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第23話
しおりを挟む病院の食堂で朝飯をすませたジェイクは、ラミルダの住まいを訪ねた。長老である彼女に、いくつか確認すべき事柄があった。
「よう、ジェイクリッド! なかなか似合っているな、その恰好!」
「リェータの母親からいただいたものだ」
「なるほど、ヴィオレッタか。あやつは手先が器用だからな!」
朝から声が高いラミルダは、ジェイクが島の伝統的な着流しを身につけている姿を見るなり、うれしそうに笑った。離れて暮らす女衆は、染織や裁縫などを生業としている。
「それで、このあたいに、どんな用だい? 〈水竜の化身〉についてなら、聞くだけムダだよ。口頭伝承だから、記されておらん!」
先に釘を打たれたジェイクだが、それならばと話題を変えた。
「島を散策してみたが、立入禁止区域を発見した。あの辺りは、何が危険なんだ」
「おっ? 早速、東緯に向かったか。がははっ! やはり水竜も太陽が昇る方角に焦がれるのだな」
「そういうわけではない」
「がははっ! これも語り継がれている伝承のひとつだ。水竜の化身は、太陽の光を浴びて生命力を増大させるとな! あんたにかぎらず、日光浴は健康にいい。あたいも日課にしているぞ」
「……そうか」
「あんたも島民に遠慮せず、素っ裸で歩きまわってかまわんぞ!! よく晴れた日は、最高に気持ちがいいからなァ!」
ジェイクは非常識だと判断し、返答をぼかしておくと、本題を追及した。
「東側には何がある?」
「べつに何もないさ。昔から、あの辺は手つかずなんだ。強いていえば、岩のりや貝を目当てに東側へ向かった者は、たいてい無事ではすまないといったところか」
「どういうことだ」
「程度は人によるが、怪我をして帰ってくるのさ。それも、なぜそうなったのか、本人もわからない内に傷を負っていたとか。詳しく知りたければ、おまえの世話係のクムザに聞いてみろ。……東側の海岸は危険な場所というより、未知の領域なのさ」
ラミルダの言葉を聞きながら、ジェイクはロンファについて考えた。未知の領域に存在する、あるいは生息する彼は、島民ではなく、自分と同じく余処の土地から流れついた可能性もある。まったく日に焼けていない白い肌が、なにより奇妙に思えた。ラミルダと短いやりとりだけで別れたジェイクは、まっすぐ病院へ帰らず、東緯の洞窟へ向かった。漁師の小舟が、海に浮いている。なるべく見つからないよう、植物の陰に隠れながら目的地へ到着した。
「ロンファ」
洞窟の入口で声をかけたが、なんとなく留守のような気がしたジェイクは、岩場のさらに奥へ進んでみた。足もとは不安定だが、鍛えた足腰で少しずつ洞窟の反対側を目ざしていくと、いつか見た青い花が群生する空間にでた。
「こんなところにも咲いていたのか……」
ザッと、段差から飛びおりて着地すると、微かに甘い蜜のような香気が漂ってくる。できれば花を踏みつけたくないが、すきまなく地面を埋め尽くす範囲が広いため、大股で花畑の中を歩くと、パシャッと、水の音が聞こえた。海へ視線を向けると、ロンファが浅瀬に立っていた。ジェイクが近づくと、ゆっくり背後を振り向いた。
「……あ、……ジェイク……さん」
「よう、会いに来たぞ」
「その衣装は……」
「これか? リェータの母親から贈られたものだ。変か?」
「……いいえ」
ラミルダは似合うと笑ったが、ロンファの表情はなぜか曇った。
✓つづく
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