君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 週末、満月の前ということもあって家に帰っている。ただ、先週もその前の週も帰っていたから久しぶりに帰ってきたという特別な感じがしない。けれど、いつもと違って少し家が騒がしい。シャーマール先生などお父さんと一緒に研究に携わっている人たちが来ているからだ。一応今日も仕事があるが、満月が近く僕が家にいるということで、職場に行きたいくないとかなり前から駄々をこねていたらしい。しかし、しなければいけない仕事はたくさんあるわけで妥協案として家で仕事をすることにしたそうだ。皆さん本当にごめんなさい…。

「明日は満月だが、どうだ調子は?さすがに少しは荒れるかと思ったが、意外と安定してるんだな…。先月ひどかった反動か…?」
「家にいるからかな?いつもより楽な気がします。」
 家に来たついでということで今、応接室でシャーマール先生の実験を受けている。ドアが閉まるときエドガー先生がちらっと見えたからついてきたのかな?

「元気で何よりだ。それで今日なんだが、前回共鳴の話をしただろ?その関連で覚醒について話そうと思っている。」
「覚醒、ですか?」
「あぁ、伝説と言われている共鳴と違って覚醒は実例がたくさんあるということで色々と詳しいことが分かっているんだ。そうだな…共鳴が属性っていう特定の条件下で魔力が上がるとすれば、覚醒は一度経験すればどんな条件でも一定数以上魔術力が上がるって感じだな。具体的には並大抵の人じゃあ扱えないような高等魔術が魔術式なしで扱えるようになったり、独自の魔術式を用いて独自の魔術が扱えるようになったり…。まぁ、簡単に進化するイメージだな。人によって覚醒の程度や回数は違うし、何が起因となっているかも人それぞれだが、誰にでも起こりうると言われている。もちろん君のような魔力量が少ないような者でもな。実際、魔力の全く無かった者が覚醒を通して他を凌駕するほどの魔力を手に入れたケースもある。君もよく知った人だと思うが…。」
「誰ですか?」数少ない知り合いの顔を思い浮かべつつ紅茶をすする。

「リカード=フォルスト。俺の兄だ。」

 すんでのところで紅茶を吹き出さなかった僕を誰かほめてほしい。

「え!?あのリカード=フォルストさん!?魔術師の!?とっても有名な方じゃないですか!!」
「あぁ、そのリカード=フォルストだ。」ちょっと自慢気に胸を張るシャーマール先生。


 リカード=フォルスト。僕と同じロングストン学園の卒業生で、幼少のころから武術の界隈で名を馳せ、様々な国際的な大会で優勝するほどの実力の持ち主。さらに在学中、魔術の頭角も現し、容姿端麗で成績優秀ということもあって当時はかなり注目されていた。学園を卒業後は王宮魔術師としてスカウトされ、今もなお様々な伝説を残す人物。
 武闘派の官僚と研究職とで分野がかなり違うから気づかなかったけれど、そういえばシャーマール先生名字フォルストだったよな…。

「でも、リカードさんが昔魔術使えなかったなんて、信じられないです。」
「まぁ、今では魔術で大成してかすんでしまってるけど、昔はそのせいで色々あってな…。そういう点では君たちのこと少しは分かると思っている。」
「リカードさんの覚醒のきっかけって何だったんですか?」
「兄は、人助けだな。盗賊か何だかに襲われていた人を助けようとしたらいつの間にか使えるようになっていたらしい。」
「人助け…。」
「まぁ、兄らしいといえば兄らしいがな。ただ…。」
「ただ…?」
「…兄は自分を大切にしないきらいがある。正義感が強すぎるのか、ただ単純に無鉄砲なのか、自分の危険を顧みず突っ込んでしまう。兄は強いからたいていのことは上手くやるのだが、それでも…。」

 …先生って結構リカードさん、お兄さんのこと大好きなんだろうな…。だからこんなに心配してるんだろうな…。その気持ち何となくわかる気がする…。

「ま、そんな話はどうでもいいんだ。今の話題は覚醒だからな。」
「そ、うですね。」
「とりあえず、ここまでで何か質問はあるか?」
「えーと、あ、じゃあリカードさんって魔術の属性、先生と同じ風じゃないですか。これって偶然なんですか?」
「どちらかというと必然、だな。というのも、魔力がなかった人が覚醒を起こした場合の属性は、その時どういう属性魔術をイメージしたかによると考えられている。兄はずっと俺を見ていたからか、とっさに風属性の魔術が思い浮かんだんだろうな。実際、過去の例を見ても同じ属性を扱う人が必ず身近にいるし、イメージが鍵になるのはあながち間違っていないと思う。」
「そうなんですね。…あ、あと、覚醒で高等魔術が使えるようになるって、どれくらいのものが使えるようになるんですか?」
「今までの感じだと、人を操ったり、苦しめたりする禁忌書にしかないような凶悪なものもあれば、どんな怪我や病気も治したり、魔力の暴走を中和させるような回復系の魔術とかかな…。」
「なるほど…。」
「あ、そうだ。君にお菓子を持ってきたんだった。何を好むか分からんから、俺の好きなお菓子を持ってきた。

 そう言ってシャーマール先生は袋からスコーンを取り出した。

「え!?ちょっと待ってください、シャーマール先生スコーンお好きなんですか!?」
「あ、あぁ。といっても何もないやつより、チョコチップが入ったやつのほうが好きなんだが…。」
「実は、僕もスコーン大好きなんですよ。
「そうなのか!?」
「はい。僕はクランベリーが入ったものが一番好きなんですが、そのお店のチョコチップ入ったものも、ちょっと苦いけれどそこが美味しいですよね。」
「そうなんだよ!ビターのチョコチップってこの辺りだとなかなかないんだけど、ここのは苦さも後味も完璧で重宝しているんだ。そうか、君はクランベリーが入ったものが好きなのか…。珍しいな。

 やっぱり同じものが好きな人がいるってちょっとテンション上がるよね。そのあとは覚醒そっちのけでずっとお互いの好きなお菓子について話しちゃってたよ…。
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