どちらの世界にしろ変わらないが、こっちの方が性に合ってる気もする

隠ノ茸

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疎らに家の建つ郊外の外れで馬車は止まった。
どうやらそこは森への入口になっているようだ。
張り巡らされた柵は所々食い破られたような痕跡がある。

改めて依頼書を確認する。
日毎家畜を食い荒らし、このままでは人間も襲われかねない。
死者が出る前に討伐を願う。
備考欄にはそう記されていた。

「このでけぇ森の中から一頭をみつけだすってのは骨が折れるな。」

森に踏み込み冬が呟く。

「安心しろ。人間の匂いがすりゃ、向こうからとんでくる。」

なるほど、と冬が口を開こうとした時、少し離れた茂みが大きく揺れた。

ピタ、と立ち止まり様子を見る。
木々に陽の光を阻まれ、薄暗い森の中で蠢く大きな影は、対象で間違いないだろう。

こちらを振り向き、一直線に駆けてくるそれは、近づいてくるに連れてその巨体を顕にした。

ネテロスはお手並み拝見というように後ろへ下がる。

それをチラ、と確認して、冬は猛スピードで突進してくるウェアウルフを見つめた。

威嚇の咆哮とともに飛びかかってくるそれを躱して距離をとる。もう一度飛びかかろうと唸り声をあげるウェアウルフを冷静に観察する。

2メートルはゆうに超える巨体をものともしない俊敏性。
あの大きな爪が少しでも引っ掻かれば腕が飛ぶだろう。

冬は少し考え、自分の四肢に影を纏わせる。
影はウェアウルフの爪を模倣し鋭く伸びた。

それを見てネテロスはほぅ。と片眉をあげる。

巨体は宙を舞い冬へとその腕を伸ばす。

それを影で補強した右手で受け止め、左手で捕らえる。
飛び退こうとしたウェアウルフを離すまいと、纏わせた影をその腕に食い込ませ、引力に任せて足を振り上げた。

繰り出された蹴りを頭に喰らい、ウェアウルフは再び咆哮する。
振り回された腕が冬の腹を微かに抉る。
それを気にする素振りもせずに、今度は右手に氷の刃を纏わせると、その首元に突き立てた。

刃だけを残して腕を引き抜き、唸り声をあげる巨体から距離をとる。

冬の刃は見事に首を貫いたのにも関わらず、ウェアウルフは未だ立っていた。

……なるほどな。さすが魔物ってだけある。

そう思いながら、冬は耐えきれず口角をあげた。

正真正銘命と命をぶつけ合うこの感覚。向こうの世界では決して味わえない快楽。

ハッハッと息を上げながら、冬は命のやり取りを心から楽しんでいた。

首の刃をそのままに、ウェアウルフは最後の抵抗だと言わんばかりに突っ込んでくる。

目を見開き、凶悪な笑顔を湛えた冬は、目の前でグッと拳を握った。

瞬間、キン、という音とともに、氷の刃はウェアウルフの首元で破裂する。

その衝撃波とともに、巨体から首がどさりと落ちた。

今にも飛びかかろうとしていた胴体は、頭を失ってなお2、3歩フラフラと力なく冬に近づき、やがて事切れた。

「あー。やべぇ。」

未だ興奮冷めやらぬ冬は、堪えきれない笑みを隠しながら死体に近付く。

頭を持ち上げれば、滴る血はまだ暖かい。
今にも目を開けてこちらに飛びかかってきそうだ。

「おわった。」

パタパタと流れ落ちる血など気にする素振りも見せず、ウェアウルフの頭を抱え、悦楽の表情を浮かべてそう言い放つ冬。

「はっ。なんつー凶悪な。」

ネテロスは思わず舌なめずりをして呟いた。
頭をぶら下げて近付いてくる冬に声をかける。

「お前、最高だな。勃つかと思ったわ。」

「あ?意味わかんねぇ。」

冬は心底呆れたような顔で息を整え、依頼者に連絡する。

「これはどーすんの?」

転がった身体を指さし尋ねる。

「討伐の場合、成功の証拠に依頼者の元へ届けるのが基本だ。確認後に報酬のやり取りだ。」

「そうか。わかった。」

冬は頭を小脇に抱え、影を伸ばしてウェアウルフの身体に巻き付けた。

「じゃ、行こう。」

あー腹痛てぇ。と言いながら
ズルズルとその巨体を引っ張りながら歩き始める。
その横顔は鼻歌でも歌い出しそうに上機嫌だ。

「フレッドの奴、ほんととんでもねぇ上玉連れてきやがった。」

ネテロスはそう呟くと、その背中をゆったりとした足取りで追いかけた。
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