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第11話
しおりを挟むジェイクがロンファを問い詰める頃、島で唯一の病院では、クムザとプルプァが食堂でひと息ついていた。
「なあ、おっちゃん。あの青い髪の人、なんて云う名前だっけ?」
「ジェイクじゃよ。ジェイクリッドと名乗ったそうじゃ」
「そのジェイクさんは、どこ行ったの?」
「そこらを散歩してくると云っておったが、いきなりのどしゃぶりじゃ、ずぶ濡れになって帰ってくるかもしれんのう」
窓ガラスに打ちつける雨粒は、台風並に激しい。だが、クムザもプルプァも表情は明るい。なりゆきとはいえ〈水竜の化身〉であることを認めたジェイクが、恵みの雨を呼んだのではないかと考えた。
「すごいよな。何ヵ月ぶりの雨だろう。これってさ、ジェイクさんが島にあらわれたからだったりして!」
「フォフォフォ、そうかもしれんな」
「でも、これじゃあ、リェータがこれないわけだ。つまらないなぁ」
「なぁに、明日の夜になれば会えるぞい。プルプァも久々に母親の顔が見れるわなぁ」
「うん。母ちゃんなら、元気にしてると思う! なあ、おっちゃん。リェータのやつ、どうして胸が小さいの?」
「うんお? それはどういう意味じゃ?」
「だって、ラミルダ長老も母ちゃんも、こ~んなでっかいだろ!」
プルプァが両手で大きな円を描いてみせると、クムザは「ぷぷっ」と吹きだした。
「それはまだ、リェータが発達過程にある少女だからじゃよ。成熟期になれば、今よりも全体的にふっくらとした躰つきになるわい。まぁ、その時には北緯の集落に移り住むことになるがのぅ。こればりは昔からの掟ゆえ、しかたないのぅ」
「なんで、ずっといっしょに暮らしたらだめなんだ?」
「そうじゃなぁ。それはいずれ、説明せねばなるまいのう」
クムザは茶碗に湯を注いで、ひと口飲んだ。ファブロス島では、確たる定義はないが、あるていど成長した女児は、父親のそばを離れ、北側で暮らす母方のもとで生活を送ることになる。ちなみに、男児は変わらず南側で暮らし、家族との再会は祭のときにかぎられた。現在、満10歳のリェータは、ラミルダ長老の声がけ次第で、双子の弟であるプルプァと離れ離れになる。それがつまらないと感じる弟に対し、姉のリェータは、「もうすぐわたし、お母さんのところに行けるかな」と、長老の判断を楽しみに待っていた。また、乳児期は夫婦小屋という住居で、家族そろって暮らすことができたりする。
こういった民族風習は、いつ、誰が、どのように決定したのか不明瞭だとしても、行為伝承として受け継がれやすい。まして、ファブロス島には歴史学者が存在しないため、異論を唱える人間は、ひとりもあらわれなかった。もっとも、見まわり隊といった男衆や、電信役の女衆による交流は島のどこかで発生するため、ほどよい距離感が保てる仕組みでもある。
「あ~、つまらないなぁ。ジェイクさん、早く帰ってこないかな~」
「なんじゃ、プルプァ。やけにジェイクを気に入ったようだの」
「うん! あの人、背が高いし強そうじゃん! ウチの父ちゃんなんて、こ~んな腹がでてるんだぜ。触ったらブヨブヨしてるし、気持ち悪い」
再び、プルプァが腹の前で円を描いてみせると、クムザは「がーはっはっ」と大笑いした。男女問わず、島民にとってジェイクの鍛えた肉体は、かなり魅力的だった。
✓つづく
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