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第19話
しおりを挟むプルプァとリェータにすすめられた場所は、言葉どおり見事な景観だった。岩場のあいだにできた数十メートルほどの砂地に、びっしりと青い野花が咲きほこり、微かに甘いにおいが漂っている。花々を踏みつけないよう、ゆっくり歩いて散策するジェイクは、植物に埋もれて横たわる青年を発見した。
「ロンファ、こんなところにいたのか」
水色の髪は、海水を浴びて濡れている。だが、着ている麻布は乾いていた。潮風に吹かれ、ひらひらと裾が浮かびあがると、ロンファの素肌が晒された。下着は身につけておらず、あまりにも無防備な寝相に思えたが、さいわい、周囲に人影はない。ジェイクは片膝をつき、青年の太腿へ手のひらを乗せ、股のつけ根から垂れる黒い紐を見つめた。それから、形のよい性器に指を這わせ、鎖骨のあたりまで麻布のシャツを捲った。夢でみた桃色より、いくらか赤みのある薄紅の突起がふたつならんでいる。指先で乳頭を撫でると、瞼をひらいたロンファは、少し驚きの表情を浮かべ、「あっ」と声を漏らした。
「ジ、ジェイクさん……、なにしてるの……」
「触っているだけだ」
ロンファはジェイクの手を拒んだりせず、ゆっくり上体を起こした。
「ジェイクさん……、どうして……いるの……」
「花を見に来たんだ。おまえのいる洞窟へは、午後にでも行こうと思っていたが、ここで会えたな」
リェータいわく、花びらは食用らしい。ジェイクは足もとから1枚だけ摘むと、口の中へ放り込んだ。舌先で味わっていると、柑橘系の酸っぱさを感じた。ロンファも空腹なのか、花を摘んで食べた。ジェイクは海のほうへ視線を向けてから、ロンファの蒼白い顔を見据えた。
「おまえ、どうやって来たんだ」
沖合でロンファの姿を目撃したジェイクは、率直に訊ねた。洞窟から花畑まで、数十キロほど離れている。さすがに、泳いできたとは考えにくい。しかし、ジェイクの問いに、ロンファは口を噤んでしまう。急かすつもりはないが、やはり焦れったい。青年は返答に困っているのか、悩ましい表情をしている。ジェイクは質問を変えた。
「おまえはふだん、どんなものを食べるんだ」
「さ、魚とか……、海藻とか……」
「ほかには?」
「水……と、イヴの実……」
「イヴの実?」
「……小さくて甘い、……樹の実」
「そうか」
短い会話が成立すると、ロンファの頬が少し火照るのがわかった。数秒ほど見つめ合い、ごく自然に口唇を重ねる。触れるだけの接吻をくりかえしていると、「おーい!」と、プルプァの声が聞こえた。ジェイクが肩越しに振り向くと、バシャッと水の音がした。視線を戻すと、ロンファは姿を消していた。
「まるで人魚だな」
ジェイクは泡立つ海を見つめ、近づくプルプァと合流した。
✓つづく
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