ジョセフによる散文『グレリオ辺境伯と追放令息』

み馬下諒

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しあわせ計画

第47話

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 騎士団の宿舎へ帰ってきたリツェルは、急激な疲労感に襲われた。ロザリアが手土産に持たせてくれた焼菓子クッキーをロビンスに渡すと、自室のベッドに倒れこむ。

「ふう……、きょうは、たくさんしゃべったな……」

 思えば、いちどにたくさんのひとたちと顔を合わせる機会は少なかった。リツェルの性格は社交的ではないため、グレリオの邸宅でジョセフの世話になっていたころが早くもなつかしく感じた。

「ジョセフのやつ、元気かな……。結局、おれの躰には無関心だったよな……(あたりまえか。グレリオの付人つきびとが、まさか男に興味なんてないよな……)」

 アロンツォいわく、白い肌は喰いちぎりたくなるらしい。小さな兄妹たちも、顔がきれいだと褒めてくれた。……おっぱいをさぐるのは勘弁してほしかった。受け身にとって胸の突起は、愛撫されると快感をとらえてしまう部位でもある。タドゥザ伯爵に性器を刺激されても不快でしかなかったが、グレリオがふれたとき、リツェルはきっと興奮するだろうと思った。「変態なのは、おれだな」とつぶやいて自嘲ぎみに笑うと、にわかな欲情を抑えた。

「……グレリオ、……グレリオ……」

 性的な事柄で心的外傷を負ったとはいえ、相手が辺境伯ならば対処療法は有効である。グレリオは、タドゥザのように無遠慮な手つきで肉体をもてあそぶ男ではない。日常的にリツェルの肌にふれるジョセフも、節度をわきまえていた。

「……グレリオに……逢いたい」

 次は、きみのほうで邸宅を訪ねてくれたまえ。そのときは、かならず時間をつくろう──。グレリオのことばを思いだし、ガバッと上体を起こしたリツェルは、「そうだ!」と声をあげた。

「お弁当をつくって持っていこう!」

 炊事係として、余った食材を使ってグレリオのぶんをつくり、いっしょに食べようと思った。なにかと忙しいグレリオとふたりで過ごす時間は、自分でさがして見つけるしかない。食事のときを狙って近づけば、ゆっくり話ができるかもしれない。また、騎士団の宿舎からグレリオの邸宅までは馬車に乗って移動する必要があるため、リツェルはクレメンテに相談してお金を借りることにした。

 
 朝いちばん、厨房に立って鍋を火にかけるリツェルは、手伝いにきたクレメンテに早速「おれ、馬車に乗るお金がほしいんだけど」と切り出した。

「食材の仕入れなら、わざわざ町に行かなくても、配達のひとが運んできてくれますよ」

「そうじゃなくて、個人的な用事なんだけど、だめかなぁ」

「どこかお出かけになりたいので?」

「うん。ちょっと、グレリオのところに行きたくて……」

「グレリオさまならば、あさってまで王都のほうへ出張ですよ」

「王都に? なんで?」

「もちろん、仕事です。上院であるグレリオさまは州代表の貴族ですからね。とはいえ、無報酬で議会に参加していますから、持ちだしのほうが多いことでしょう」

「グレリオが留守のとき、なにかあったらどうするんだ?」

「グレリオさまには有能な付人がいますからね。万が一のさいは、ジョセフくんが代理で動きます」

「ジョセフが……」

 人知れず努力して、辺境伯の信頼を得た人物にまちがいない。ジョセフの有能さはリツェルも承知していたが、あまりにも万能すぎて、太刀打ちできそうもなかった。社会経験が乏しいリツェルに、辺境伯の仕事を補佐できるほどの知識はない。ちがうかたちで寄り添う方法は、ひとつしかない。グレリオの花嫁になることだ。

「おれが弁当を持っていったら、グレリオは食べてくれるかな……」

 ばかなことを考えて不安になったリツェルは、無意識につぶやいた。鍋のスープが煮詰まっている。クレメンテが火加減を調節すると、「きっと、リツェルくんの気持ちをよろこんで、残さずに食べてくれますよ」と励ましてくれた。

「では、馬車代はあさってまでに用意しておきますね」

「やった! ありがとう、クレメンテ。助かるよ」

「ふふふ、リツェルくんは、すてきな恋をしているのですね。かわいらしくて結構じゃありませんか」

「は? か、かわいいとか、意味わかんねぇし!」

 あたふたと皿を手にとるリツェルは、もうすぐグレリオに逢えると思うと、胸が高鳴った。


《つづく》
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