Aランクパーティーから追放されるかと思いきや、溺愛されています

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第二ジョブの発現

五話

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 結局その日、タリヤは医者に行くのではなく、トラスとゆっくりと過ごすことで一日を終えようとしていた。
 寝る間際になってサイリから呼び出されたタリヤは、今、サイリの部屋でクッションを抱えてベッドに座っている。
 突然のお呼び出しだった事と、拠点の中なのもあって眼帯はしていない。
 タリヤのオッドアイに映るサイリは、にっこりと、それはもう、この世の誰もが注目するほどの――否、この世の誰もが、怯えて注視するほどの、素晴らしい笑みを浮かべていた。

「それで?今日は病院へ行ったんですの?」
「…い、行ってない…その、トラスに相談してて。あ、パーティーを抜けるとかそういう相談じゃないんだけど」

 タリヤが珍しく、サイリに対して恐々と口を開く。
 このまま、あった事すべてを話せば家一つ、まるっとサイリの調合薬で吹っ飛びそうだとタリヤは思っている。
 サイリが怒っている理由は謎だが、実行力が凄まじいサイリの事だ、やりかねない。
 もちろん、サイリが良い笑顔を向けているのは怒っているからではなく、つい、からかいたくて怒ったふりをしているだけなのだが。
 まったくその事に気付かないタリヤは、抱えたクッションで顔の下半分を隠した。

「…ま、知っていましたけれど」
「え?!」

 サイリの言葉に、タリヤがぎょっとする。
 とうとう笑いを堪えきれなくなったサイリが、ぷっと吹き出してそっぽを向き、そして、笑いで肩を震わせた。

「ちょっと、サイリ?」
「ふふ、ごめんあそばせ。だってあまりにも、その、わたくしとレンが戻ってきた時の、タリヤの穏やかな顔が気に食わなかったんですもの。ああ、気に食わなかったのはトラスの方ですけれど。一体、タリヤにどんな魔法をお使いになって?ナイトをやめて魔術師にでも転身したら良いんじゃないかしら」

 満面の笑みでそう言い切るサイリに、タリヤは苦笑いを浮かべた。
 仲が悪いと言うが、そこは専門学校時代からの腐れ縁、情も湧くというものの様だ。

「で…これなんですけれど」

 サイリが何事もなかったかの様に話しだし、テーブルの上に置かれていた一冊の本を開いて、タリヤに差し出す。
 昼間にサイリが、レンを連れて出歩いた際に買った、第二ジョブ発現に関する最新の論文をまとめた本だ。
 ここ、とサイリに指をさされて、タリヤも目を向ける。

「明日、アーチェスたちが助っ人に呼んだ人とお会いするのでしょう?ここの部分もお伺いしてみてはどうかしら」

 タリヤは真剣にその論文を読んだ。
 そもそも第二ジョブの発現とは何なのかは解明されていないが、最新の研究では、魔力器官が増える、あるいは突然変異でもしたかの様に変わるのではないかと研究者の間で予想されている事、そのせいで、魔力詰まりを起こすこと、その事例なんかも挙げられている。
 やはり、第二ジョブの発現を促す魔法具の効果自体はあった様だ。
 しかしどういうわけか、新しいジョブが何なのか、一切不明である。
 その状態で、自身の魔力器官の流れをイメージするのは容易な事ではない。
 だが、原因がこれかもしれないという予想が出来たことは、タリヤを安心させた。
 病院へ行っても治らなかったら、シーフとしてもパーティーに貢献出来なくなったら、どうしようか。
 そんな不安から、ダンジョン攻略の依頼をこなすことにしがみついていた。
 そして、トラスも、サイリも、何も言わないが恐らくレンも、そんなタリヤに気付いて、気遣ってくれる。

「ありがとう。良かった…病気じゃなくて」
「そんなことになれば、わたくしが新薬を開発して絶対に治してみせますわよ!」

 タリヤが安堵のため息を漏らすと、サイリは、高らかに笑い声をあげる。
 その笑い方がまた、なんというか、サイリだった。

「それで~?タリヤ、あなた、いつからトラスとそんなに近しい間柄になったんですの?」
「え?!いや、そのね…あの…」

 にやにやとサイリがタリヤに詰め寄ると、途端にタリヤが顔を真っ赤にして、クッションを手から離して軽く両手を振った。
 近しい間柄になったとは一言も言っていないが、サイリたちが帰ってきた時、トラスはタリヤを抱きしめていた。
 タリヤも、トラスのその行動を遮るでも拒絶するでもなく受け入れていたのだから、そう誤解を与えるのは仕方のない事だと思う。
 だが、しかし。

「告白はされたけど…その、まだ返事してなくて」

 タリヤの視線が下がり、ぎゅっと、両手が今度は拳を握った。
 自分で口にした言葉に頬が赤くなる。
 まさか誰かに相談をすることになるとは思ってもいなかった。
 シーフのジョブの行く末は、パーティーの中途脱退、そして教員になるか、新人冒険者パーティーの助っ人に入るか。
 とにかく、そんな未来を頭のすみに置いていたタリヤにとって、誰かに想いを寄せるなど、ましてやその逆で想いを寄せられるなど想像もしない事だ。
 だから当然、誰かに恋愛の相談をする事は考えられなかった。

「…ま」
「ま?」
「…まじですの…」

 タリヤの初心な反応を前に、サイリは口をぽかんと開けた。
 言葉が崩れてしまった事も気にならない程の衝撃を受けた様で、開いた口が塞がらないらしい。
 サイリの反応に、タリヤは口元を引きつらせて首を傾げたが、それでもサイリの反応はそのままだ。

「ちゃんと返事しなきゃっていうのは分かってるんだけど…その、色々ありすぎちゃって」

 タリヤは自分でも分かっている。
 トラスが待ってくれている事も、タリヤの状況を配慮している事も。
 それでも、トラスはタリヤに安心をくれる存在であり、そして、つい甘えてしまう存在でもある。
 トラスの何がそうさせているのかは分からないが、そう感じてしまうのだ。

「良くないって、分かってるんだけど」
「意外ですわね…案外ぺろっと…いえ、いいえ、アレもまだまだ、初心でしたわね…ええ、ええ…」

 最早驚きすぎて、サイリのトラスに対する呼び方が雑になっていく。
 タリヤはサイリの様子に苦笑いを浮かべた。

「落ち着いたら、ちゃんと答え、出そうと思って」
「そうですわね。トラスにタリヤを任せるのは癪ですけれど」

 何だかんだ、サイリも、トラスのタリヤに対する気持ちを否定しているわけではないようだった。
 仲が悪い、嫌い。
 流石に犬猿の仲だとは言わないが、何度も険悪なムードを漂わせながらも、同じパーティーに居て、Aランクにまで登り詰めた存在だ。
 仲は悪いがなのだ。
 サイリの中で、タリヤの答えはYESだと結論付けた様だが、タリヤはそれを否定しなかった。



   ***



 翌日、タリヤは、サイリが取り付けてくれた約束のため、私服で冒険者協会の情報交換スペースに居た。
 隣ではトラスが椅子に腰かけて、傍らに小さな鞄を置き、アーチェスたちが来るまでの暇つぶしに本を開いている。
 長い脚が組まれて、なんだか様になってるなと、タリヤはその光景にちらちらと視線を向けた。
 今日も冒険者協会は、依頼を受ける冒険者パーティーで溢れていた。
 いつもと空気が違うのは、トラスたちAランクパーティーの面子が情報交換スペースに居る事で、他の冒険者たちがひそひそと噂話をしている事だ。
 おまけにタリヤは眼帯をしている。
 Aランクパーティーに怪我を負わせるほど難易度の高い任務が降りたのかと、周りはあれこれ想像しては近くの冒険者と話していた。
 その場にサイリとレンの姿がない事も冒険者たちの噂話を盛り上がらせた要因らしいが、タリヤは全く周囲の反応を気にせず、教会内部の壁に設置された時計に視線を向ける。
 約束の時間までは、あと五分ほどあるだろうか。
 そう思った時、協会の出入り口の方でざわめきが起こる。
 タリヤが出入り口の方に視線を向け、トラスも本から視線を離し出入り口を見やる。

「すまない、待たせたようだな」

 ざわめきの中心からやってきたのは、私服姿のアーチェスと、もう一人、初めて見る女性だった。
 アーチェスは健康的な褐色の肌によく映える、白のブラウスに黒のパンツと、シンプルな恰好だ。
 もう一人の女性は、長い黒髪に、中性的な顔立ちをしていて、タリヤやアーチェスよりも少しだけ背が高い。
 アーチェスとは反対に、黒のシャツにグリーンのパンツを合わせた、やはりシンプルな恰好だった。
 アーチェスとその女性がタリヤたちのもとへ来ると、アーチェスはタリヤを見て、目を見開いた。

「タリヤ・アージャー、その目は…?」

 怪我をしたのか、と、アーチェスが眉を寄せる。
 タリヤは慌てて首を横に振った。

「魔力が詰まっちゃったみたいで…それでちょっと…心配しないでください」

 苦笑いを浮かべるタリヤに、アーチェスは「それならいいが…」と、答え、彼女が連れた女性に視線を向ける。

「紹介しよう。カスタリアだ」

 アーチェスが連れた女性は紹介されると、タリヤとトラスに軽く会釈をする。
 タリヤが慌てて立ち上がり、同じように、カスタリアと呼ばれた女性に頭を下げた。

「タリヤ・アージャーです。あの、今日はありがとうございます、お時間をとっていただいて」
「いいえ、気にしないで。私も会ってみたかったもの」

 落ち着いたアルトボイスでタリヤに微笑むカスタリアの笑みは、サイリとも違う。
 だが、十分人を魅了出来る、涼し気であり、優し気な笑みだった。

「あなたのおかげで、シーフのジョブを持った冒険者の価値が見直された」
「え?いえ…そんな」
「大きな貢献よ。それに、私もそれにあやかれたんだもの」

 ふふ、と小さく笑うカスタリアに、タリヤは、戸惑った様な、遠慮が混じる笑みを返す。
 タリヤとカスタリアが腰を降ろし、アーチェスも腰を降ろす。
 トラスは座ったままだったが、手に持っていた本を鞄にしまうと、かわりに、タリヤが使った第二ジョブの発現を促す魔道具を取り出しテーブルに置いた。

「これなんだが」

 トラスがタリヤの代わりに、カスタリアに言う。
 警戒しているのか、トラスの金色の目は鋭いものだ。
 カスタリアはトラスの視線を受け流し、置かれた魔道具に視線を向ける。
 上部の枠に『シーフ』と書かれ、魔法陣は上が緑、下が朱色のグラデーションをしている状態で、下部の枠には何も記載がない、使用した時の状態から、何も変化がなかった。

「…あら…変ね、第二ジョブのジョブ名の記載がないわ…これを使って、その後なにか変化は?」
「それが…」

 カスタリアの問いかけに、タリヤは、ダンジョンでの事を話しだした。
 突然魔力が足に送れなくなった事や、魔力詰まりを起こしている事、魔力回復薬を使用して一時的に良くはなってもまた同じ状態になる事、魔力切れなど今まで起こしたこともなかった事。
 そして、眼帯をしている目は色が違う事。
 一通り話を聞いたカスタリアは、少し考えた後、タリヤに視線を向けた。

「抵抗がなければで構わないんだけど、目、見せてもらえる?」
「え?…えっと…はい…」

 カスタリアの言葉にタリヤは一瞬ためらうも、耳にかかっている眼帯の紐を解く。
 トラスがカスタリアを警戒するように睨んでいるのは変わらないが、カスタリアはそれを全く気にしなかった。
 朱色の目が顕わになると、カスタリアと、様子を伺っていたアーチェスも、タリヤの瞳を覗き込む。
 魔力詰まりで色が変化しているのではないかとサイリに言われたその瞳は、微かに光りを帯びていた。
 タリヤがダンジョン内で空間を把握する時に瞳が強く輝くが、あの光りほど強くはない。
 だが、それでも十分あの輝きと似ている光り方だ。

「魔力の制御が確かに出来ていない様だな」

 アーチェスが呟く。
 カスタリアは頷くと「ありがとう、もういいわ」と、タリヤに眼帯をつけるよう促した。
 言われた通り、外した眼帯をもう一度、朱色の目にあてる。
 カスタリアはテーブルに置かれた魔道具に視線を落とし、足を組み考えだす。
 暫くして、カスタリアは魔道具から、様子を伺っているタリヤへと視線を向けた。

「あなたの目、この魔道具の魔法陣の色と似ているわね。アーチェス、この色合いだと何を思い浮かべる?」
「そうだな…」

 今度はアーチェスが魔道具へと視線を落とした。

「魔法剣士や調教師テイマー、それから…赤魔導士か…兎に角、魔力を大量に消耗するジョブだろうな」

 その言葉に、カスタリアが頷いた。
 魔法剣士はアーチェスが持つジョブで、剣に魔法を宿らせて戦う事を得意とする、前線向きのジョブだ。
 調教師と呼ばれるジョブは、持ち前の魔力をモンスターにぶつけ、一時的にモンスターを操る事が可能な上位ジョブの一つである。
 その様子から、傀儡師とも呼ばれる事があるものだ。
 そして赤魔導士は、魔導士や魔術師の中でも特に重宝されるジョブの一つで、相手に妨害魔法をかけ、様々な効果をもたらすことが出来る術師の一つである。
 重宝はされるが魔力消費がずば抜けて多く、能力を扱う事自体に日々の魔力コントロールの訓練が必要となってくるジョブでもあった。

「シーフは魔力の消費も少なくないジョブよ。そこにくわえて魔力消費の多いジョブの発現…あなた、魔力量は多い方?」
「どうでしょう…自分では意識した事がないですが」

 タリヤの持つ魔力量は、決して少なくない。
 だが、他のシーフと比べた事もないため、自身の魔力量が多い方なのか少ない方なのか、その平均値も、実はよく分かっていない。
 タリヤが首を傾げると、トラスとアーチェスが同時に口を開く。

「多いんじゃないか?」
「多い方だと俺は思うが」

 パーティーリーダーである二人の意見は一致していた。
 二人が同じことを、同じタイミングで口にした事の方にタリヤは驚き、ぽかんと口を開ける。
 カスタリアは、トラスとアーチェスの反応に、ふふ、と笑い出した。

「パーティーリーダー二人のお墨付きなら、問題なさそうね。第二ジョブのジョブ名が記載されていないのは何でかしら…」

 カスタリアはもう一度、タリヤが使用した魔道具へと視線を向け、考え込む。
 ただ、それでもカスタリアは答えに辿り着く事は出来なかった様で軽く頭を振った。

「理由は分からないけど…ただ、さっき挙げたジョブは魔力の使い方がシーフとはまるで異なる。訓練の積みなおしが必要だと思うわ。それから、切り替えの訓練も」
「切り替えですか?」
「ええ。どこに魔力を回すのか、どの魔力器官を通して魔力を消費するのか」
「え、そんなの、選べるんですか…?」

 タリヤが目を丸くした。
 サイリからも説明があったが、魔力器官は目に見えない血管と同じ様なものだ。
 日ごろ、赤血球が血管の何処を通って心臓に辿り着き、そして送り出されるのか、そのルートを意識して選ぶことなど出来ない。
 それと同じで、魔力が通る道である魔力器官の、どの道を使って魔力を巡らせるのかを、選ぶ事など出来るのだろうか。

「魔力を目に集めたり、足に集めたりすることは出来るでしょう?」
「はい」
「イメージはそれと同じよ。けれど、こればっかりは感覚の問題もあるから、具体的にどこをどうすればっていうのは、難しい事だけど。おまけに、生まれた時からそれらのジョブを有している人の話は、殆ど意味がないでしょうね。最初からそのジョブとしての魔力器官を持ってるから」

 確かに、カスタリアの言う通りだ。
 最初から上位ジョブを有しているのと第二ジョブの発現で新しい魔力器官が出来上がるのとは、わけが違う。

「あの、カスタリアさんは…?あなたも、魔道具を使ったんですよね?」

 タリヤの問いかけに、カスタリアは瞬きをするも、すぐに微笑んだ。

「ええ。私はシーフと、忍者のジョブを持っているわ」
「忍者、ですか…」

 シーフの上位ジョブとも言われるジョブの一つが忍者だ。
 上位ジョブへの覚醒。
 シーフの上位ジョブの一つと言われるものなのだから、第二ジョブ発現後は、そこまで苦労しなかったのだろうか。
 それとも、上位ジョブと言われていても、やはり第二ジョブの発現後は、同じように苦労をしたのだろうか。
 タリヤはそんな事を考えながら、涼しく爽やかな微笑みを浮かべるカスタリアをちらりと見た。

 まさか、第二ジョブの発現にこんな副作用があったなんて。
 予想もしていなかった事態に、今、テーブルに置かれている魔道具を使用した事を、ちょっぴり後悔した。
 シーフというジョブから違うジョブへ――違う自分に無理矢理なりたいと思って使用した訳じゃない。
 パーティーの生存率をあげるために、選択肢は多い方が良いと思ったのは本当だ。
 アーチェスとの合同任務で、アーチェスの話を聞いてそう思った。
 タリヤの気持ちに嘘偽りはない。
 だが現状はそう甘くはなかった。
 魔道具を使ってジョブを発現させれば、それで終わりだと思っていたのも事実だ。
 それでも、後悔が今は『ちょびっと』で済んでいるのは、サイリやレン、そしてトラスが、急かすどころか力を貸してくれるからだ。

「流石に第二ジョブが何なのか分からないまではいかなかったけど、私も、それから私の知り合いも、似た様な状況になったわ」

 唐突に、カスタリアが話し出す。

「私の知り合いにも、同じように第二ジョブの発現を促す魔道具を使用した人が居るんだけど、その人も、それから私も、あなたと同じよ、タリヤ。第二ジョブを発現させたは良いけど、その力に振り回されちゃって」

 今思えばいい思い出、とでも言うように、カスタリアはくすっと、小さく笑みを零す。

「でもよく考えたらそうよね。今までの自分に、新しい力を加えるんだもの。新しい知識を増やすことと、それはよく似ているわ」
「知識を増やす…ですか?」
「ええ。まったく新しい分野に踏み込むのだって、知識を集めて、勉強をするでしょう?冒険者の学校を卒業したからって、一人前の冒険者にすぐなれるわけじゃない。卒業したら、Eランクの任務をこなして、そして、C、Bを経て、Aランクの任務をこなせるようになる。それと同じなのよ」

 それと同じ。
 その言葉を繰り返し、タリヤは呟いた。

「今のあなたは冒険者協会の学校に入学したころと同じ。新しいジョブと向き合うための時間が必要。けど、あなたは幸せ者ね」
「え?」
「第二ジョブの発現を促す魔道具を使うことで、第二ジョブが発現する。それは今や、殆どの人が知る事実だけど、そこから先を知っている人は非常に少ない。それゆえに、パーティーを追い出される人だって、少なくない。けど、あなたはそうじゃないわ」

 カスタリアは、警戒を続けているトラスに一瞬視線を向ける。

「だから、自信を持って、時間をかけて、今の自分と向き合うのが良いんじゃない?」

 カスタリアの笑みに、タリヤは頷いた。
 自分の状況も、そして、第二ジョブの発現を促す魔道具を使った他の冒険者の話が聞けたことも、タリヤにとっては収穫だ。

 それからカスタリアとタリヤは、少しだけ、今度は他愛ない話をして、その日は解散となった。
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