記憶が失われてしまっただなんて、ミラン公爵家始まって以来の悲劇じゃないか……!父様はどんな手段を使ってでもお前の記憶を取り戻すからね!」
この前のめりな美形二人が、今世での両親だ。圧が強い。前世の母・江里子はのんびりした人だったので差が激しい。なお、前世の父は仕事大好き人間であまり交流が無かったので、記憶が薄い。眼鏡を掛けていた気がする、以上。
「お父様、お母様、心配をかけてごめんなさい。申し訳ないのだけど、しばらく学園をお休みしてもいいかしら……?」
お嬢様の話し方って、こんな感じでいいのだろうか。
悪役令嬢顔だからもっと偉そうだったり全力で我儘な感じでいった方がヴィオレッタには似合いそうだけど、何の前準備もなくその振る舞いをするのはハードルが高すぎる。役作りが必要だ。
「勿論よ!あなたさえよければ、しばらく領地で静養しましょう?学園なんてしばらく行かなくても、ヴィオの成績なら何の問題もないわ。お母様とゆっくり過ごしましょうね」
「いっ、いえ!そこまでしなくてもいいのです!あまり休みすぎると生徒会のお仕事が溜まってしまいそうですし、役員のみなさんにもご迷惑が……」
「こんな時まで生徒会のことを考えているなんて……あぁ、才色兼備とは君のためにある言葉かもしれないな。娘がこんなにも素晴らしくて父様は誇らしいよ……!」
「もう、あなたったら。でもそうね、学園の事が気になってヴィオの心が落ち着かないぐらいなら、領地へ行くよりこの屋敷で過ごした方がいいわね」
こうして私は、一ヶ月ほど学園を休んで王都のミラン公爵邸でのんびりすることが決まった。
(まだ頭の中が整理できてないから、登校しないでゆっくり出来るのは有難い……)
ヴィオレッタとしての自我がほぼ失われて、前世のオタク女としての自我が前面に出ている現状では、学園生活でうっかりボロを出しそうで怖い。なんとか今までのヴィオレッタらしく振舞えるよう準備しなくては。
(それに、このどう見ても悪役令嬢顔……キラキラ、というかギラギラした紫のツリ目に重ーい印象の真っ赤な髪……このまま何の備えもなく登校して、ヒロインを虐めてたので国外追放とか修道院行きとか急に言われたら、確実に詰む)
よくわからないまま登校して、イキナリ断罪されたらたまったものじゃない。
少なくとも、ヴィオレッタが無事に目覚めたことを泣いて喜んでくれた両親や使用人たちを悲しませるようなことはしたくない。そのためには十分な対策を練らなくてはいけない。
「……私は公爵令嬢のヴィオレッタで、ここはハルモニア王国。貴族だけが集まる学園の二年生で今年17歳。同級生には第二王子や騎士団長の息子に、国内最強の魔術師の先生や隣国から留学中の皇太子がいる……物凄く乙女ゲーみを感じる設定…………」
医師や両親の話を聞き、ぼんやりと認識できるヴィオレッタの記憶を引っ張り出してわかったのは、どうやらここはめちゃくちゃ乙女ゲームの世界っぽい、ということ。
だけど、どうしてもそれ以上のことは思い出せない。かつての自分がプレイした作品を思い浮かべても、完全に合致するものが出てこない。
そして、その理由は明確だった。
「…………悪役令嬢ヴィオレッタとか、ヴィオレットとか、ヴァイオレットとか、そんな感じのキャラ名に心当たりがありすぎる!!!!!」
前世の私は幅広くあちこちに手を出すタイプのオタクで、乙女ゲームもWEB小説もそれらコミカライズもアニメも、とにかく沢山履修していた。そのせいで、今自分の居る世界がどの作品の世界なのかを特定できない。
「生徒会設定もよくあるやつだなぁ。平民上がりだけど持ち前の雑草根性で生徒会長の王子に「おもしれー女」認定されたヒロインが王子の権力で強引に生徒会入りさせられて、それに嫉妬したヴィオレッタが取り巻きと一緒になってヒロインに嫌がらせして、ヒロインの持ち物を隠したり教科書を噴水に投げ込んだりするんだ!そういうことしそうな顔してる!!最後には人気のない階段でヒロインを突き落としたら助けに来た王子にばっちり目撃されて断罪されるんだ!!!私はこのジャンルに詳しいからわかってしまう……!!!!」
口に出すとあまりにもしっくりきすぎてしまい、自分で言い出したことなのにゾッとした。記憶力はポンコツなのに想像力が豊かすぎるのはアラフォ―の経験値故だ。
「既にヒロインと恋仲になってた王子は、ヒロインに惹かれてた騎士団長の息子と結託して、最強の魔術師な生徒会顧問の先生に頼んでヴィオレッタを魔法で拘束するんだ……!「何か申し開きはあるか?」って剣を突きつけた騎士団長の息子に冷たい目で言われて絶体絶命なヴィオレッタは捨て身の特効で拘束を振り払ってヒロインに「あなたさえいなければ……っ!」って言いながら懐に隠し持ってた短剣で刺そうとするけど敢え無く失敗するんだーーー!!!」
言えば言うほどそうなる気がしてくるので怖い。もう考えるのをやめた方がいい気がしてきた。
「いや、昨今は悪役令嬢救済ルートも流行ってるし、必ずしもざまぁ展開になるとは限らないよね?転生して改心した悪役令嬢が自分を嫌ってた令息たちを虜にしていく小説も読んだことあるし……まだ助かる見込みはある……!」
だがしかし、中身がアラフォー独身オタク女なのだ。
この世界で役に立ちそうなスキルを持っているわけでもない。飛びぬけて料理が上手いわけじゃないし、領地経営に生かせるような知識もなければスローライフを楽しめるような趣味もない。数学どころか算数すら怪しいド文系だし、キャンプ行くぐらいなら家で寝てたいインドア派。そんな平凡な自分が攻略対象たちを虜にすることなど出来るだろうか。いや出来ない。
「お嬢様、大丈夫ですか!?お医者様を……!」
「あばばばばごめんなさい!なんでもないです!!」
今の私は病み上がりの公爵令嬢。静かに休めるよう自室に一人でいるけど、当然ながらすぐ近くにメイドさんが控えていて何かあったらすぐ駆けつけてくれるのだ。
一人暮らしが長かったせいでうっかり独り言が出てしまうので、この癖も改めねば。
(あれもこれも出来ないって言ってたら、そもそもこの人生を生き抜くことなんて不可能だ)
何がどうしてこうなったのかは理解不能だけど、せっかく生まれ変わったのだからここで生きていけるよう頑張らなくては。
(そういや、元々ここでヴィオレッタとして生きていた子はどうなってるんだろう。この身体には私の意識しかないみたいだし……打ちどころが悪くて亡くなってしまったのだろうか)
そう考えたら、自然と涙が零れてきた。
「お嬢様!?どこか痛みますか?すぐにお医者様を呼んできます……!」
「あっ、ちょ、まっ……行っちゃった」
悪役令嬢顔だけど、どうやらヴィオレッタはあのメイドさんに慕われていたようだ。
中身は私になってしまったけど、こうして生きていることできっとあのメイドさんやヴィオレッタの家族の心は救われたのだと思いたい。
(この先どうなるかわからないけど、今を精一杯生きよう。そのためには、まずここがどの作品の世界なのか特定しよう……!)
だけど、それがキッカケで前世の記憶を思い出すのは珍しいことに違いない。少なくともそんな人間、私は自分以外に知らない。
◇◇◇
「お嬢様、お目覚めになられたのですね!」
「んぅ……?まだ……眠い……」
「そのまま横になっていてください。すぐにお医者様を呼んできます……!」
うーん、まだまだ眠い。あと五十時間くらいは眠れそうな自信がある。だけど頭がうっすら痛い。吐き気もあって不快感が凄いので、一度起きた方がいいかもしれない。
気ままな一人暮らしなので家族と足並みを揃えて生活する必要はないけど、一人だからこそ自分の面倒は自分で見ないといけないので、健康管理には気をつかっている方だ。熱はなさそうだけど念のため測って、痛み止めも飲むべきか……
って、ちょっと待った私。
一人暮らしのはずなのに、どうしてさっき金髪碧眼の美少女メイドさんに話し掛けられたの?そしてあのメイドさんは私にお嬢様と呼び掛けてたけど、なんのこと?
ズキズキ痛む頭を押さえて起き上がると、自分が寝ていたのが豪華な天蓋付きベッドだとわかった。そっと立ち上がり鏡を覗き込むと、そこには深紅の髪にキラキラ輝くような紫の瞳で、10代後半くらいの少女の顔が写っていた。
「………………なんか悪役令嬢っぽい顔じゃない?」
こうして私の転生令嬢人生は幕を開けた。
◇◇◇
ヴィオレッタ・ミラン公爵令嬢、それが今の私の名前と立場らしい。
診察してくれた医師とさっきのメイドさんによると、雨の日に貴族学園から帰る途中でうっかり足を滑らせて転倒し、頭を強打して二日ほど目覚めなかったらしい。
無事に目覚めて良かったと涙ぐむメイドさんには悪いけど、それが己の身に起こった事だという実感がまるでない。雨の日に滑って転んだような気はするけど、それがこの世界での出来事か、前世でのことなのか、はたまた両方なのか。何一つハッキリしない。
状況から察するに、頭を打ったことが原因で前世のことを思い出したのだろう。かつては気ままな一人暮らしを謳歌するアラフォー独身女性で、会社員としてマジメに働きながら休日はマンガやアニメにゲームといったオタク趣味にのめり込む、どこにでもいる平凡な人間だった。
こうしてヴィオレッタになってたということは、転んだ際に打ちどころが悪くて死んでしまったのだろう。あれほど健康に気を遣っていたのに死因がそれって……という気持ちはあれど、あまり現実味がない。ヴィオレッタとして積み重ねた17年間のお陰か、かつての自分が死んでしまったことを嘆き悲しむよりも、目の前の現実をどうにかする方が大事だと思える。
感傷に浸るのは後回し!
「頭を強打したことによる一時的な健忘でしょう。無理に思い出さなくても、日常生活に差し障りがなければ、当面はそのままでよろしいかと」
「はぁ……そういうものですか」
「忘れたことを思い出そうとして心身に負担を掛けるよりも、今はまず静養なさってください。転んでしまったのも、日頃の疲れが溜まっていたからでは?」
「そうですかね……よくわからなくて」
ヴィオレッタは貴族学園で生徒会役員を務める優秀な令嬢で、雨の日に遅くまで生徒会室で書類を片付けた帰りに、迎えの馬車に乗り込む途中で足を滑らせたらしい。
従者が医師を呼び即座に適切な処置を施したので大事には至らなかったようだ。とはいえ記憶がなくなっているので無傷ではないけど。
「とりあえず、今のままで問題ないならよかったです」
「ちっともよくないわ!あぁ、ヴィオ!母様をこれ以上悲しませないでちょうだい……!」
「そうだよ、ヴィオレッタ。我が家の天使から記憶が失われてしまっただなんて、ミラン公爵家始まって以来の悲劇じゃないか……!父様はどんな手段を使ってでもお前の記憶を取り戻すからね!」
この前のめりな美形二人が、今世での両親だ。圧が強い。前世の母・江里子はのんびりした人だったので差が激しい。なお、前世の父は仕事大好き人間であまり交流が無かったので、記憶が薄い。眼鏡を掛けていた気がする、以上。
「お父様、お母様、心配をかけてごめんなさい。申し訳ないのだけど、しばらく学園をお休みしてもいいかしら……?」
お嬢様の話し方って、こんな感じでいいのだろうか。
悪役令嬢顔だからもっと偉そうだったり全力で我儘な感じでいった方がヴィオレッタには似合いそうだけど、何の前準備もなくその振る舞いをするのはハードルが高すぎる。役作りが必要だ。
「勿論よ!あなたさえよければ、しばらく領地で静養しましょう?学園なんてしばらく行かなくても、ヴィオの成績なら何の問題もないわ。お母様とゆっくり過ごしましょうね」
「いっ、いえ!そこまでしなくてもいいのです!あまり休みすぎると生徒会のお仕事が溜まってしまいそうですし、役員のみなさんにもご迷惑が……」
「こんな時まで生徒会のことを考えているなんて……あぁ、才色兼備とは君のためにある言葉かもしれないな。娘がこんなにも素晴らしくて父様は誇らしいよ……!」
「もう、あなたったら。でもそうね、学園の事が気になってヴィオの心が落ち着かないぐらいなら、領地へ行くよりこの屋敷で過ごした方がいいわね」
こうして私は、一ヶ月ほど学園を休んで王都のミラン公爵邸でのんびりすることが決まった。
(まだ頭の中が整理できてないから、登校しないでゆっくり出来るのは有難い……)
ヴィオレッタとしての自我がほぼ失われて、前世のオタク女としての自我が前面に出ている現状では、学園生活でうっかりボロを出しそうで怖い。なんとか今までのヴィオレッタらしく振舞えるよう準備しなくては。
(それに、このどう見ても悪役令嬢顔……キラキラ、というかギラギラした紫のツリ目に重ーい印象の真っ赤な髪……このまま何の備えもなく登校して、ヒロインを虐めてたので国外追放とか修道院行きとか急に言われたら、確実に詰む)
よくわからないまま登校して、イキナリ断罪されたらたまったものじゃない。
少なくとも、ヴィオレッタが無事に目覚めたことを泣いて喜んでくれた両親や使用人たちを悲しませるようなことはしたくない。そのためには十分な対策を練らなくてはいけない。
「……私は公爵令嬢のヴィオレッタで、ここはハルモニア王国。貴族だけが集まる学園の二年生で今年17歳。同級生には第二王子や騎士団長の息子に、国内最強の魔術師の先生や隣国から留学中の皇太子がいる……物凄く乙女ゲーみを感じる設定…………」
医師や両親の話を聞き、ぼんやりと認識できるヴィオレッタの記憶を引っ張り出してわかったのは、どうやらここはめちゃくちゃ乙女ゲームの世界っぽい、ということ。
だけど、どうしてもそれ以上のことは思い出せない。かつての自分がプレイした作品を思い浮かべても、完全に合致するものが出てこない。
そして、その理由は明確だった。
「…………悪役令嬢ヴィオレッタとか、ヴィオレットとか、ヴァイオレットとか、そんな感じのキャラ名に心当たりがありすぎる!!!!!」
前世の私は幅広くあちこちに手を出すタイプのオタクで、乙女ゲームもWEB小説もそれらコミカライズもアニメも、とにかく沢山履修していた。そのせいで、今自分の居る世界がどの作品の世界なのかを特定できない。
「生徒会設定もよくあるやつだなぁ。平民上がりだけど持ち前の雑草根性で生徒会長の王子に「おもしれー女」認定されたヒロインが王子の権力で強引に生徒会入りさせられて、それに嫉妬したヴィオレッタが取り巻きと一緒になってヒロインに嫌がらせして、ヒロインの持ち物を隠したり教科書を噴水に投げ込んだりするんだ!そういうことしそうな顔してる!!最後には人気のない階段でヒロインを突き落としたら助けに来た王子にばっちり目撃されて断罪されるんだ!!!私はこのジャンルに詳しいからわかってしまう……!!!!」
口に出すとあまりにもしっくりきすぎてしまい、自分で言い出したことなのにゾッとした。記憶力はポンコツなのに想像力が豊かすぎるのはアラフォ―の経験値故だ。
「既にヒロインと恋仲になってた王子は、ヒロインに惹かれてた騎士団長の息子と結託して、最強の魔術師な生徒会顧問の先生に頼んでヴィオレッタを魔法で拘束するんだ……!「何か申し開きはあるか?」って剣を突きつけた騎士団長の息子に冷たい目で言われて絶体絶命なヴィオレッタは捨て身の特効で拘束を振り払ってヒロインに「あなたさえいなければ……っ!」って言いながら懐に隠し持ってた短剣で刺そうとするけど敢え無く失敗するんだーーー!!!」
言えば言うほどそうなる気がしてくるので怖い。もう考えるのをやめた方がいい気がしてきた。
「いや、昨今は悪役令嬢救済ルートも流行ってるし、必ずしもざまぁ展開になるとは限らないよね?転生して改心した悪役令嬢が自分を嫌ってた令息たちを虜にしていく小説も読んだことあるし……まだ助かる見込みはある……!」
だがしかし、中身がアラフォー独身オタク女なのだ。
この世界で役に立ちそうなスキルを持っているわけでもない。飛びぬけて料理が上手いわけじゃないし、領地経営に生かせるような知識もなければスローライフを楽しめるような趣味もない。数学どころか算数すら怪しいド文系だし、キャンプ行くぐらいなら家で寝てたいインドア派。そんな平凡な自分が攻略対象たちを虜にすることなど出来るだろうか。いや出来ない。
「お嬢様、大丈夫ですか!?お医者様を……!」
「あばばばばごめんなさい!なんでもないです!!」
今の私は病み上がりの公爵令嬢。静かに休めるよう自室に一人でいるけど、当然ながらすぐ近くにメイドさんが控えていて何かあったらすぐ駆けつけてくれるのだ。
一人暮らしが長かったせいでうっかり独り言が出てしまうので、この癖も改めねば。
(あれもこれも出来ないって言ってたら、そもそもこの人生を生き抜くことなんて不可能だ)
何がどうしてこうなったのかは理解不能だけど、せっかく生まれ変わったのだからここで生きていけるよう頑張らなくては。
(そういや、元々ここでヴィオレッタとして生きていた子はどうなってるんだろう。この身体には私の意識しかないみたいだし……打ちどころが悪くて亡くなってしまったのだろうか)
そう考えたら、自然と涙が零れてきた。
「お嬢様!?どこか痛みますか?すぐにお医者様を呼んできます……!」
「あっ、ちょ、まっ……行っちゃった」
悪役令嬢顔だけど、どうやらヴィオレッタはあのメイドさんに慕われていたようだ。
中身は私になってしまったけど、こうして生きていることできっとあのメイドさんやヴィオレッタの家族の心は救われたのだと思いたい。
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