シールドランド物語 第一部 カタ=リナの少女

第七章

第七章第一節 大団円1

ネコ美の目がゆっくりと開いたとき、彼女は王宮の療養室にいた。彼女の身体は疲労で重く、治癒の術を使った後の無理が祟っていた。しかし、リザ男が呪いの首飾りを破壊していたおかげで、彼女は死を免れていた。それがなければ、彼女の運命がどうなっていたかは、誰にも分からない。

国王エドモンドは、息子である王子トリスタンの命を救ってくれた恩人、セリナ=ネコ美を温かく歓待した。彼は彼女に、体力が完全に回復するまで王宮に滞在するように勧めた。ネコ美は王宮の快適な療養室でゆっくりと休養することになった。

一方で、王宮からは悲しいニュースが発表された。王子トリスタンの蘇生の儀式を行ったカタ=リナの聖女が、衰弱の末に亡くなったというのだ。

王宮の静かな一室で、国王エドモンドは重い言葉を口にした。「仕方あるまい。蘇生術の力を失った今、カタ=リナの聖女は死んだと言うことにしなければ、後々どのような災いが降りかかるやも知れぬ。」彼の声には、決断の重さが感じられた。

「同じ手は使えん。これから、聖女様は違った意味で苦難の道を歩くとこになられよう。」エドモンドはさらに付け加えた。
リザ男は堂々と答えた。「問題ありません。庇護下にある彼女を守護するのは某の務めです。」彼の声には、ネコ美への変わらぬ支持と守護の意志が込められていた。

そんな重苦しい空気を一変させるように、リス蔵が元気よく言葉を挟んだ。「そうですねー。我が君にはもっともっと強くなって、私たちみんなを守っていただかないと。「盾の王」に、少しでも近づくために！」リス蔵の言葉には、明るい未来への希望と、リザ男への信頼が感じられた。リス蔵の元気な様子は、今回の一件で、リザ男が自分への思いを再確認したことへの喜びを表している。ワールを捕えることより、自分の命を優先してくれたリザ男への感謝と、彼を支え続ける決意が、リス蔵の言葉からは明らかだった。

リザ男は深く頭を垂れた。彼の声には、自責の念が滲んでいた。「‥陛下も含めまして、皆様方には、みっともない姿を晒してしまいました。某の力が足りないばかりに、最後に取り乱し、ワールを取り逃すという失態を演じてしまいました。」

国王エドモンドは、その言葉に静かに応えた。「相手に手練がいた。世は仕方がないことだと考えている。」彼の声には、理解と慰めが含まれていた。

リザ男が沈黙を守っている中、国王はさらに励ましの言葉をかけた。「汝の主君、「盾の王」が、そなたを漫遊に出したのが分かる気がする。そなたの意志は鋼のように強く見えるが、実のところ脆いのよ。そなたはこれからもっと叩かれ、鍛えられ、ニホントウの如き類稀なる切れ味を持たなければならぬ。」

リザ男は、その言葉に心を打たれたように見えた。「‥。肝に命じます。‥それから、こちらの返却が遅れておりました。」彼は脇に刺していた聖剣「マギアブレイカー」をゆっくりと抜き、国王に差し出した。「私にはもったいない名剣です。この剣は、改めて、扱うにふさわしい者にお授けください。」
しかし、国王エドモンドは断固として拒んだ。「いらん。持って行け。」

「ですが‥」リザ男が戸惑う中、国王はさらに力強く言葉を続けた。「「極北の暴風」に敗れたとはいえ、「乱れ突き」を上回る勇士の名を、世は知らぬよ。世は、お主を買っている。漫遊の際には是非ともその聖剣の力を振え。そうして得た汝の知識、経験を、世の国にももたらしてくれれば、これに上回る喜びはない。」

その言葉に胸を打たれたリザ男は、深い敬意を込めて頭を下げた。「畏まりました。漫遊の果て、再びこの国を訪れ、陛下をお尋ねすることをお約束します。」

国王エドモンドの顔には、リザ男の誓いを聞いて満足の笑みが浮かぶ。その瞬間、王宮の厳かな空気の中にも、未来への希望と暖かい絆が流れていた。

重厚な王宮の間に、奥から赤ん坊の元気な鳴き声が響き渡る。それは王子トリスタンの声だ。国王エドモンドは、その声に心を動かされ、温かな表情で言葉を紡ぐ。「おお、トリスタンか? 元気な鳴き声た。聖女様から命という大事な宝物を授かったのだ、大切にせねばならぬ。まさしく「子は宝」よな。リザ男よ。我らもいつかは老いる。その時、国を担う若者たちが現れ、我らが培し思いを紡いでいってくれる。そう言う意味でも、汝の責任は重いのだ。」

リザ男はその言葉に深く感銘を受け、「陛下‥」と声を漏らす。

しかし、国王エドモンドは重い話題から一転して、豪快に笑い声を上げた。「なあに、堅苦しい話ばかりでは息も詰まろうて。ちょくちょく世の国に寄るが良いぞ。この国に集う銘酒の数々を、二人で飲み明かし、たまった憂さを晴らそうではないか!」

その言葉に、リザ男もつられて笑みを浮かべた。