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第29話
しおりを挟む「ジェイクさん……、この人は……」
「さあな、知らん。俺の後をつけていたようだが、見てのとおり今は気絶中だ」
ロンファの足は海水で濡れていた。歩いてきた道に、足跡が残されている。ジェイクより先に桟橋へ足を運んでいたようだが、陸地を歩いて向かったとは思えなかった。
(髪は濡れてないのか。裸身だったのは、ここまで泳いできたからか……?)
ジェイクは、ロンファの左足から垂れる黒い紐に目を留めたあと、ジョグンを砂浜へ運ぶことにした。波打ち際までくると、なるべく静かにおろし、念のためロンファに確認した。
「おまえは、人間の記憶を消したりできるのか?」
「……え……」
「すまん。おかしなことを訊いたな。忘れてくれ」
「……はい」
ジョグンにロンファの姿を目撃された点が気になるジェイクだが、彼が意識を回復するまえに遠くへ離れる必要があった。「行くぞ」と云ってロンファの手を取り、引き返す。
「……ジェイクさん、……あの」
「なんだ」
「……ぼく、そっちは」
「ん? ああ、そうか」
ジェイクは病院に帰ろうとしたが、ロンファは島民を避けるように暮らしているため、一緒に戻ることはできない。まだ陽が高いうちにロンファと会えた時間は貴重につき、ジェイクは寄り道を提案した。
「それなら、そこの繁みで、ひと休みしよう」
ほどよく野草が群生する場所で、ジェイクはロンファを押し倒すと口づけをした。
「……はっ、……はぁっ」
と、ロンファの息が乱れるほど深い接吻をし、太腿に指を這わせ、左足のつけ根に触れる。
「ジェイク……さん……」
「俺に触られて興奮するか?」
「……な……なんで、そんなこと……聞くの」
「気持ちいいから」
「……え」
「俺は、おまえの肌に触れるたび興奮する」
「ジェイクさん……、そこ……は……」
「この辺りは特に」
「……んっ、……あ……ぁっ……」
局所を直に捉えられたロンファは、腰をひねって恥ずかしがる。ジェイクとの性交渉を拒む理由はないが、ロンファなりの条件があり、たいてい、軽く触れ合うことしかできない。だが、先へ進むためには、受け身の性感帯を熟知する必要があるジェイクは、いつもより長めに戯むれることにした。ロンファの両膝を立てると、股のあいだに顔を近づける。
「……っ、やぁっ!」
陰茎の先端を口腔へ含むと、舌で刺激を与えた。すると、ロンファから「いやだっ」と、言葉で拒絶されたジェイクは、少し残念な気分になる。とはいえ、大事な恋人に無理強いするつもりはない。すぐに顔をあげ、ロンファの精神状態を宥めた。
「どうした。痛かったか?」
「……そうじゃ……ない……」
「ならば、極端に恥ずかしがることはないだろう。俺たちは愛し合っている関係だからな」
「あ……愛し……合って……」
「俺はロンファを愛している」
唐突に告白されたロンファは、感情表現に悩み、水色の眼を涙でうるませた。
「おい、泣くな」
「……う、……うぅ~っ」
「すまん、ロンファ」
ジェイクは上体を起こすと、青年の肩を引き寄せて抱きしめた。細すぎる躰が小刻みにふるえている。それは、ロンファの悦びを表現していたが、ジェイクの胸は切なくなった。ロンファの魅力を説明することは難しい。どこか神秘的で、脆弱で、うっすらと微笑む表情は、存在そのものが消えてしまいそうな危うさがあった。
✓つづく
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